第036話:クレアの慰労会(最終調律アース)と、理不尽な丸投げ(デリゲーション・バック)
――大陸暦一二五四年、秋。
ガラゴロ、ガラゴロ……。
初秋の澄み切った青空の下、世界初の木製ガードレールが完備された「ロベルト安全街道」を、王国の紋章を掲げた数台の豪奢な魔導馬車が、まるで逃げ出すかのような猛スピードで駆け下りていった。
「おのれ、バウムガルトの小僧め……! 覚えておれ、この屈辱、必ずや王都で……ッ!」
馬車の中で、王国宮廷の主席監察官ギルバート・フォン・オルデンは、完全にやつれ果てた顔で呪詛を吐き捨てていた。
彼の誇り高き「本社監査」は、ルディが敷いた鉄壁のコンプライアンス防壁の前に、完膚なきまでに粉砕されたのだ。
隔離された風下の野営地、不慣れな野外の仮設トイレ、そして何より「極薄のシュミーズを着た極上の美女たち(補償乙女)」が目の前にいるのに、屈強な壮年兵たちが「最高の営業スマイル」で槍を磨きながら一歩も近づけさせないという、生殺しの極限ストレス。
ギルバートは、賄賂一つ、粗一つ掴むことができず、ただ精神と胃腸をすり減らしただけで、王都へと撤退するしかなかったのである。
「よし! 王国監察団(理不尽クレーマー)の完全撤退を確認! これにて『緊急本社監査対応プロジェクト』、一人の犠牲者(セクハラ被害・減給)も出すことなく、完全無災害でクローズだ! 手順、ヨシ!」
旧ロベルト子爵邸のバルコニーからその土煙を見送ったルディ・フォン・バウムガルト(十五歳)は、満面の笑みでガッツポーズをキメた。
「「「「「若君様! 完全無災害、ヨシ!!!」」」」」
中庭に整列したバウムガルト警備隊、そしてピカピカの作業着と二重革靴を履いた五十人の乙女たちが、一斉に人差し指を突き出して「指差し呼称」の歓声を上げる。
(ふぅ……危ないところだった。本社の派閥争い(デス・プロジェクト)に巻き込まれれば、俺の有給傀儡ライフは一瞬で消し飛ぶからな。これでようやく、平穏でダラダラとした秋を満喫できるぞ)
ルディが安堵の息を吐いた、その時だった。
「――若君様。監査の対応、誠にお疲れ様でした。ですが……」
背後から、分厚い羊皮紙の束を抱えた財務主任テレーゼ・フォン・ベルンハルトが、丸眼鏡を曇らせて深刻な顔で歩み寄ってきた。
「現実の『決算』は、そう甘くはありません。……旧ロベルト子爵が、今年の春に領民に無理やり蒔かせた大麦とオーツ麦の、秋の収穫量予測が出ました。
結論から申し上げますと……完全なる『赤字(大凶作)』です。このままでは冬を越せず、領民の半数が飢え死にする『飢餓ハザード』が確定しております」
「……何だと?」
ルディは羊皮紙を受け取り、その絶望的な数字に目を走らせた。
だが、彼の脳内スプレッドシートはパニックを起こすどころか、冷徹に原因(根本ハザード)を特定していた。
「当然だな。このロベルト領の土壌は、長年の不適切な肥料投下による『極度の酸性土壌』だった。そんな死んだ土に、土壌改良(pH中和)もせずに麦を蒔けば、根が腐って枯れるに決まっている。前の現場監督は、基本的な地質調査すら怠る無能だったというわけだ」
中世の農民にとって、秋の凶作は即座に「死」を意味する。領内にはすでに、不安と絶望の不穏な空気が漂い始めていた。
だが、ルディはフッと不敵な笑みを浮かべた。
「テレーゼ、心配するな。食料が足りない? ならば『キャッシュ(物理)』で殴って解決すればいいだけだ。我がバウムガルト男爵領(親会社)は、春の俺の農地改革のおかげで、空前の大豊作(黒字)を迎えている。ロベルト安全街道の通行税で潤沢にプールされた『外貨』を使って、実家から小麦を大量輸入(買い付け)しろ!」
「なっ……! 食糧を、他領から金で買う、ですって……!?」
テレーゼは息を呑んだ。
中世の常識において、領地は「自給自足」が基本である。飢饉になれば領主は蔵を閉ざし、農民を見捨てるのが当たり前だった。それを、自らの潤沢な資金を使って領民のために食糧を大量輸入するなど、狂気の沙汰(あるいは神の慈悲)でしかない。
しかも、ルディが整備した「ロベルト安全街道」は、物流のボトルネック(泥濘と野盗)を完全に排除している。バウムガルト領からの大規模な輸送馬車列は、わずか数日で安全かつ迅速に、大量の小麦をロベルト領へと運び込んでしまった。
「お、おおお……っ! 飯だ! 麦が山のように運ばれてきたぞ!」
「若君様が、俺たちを見捨てず、腹いっぱい食わせてくださるんだ……っ! 雷神ルディ様万歳!!」
飢餓ハザードは、ルディの圧倒的な「物流インフラ」と「資金力」の前に一瞬で鎮圧された。領民たちのルディに対する狂信は、もはや後戻りできない宗教の域にまで達していた。
「よし、目先のハザード(飢餓)は凌いだ。次は『未来への投資』だ。……全作業員、畑へ集合!」
ルディの号令のもと、五十人の乙女たちと領民が、広大な農地へと展開した。
彼女たちの口元には、かつての土壌改良でルディが支給した『防塵用の麻布マスク』がしっかりと装着されている。
ルディは、その真面目すぎる部下たちの姿を見て、即座に安全管理者としての大号令を飛ばした。
「いいか! 危険な強アルカリの石灰散布(pH中和)の工程はすでに終わっている! 粉塵ハザードはゼロだ、全員直ちに『防塵マスク』を外せ! 不要な保護具の過剰装着は呼吸抵抗を上げ、作業員の疲労を招くエルゴノミクス(人間工学)違反だ!」
「えっ……? 外して、よいのですか?」防塵マスク越しに、テレーゼが不思議そうに問う。
「当然だ。状況に応じた保護具(PPE)の着脱こそが、本物の安全管理だ。さあ、新鮮な秋の空気を存分に吸い込みながら、pH中和と深耕を済ませたこの黄金の土壌へ、『秋蒔き小麦・ライ麦』を一斉播種するぞ! さらに、休耕地には『クローバー(マメ科)』を輪作して植えろ!」
「く、くろーばー……ですか? 若君、なぜ人間が食べられない牧草を、わざわざ大切な畑に……?」
「『窒素固定』だ。マメ科の植物の根に共生する菌が、空気中の窒素を土に取り込み、痩せた土地の地力を爆発的に回復させる。……これは、大地の活力を半永久的に維持するための、最強の持続可能農業だ!」
ルディにとっては、前世の農業知識(クローバー輪作)の実践に過ぎない。
しかし、テレーゼや乙女たちの目には、それが全く別の「神業」として映っていた。
(空気中の見えない力を、大地の根に縛り付け、土を蘇らせる……!? それはまさに、大地の魔力循環を意のままに操る『豊穣の秘術』! 若君は、戦いだけでなく、命を育む生命のサイクルすらも完全に支配しておられるのだわ……!)
「「「ルディ様万歳! 安全第一、ヨシ! 豊穣の種まき、ヨシ!!」」」
マスクを外し、紅潮した健康的な笑顔を見せる乙女たちが、涙を流しながらルディを崇め、土に種を蒔いていく。
状況に応じて的確に安全装備をコントロールするルディの姿は、彼女たちにとって「私たちの息苦しさまで理解し、最も快適な労働環境を与えてくださる本物の神」として、さらなる狂信の連鎖を生み出していた。
◇ ◇ ◇
「――よし! 秋季決算および、次年度に向けた先行投資(播種タスク)、すべてスケジュール通りに完了だ! 完全無災害、ヨシ!!」
同日の夕刻。領主本邸の執務室。
フカフカのソファに深く背を預けたルディは、完璧に仕上げられた秋季決算報告書(羊皮紙)を指で弾き、会心の管理者スマイルを浮かべた。
「お見事でございます、ルディ様。これで来年の春には、ロベルト領は大陸一の超高収益(黄金のパンくず)地帯となること間違いありませんわ」
ルディの傍らで、総務主任補佐(エリート事務要員)として抜擢されたクレア・フォン・ロシュフォール(十七歳)が、誇らしげに、しかし微かに熱い吐息を漏らしながら報告書の束を胸に抱いていた。
ミリーたちが仕立てた「極薄の白いシュミーズ」の上に清潔な事務用エプロンをまとった彼女の姿は、知的でありながらも、どこか張り詰めたような淫らな色気を放っている。
「クレア、お前の完璧な事務処理能力には本当に助けられた。お前のおかげで、監査対応のダミー帳簿作成も、秋の輸入手配も、俺が有給を消化する時間を一切削ることなく完遂できたからな」
「あ……、あぅっ……、もったいないお言葉です、ルディ様……っ」
ルディに褒められ、クレアの瑞々しい一対の双丘がエプロンの下で激しく波打った。
彼女の太ももの内側は、すでに極限の「おあずけ状態」によって、立っているのがやっとのほどにガタガタと震え、心地よいデトックスの汗をじっとりと滲ませ続けていた。
それもそのはずである。
王国監察団が滞在していた期間、彼女はルディのすぐ傍らで、テレーゼやエリーゼ、エルザといった幹部ヒロインたちが「緊急メンタルケア」と称してルディの指先から【微弱放電】を浴び、蕩けきった絶頂の悲鳴を上げる姿を何度も見せつけられてきたのだ。
(ずっと……、ずっとお預けでした……っ。ルディ様の青白い電気が、テレーゼ様たちの奥深くまで融かしていくのを、あんなに至近距離で見せられ続けて……。私の、まだ誰にも触れられたことのない強張った自律神経も、早くルディ様のビリビリするお仕置きでめちゃくちゃにアースしてほしいって、毎晩、狂いそうに疼いていたんですぅ……っ!)
クレアが限界の熱に浮かされていると、ルディはスッと立ち上がり、震える彼女の細い腰を優しく抱き寄せた。
「クレア。……監査対応というデス・プロジェクトを乗り切った直後に、秋の飢餓ハザードという突発Sランクタスクが入ってしまい、お前への報酬(慰労会)の支払いが数週間遅延してしまったな」
「ルディ、様……?」
「安全管理者として、労働契約の報酬マイルストーンを遅延させたことは深く詫びよう。……だが、雇用主として、そのお詫びに、今夜は『特別ボーナス(最大電圧)』を上乗せして、お前を徹底的にアース(調律)してやる」
「ひゃうっっ……!? ほ、本当ですか……!? ついに、私にも、ルディ様の電気(ご褒美)が……っ!」
クレアの瞳から、歓喜と欲求の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「ああ。お前のその働き過ぎて凝り固まった自律神経を、俺の電気で芯からとろとろに解きほぐして(調律して)やる。……俺の寝室(VIPルーム)へ来い」
◇ ◇ ◇
ハーブの香る魔導温風機が、快適な二十四度を保つルディの個人寝室。
クレアは、ベッドの端に腰掛け、自らの手で事務用エプロンと薄い白いシュミーズをゆっくりと脱ぎ捨てた。
夏の陽光を知らない、抜けるように白く滑らかな肌。十七歳の完熟しつつある豊かな胸の双丘は、これから始まる「未知のリラクゼーション」への緊張と期待により、痛々しいほどに上下している。
「る、ルディ、様……っ。私、こういう本格的な調律は初めてで……。でも、あなた様のシステム(後宮)に、完全に組み込まれたいのです……っ」
「緊張しなくていい。これは福利厚生の一環だ。お前の心身のインピーダンス(抵抗)をゼロにするまで、優しくアースしてやる」
ルディは、ミリー特製の導電性ハーブバームをたっぷりと自らの手のひらに塗り広げると、バチバチと【微弱放電】の青白い静電気を帯びた指先を、クレアの白く柔らかな太ももの内側へと這わせた。
ピリピリッ……、バチッ!
「ひゃああぁぁぁぁっっっ!?!?」
クレアの身体が、ベッドの上で激しく弓なりに跳ね上がった。
これまで視覚と嗅覚でしか知らなかった「ルディの電撃パルス」が、皮膚の境界線を越えて、自身の神経系へと直接侵入してくる凄まじい衝撃。
「あ、熱い……っ! 電気が、私の体の奥に、直接流れ込んできて……頭が、真っ白に……っ!」
「事務作業で酷使した眼精疲労と、長期間の『おあずけ(欲求不満)』による自律神経のコリだ。俺の低周波パルスで、強制的に弛緩させてやる」
ルディの指先が、バームの滑りを借りて、クレアの太ももから下腹部、そして最もリンパが集中する経絡の最奥へと、容赦なく、そして極めて精密な電圧管理のもとで深く沈み込んでいく。
「あはぁっっ! だ、だめ、そこは……っ! 直接電気が、バチバチってきて……、お腹の奥が、溶けちゃいますぅぅぅっっ!!」
クレアは、これまで高慢な貴族令嬢として培ってきたプライドが、ルディの指先から放たれるエンドルフィン(快感物質)の奔流によって、音を立てて崩壊していくのを感じていた。
(すごい……、すごいよぉっ! お帳簿をまとめるよりも、ルディ様のお仕置きの電気でめちゃくちゃにされる方が、何百倍も気持ちいい……っ!
私、もうルディ様の下請け(おもちゃ)として、一生この電気なしじゃ生きていけない身体にされちゃうぅっ!)
「クレア、自律神経のレッドゾーンは越えたな。これより、最終調律を執行する。……お前のすべてを、俺にインポートしろ」
ルディは、心地よいデトックスの汗とバームで濡れそぼったクレアの、最も魔力と疲労が滞留する太ももの内側のツボへと、熱く青白い火花を散らす二本の指を一気に深く突き当てた。
「あぐぅぅぅっっっっっ!!!!???」
接触部から、青白い静電気の火花が美しく飛び散る。
クレアは白目を剥き、よだれを垂らして激しく首を振りながら、ルディの容赦のない指圧の反復と電撃パルスに、脳髄を完全に直接ハッキングされていった。
「あ、あはぁぁっ! 溶けるぅっ、ルディ様の電気で、私、完全脱力しちゃいますぅっっ!」
「いいぞ、クレア! 特別ボーナス(最大電圧)だ! お前の脳内ストレージにある情報をすべて吐き出せ! 快楽の波に乗せて、俺に有益なデータをインポートしろ!」
ルディの激しい電撃指圧が、クレアの知性の壁を限界まで穿つ。
すると、クレアは極限のリラクゼーションの中で、かつてオルテンシア貴族として耳にしていた『軍事・地政学の最高機密』を、甘い喘ぎ声とともにボロボロと吐き出し始めた。
「あ、あああっ! ル、ルディ様ぁっ! あなた様が、春に辺境伯閣下に手柄を譲って……落とさせた、オルテンシア国境の『前線要塞都市』……っ!」
「ん? あの都市がどうした?」
「あそこは……っ、ひゃうぅっ! 秋までは良いのですけど……冬になると、周囲の大森林が深い雪に閉ざされて、本国からの補給線が完全に途絶える……、孤立無援の『死の都市(ブラック現場)』なのですぅぅぅっっ!!
あそこに駐留する軍は、毎年、飢えと凍傷で半数が死滅する……呪われた土地……っ! あはぁぁぁっっっ!!!」
「……は?」
ルディの指先の動きが、一瞬だけピタリと止まった。
(……おいおいおい。つまり、俺が『追撃戦の過重労働』を避けるために、ゼーフェルト辺境伯に丸投げ(デリゲーション)したあの前線都市は……手柄に見せかけた、とんでもない『不良債権(超ブラック現場)』だったってことか!?)
ルディの脳内スプレッドシートが、一瞬にして冷や汗のログを弾き出した。
(ま、まあいい! 幸いなことに、俺はその不良債権をすでに辺境伯(親会社)に全額押し付けている!
今頃、辺境伯の主力軍が、その雪に閉ざされたブラック現場で『今年の冬はどうやって越えようか』とガクブル震えているはずだ!
俺には一切関係ない! 俺はここ、常春のロベルト領で、女の子たちとぬくぬくサボり有給ライフを満喫するだけだ! リスクヘッジ、完全大成功、ヨシ!!)
「よーし、有益なデータインポート(情報提供)、大儀だクレア! ご褒美に、最大電圧でアースしてやるぞ!」
「いやああああああああっっっっ!!!! ルディ様の電気で、私、完全に調律されちゃいますぅぅぅっっ!!!」
クレアは、シーツを極上のデトックスの汗でぐっしょりと濡らしながら、ルディの胸にすがりついて、幸せに満ちた完璧なシステムシャットダウン(わからせ)を迎えたのだった。
◇ ◇ ◇
――翌朝。
「いやぁ、クレアの事務能力も最高だが、感度(インピーダンスの低さ)も極上だったな。これで我が領地の事務タスクは永久に安泰だ」
朝の陽光が差し込むバルコニー。
ルディは、昨夜の慰労会ですっかり骨抜きになり、足元で「ルディ様の電気、もっと……」とすり寄ってくるクレアの頭を撫でながら、テレーゼやエリーゼ、エルザたちと優雅にハーブミントティーを嗜んでいた。
完全なる平和。完全なる無災害。
このまま、雪の降る冬の間は、オンドル(床暖房)を完備したこの館で、ヒロインたちとゴロゴロして暮らすのだ。
そう確信していた、まさにその時だった。
「――若君ッ!! 若君ぁぁぁぁぁッ!!!」
老騎士ハンスが、物見櫓の階段から転げ落ちるような勢いで、バルコニーへ駆け込んできた。その手には、辺境伯の急使がもたらした、金泥の蝋で封印された『親書』が握りしめられている。
「ど、どうしたハンス! また王国のカスハラ監査か!?」
「違います、若君! ゼーフェルト辺境伯閣下からの、緊急の特命親書でございます!!」
ハンスが恭しく差し出した親書を、ルディは自らの手で素早くひったくった。宛名本人の封印を他者に切らせることは、重大な通信の秘密侵害(情報セキュリティ違反)になり得るからだ。
ルディは金泥の蝋を自らパキリと割り、その内容に素早く目を通した。
「……え?」
次の瞬間。ルディの顔面から一瞬にして血の気が引き、その口から絶望の吐息が漏れた。
パラリ、と。彼の手から羊皮紙が滑り落ち、バルコニーの床に力なく落ちる。
「わ、若君! どうされましたか……あっ!」
ハンスが慌ててその羊皮紙を拾い上げ、そこに記された文章を覗き込み――感動のあまり白髭を震わせ、親書を高く掲げて読み上げ始めた。
「辺境伯様は、若君がこのロベルト領を瞬く間に『大陸一の黄金地帯』へと復興させたその神算鬼謀の手腕を、心の底から高く評価されました! そして……親書には、こう記されております!!」
ハンスが読み上げた内容は、ルディの脳内スプレッドシートを、一瞬で木っ端微塵に爆破するに十分すぎる『死の宣告』だった。
『――愛しきルディよ。お前が春に手柄を譲ってくれたおかげで獲得した、あのオルテンシア国境の「前線都市」だが……。
大森林に囲まれ、冬になれば補給が途絶し、我が軍の力では到底維持できん! ええぃ、面倒な前線都市は、有能なお前にそっくりそのまま丸投げ(赴任)してしまえ!
五カ年の停戦期間中、国境の最前線の維持と防衛、ならびに立て直しを、お前に一任する! 頼んだぞ、我が無敵の盾よ!!』
「…………は?」
ルディが持っていたティーカップが、カラン、と音を立てて床に落ち、粉々に砕け散った。
(ちょっと待て……。俺が、追撃戦の過重労働を避けるために『他者委任』して辺境伯に押し付けた、あの冬になれば補給が絶たれる死の都市(超絶ブラック現場)が……。
巡り巡って、一番行きたくない俺のところに、まるごと『デリゲーション・バック(不採算子会社の押し付け)』されて返ってきただとぉぉぉっっ!?)
「おおおおおっ!!」
ハンスが、天を仰いで大号泣した。
「若君の底知れぬ知略が認められ、ついに辺境伯軍の『最前線の最重要拠点』を任されるという大栄転!!
我らバウムガルト隊、今すぐ冬の完全防備を整え、喜び勇んで死の森の最前線へと出撃いたしましょうぞ!! 安全第一、ヨシ!!!」
「「「ルディ様万歳!! 最前線都市への大栄転、ヨシ!!!」」」
中庭で訓練していた壮年兵たちが、槍を掲げて狂信的な雄叫びを上げる。
テレーゼ、エリーゼ、ヒルデ、エルザ、そしてクレアたち側近ヒロインも、「若君の新たな覇道の始まりですね! 私たちもどこまでもお供して、夜の調律をして差し上げますわ!」と、目をハートにして頬を染めている。
周囲の、天を衝くような祝福と狂信の嵐の中。
ルディ・フォン・バウムガルトは、秋の青空に向かって、肺の腑をすべて引き裂くような、絶望の叫び声を轟かせた。
「なんで俺が、自分が押し付けた不採算子会社(雪中デスマーチ)の立て直しに、行かなきゃならないんだぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
――有給消化を夢見た安全管理者の、さらなる過酷な「冬のサバイバル防衛戦(第五章)」への扉が、容赦なく、そして最高に理不尽なブーメランとして開かれた瞬間であった。




