第033話(エピローグ):バウムガルト・ロベルト「安全特別区」の誕生と、新たなるハザードの検知
――大陸暦一二五四年、晩夏。
かつて隣国オルテンシア王国の侵略と、前領主のブラックな強行軍(DQN突撃)によって荒廃し、泥濘と感染症の地獄(極悪ブラック現場)と化していた旧ロベルト子爵領。
しかし、その地はわずか十日あまりの間に、大陸のいかなる賢者も想像し得なかった奇跡の変貌を遂げていた。
ルディ・フォン・バウムガルトが前世の化学メーカーで培った『安全衛生管理マニュアル』、すなわち徹底された「5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣)」、ハサップ(HACCP)給食、土壌のpH中和農法、そして世界初のガードレール付き「ロベルト安全街道」の整備。
それらのホワイト操業プロセスは劇的な果実を結び、ロベルト領は今や、東部国境随一の「黄金のパンくず地帯(超高収益・無災害モデル特別区)」へと急速に成長しつつあった。
領内の農民や、新しく組織された「女性労働部隊(補償乙女たち)」は全員、冬用のダウンベストはすでにクリーニングして保管(5S)し、現在は通気性と吸汗速乾性に優れた『夏用リネン作業着(バウムガルト式クールビズ)』を着用して、畑や水路で顔を合わせるたびに「本日も無事故で! 安全第一、ヨシ!」と、花が咲いたような笑顔で指差し呼称を交わし合う、異常なまでにクリーンで統制されたホワイト・パラダイス(ユートピア)が完成していたのである。
「――ふぅ。冷たい麦茶が美味い。やはり有給消化中の水分補給こそが、熱中症ハザードを防止する最強の防護策だな」
快適な二十四度に室温が魔導管理された領主本邸の寝室。
ルディは、領主のフカフカのベッドに寝そべりながら、ミリー特製の冷えたハーブ麦茶を喉に流し込み、極上のダラダラ生活を満喫していた。
「若君、テレーゼも冷たい麦茶のおかわりをいただけますか……? あ、コップを持つ手が、若君の電流を思い出して、なんだかズクズクと熱くなってしまいますわ……」
ルディのすぐ右隣。丸眼鏡をそっと外し、薄い白いシュミーズ一枚をまとったテレーゼが、豊かな双丘をルディの二の腕にすり寄せながら、蕩けきった吐息を漏らしていた。
「ル、ルディ様……、私の『アース(圧力弁)』も、そろそろ点検が必要ではないかしら……? 監査を完璧にこなすためには、毎晩、貴方のそのビリビリする指先で、全身の自律神経をかき回して(調律して)いただかないと……、身体が強張って、辺境伯本陣に不安全な報告を漏らしてしまいそうだわ……っ」
左隣では、高慢なスパイから、ルディ専用の「奴隷監査役」へと完全にハッキングされたエリーゼが、白く滑らかな太ももの『放電痕(魔力伝導パス)』をルディの足首にそっと擦り付けながら、上気した貌で熱いおねだり信号を点滅させている。
さらにベッドの足元には、現場警備主任のヒルデが「夜の現場パトロール(ベッドの護衛)は、私の排他的なコア業務であります!」と、その引き締まったお尻をそわそわと揺らしていた。
(あー……、パラダイス。完全なる有給サボり天国(ホワイト後宮)。これなら俺が何もしなくても、優秀な幹部たちが勝手に領地を黒字操業してくれる。……ただ、少し静かすぎるな。これ以上、幹部たちがおねだりしてくると、俺の腰の安全マージンがオーバーフローするんだが)
ルディが贅沢な悩みに冷や汗を流していると、ベッドの脇でテレーゼ、エリーゼ、そしてヒルデの三人が、突然、互いの「役職」を盾にした、ドロドロとした『幹部間マウント合戦(正妻戦争)』を勃発させた。
「エリーゼ監査官、少し若君にベタベタしすぎではありませんか?」
テレーゼが、外した丸眼鏡をスッと掛け直し、冷徹な財務主任の目でエリーゼを睨みつけた。
「このロベルト領の全ガントチャート(工程予定表)と、資金繰りの財布を握っているのは、若君の最初の片腕たる私ですわ。若君の夜間操業(特別メンタルヘルスケア)の優先順位は、財務貢献度に基づいて、この私が最上位にソートされるのが当然です!」
「ふん、頭の固い文官令嬢ね、テレーゼ」
エリーゼはフッと鼻で笑い、シュミーズの胸元をはだけて、ルディの首筋に白首を絡ませた。
「領内の金貨を数えるだけなら、下請け(クレアたち)でもできるわ。私は実父である辺境伯閣下を裏切り、若君の『重大な国家反逆秘密』を文字通りその肉体で共有している『専属コンプライアンス・オフィサー(内部監査官)』よ。ルディ様が、誰を最も深く『調律』し、依存しているかは、電流の相性がすべてを物語っているわ!」
「お二人とも、お静かに!」
ヒルデが、太ももの『放電痕』を激しく疼かせながら、ベッドのシーツをむんずと掴んで火花を散らした。
「日中の物理的バリア(安全街道)の巡回、ならびにルディ様の身体を過保護に守り抜く現場警備は、我が『黒鉄の百合』の固有タスク! 警備の失敗は操業停止に直結する。ゆえに、若君の肉体を最も近くで監視・警護する権利は、この私にこそあるのであります!」
「お前ら、いい加減にしろ……。俺のサボり時間を奪う、不安全な『お仕置き(アースタスク)の押し付け合い』はやめてくれ……。胃が、胃の腑がキリキリ痛むんだが……」
ルディは、美しき側近たちのあまりにも激しすぎる正妻マウント合戦に、頭を抱えて唸った。
(だが、お互いに牽制し合って、俺が一人だけを過剰に愛撫する過重労働を防いでくれているなら、リソース配分の観点からはある意味『安全な自動制御システム(均衡)』が働いていると言えなくもないな。うん、ヨシ!)
カチャリ、と。
そんな執務室のドアが控えめに開けられ、一人の少女が、緊張にその細い肩を震わせながら入ってきた。
テレーゼの総務主任補佐(エリート事務要員)として、ルディの手元(直属の特別枠)に留め置かれた補償乙女代表、クレア・フォン・ロシュフォール(十七歳)である。
「あ、あの……、ル、ルディ様。テレーゼ主任……。お忙しいところ、大変申し訳ありません……」
クレアは、ミリーから与えられた、おろしたての「極薄の白いシュミーズ」の裾を恥ずかしそうに手で握りしめ、熟れた果実のように顔を真っ赤に染めながら、手に持った羊皮紙のレポートを、両手でルディへと差し出した。
「ル、ルディ様! 簡易寺子屋を修了し、各部署へと配属された五十人の乙女たちの、現在の健康状態、ならびに作業効率を、私独自の手順で一冊の『稼働状況報告書』にまとめました! どうか、ご査収ください!」
「何……、お前が自主的にデータをソートしたのか?」
ルディは、手渡された羊皮紙に目を走らせた。
そこには、中世の住人とは思えないほど整然とした、現代の「エクセルシート」を模したかのような美しい表組みで、各人員の健康状態、作業負荷、5Sの遵守レベルが、完璧なKPI(重要業績評価指標)として数値化されていた。
(おいおい……、マジかよ。
このクレアって娘、ただのプライドの高いお嬢様だと思っていたが、凄まじい『事務・システム構築の適性(Sグレード・リソース)』じゃないか!
マニュアルを渡しただけで、自主的にこんな高度な労務管理レポートを作成するなんて、現代の化学メーカーでも即戦力の中堅キャリア採用レベルだぞ!)
「素晴らしい……! クレア、完璧な『標準作業報告書(SOP)』だ。お前のこの事務処理能力は、ロベルト領の操業度を何倍にも引き上げる。手順、100%ヨシだ!」
ルディは感動のあまり、クレアの前に歩み寄ると、彼女のさらさらとした美しい金髪の頭を「よくやった」と優しく撫で回した。 そして、その手の平の緊張をほぐすために、ほんの、ほんの微弱な静電気を、彼女の白首へと流し込んだ。
ピリチッ……。
「ひゃあぅぅぅっっっっ!!!??」
クレアは、頭から背骨、そしてシュミーズに包まれた太ももの内側へと一瞬で突き抜けた、生まれて初めての「ルディの電撃パルス」に、脳髄を直接灼かれたような凄ましき衝撃を受け、その場でガクガクと膝を砕いて床にへたり込んだ。
「あ、はぁぅ……っ! 何、これ、頭の奥が、バチバチして……お腹の奥が、温かいお湯で満たされるみたいに、勝手にキュウキュウ震えちゃいますぅ……っ!」
クレアは、床に両手をつき、自らの薄い白いシュミーズの裾を太ももで必死に挟み込みながら、涙目とよだれで、ルディを狂おしい欲情(漏電)の瞳で見上げた。
(あ、あああ……っ! これが、テレーゼ様たちやエリーゼ様が毎晩浴びている、ルディ様の『お仕置き(安全トリートメント)』なのね……! ほんの少し指先で触れられただけなのに、全身の力が抜けて、太ももの内側から心地よいデトックスの汗が、ボトボト零れ落ちて止まらない……っ! でも、なんて、なんて気持ちいいの……。 私、ついに、ルディ様の、ルディ様だけの完璧な安全システム(ホワイト後宮)に、身体の芯から組み込まれてしまったんだわ……っっ!!)
「ル、ルディ様……、私、これからも、もっと、もっと完璧な報告書を作ります……!
だから、だからまた……、私のこの身体に、そのビリビリするマッサージ(お仕置き)を、たっぷりと注ぎ込んでくださいぃぃっっ!!」
「うん。監査レポートの提出は毎週の義務だからな。ヘルスケアもセットで回すぞ」
ルディは、クレアの頭を撫でながら、脳内のスプレッドシート(有給計画)に、新たな「未稼働予定タスク」を静かに書き込んだ。
(よし。クレアのポテンシャル(事務処理能力)は完全に合格ラインだ。これほど優秀なアシスタントを、朝のパルス一発でモチベーションMAXにできるなら、これ以上の『先行投資(人材育成)』はない。
……だが、焦るな。優秀なアシスタントには業務が集中するものだ。クレアへの本格的なメンタルヘルスケア(本番アース・調律)は、この後に迫りくるであろうデス・プロジェクトを100%無災害でやり過ごした後の、『打ち上げ(慰労会)』までお預け(マイルストーン保留)だ。
まずは日常業務の安全稼働に集中しなければ、全員が被災(労基違反による減封・連座)するからな!)
「おあずけ」を設定されたとも知らず、クレアは「はいっ……! 次回までに、もっと完璧なデータを作ってお待ちしますわ!」と、熱い欲情と期待の瞳に涙を潤ませ、膝を震わせながら執務室を辞していった。
◇
ロベルト領から遥か北方、ゼーフェルト辺境伯本陣。
その豪華絢爛な執務室において、東部国境を支配する覇王、ゼーフェルト辺境伯閣下は、愛娘エリーゼから届いた『定例内部監査報告書(偽装ホワイトレポート)』を手に、震えるほどの歓喜の涙を流していた。
『――ゼーフェルト辺境伯閣下。私エリーゼは、ロベルト領にて徹底的な内部監査を継続しております。
ルディ・フォン・バウムガルトは、領内の5S(規律)と、民の健康のみを愚直に管理する、極めて臆病で無害な聖領主。地政学的な野心は100%存在しません。
現在, ロベルト領は完全な安全特別区として、我がゼーフェルト辺境伯軍の『強力な防衛盾』としてのみ機能しております。監査官エリーゼ・署名。』
「おお……っ! おお、やはりそうであったか、ルディ!」
辺境伯ゼーフェルトは、エリーゼの完璧に調律された(寝返った)報告書を握りしめ、凄まじい「認知のバグ(勘違い)」を爆発させていた。
「あの少年は、我がゼーフェルト家に絶対の忠誠を誓い、一分の邪心もなく、ただ我が一族の繁栄(防衛シールド)のために、あの荒廃したロベルト領を、大陸一の豊かな黄金のパンくず地帯へと蘇らせてくれたのだ……!
これほどの忠臣、そして名将を、ただ僻地に眠らせておくなど、我が派閥の損失!
よし、我が派閥の圧倒的な内政的功績、ならびに『安全特別特区』の奇跡を、王国中央宮廷(本社)の国王陛下や大臣どもに、大々的にアピール(自慢)してやろう!
我がゼーフェルト派閥の株を爆上げし、中央での権力闘争(社内政治)で、一気に主導権を握るのだ!!」
辺境伯ゼーフェルトは、嬉々として、王国宮廷へ向けて「ロベルト安全特別区の奇跡と、我が家の偉大なる功績」を綴った、あまりにも大げさな『推薦状』を早馬で発送した。
――そう。
「中間管理職(辺境伯)が、現場の圧倒的な成果(ルディの安全街道)を、本社上層部に過剰にアピールして自慢しすぎた結果、本社の最も厄介な『監査役員(王国視察団)』が、直接現場に乗り込んでくる」という、サラリーマン組織論における「最悪のデス・プロジェクト(重大労災)」の引き金が、辺境伯の実務的自爆によって、完全に引かれた瞬間であった。
◇
十日ほど後。初秋の気配が漂い始めた、ある昼下がり。
旧ロベルト子爵邸のバルコニーで、ルディが冷たいハーブ麦茶を飲みながら、
「いやぁ、今日も災害リスクゼロ。有給サボりライフ、ヨシ!」
と、へたり込んだヒロインたちに囲まれてゴロゴロしていた、その時。
ルディの【ガス・温度検知】が、遥かロベルト安全街道の彼方から、こちらの本邸に向けて接近してくる、「異様な、極めて政治的で、悍ましいほどにブラックな熱対流の超大質量(熱源)」を、ハザードマップ上にくっきりと捉えた。
「――っ!? な、何だ、この最悪のヒートマップは……ッ!?
ただの商人や旅人じゃない。魔導の装飾を施された、巨大な、そして不気味な『お偉方』の馬車列が、街道を埋め尽くして、こちらに向かって上ってきているぞ?!」
ルディが冷や汗を流して立ち上がった、まさにその瞬間!
バタンッッ!!! と、執務室のドアが再び押し開けられ、総務主任のテレーゼが、今までにないほど青ざめた顔で、ガタガタと丸眼鏡を震わせながら駆け込んできた。
「わ、若君っ……! 大変です、大ハザード(緊急労基監査)ですぅぅっっ!!」
「どうした、テレーゼ?! 落ち着いて5W1Hで報告しろ!」
「辺境伯閣下が、我が領の『安全街道』と『pH中和農法』の奇跡を、王国宮廷(本社)へ誇らしげに報告しすぎた結果……ッ!
王国宮廷の最高権力派閥である『王国宮廷監察魔導師団』、ならびに『中央監察使節団』が、このロベルト領を直接監査(視察)するため、直々に、こちらへ向かって街道を進軍中でありますわ!!! その数、およそ五十名! 少数ですが、中央の精鋭である『宮廷直属の近衛騎士』や『近衛魔導師』で固められた、極めて危険なエリート部隊です!!」
「――は、はいぃぃぃぃっっっっ!!!??」
ルディの脳内スプレッドシートが一瞬で完全にブラックアウト(大炎上)した。
(嘘だろォォォォッッ!!!
いくらなんでも王国宮廷(本社)の対応が早すぎるだろ! 辺境伯が自慢レポートを発送してから、まだ何日も経ってないぞ!? どんだけ辺境(現場)から搾取(賄賂の粗探し)したいんだよ! 監査のためだけに、国家予算レベルで高価な宮廷用の「魔導通信」や、超法規的な「遠距離転送陣」、果ては宮廷直属の「高速魔導馬車」までフル稼働させて急行してきたっていうのか!? 異常なまでの強欲ブラック本社の機動力に、俺の胃壁が引き裂かれそうなんだが!!
なんで、ただ有給消化してゴロゴロ暮らしたいだけの、弱小男爵家の臆病な四男の僻地領に、王国の本社の役員総出の「労基監察(政治監査)」が直接乗り込んでくるんだよ!!
王宮の政治闘争なんて、現代で言えば「本社の泥沼の派閥争い(デス・プロジェクト)」に巻き込まれる、最も死亡率の高い超極悪ハザードじゃないか!!
労基の監査はもうお腹いっぱいなんだよォォォォォォッッッ!!!)
だが、安全管理者としての前世のDNAが、ルディの思考を光の速さで「非常用バックアップ手順(隠蔽・偽装工程)」へと移行させた。
「テレーゼ、エリーゼ、ヒルデ、エルザ、ハンス! 全員整列!
ただちにロベルト領を『王国基準の、弱小で、極めて貧相で、無害なド田舎男爵領』へとカモフラージュ(偽装ホワイト化)する!
これより、緊急の『証拠隠滅・証拠カモフラージュタスク』をキックオフするぞ!」
「「「「"は、はいぃっ!!!"」」」」
ルディの、まるで行き詰まった町工場の工場長のような涙ぐましい「監査対策」の指示が次々と飛び交った。
「テレーゼ、クレア! お前たちが作った完璧な帳簿やKPIレポートはすべて地下金庫に隠せ(ロックアウトしろ)! 監査用には『計算ミスだらけで黒字スレスレのダミー帳簿(裏帳簿)』を机に並べておけ! 優秀すぎる証拠は、無能な役人の嫉妬と難癖の標的になるぞ!」
「エルザ! お前の『防爆魔導砲座シェルター』の魔力出力をただちにゼロに絞り、大至急その扉に『ただの温水ボイラー室(給湯設備)』というダミーの看板を掲げろ! 近衛魔導師に絶対に見つかるな!」
「は、はいっ! ルディ様! 温水ボイラー室ですね! 完璧に偽造して、お風呂のボイラーのふりをいたしますわ!」
「ヒルデ! お前たち警備隊のピカピカのバウムガルト式制服と安全兜、そしてハイブリッドダウンベストを大至急全員脱がせろ!
倉庫にある一番ボロくて薄汚い鎖帷子と、わざと泥だらけにしたボロ布を上に羽織らせ、『我々は装備もまともに買えず、冷たい泥水に震えるだけの弱小自警団です』という貧困アピールを徹底しろ!」
「はっ! 現場警備隊、ただちに『ボロ布羽織り手順』を執行いたします! 泥水も進んで浴びる所存であります!」
「クレア、お前たち五十人の乙女もだ! その極薄の白いシュミーズの上に、一番分厚くて泥と煤で汚れたダボダボの農作業着を重ね着しろ! 肌の露出は一切禁止だ! 中央のエロオヤジどもに、我が領の極上ホワイト資産(美女たち)のシルエットを1ミリでも見せて興奮させるな!」
「エリーゼ! お前はこれまでの王国査察マニュアルの裏をかき、監察官どものありとあらゆる意地悪な質問に、一ミリの綻びもなく『無害な領地』を装い抜くための『緊急不安全想定問答集(偽装マニュアル)』を直ちに作成して、俺とテレーゼ、クレアに叩き込め!」
「お任せください、ルディ様……! 役人の裏をかく『想定問答』は、私のスパイスキルの本領。完璧に仕上げますわ!」
「ハンス! 奴ら五十名の野営地は、領主邸から完全に隔離した『風下の平原』に指定しろ! そして奴ら専用の仮設トイレを大急ぎで掘れ! 役人どもに我が領の清潔な水洗インフラを絶対に使わせるな! 奴らの持ち込む不衛生な病原菌から、我が領のホワイト環境を死守するんだ!」
「それと、そのピカピカの槍と盾は今すぐ倉庫の奥に隠せ! 全員、代わりに『錆びた鍬やピッチフォーク』を持て! 監査官の前では『ただの貧しい農民が、農具を持って笑顔で村を案内しているだけ』という完璧な無害アピール(カモフラージュ)を貫くんだ!」
――そんなドタバタとした偽装工作(証拠隠滅タスク)が中庭や倉庫で目まぐるしく進む中、一人の少女が、作業用の木箱を抱えながらヨロヨロと廊下を歩いていた。
「特異危険物(エルザの魔導砲座補佐)」として配属されたばかりのルシールである。
ミリーが仕立てた極薄の白いシュミーズの胸元を不自然に大きくはだけさせ、その細い太ももをそわそわと、擦り合わせるようにして歩いている彼女は、あちこちでカモフラージュ用のボロ布やダミーのボイラー配管にぶつかり、ガシャン、と盛大に音を立てて木箱を落としていた。
「ふ、ふええぇぇ……、またやっちゃいましたぁっ……!」
「おい、ルシール! さっきから何回目だ! 完全に『漏電』して不注意ハザード(ポンコツミス)を連発してるぞ!」
ルディが呆れて叫ぶと、ルシールは涙目になり、その熟れた太ももをギュッと擦り合わせてクネクネと身をよじらせた。
「だ、だって……だってぇ、ルディ様ぁっ……!
あのシェルターでのOJT(アースの訓練)の時の、ルディ様のあのビリビリする温かい指先と、エルザ様の奥に電気が融けていったときのバチバチが、頭から全然離れなくて……!
私、直接の調律はしていただけない下請け(アース線)だって頭では分かっているのに、あれからお腹の奥が勝手にキュウキュウ熱くなっちゃって、作業に全然集中できないんですぅぅっっ……!」
(おいおい……! 完全に「OJT後遺症(おあずけによる発情)」で、自律神経の絶縁被覆が破れてるじゃないか。
アースしてやらないことで、かえって電撃パルスへの執着(依存度)が限界突破してポンコツ化するとは……。下請けへの極端な焦らしプレイ(福利厚生制限)も、度を越せば「作業効率低下ハザード」を引き起こすという教訓だな!)
「ルシール、アース(お仕置き)の総点検は、この監査を100%の無災害でやり過ごした後の打ち上げまでお預けだ! 漏電してる場合じゃない、早くそのダミー配管に錆びた煤を塗るんだ!」
「は、はいぃぃっ! 慰労会でのたっぷりアース(お仕置き)を夢見て、今はカモフラージュを急ぎますぅぅぅっっ!」
ルシールは涙目で、しかし自発的な狂信のエネルギーを再起動させて偽装作業へ戻っていった。
ルディは再び腕を組み、テレーゼとエリーゼへと向き直った。
「テレーゼ、エリーゼ。……そもそも、この王国から来る『監察団』とやらは、一体どんなハザード特性(性格)を持っているんだ?」
ルディの問いに、エリーゼは嫌悪を隠そうともせずに冷たく唇を歪めた。
「最悪の危険源よ、ルディ様。
王国の監察官どもは、地政学的な防衛や治安など一ミリも考えていないわ。
地方領地の粗探しをしては、でっち上げたコンプライアンス違反を盾に『巨額の賄賂』を要求し、従わなければ即座に『領地取り潰し(強制倒産)』を言い渡して、自分たちの懐を肥やすことしか頭にない、最低最悪の役人たちよ」
「……なるほど」
ルディは前世の化学メーカー時代、何度も遭遇した『悪質なクレーマー』の姿を完璧にデジャヴさせていた。
「ただの、極めて悪質な『カスタマーハラスメント(カスハラ)』だな。
理不尽な難癖で現場の利益(サボり有給)を脅かそうとするクレーマーに、感情的になって対応するのは二流の不安全行動だ。
ハザード特性が特定された以上、対策は唯一つ。
これより、王国監察団に対し、徹底した『マニュアル塩対応』で迎撃するぞ!」
「マニュアル……しおたいおう……?」
テレーゼが不思議そうに丸眼鏡を直すと、ルディは不敵に、冷徹に厳命を下した。
「そして、全軍に告ぐ。これが最も重要で、絶対的な『不安全完全防除ルール』だ!」
ルディは中庭の広場、およびバルコニーに向けて、凛とした声で最大の厳命を下した。
「王国の高慢な中央役人や近衛魔導師どもに、我が領の優秀な女性労働者たち(五十人の補償乙女含む)の指一本、髪の毛一筋たりとも、絶対に触れさせるな!
王国の権力を盾にしたあらゆるパワハラ・セクハラ(不安全な手)は、我が領の安全基準において、即時排除対象の『極大危険源(有害物質)』に指定する!
我が領のホワイトな人材(資産)の尊厳を害する不届き者がいれば、全員、完璧な『セーフティネット』を以て物理的にシャットダウン(強制排除)だ!」
「――ッ!!!」
そのルディの「セクハラ完全防除宣言」が響き渡った瞬間。
ヒルデ率いる警備隊の面々、および婚姻マッチングプログラムで乙女たちを名誉ある「最愛の妻」として授与されたばかりの、あのツヤツヤと頑強な二十九名の『独身壮年兵』たちの眼光が、一斉に、血の滲むような獣の赤へと染まった。
「……若君。よくぞ、よくぞそのご命令を……っ!」
壮年兵の代表が、愛妻を背後にかばい、バウムガルトの盾をガチガチと鳴らしながら、静かに、しかし地獄の底から響くような「本物の殺気」をみなぎらせた。
「我らの大切な、清らかな妻たち。そして、若君の尊い奥方様たちに……。
あの王国の薄汚い中央の役人どもが、不安全な手を伸ばそうものなら……。
王国だろうが、監察魔導師団だろうが、宮廷そのものだろうが!
我らロベルト警備隊が、若君の教えである『整理整頓(血祭り・完全武装解除)』の手順に基づき、一匹残らずこの世からスクラップ(全滅)にして差し上げます……ッッ!!!」
「待て! 全員、武器を収めろ!」
ルディは即座に右手を挙げ、殺気立つ壮年兵たちの前に立ちはだかった。
「お前たちの高いプロ意識(家族愛)は高く評価する。
だが、先制攻撃(自分からの物理排除)は、我が領の労働安全衛生基準において完全な『コンプライアンス違反(過剰防衛ハザード)』だ!
相手より先に手を出せば、どんなに理不尽なカスハラ役人が相手でも、こちらが『労災の加害者』に仕立て上げられる。
いいか、お前たち!
相手が明確な『安全基準違反(女性へのセクハラ・暴力的実力行使)』という、物理的なデッドライン(レッドゾーン)を完全に越えたその一瞬のみ、正当防衛としての物理排除を許可する!
それまでは、お前たちの全筋力を以て、完璧な『営業スマイル』で耐え抜くんだ!」
「「「「「ハッ!!!
最高の『営業スマイル(殺人準備)』で待機し、デッドラインを越えた瞬間に、手順に従って5S(粉砕物理処理)いたします!!!」」」」」
壮年兵たちは、バウムガルトの盾と槍をピカピカに磨き上げながら、顔半分を影に染め、歯の隙間から「ニィッ」と、およそ人間とは思えないほどの狂信と殺気に満ちた、極上の『笑顔(営業スマイル)』を中庭に咲かせた。
(……よし! セクハラ・パワハラ完全ゼロ、コンプライアンス管理、100%ヨシ!
これで、王国のカスハラ役人がうちの女の子たちに不安全な手を伸ばした瞬間、うちの狂信的筋肉兵たちによる『合法的かつ徹底的な5S活動』のセーフティネットが、合法的な正当防衛として機能する。完璧な迎撃のハッキングだな!)
ルディは心の中で「合法的ざまぁ準備、100%ヨシ!」と冷や汗を流しながらも、力強くガッツポーズをキメた。
「よし、監査対策モード、100%稼働!
全タスク、安全第一で処理しろ!
本社監査(王国使察団)を、極上の偽装ホワイトで100%騙し抜くぞ!!」
「「「「「はっ! ルディ様(若君様)!!! 安全第一、ヨシ!!! 笑顔で待機(5S)、ヨシ!!! 隠蔽工作、ヨシ!!!」」」」」
ルディの平和なサボりパラダイスを守るため、今度は王国全体の政治的ハザードと闘わねばならなくなる、命がけの『監査隠蔽サバイバル(第四章)』。
その、コメディとエロティシズム、そして圧倒的なざまぁの予感をはらんだ幕が、夏の終わりの爽やかな風の中で、ついに非情に、そして滑稽に切って落とされるのであった――。




