第028話:エリーゼの夜間内部監査と、魔導的アース(調律開始)
――深夜。
バウムガルト=ロベルト直轄領の行政センターとなった旧子爵邸は、しんと静まり返っていた。
日中の「5S活動(清掃・清潔)」の徹底により、廊下の隅々に至るまで埃一つなく磨き上げられた洋館の闇を、音もなく這う影があった。
(「ヒルデ。今夜、スパイ(エリーゼ)が動く確率が高い。俺の部屋までは警備を素通しにして罠にかけろ」と指示しておいて正解だったな。防犯カメラ(ヒルデの監視)を抜けたと勘違いしている不安全行動者ほど、対処が容易なものはない)
辺境伯ゼーフェルトの私生児であり、ルディの「手綱(監視役)」として送り込まれた氷の令嬢、エリーゼ・ヒルデ・フォン・ゼーフェルト(十七歳)。
彼女は今、薄手のリネンで作られた、ぴったりとした黒い潜入用夜間作業衣にそのしなやかな身体を包み、ルディの寝室の扉の前に立っていた。
(……あのバウムガルトの四男。昼間は「安全第一」だの「5S」だのと、まことしやかな欺瞞を並べているけれど、その実、オルテンシアの娘たちを全員シュミーズ一枚にして、豪華な館に囲い込んでいる……。
あれは、間違いなく不気味な精神支配の魔術、あるいは、彼女たちの血を贄にするための「恐ろしい洗脳儀式」よ。
父上(辺境伯)に認められるためには、何としても今夜、彼の寝室に眠る「裏の帳簿」か「洗脳用の不浄な魔道具」を見つけ出し、その邪悪な証拠を本陣へと報告しなければ……!)
エリーゼの細い指先が、緊張で冷たく強張る。
彼女は辺境伯の「私生児(庶子)」という極めて不安定な立場にいた。常に「完璧な成果を出さなければ、いつゴミのように捨てられるか分からない」という極限のインポスター症候群(精神的ハザード)に苛まれ、幼少期からの過酷なスパイ教育も相まって、彼女の肉体と魔導回路は、二十四時間年中無休でガチガチに強張っていた。
カチャリ……。
エリーゼは、音も立てずに鍵を開けると、ルディの広々とした寝室へと滑り込んだ。
窓から差し込む夏の月光が、贅沢なダブルベッドを青白く照らしている。そこには、ルディ・フォン・バウムガルトが、静かに寝息を立てて横たわっていた。
(いたわ……。眠っている。……今のうちに、執室机の引き出しと、ベッドの裏側の隠しスペースを捜索する!)
エリーゼは息を潜め、ベッドに近づいた。
その瞬間。
「――お嬢さん。夜間の『抜き打ち内部監査』は結構だが、事前のアポ(操業申請)がない侵入は、我が領のセキュリティ基準において『重大な不安全行動』に分類されるんだが?」
「なっ――!?」
闇の中から、あまりにも平然とした、そしてどこまでもロジカルな少年の声が響いた。
エリーゼが跳びのくように身構えた瞬間、ルディはベッドの上で上体を起こしていた。
その瞳は、眠気の欠片もなく、暗闇の中で異様なほど冷徹に明滅していた。
ルディは、最初から起きていたのだ。
彼の脳内では、すでに【ガス・温度検知】がフル稼働しており、寝室のサーモグラフィ視界は、エリーゼの身体が放つ「異常な熱信号」を完璧に捉えていた。
(おいおい、何だこのヒートマップは……。真っ赤に燃え上がってやがる)
ルディは内心で、目の前の少女の自律神経の壊れぶりに驚愕していた。
ディテクターの視界に映るエリーゼの肉体は、体温が異常に上昇し、心臓の鼓動(熱対流)は一分間に百二十回を超えて激しく脈打ち、白く滑らかな首筋や脇の下からは緊張による発汗の熱が蒸気のように立ち上っている。
さらに致命的なのは、彼女の脊髄を通る魔導回路が、異常な魔力圧によって今にもパンクしそうなほど「ガチガチにこわばり、オーバーフロー」を起こしていることだった。
「ルディ・フォン・バウムガルト……! 起きていたのね。……だが、無駄よ。私は辺境伯閣下直属の監査官。貴方の部屋を捜査する法的権利があるわ!」
エリーゼは、自らの冷徹な「氷の姫」のプライドを保つため、鋭い声で言い放った。
そして、その右手の袖口の奥、指先の間には、オルテンシアのスパイ技術で精製された暗殺用の極細魔導針――触れただけで魔力循環を暴走させて自滅させる「不安全ハザード(毒針)」が、いつでも放てるように隠し持たれていた。
だが、その危険な火薬は、ルディのディテクターの前にはあまりにも無防備だった。
「お嬢さん。その右の袖口に隠した、魔力対流を帯びた『自爆暗器(魔導針)』を即座に床に捨ててもらおうか」
「ッ!? な, なぜそれを……!?」
「言ったはずだ。我が領地において、適切な保安管理(KYT)を受けていない危険物の無断持ち込みは、100%の確率で操業停止処分(没収・隔離)の対象になる。……危険防止、執行!」
バチッッ!!!
「きゃあああっ!?」
ルディがシーツの下から、指先をエリーゼの右腕に向けて一瞬だけ【微弱放電】のパルスを飛ばした。
電撃が彼女の手首の神経に直接干渉し、エリーゼの右腕は一瞬で完全に麻痺。指先から力が抜け、カラン、と小さな黒い魔導針が床に転がり落ちた。
ルディは素早くベッドから降りると、ピンセットを用いてその針を素早く拾い上げ、用意していた分厚い保管瓶の中へ放り込み、きつく蓋を閉め切った。
「特別管理危険物の回収・隔離、ヨシ!」
ルディは手際よくハザードを完全に無力化(密閉)してみせた。
「お、おのれ……っ、よくも私の腕を……っ!」
エリーゼは左手で痺れた右腕を抱え、下がろうとした。
だが、ルディの動きは合理的で無慈悲だった。
「おい、夜間パトロール(潜入スパイ活動)ご苦労様。だが、肩甲骨のあたりがガチガチだぞ。私生児としての諜報活動(過重労働ハザード)のせいで、慢性的なストレートネックと重度の肩こりを引き起こしている。これより、重大な『労務管理違反(緊急メンタルヘルスケア)』を執行する」
「な、何を――ひゃぅっ!?」
ルディはベッドの四隅から、就寝中の大地震による墜落・転落災害を防止するために事前施工しておいた、頑強な革製スリングベルト(睡眠用安全ハーネス)を引き出すと、エリーゼの細い腰をガシッと掴むと、そのまま彼女の軽い身体をベッドの上へと押し倒した。
「離しなさい! 私の身体に何をする気! この、魔王め……っ!」
エリーゼは必死に抵抗し、その美しい長い脚でルディを蹴り飛ばそうとした。
だが、ルディは引き出した頑強な革製スリングベルトで、エリーゼの両手両足を、大の字の形でベッドにガチガチに固定してしまった。
(これはどう見ても、完全な拘束具、しかも肌に触れる部分にはクッションが張りつけてある拘束具。だがこれは「就寝時の安全帯だ」)
「う、嘘……っ、動けない……。両手も、両脚も、完璧にロックされて……。なんて、なんて屈辱的な拘束なの……っ!」
エリーゼは、純白のシーツの上で、黒い潜入用夜間作業衣に包まれた細い腰をくねらせて必死に抗議した。しかし、スリングベルトは、高所作業用のハーネスのように、彼女の体重を完全に分散して固定しており、もがけばもがくほど、ベルトが彼女の豊かな胸や身体に食い込んでいくだけだった。
「ルディ、おのれ……っ! 殺すならさっさと殺しなさい! 辺境伯の娘たる私を、このような玩具にして辱めるなんて……!」
エリーゼは、プライドの高い「氷の姫」の貌でルディを睨みつけた。
だが、ルディは至って真面目な、工場長のような顔で、彼女の頭上から告げた。
「お嬢さん。言ったはずだ。俺は安全管理者だ。怪我人や死人(労災)を出すのが何よりも嫌なんだよ。
……お前のその自律神経の数値を見てみろ。
過酷なスパイ教育による慢性的なコリ、辺境伯に認められねばならないという極限の精神的ハザード(ストレス)、そして魔力循環の致命的な目詰まり(循環ハザード)。
このまま放置すれば、お前は一か月以内に、極度の過労による『急性心不全(労災過労死)』で死ぬ。
我が新生ロベルト領において、辺境伯から派遣された『監査官』が過労死したとなれば、それは最悪の企業イメージ低下(地政学的ハザード)に繋がるんだよ。
だから、これは俺の管理者としての重大な義務だ。
これより、お前の心身に溜まりに溜まった異常魔力圧を、夜間に強制的にベント(放電・中和)してやる。――魔導的アース、操業開始!」
(いかん、最近夜勤が続いて、俺自身の睡眠時間(有給)が著しく削られている。だが、このスパイを今夜ハッキングしておかないと将来の巨大な政治的ハザードになる。これは未来の永続的な有給を獲得するための「先行投資(特別残業)」だ!)
「え……、あ、う、嘘……、何をする気なの……っ!?」
エリーゼが恐怖に目を見開いた瞬間、ルディは容赦なく、彼女の黒い潜入用夜間作業衣のジッパーを上から下まで、一気に引き下ろした。
ジジジジッ、と小気味良い音が寝室に響き、その下に着込んでいた薄いシュミーズが露わになる。極薄の生地越しにも、彼女の過緊張で上下する豊満な双丘や、健康的な肌の赤みがはっきりと見て取れた。
「ル、ルディ様……、ハーブバームと、電気アースの準備、完了いたしましたわ……」
天幕の影から、いつの間にか寝間着姿のテレーゼが、愛欲に蕩けた丸眼鏡を光らせながら、ミリー特製の「低周波導電用ハーブバーム」を差し出した。
さらに、現場警備主任のヒルデが、お尻をそわそわと揺らしながら「ルディ様、エリーゼ様の初期調律、私もお手伝い(安全監視)いたします!」と、すでに自らのシュミーズの裾を乱しながらベッドの脇に控えている。
「あ、あいぃっ……! ヒルデ、テレーゼ、貴方たち、本当にこの魔王の狂信的な雌犬(信者)にされて……っ、やめて、来ないでぇっ!!」
エリーゼが絶叫する中、ルディは手のひらにたっぷりと、冷たいカモミールの香りのハーブバームを塗り広げた。
そして、その手を、エリーゼのガチガチに強張った首筋から肩甲骨、そして白くむっちりとした太ももの内側へと、ゆっくりと滑り込ませた。
ピリピリピリ……、バチバチッ……!
「ひゃうぅぅぅっっっっ!!!??」
エリーゼの背中が、ベッドの上で激しく弓なりに跳ね上がった。
ルディの指先が、バームを媒介にして彼女の皮膚に触れた瞬間、青白い微弱な静電気パルス【微弱放電】が、彼女の皮膚の毛細血管を通じて、全身の神経系へと直接送り込まれたのだ。
「な、何、これ……っ!? あ、熱い、電気が……私の、皮膚を、通り抜けて、背骨までビリビリ走るぅぅぅっっ!」
「お嬢さん、暴れるな。これは『静電気による魔導対流の中和(物理療法)』だ。お前の魔導回路に溜まりきった不安全な過圧を、俺の放電によって、分子レベルで『アース(冷却)』してやっている」
ルディの、どこまでも優しく、そして冷徹な指先が、バームを太もも全体へ、そして肩甲骨のコリの最も深い部分へと、バチバチと静電気を明滅させながら揉みほぐしていく。
ピリピリ、ジワジワ、バチバチバチ!
「あ、あはぁぁっっ! だ、ダメ、そこは、ダメぇっ!
私の、そこは、誰も……っ、ふぇえぇぇっっ、気持ちいい、電気が、お腹の奥まで、直接、届いちゃうぅぅっっ!」
エリーゼは、生まれて初めて自らの身体の芯へと侵入してくる「電気の快感パルス」に、脳髄を直接揺さぶられるような衝撃を受けていた。
彼女の魔導回路は、これまでの過酷なスパイ修行のせいで、異常なほど魔力が「凝り固まり、冷え切って」いた。
そこへ、ルディの【微弱放電】を帯びた愛撫が、完璧な低周波治療器のように作用し、彼女の自律神経のコリを根底から「破壊・弛緩」させていくのだ。
脳内に大量に分泌される快感物質。
エリーゼの、高慢な「氷の姫」としてのプライドという防壁が、ルディの指先のパルスによって、一瞬で木っ端微塵にハッキングされていく。
「あ、あぐっ、はぁ、はぁっ……!
お、お父様……、私、お役に……っ、あ、あうぅっ!
ル、ルディ、ルディ様ぁっ、電気が、私の太ももの内側を、ビリビリって、ずっとなぞって……っ、心地よい汗(老廃物)が、勝手に、溢れちゃうぅぅっ!」
「お嬢さん、もっと力を抜け。自律神経、まだレッドゾーンだ。魔力のベント(圧力開放)を加速させる。――最終調律、最終工程執行!」
ルディは、完全に汗で濡れそぼったエリーゼの最も凝り固まった自律神経のツボへと、電撃を纏った二本の指を、バチバチと火花を散らせながら一気に深く押し込んだ。
「いやあああああああああああっっっっっっ!!!!!!」
ビクンッッ!!! と、エリーゼの全身が極限まで硬直した。
接触部から、青白い電気の火花が、月光の寝室に美しく飛び散る。
ルディの指先から、彼女の経絡の深奥へと、緻密にコントロールされた「静電気パルス」が、ドクドクと波動となって送り込まれた。
逃れられない、人生で初めての極限の性的弛緩(自律神経のオフ)。
「あ、あはぁっっ! 溶ける、私の、頭が、魔力が、全部ルディ様の電気で溶かされていくぅぅぅっっ!
気持ちいいです、ルディ様、ルディ様の電気、もっと、もっと私の奥に、アースしてぇぇっっ!!」
エリーゼは白目を剥き、よだれをタラリとシーツに垂らしながら、激しく腰を跳ね上げて完全に脱力した。
彼女の身体の奥深く、強張っていた筋肉が一瞬で完全に弛緩したことで、溜まりに溜まっていた「魔力対流の圧力」が、極上のデトックスの汗となって、ルディの指を伝い、シーツをじっとりと濡らしていった。
ジュウウウ……、と、彼女の魔力の熱が、ルディのアースを通じて中和され、白い蒸気となって虚空へとベント(開放)されていく。
――数分後。
「はぁ……、はぁ、はぁっ……。う、あぅ……っ」
エリーゼは、スリングベルトに両手両足を固定されたまま、シーツの上に文字通り骨を抜かれたクラゲのようにぐったりと這いつくばっていた。
長年、彼女の肉体と精神を呪縛していたあの「ガチガチの強硬」は、ルディの電気アースによって驚くほど綺麗に消滅しており、生まれて初めて体験する「完全な弛緩」の心地よさに、彼女の脳はドロドロに溶けかけていた。
その上気し、よだれを微かに引いたエリーゼの顔を、ルディは極めて実務的な目で覗き込んだ。
「さて、お嬢さん。物理的なアース(魔力中和)は100%成功し、お前の自律神経も安全基準値に復帰した。……ここからは、お前の『労働環境』についてのコンプライアンス(法令遵守)の話だ」
ルディはスッと、エリーゼを固定していたスリングベルトのバックルをすべて解除した。
自由になったはずのエリーゼだが、あまりの快楽の余韻に手足の一本すら動かすことができず、ただ薄い白いシーツの上で、自らの太ももをピクピクと震わせながら、物憂げにルディを見上げることしかできない。
「ルディ……、私を……どうする気……? 殺すなり、父上に突き出すなり、好きに……」
弱々しく、しかしスパイとしての最後の意地を残したエリーゼの唇を、ルディは冷徹に指先で遮った。
「馬鹿を言うな。俺はそんな不安全な『解雇処分』は選ばない。
お嬢さん、お前は今日から、ゼーフェルト辺境伯のスパイ(危険源)ではない。
我が新生ロベルト領の『専属・内部監査官』に、今この瞬間を以て配属(ホワイト転職)する」
「……え? 内部……監査官……?」
エリーゼの知的な瞳が、混沌の中で大きく見開かれた。
「そうだ。辺境伯本陣には、一週間に一度、お前の手で『内部監査報告書』を届けさせる。
内容はこうだ。
『ルディ・フォン・バウムガルトは、極めて無欲で臆病な、ただ領地安全と民の健康のみを管理する無害なホワイト領主。地政学的な野心は100%ゼロ』
――と、完璧な偽装レポート(ホワイト報告書)を辺境伯(実父)へ送るのが、お前の新たなコア業務だ」
「な……ッ!?」
エリーゼの背筋に、快感とは異なる強烈な戦慄が走った。
「私に……、実の父親である辺境伯閣下を……裏切れ、というの……!?
そんな、そんな国家反逆の共犯者に、この私がなるはずが……!」
「いいや、お前は100%この業務を悦んで遂行する」
ルディは邪悪に微笑むと、バームで濡れた自らの指先を、エリーゼのまだピクピクと震える太ももの内側、あの「放電痕(魔力伝導パス)」が形成されつつある極上のアースポイントへと、そっと這わせた。
ピチッ……!
「ひゃぅあぁっっっ!!!??」
ほんの微弱な一瞬の静電気に、エリーゼはまるで全身を雷で打たれたように激しく腰を跳ね上げ、再びデトックスの汗を滲ませた。
「なぜなら、お前のその慢性的なスパイ・ストレスを完治させられる『アース装置(低周波マッサージ)』は、世界中で俺の指先しか存在しないからな。
お前が辺境伯に余計なことをチクる(不安全行動をする)か、あるいは偽装レポートのクオリティを怠れば、俺はお前への『メンタルヘルスケア(魔導的アース)』を永久に停止する。
……その瞬間、お前の身体は、再びあのガチガチの地獄のコリと、魔力パンクの恐怖に苛まれることになるんだぞ?
だが、お前が俺の専属・内部監査官として完璧に辺境伯を騙しおおせれば、毎晩、お前の勤務時間外(ベッドの上)で、その自律神経をたっぷり、とろとろになるまでアースして、調律(熟睡)させてやる。
――さあ、意思決定の時間だ。お前は、どちらの労働環境を選択する?」
ルディの、冷徹でありながら、極限のリラクゼーション快感をエサにした「悪魔の就業規則」の提示。
「あ……、あ、う、うぅ……っ!!」
エリーゼは、自らの頭脳とプライドが、凄まじい「背徳感」と「極上の癒やしへの欲求」によって、メキメキと音を立てて崩壊していくのを感じていた。
辺境伯を騙し、実家を裏切り、この少年の手先(監査官)として動く。
スパイとしてこれ以上ない致命的な敗北であり、完全なる裏切り。
しかし――。その裏切りを完遂した先にあるのは、あの、脳髄の奥の神経防壁を直接電気で灼き溶かされるような、ドロドロに甘い、極限のリラクゼーションの夜が毎晩約束されるという「天国(ホワイト待遇)」。
(あ, あああ……っ!
お父様に、辺境伯閣下に認められたくて、あんなに自分を押し殺して、ガチガチに強張らせて生きてきたのに……。
このルディ様の電気は、その強迫観念を、一瞬でこんなにも優しく、気持ちよく溶かしてしまった……!
私は、もう……、ルディ様の指先がなければ、ただ強張って死ぬだけの、抜け殻にされてしまったんだわ……!
お父様を裏切る……、実家を裏切って、ルディ様だけの「内部監査官(共犯者)」として、偽りの報告を届ける……。
ああ、なんて……なんて恐ろしくて、ゾクゾクするような待遇なのかしら……っっ!!)
「は、はい……っ、ルディ様……、ルディ様……っ!」
エリーゼは、自らの薄いリネンのシュミーズの胸元をはだけ、羞恥と熱い欲求に染まった氷の麗人の顔を涙で濡らしながら、ルディの足元へとしがみついた。
そして、ルディの足首に自らの白い頬をすり寄せながら、とろとろに蕩けきった恍惚の表情で、裏切りの誓い(労働契約)を口にした。
「私……私は今日から、ゼーフェルト辺境伯の目ではなく、ルディ様だけの、新生ロベルト領の『専属・内部監査官』として、身も心も、すべてを捧げてお仕えいたします……!
父上の元へは、ルディ様がいかに慈悲深く、無害な聖領主であるかを綴った、完璧な偽装報告書を毎週お届けしますわ……!
だから、だからお願いです、ルディ様……っ!
毎晩、毎晩私を……っ、このガチガチに強張った意地汚い身体を、ルディ様の電気でめちゃくちゃにアースして、調律してくださいぃぃっっ!!」
「よし。雇用契約、100%合意、ヨシだ」
ルディは、エリーゼの頭を「よくやった」と優しく撫で回しながら、心の中で盛大にガッツポーズをした。
(よっしゃあああ! 辺境伯が送り込んできた最凶のスパイ(危険源)を、完璧に「自陣営の監査役(ホワイト身内)」として抱き込むことに成功したぞ!
これで辺境伯からの「不安全な政治的査察」は、エリーゼの偽装レポートによって100%シャットアウトされる!
彼女をロベルト領の公式コンプライアンス・オフィサーとして内政の裏帳簿(5S管理)を監督させつつ、実家への情報統制を担わせる。これ以上のセーフティネットの構築は存在しない。
いやぁ、メンタルヘルスケア(魔導的アース)をインセンティブにしたリスクマネジメント、本日も完全無災害、ヨシ!!)
ルディが、自らの完璧な保身(サボり有給ライフ)のための内政スプレッドシートの完成に満足していると、ベッドの脇でその一部始終を見守っていたテレーゼとヒルデが、感動に満ちた熱い視線を交わし、ルディの前に深く平伏した。
「若君……! なんという、なんという完璧な内部統制の構築……!」
テレーゼが、丸眼鏡の位置を直し、その瞳に狂信の涙を浮かべて震えた。
「辺境伯閣下が放った刺客を、その圧倒的な愛の調律を以て『専属監査官』へとクラスチェンジさせ、辺境伯陣営の監視網そのものを、我がロベルト領を守るための『逆スパイ情報盾』へと反転させてしまうなんて……!
これこそ、名だたる帝国戦術書にも存在しない、究極の内政的防護壁ですわ! 若君のその神をも恐れぬ内政手腕に、このテレーゼ、一生涯這いつくばってお供いたします!」
「ルディ様、さすがであります!」
ヒルデが、お尻をそわそわと揺らし、自らの太ももの放電痕をシーツに擦り付けながら蕩けた声で言った。
「エリーゼ様も、これで晴れてバウムガルト警備隊の監査の最高権限を握るホワイト仲間。
さあ、ルディ様、調律の契約成立を祝して、今夜はテレーゼと私、そしてこの新しいエリーゼ様も交えて、夜間総点検(シフト制の合同安全指導)を開始いたしましょう……! 私の強張った筋肉も、もう、ルディ様の電流を求めて破裂しそうなのですからぁっ!」
「あ、いや。点検はスケジュール通りに回すのが一番安全なんだが……」
ルディは、ヒロインたちの「天を衝くほどの認知のバグ(狂信)」と、あまりにも過剰なアース要求(労働災害寸前のおねだり)に冷や汗を流しながらも、新生ロベルト領の完璧なコンプライアンス体制(そして自分が有給でダラダラ暮らすための絶対防壁)の完成に向けて、夜を徹した「アース作業」を激しく、そして甘やかに繰り広げるのであった。




