第027話:【挿話】安全予備(五十人の乙女)の適材適所と、定着率向上(リテンション)のトロフィー
新生ロベルト直轄領、行政センター――。
旧ロベルト子爵邸の最も奥まった場所にある、魔導温風機が快適な二十四度に室温を保つルディ・フォン・バウムガルトの執務室。
そのなめらかなマホガニーの長机の前に、新生ロベルト領の内政と保安、そしてルディのサボり(有給)ライフを陰で支える美しき側近たち――「ホワイト後宮」の面々が、一堂に召集されていた。
総務・財務主任のテレーゼ・フォン・ベルンハルト。
現場警備主任のヒルデ・フォン・クランツ。
専属斥候(猟犬)のセシル。
そしてミリー、サシャ、リタ、ニナの従軍給炊班の四人。
ルディは長机に肘をつき、十五歳らしからぬ不敵で冷徹な「管理者スマイル」を浮かべながら、手元の羊皮紙の束を彼女たちに提示した。
「――今日、皆に集まってもらったのは、先日オルテンシア王国から引き渡された『五十人の乙女(安全予備)』の、今後の運用プロセス(オンボーディング)についてだ」
ルディの静かな声が、ハーブ香の満ちる部屋に響く。
ルディの脳内スプレッドシートは、すでに彼女たちの「最適な配置転換(リソース配分)」の計算で埋まり尽くしていた。
(五十名の健康な若い女性(ホワイト労働力)を、ただの飾りとして子爵邸に遊ばせておくなど、管理者として固定費(食費・住居費)の垂れ流しという最悪のハザードだ。
彼女たちを新生ロベルト領の行政・内政を支える生産的労働力、それも将来の中間管理職へと育成しなければ、この領地の過酷な復興ガントチャートは回らない。
だが、中世の常識をそのまま適用して彼女たちをただの土木作業員(現場小作人)にするのは、不安全行動や事故、なによりメンタルの崩壊(労働ハザード)に繋がる。……ならば、段階的なスクリーニングと、最強の動機付け(モチベーション管理)を行うのが上流管理者のマニュアルだ)
ルディは、冷徹なトーンのまま、テレーゼやミリーたちへ具体的な指示を飛ばした。
「まず、一週間の『適性評価合宿』を行う。ミリーたち給炊班の指導の元、彼女たちの生活態度やバイタルを観察し、一冊の名簿を作成してくれ。……書く項目は、出身階層――貴族なのか、商家か、職人か、農家か。そして、それぞれの特技や読み書き、計算の能力の有無だ」
「適性……、評価、でございますか?」
テレーゼが、知的で美しい丸眼鏡の奥の瞳を細め、息を呑んだ。
「そうだ、テレーゼ。そしてここからが極めて重要なマニュアル(指示)だ。……一週間の合宿で様子を観察し、君たちの『下』に付けてもいいと思える優秀な人材、あるいは特定の職能に秀でた娘がいたら、名簿にその旨をマーキング(推薦)しておいてほしい。――特に、ヒルデとセシル。お前たち二人だ」
ルディの言葉に、ヒルデとセシルの肩がびくりと震えた。
「ルディ様……、私の、下に……?」
ヒルデが、おろしたての現場警備主任の制服を身にまとい、その豊かな胸元を激しく上下させた。
彼女の太ももの内側にある、かつてルディの【微弱放電】によって深く刻み込まれた「放電痕(魔力伝導パス)」が、ルディの視線を受けただけで、ズクンと甘く疼きだす。
「はっ……! つ、つまり、ロベルト領の『物理セキュリティ(警備隊)』を強化するため、オルテンシアの娘たちの中から、頑健で規律を遵守できる者を私の直属の部下(弟子)として配属せよ、とのご命令ですね……?」
「その通りだ、ヒルデ。警備隊の男手不足を補い、かつ、お前のような高いプロ意識(安全マニュアル)を持った現場リーダーの元で訓練(5S)させれば、極めて安全な防犯部隊が構築できる」
(実際は、荒くれ者の男のガードマンを増やすより、元敵将のヒルデの元で徹底教育された女の子のガードマンを配備した方が、領内でのセクハラや性犯罪(暴動ハザード)の確率が劇的に下がるし、何より見た目もクリーンだからな)
ルディの脳内スプレッドシートが、完璧なリスクヘッジを弾き出す。
さらに、ルディはセシルへと視線を向けた。セシルは短い緑の外套の裾を内股でもじもじと擦り合わせながら、ルディを熱い忠犬の瞳で見つめている。
「セシル。お前の『危険探知(斥候)』の仕事にも、アシスタントが必要だ。オルテンシアの娘の中で、目や耳が良く、気配を殺すのが得意な商家や猟師上がりの娘がいたら、お前の下にマーキングしておけ。お前が直々に、危険のハザード(敵対勢力の監視)を嗅ぎ分けるスキルを教え込むんだ」
「あ……、は、はい……っ! ルディ様……っ!」
セシルは、かつてルディの天幕で、彼の電撃を帯びた指先によって自律神経をめちゃくちゃに溶かされ、心地よいデトックスの汗を流して調律された夜を思い出し、その太ももをモゾモゾと擦り合わせながら自律神経の過反応(漏電)を引き起こしていた。
「わ、わかりました……っ! 私……、私みたいに、ルディ様の電気なしでは生きていけない、従順で、優秀なルディ様の猟犬を、私の手で必ずや調律(教育)して、お側に侍らせてみせますぅ……っっ!」
「あ、いや。電気は通さなくていいから、危険予知(KYT)の指導を頼む」
ルディはセシルの過剰な「調律志願」に冷や汗を流しながら、今度はテレーゼとミリーに向き直った。
「テレーゼ、ミリー。……ここからが、新生ロベルト領の『最大のリスクヘッジ(人口定着・暴動ハザード対策)』だ。
出兵していた、我が直轄領の『生き残り兵四十名』、ならびに本家から転職してきた独身兵たちのリストを大至急作成してくれ。……一番重要な情報は、彼らが『独身か、妻帯者か』だ。そして、今回の戦いで上げた『戦功(褒賞金)の高い順』に並べ替えて(ソートして)くれ」
「独身兵の……、戦功順リスト、でございますね?」
テレーゼが、羽ペンを握る指先を震わせながら、ルディの「意図」を測るように丸眼鏡の位置を直した。
「そうだ。……一週間のインターン(合宿)が終わり、オルテンシアの五十人の乙女たちの身元がオール・グリーンだと確認された後――。
私は、彼女たちを『戦功のトロフィー(婚姻報酬)』として、我が新生ロベルト領の独身帰還兵たちへと、名誉ある形で正式に引き渡す(マッチングする)」
「――ッ!!!」
執務室の空気が、一瞬にして爆発的な衝撃によって凍りついた。
(中世の戦場で、生き残った独身男性兵士(労働力)が最も渇望するもの。それは金貨ではない。「家庭を築き、自らの生活を安定させるためのまともな妻」だ。
ただでさえ男手不足のロベルト領で、彼らに「綺麗に洗浄・教育され、ルディをメシアとして崇める優秀なオルテンシアの乙女」を妻として与えてみろ。
兵士たちは、自らの愛する妻と、ルディから与えられたフカフカの天幕(住居)、週休二日、三食温かいハサップスープという「奇跡のホワイト待遇」を死守するために、絶対に領地を裏切らなくなる。
自発的に領内の5S活動を徹底し、不審な敵を家庭の内側から察知して排除する、完璧なセキュリティ・コミュニティが完成する。
これこそが、領地の定着率を高め、独身男性の不満による暴動を100%シャットアウトする、究極の人事・婚姻マッチング戦略だ!)
ルディは、自身の完璧な保身のためのスプレッドシート(人事制度)に、深く満足して「フッ……」と邪悪不敵に笑った。
だが――。
ルディの傍らにいるテレーゼの丸眼鏡の奥の瞳は、いまや歴史上のいかなる賢者のものをも凌駕する、底知れない畏怖と、狂信的な崇拝の涙で美しく歪んでいた。
(ああ……っ! なんという……、なんという恐るべき、神のごとき地政学的婚姻謀略……!)
テレーゼの脳内インテリジェンス(勘違いスプレッドシート)が、光の速さでルディの「真の狙い」を弾き出していた。
(若君は、オルテンシアの乙女たちを我が軍の忠勇なる兵士たちにトロフィーとして与えることで、彼らの忠誠心を極限の臨界点へと叩き込むのみならず、その婚姻関係の絶対的な保証人(神)として、自らを兵士たちの血脈の頂点に位置づけられた。
さらにそれだけではない……!
ヒルデやセシル、ミリーという若君のホワイト後宮の息がかかった側近の元で徹底的に「5S(教育)」されたオルテンシアの娘たちが、ロベルト領のあらゆる兵士や農民の家庭に主婦として浸入する……。
これは、領内のすべての家庭の内側に、若君に絶対的な忠誠を誓う「女性監視員(スパイ・情報網)」を無数に寄生させるに等しい、恐るべき完璧な内政情報統制網の構築ですわ……!
夫が少しでも若君を裏切る(不安全行動をする)兆候を見せれば、洗脳・教育された妻たちが即座に検知し、私たちの財務・警備網へと報告が届く。
若君の統治は、武力でも恐怖でもない。徹底した福利厚生と愛の管理(調律)による、逃れられない完璧なユートピア(情報支配)国家なのだわ……!)
「若君……っ!」
テレーゼは、ガタガタと太ももを震わせ、丸眼鏡を外して、心地よいハーブの香りとデトックスの汗を漂わせながらルディの長机へと這いよった。
「テレーゼ、身も心も、若君のその悪魔的で美しい内政戦略の前に、完璧にひれ伏します……!
直ちに、ロベルト領の生き残り兵四十名、ならびに本家から転職を希望している若者たちの独身リストを作成し、戦功の評価係数に基づいてソートいたしますわ!
一週間後には、誰がどの乙女を娶るべきか、完璧な交配マッチング・ガントチャートを完成させてみせます!」
「う、うん。頼む。普通の仲介手数料だと思ってやってくれ」
ルディは、テレーゼの「異常に紅潮した顔」と「ズボンの下でじっとりと汗ばんでいるであろう太ももの熱」に引き攣りながらも頷いた。
「ルディ様……、ミリーも、がんばります!」
ミリーが、ふっくらとした可愛い胸をエプロンの上から突き出し、涙を浮かべて平伏した。
「オルテンシアの娘たちに、若君の5Sと、病魔を100%シャットアウトする『沸騰消毒』の精神を、心身の隅々まで叩き込みます!
若君のクリーンな教えを学んだ彼女たちが、ロベルト領の各家庭の台所(給養)を守るようになれば……この領地からは、あらゆる病魔が永久に消滅しますわ! 若君の愛に、心から感謝いたします!」
「おお……、それは素晴らしいな。衛生管理、ヨシだ」
(やはり、家庭内感染の防止こそが労働災害防止の第一歩だからな。ミリーの衛生教育は実に信頼できる)
ルディが深く頷く。
すると、その様子を執務室の最も暗い隅から、冷たい、しかし異常に熱っぽい「査察の目」で見つめていたエリーゼ・ヒルデ・フォン・ゼーフェルトが、自らの薄いリネンのズボンの上から、熱く疼く内股をぎゅっと太ももで挟み込み、震える息を漏らした。
(……この、恐ろしい、底知れない、圧倒的な支配者の少年。
独身兵への「トロフィー供給」という中世的で度量の広い覇王の振る舞いに見せかけて、実質的にオルテンシアから奪った娘たちをロベルト領の隅々に配置し、完璧な情報監視ネットワーク(セーフティネット)を機能させるなんて。
このままでは、辺境伯(父上)が送り込んだいかなるスパイ(ハザード)も、領民の家庭に入り込んだ彼の「白いシュミーズの妻たち」によって、瞬時に特定され、アース(排除)されてしまうわ……。
そして、この私エリーゼすらも、彼の冷徹な頭脳と、夜の極上の「低周波マッサージ(調律)」によって、いつの間にか彼の絶対支配の一部へと組み込まれつつある……。
ああ、ルディ……。貴方に完全に開発(調律)されてしまう日が、こんなにも、こんなにも恐ろしくて……、そして、待ち遠しいなんて……っっ!)
エリーゼは、自らの白く滑らかな指先を、太ももの内側へとそっと滑り込ませ、ルディの絶対的な「安全管理の雷」を想像して、極上のデトックスの汗を滲ませながら熱い吐息を漏らしていた。
「よし、一週間の適性合宿、ならびに帰還兵の婚姻マッチングプログラム、これより正式に稼働する。
ロベルト領の未来(俺の有給傀儡生活)をかけた最重要工程だ。
本日も、完全無災害で操業開始。手順、ヨシ!」
「「「はっ! ルディ様(若君)!!! 安全第一、ヨシ!!!」」」
執務室に響き渡る、側近たちの狂信的で、熱気を含んだ大合唱。
周囲の、天を衝くような「認知のバグ(狂信)」に一切気づくことなく、ルディは、新生ロベルト領の広大なホワイト職場化(そして自分がいつの日かゴロゴロして暮らすための有給計画)に向けて、意気揚々と次なる一歩を踏み出すのであった。




