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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第三章:地政学的報酬と、50人の乙女の「ホワイト領地改革」

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第024話:五カ年停戦協定と、50人の乙女(安全予備)の要求

 


 ――大陸暦一二五四年、盛夏。


 先の雑木林における不期遭遇戦において、一千五百の別働隊と宮廷魔導師団を、一兵の損害すら出さずに「完全無災害(ゼロ災)」で自滅・壊滅せしめた、バウムガルト男爵家が四男ルディ・フォン・バウムガルト。


 さらにその直後、ルディの「他者委任デリゲーション」によって手柄という名の致命的なデス・プロジェクトを押し付けられた上位領主ゼーフェルト辺境伯の主力軍は、喜び勇んでオルテンシア王国の前線要塞都市を強襲、これを見事に陥落させていた。


 宮廷魔導師団という国家の「戦略大質量兵器」を失い、さらに防衛拠点を奪われたオルテンシア王国には、もはや戦いを継続するだけの物理的・経済的余力は残されていなかった。


 結果として、回収されたばかりの旧ロベルト子爵邸――現在はルディの「新生ロベルト直轄領」の行政センターとして稼働する美しい洋館の会議室において、歴史的な戦後交渉が行われていた。


「エリーゼ様。これからオルテンシアの特使と『旧ロベルト子爵邸』で戦後交渉を行いますが、辺境伯様の代理(見届け人)として、ぜひ同席して適正な監査をお願いします」


 とルディは営業スマイルで依頼していた。

(こいつを本陣に帰して余計な報告をされたら困るから、目の届くところに縛り付けておこう)


(私を巻き込んで既成事実化する気ね……)

 エリーゼは、警戒しつつも同行を余儀なくされていた。


「――以上が、我がオルテンシア王国から提示させていただく、五カ年の暫定停戦協定、および国境拠点の割譲に関する譲歩案でございます、ルディ・フォン・バウムガルト閣下」


 豪奢な長机の対面に座るオルテンシア王国の特使、カミーユ・ド・ロアン伯爵は、額にじっとりと脂汗を浮かべながら羊皮紙の書状を差し出した。かつては傲岸不遜を絵に描いたような王国の名門貴族だった男が、今は若い貴族の少年に過ぎないルディに対し、まるで伝説の雷獣の前に引きずり出された小動物のように震えている。


 それもそのはずだ。彼の目には、ルディの傍らに控える面々が、あまりにも「狂気的な戦力」として映っていた。


 ルディの右隣には、ロベルト領の総務・財務主任となったテレーゼ・フォン・ベルンハルトが、知的で美しい丸眼鏡の奥の瞳を冷徹に輝かせ、手元の羽ペンを静かに走らせている。


 左隣には、ついに自身の運用方法を身に着け、魔術師としての高みに一段登った超高熱線魔術師エルザ・フォン・アーレンスが、ルディから支給された「火気使用安全基準書」を聖書のように豊かな胸に抱きしめ、狂信的なまでの熱い視線をルディに注いでいた。


 さらにルディの背後に設けられた衝立の奥には、かつてオルテンシアで「黒鉄の百合」と恐れられた苛烈な女重装歩兵隊長ヒルデ・フォン・クランツが、いまやバウムガルト隊の「現場警備主任」として、ピカピカのバウムガルト式防寒ダウンと作業着を誇らしげにまとい、仁王立ちしている。


 そして会議室の最も暗い隅には、辺境伯ゼーフェルトから送り込まれた「監視役スパイ」でありながら、その実、極限の官能電気ショックによって心身を調律されつつある氷の麗人、エリーゼ・ヒルデ・フォン・ゼーフェルトが、鋭い「査察の目」を細めてルディの一挙手一投足を見つめていた。


(……いや、何なんだこの息が詰まるような配置は。俺はただ、エアコンの効いたオフィスでサボりながら有給消化したいだけの、極めて平凡な中堅化学メーカー出身のしがないサラリーマンなんだが?)


 ルディは内心で激しく胃を痛めながら、おろしたての清潔な長衣の襟元をそっと緩めた。

 脳内のスプレッドシートは、すでに目の前の交渉から発生する「今後の操業リスク」の計算で完全に埋まりかけていた。


「ロアン伯。提示された停戦条件、ならびに領土境界線の画定については、おおむね妥当であると判断します。……ただ、一点。この『補償金(賠償金)三万ゴールドの一括支払い』という項目についてですが」


 ルディが冷徹なトーン(実際はただ緊張しているだけ)で言葉を区切ると、ロアン伯の肩がびくりと跳ねた。


「そ、それにつきましては……! 閣下、なにとぞご寛恕を! 王国も先の泥濘戦、および主力軍の損失により、国庫は完全に底を突いておりまして……! 三万ゴールドなどという巨額の金貨を今すぐ一括で支払うなど、物理的に不可能です! どうか、十年の分割払い、あるいはせめて半額への減額を……!」


 ロアン伯は涙を流しながら懇願した。中世の国家において、一度の敗戦で支払わされる賠償金は、国力を完全に絞り尽くすレベルの重労働だ。もし一括支払いを強制されれば、オルテンシア国内では重税による大規模な農民暴動(労働災害ハザード)が多発し、国は内側から崩壊する。


 対するルディの脳内では、即座に「リスクアセスメント(危険源の特定)」が実行されていた。


(ゴールドの分割払い? 冗談じゃない。中世のそんなあやふやな債権、五年後にオルテンシアが政変を起こして踏み倒されたら、回収コストが跳ね上がる。それに、金の回収のために再度動員デス・プロジェクトがかかったら、俺の生存率が著しく下がる。……しかし、減額してただ諦めるのもリスクのヘッジにならない。今、このロベルト領において、最も致命的な「最大ハザード」は何だ?)


 ルディは、テレーゼから提出されていた「ロベルト領復興ガントチャート」の未処理タスクを思い浮かべた。


 第一ハザード:【深刻な労働力不足マンパワー・ハザード】。

 ロベルト領は、前領主の不安全な突撃行動により、多くの成人男性(労働力)を失った。さらに雨期による街道の崩壊、水路の泥詰まり、農地の荒廃。これらを放置すれば、秋の収穫は皆無。領民は飢え死にし、ルディの支配基盤は崩壊する。


 第二ハザード:【過労死(連続勤務ハザード)】。

 今いる少ない人員で復興を強行すれば、生き残ったバウムガルト隊の兵士や領民に「連続一二〇時間勤務」並みの過重労働を強いることになる。疲労による転落、土砂崩れへの巻き込み、さらには集団ボイコット(不安全な裏切り行動)の発生リスクがレッドアラートを点滅させている。


 第三ハザード:【安全教育コストの超過クオリティ・ハザード】。

 かといって、地元の荒くれ者の流れ者や、他領の不潔で教育水準の低い小作人を急遽雇い入れるのは、リスクが高すぎる。彼らは「整理・整頓・清掃・清潔・習慣(5S)」の概念すら持たず、生水を飲んで勝手に赤痢になり、不安全な鍬の振り方で隣の作業員の頭を叩き割る。そんな「不安全行動のデパート」を教育するコストは、俺の有限なメンタル(有給ライフ)を完全に削り取る。


(必要なのは、初めからある程度の教育を素直に受け入れ、規律を維持しやすく、病気の感染源ハザードになりにくく、かつ、このロベルト領の復興において「絶対にボイコットをしない」、極めて安全マージンの高いホワイト労働力……)


 ルディの冷徹な脳内計算が、一つの結論を弾き出した。


(オルテンシア王国の、中流階級以上の家庭で育った、若い女の子たちだ)


 中世における彼女たちは、読み書きや最低限の計算、あるいは高度な機織りや家事の技術(基礎教育)を身につけていることが多い。それでいて、荒くれ者の男たちのように暴動を起こすフィジカル的リスクが極めて低い。

 さらに重要なのは、この中世の不条理な価値観から言えば、敗戦国の身として「身柄を差し出された乙女」たちは、普通なら奴隷や生贄として悲惨な死を迎えるのが常識である。


 そんな絶望のどん底から、もしルディが彼女たちを救い出し、週休二日、三食付き、ハーブ香る個室天幕と簡易水洗トイレ、そしてミリーたちの作った暖かい「防寒ダウンベスト」を支給して、適切な事務仕事や軽農作業(5S活動)を「ホワイト待遇」で提供したとしたら、どうなるか?


「自分たちを地獄から救い出し、人間として扱ってくれた、慈悲深く温かい、神のごとき聖領主様!!」


 彼女たちは自発的にルディを狂信し、一兵卒の裏切り(スパイ行為)すらも内側から自発的に検知・駆逐する、最強の「セーフティネット」として機能するはずだ。


「――よし、計算は立った。補償金リスク安全予備ヘッジに変換する」


 ルディは、思考を整理するための時間稼ぎとして、ふっと肩越しに背後を振り返り、衝立の裏で控える警備主任へと衝立越しに声をかけた。


「……ご苦労、ヒルデ警備主任。周辺の『セキュリティ(物理防護警戒)』に異常はないな?」


「はっ! 異常なし(オール・グリーン)であります、ルディ様!」


 ヒルデはピシッと、一糸乱れぬ極上の軍礼を返した。その凛々しく美しい護衛の姿に、衝立越しではあるが、ルディは安堵を覚え衝立へと歩み寄った。


 ルディの指先が、衝立の横をすり抜け、労うようにヒルデのむっちりとした白い太ももの内側――作業ズボンの薄い起毛生地を隔てた、かつての夜間調律で刻み込まれた「放電痕(魔力伝導パス)」へと、そっと這わされた。


 ピリ……。


 ルディが手の平の緊張をほぐすために漏らした、極めて微弱な静電気パルスが、衣服の繊維を透過して彼女の経絡へと直接浸透した。


「ひゃ、う――っ!?」


 ヒルデの美しい貌が一瞬で朱に染まり、膝がガクガクと小刻みに震えた。


 鉄の規律を誇るはずの女騎士が、衝立越しではあるものの、交渉の席という最も張り詰めた公の面前で、内股をキュッと締め、必死に太ももを擦り合わせる。

 ダウンベストの下の豊満な胸元は激しく上下し、作業着のズボンの下では、ルディの指先一つで自動的に強張った神経が弛緩し、極上のリラクゼーションによる心地よい「デトックスの汗」が滲み出て太ももを伝っていた。


(ル、ルディ様……っ。こんな、皆の見ている前で……。極上の低周波が、身体の芯まで響いて……汗が、ズボンを濡らして、皆の前に零れ落ちてしまいますぅ……っ!)


 顔を引き攣らせ、凛々しい現場主任の仮面を辛うじて保ちながらも、ヒルデの瞳はすでに、主人からの電気(安全管理)を求めて蕩けきった社畜のそれへと退行し、呼吸を荒くさせていた。


 この「公務と極上のメンタルケアの境界の融解」を、会議室の暗い隅から凝視していたエリーゼは、心臓を冷たい氷の楔で貫かれたような、凄まじい戦慄を覚えた。


(やはり、あの夜から始まった、あの光景は幻ではなかったのね……! いや、それどころか、私はこの数週間、毎晩のようにルディの天幕から漏れる音に欲情し、覗き見を日課にしてしまっている……!

 なんという恐るべき、絶対的な肉体支配(コンプライアンス管理)。もし私が彼に完全に「調律アース」されてしまったら、辺境伯のスパイという任務どころか、衆目の前で四つん這いにされて電気をねだるだけの忠犬にされてしまう……! ああ、恐ろしい……けれど、なんて甘美な地獄なのかしら……!)


 エリーゼの自律神経にも、不穏な欲情の熱がじっとりと染み渡り、太ももがカタカタと震えだしていた。彼女はルディの冷徹な横顔を、恐怖と異常な欲情が混ざり合った瞳で見つめることしかできなかった。


 その強烈な相互のバグを置き去りにしたまま、ルディはスッと正面のロアン伯へと向き直り、極めてロジカルに、そして淡々と告げた。


(三万ゴールドなど、取り立てのコストと暴動誘発リスクを考えれば完全な「不良債権トキシック・アセット」だ。辺境伯には「将来の反乱ハザードを未然に防ぎ、恩を売った賢明な損切り」としてエリーゼ経由で報告させよう。コンプライアンス対策、ヨシ!)


「ロアン伯。我が領は、オルテンシアの国庫を破綻させ、そちらの民に飢えを強いるような『不安全な搾取』は望みません。……そこで、賠償金三万ゴールドの全額免除、および五カ年の停戦の代償として、別の条件を提示します」


「免、全額免除……!? 別の条件、とは……!?」


 ロアン伯が信じられないものを見る目で目を見開く。会議室の空気が、一瞬で凍りついた。


 ルディは静かに告げた。


「オルテンシア王国の家庭より、健康かつ規律を遵守できる、十五歳から二十歳までの『うら若き乙女五十人』の身柄を、ここロベルト領へ割譲(補償乙女として提供)していただきます。……これが、我が新生ロベルト領の復興における、唯一の要求デッドラインです」


「な――」


 ロアン伯の顔から、一瞬で血の気が引いた。

 彼の脳内において、中世の凄惨な「認知のバグ(勘違い)」が、凄まじい勢いで起爆した。


(ご、五十人の生娘を……要求するだと……!?)


 ロアン伯の背筋を、悍ましい戦慄が駆け抜ける。

 眼前に座るこの「バウムガルトの雷神」は、オルテンシア王国の未来を担う若い血筋、それも最も価値ある年頃の娘たちを五十人も生贄として要求しているのだ。


 かつて宮廷魔導師団を完封し、一瞬で大気をも焦がす雷撃を放ったという怪物。その力の源が、純潔な乙女たちの血や生贄の儀式、あるいは、夜のむごたらしい慰みものとしての搾取にあることは、疑う余地もなかった。


(彼は……彼は、我々の若い血筋を奪い、自身の魔法(雷神の力)の生贄にするつもりだ! あるいは、オルテンシアの高貴な血を、自身の底なしの欲望で穢し、完全なる「肉体の奴隷(後宮)」として支配する気なのだ! なんという淫らで、冷酷で、底知れぬ征服者だ……!)


「閣下……! それは、あまりにも非人道的な……! 娘たちを人質として、残酷な生贄にするなど、聖オルテンシアの神が許しはしません……!」


 ロアン伯は震える声で叫んだ。だが、その背後に立つ元オルテンシアの将、ヒルデとエルザが、冷たい、しかし圧倒的な威圧の視線を浴びせる。


「静かにしろ、ロアン伯」


 ヒルデが、太ももからこぼれる心地よいデトックスの熱に喘ぎながらも、かつての祖国の特使に対し、軽蔑を込めて言い放った。


「ルディ様の『安全管理トリートメント』を、薄汚いオルテンシアの基準で測るな。ルディ様が直々に、その偉大なる静電気パルスを以て彼女たちの肉体を調律し、不安全なストレスを極限まで弛緩リラクゼーションさせてくださるのだ。これ以上の名誉が、どこにある?」


「そうよ……」


 エルザが、ドレスの豊かな胸を小刻みに震わせ、蕩けた瞳でルディを見つめる。


「ルディ様の徹底された『冷却インターバル(休憩)』を伴う愛の管理下に入ることは、使い捨ての兵器や労働者として擦り切れて死ぬよりも、遥かに神聖で、温かく、幸せに満ちた救済。オルテンシアの無知な娘どもには、あまりにも過分なホワイト待遇(天国)だわ……」


「ひ、ひぃぃ……っ!」


 最凶の魔術師と、元・黒鉄の百合。二人の女傑が、完全にルディの「ホワイト後宮(安全管理)」に調教され、蕩けきった表情でルディを狂信する姿を目撃し、ロアン伯はもはや言葉を失い、恐怖のあまり失禁しかけていた。


 一方、ルディのすぐ右隣で、テレーゼは丸眼鏡の奥に、感動に満ちた涙をじわりと浮かべていた。


(ああ……! 若君……! なんという深き慈悲、なんという完璧な領地経営の先見の明……!)


 テレーゼの脳内スプレッドシート(勘違いバージョン)が、光の速さで計算を完了させていた。


(先の戦争で、我がロベルト領は深刻な労働力不足マンパワー・ハザードに直面している。この荒廃した地に、他領から品行の悪い不潔な流民ハザードを入れれば、たちまち治安は悪化し、疫病が蔓延するでしょう。

 しかし、若君はオルテンシアの、基礎教養があり規律を遵守しやすい若い乙女たちを「聖なる白い労働者」として救い出し、一から育てることで、領内の行政、事務、農作業のクオリティを劇的に向上させる「安全予備人員」の調達を提案されたのだ……!

 これこそ、一切の無駄死に(労災)を許さない、古今東西のあらゆる戦術書を超えた、真の聖者様の行いです!)


「若君……。テレーゼ、そのお考えに、心より感服いたしました。……ロアン伯、新生ロベルト領の財務主任として、私も若君の要求を全面的に支持します。この協定書に直ちに調印なさい。さもなければ、辺境伯主力軍三千が、再びそちらの国境関所を『整理整頓(殲滅)』しに向かうことになります」


 テレーゼの、冷徹なまでの財務監査官の如き声が、交渉室に響き渡る。


「わ、わかった……! 調印する! 調印いたします……! 娘たちの身柄は、一週間以内に、清潔かつ健康な状態で、我が王国の責任においてこちらへ届けさせます……!」


 ロアン伯は完全に戦意を喪失し、震える手で羽ペンを握ると、五カ年の停戦条約、および「補償乙女五十人」の引き渡し書面に、血を吐くような思いで署名サインした。


「ただし、そちらの不安全な輸送ルートは信用しない。国境の引き渡しポイントまでは我がバウムガルト警備隊を『安全護衛』として派遣する。輸送中に我が資産(乙女)に傷一つでもつければ、協定は即時破棄だ!」


(……よし! 交渉、完璧に成立! 災害リスクゼロ、ヨシ!)


 ルディは、心の中で小さくガッツポーズをした。


(これで、過重労働デスマーチによるロベルト領復興の崩壊は100%回避された。

 これで俺の有給サボりライフの基盤は整ったぞ!)


 ルディは、自身のあまりにも完璧な保身計画スプレッドシートに満足し、ハンスとミリーに向き直って、極めて詳細な「初期オンボーディング(受け入れ工程)」の指示を口にした。


「ハンス、ミリー。一週間以内に、五十人の新規受け入れ(オンボーディング)の準備を。……到着次第、まずは最外部からの最大のハザードである『外部感染症(赤痢・コレラ等)』の持ち込みを完全にシャットアウトする。五十人全員、ロベルト領に入る直前にオルテンシア製の不潔な衣服を即座に剥ぎ取れ。それらはすべて『熱湯廃棄(5Sの整理・整頓)』だ」


「な、なんと……!」


 ミリーが、頬を真っ赤に染めながら、小さく熱い吐息を漏らした。


「次に、抗菌ハーブを調合した巨大な薬湯浴槽に順次沈め、髪の先から指の隙間に至るまで、全身の『徹底的な薬湯洗浄(完全滅菌消毒プロセス)』を施すんだ。汚染の二次ハザードを防ぐため、自前の荷物の持ち込みは一切禁止。彼女たちに与えるのは、ミリーたちが仕立てた、おろしたての『極薄で清潔な白いシュミーズ(制服)』のみ。この無菌かつ真っ白な状態で、まずは全員の身体検査とヘルスチェックを行う。ロベルト領のホワイト操業基準を、文字通り身体の芯から叩き込むぞ」


「は、はいぃっ……! ルディ様……っ!」


 ミリーは、その濡れた瞳を大きく見開いた。


(到着したその日に、オルテンシアの衣服をすべて剥ぎ取って、若君の用意した温かい薬湯で全身を洗わせ、お揃いの白いシュミーズのみを着せて管理する……。

 つまり、オルテンシアの汚れ(ハザード)をすべて排除して、若君のクリーンな支配色(白)に染め上げる……。

 ああ、ルディ様。五十人の乙女たちが、ルディ様の徹底された衛生管理という名の、甘美な後宮セーフティネットに一瞬で組み込まれていく姿……。想像しただけで、お腹の奥が熱くなってしまいます……!)


「これこそ、外部ハザードを100%遮断する完璧な検疫プロセス」とテレーゼが感動の溜息を漏らし、その横でエリーゼは、心臓の鼓動をますます激しくさせていた。


(到着したその日に全員の衣類を廃棄し、自身の用意した「白いシュミーズ」のみをまとわせて一元管理する……。

 精神的にも肉体的にも、オルテンシアという国家のアイデンティティを完全にリセットし、バウムガルトの信者として刷り込む、悪魔的なまでの洗脳オンボーディングプログラムだわ。この少年、本当に底が知れない……!)


「本日も、完全無災害で操業開始だ。手順、ヨシ!」


「「「はっ! 若君(ルディ様)! 安全第一、ヨシ!!!」」」


 会議室に響き渡る、側近たちの狂信的なまでの大合唱。


 周囲の、天を衝くような「認知のバグ(狂信)」に一切気づくことなく、ルディは、新生ロベルト領の広大なホワイト職場化(そして自分がいつの日かゴロゴロして暮らすための有給計画)に向けて、意気揚々と一歩を踏み出すのであった。


 ――バウムガルト隊のハザードマップ:五十名の安全予備人員の確保、完全ヨシ!




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