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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第三章:地政学的報酬と、50人の乙女の「ホワイト領地改革」

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第023話:追撃戦のデリゲーション(他者委任)と、政治的ハザードの行動開始

 


 ――ザーザーと降り続いていた、初夏の鬱陶しい雨期の雨が、ついに止んだ。


 雑木林の木々の葉からこぼれる清らかな雫が、きらきらと午後の陽光を反射している。


 他の将兵たちが「ぬかるみ」「不衛生なドブ水」「冷えによる感染症」といった三重ハザードに喘いでいる中、バウムガルト隊が警備する雑木林の高台だけは、異質なほどに快適な「ホワイト職場」を維持していた。


「暗渠排水、機能ヨシ。防爆土塁シェルター内の換気、異常なし。簡易水洗トイレの衛生パス、グリーン(安全)。よし、無災害キャンペーンは本日も完璧に継続中だな」


 仮設の指揮官デスク(元ロベルト子爵の執務机を5S整理したもの)に向かい、ルディ・フォン・バウムガルトは、自身が羊皮紙に作成した脳内スプレッドシートを指差し確認していた。


 そのルディのすぐ傍らには、すでに彼の「安全管理(極上の低周波マッサージ)」によって骨抜きにされた、美しき女性陣が控えていた。


「ルディ様……、お疲れではありませんか? お体に魔力のこわばりがあるなら、いつでも冷却トリートメント(夜間操業)の準備はできておりますわ……」


 超高熱線魔術師エルザ・フォン・アーレンスが、ルディから支給された「火気使用安全基準書」をまるで聖書のように豊満な胸に抱きしめながら、蕩けるような甘い視線を送ってくる。


(よし。労働環境セーフティネットの操業効率は極めて順調。現場の士気も天を衝く勢いだ。……だが、ここで絶対に調子に乗ってはならない。安全管理のプロは、大勝利の直後こそ「最大級のリスク」が潜んでいることを知っているからな)


 ルディは、十五歳の少年らしからぬ冷徹な視線で、遥か前方の街道を見据えていた。


 オルテンシア王国の精鋭別働隊1,500名を、自爆バックファイアと土砂崩れのコンビネーションで完封撃破したという事実は、間もなく辺境伯の本陣や、さらに上流のウルガリア帝国宮廷へと伝わるだろう。


 そうなれば、十中八九、上層部(本社役員ども)から「そのまま敗残兵を追撃し、オルテンシア国境の要塞都市を陥落させよ」という、最悪の「追加過重労働デス・プロジェクト」が命令されるに決まっている。


(ふざけるな。勝ち戦に乗じた深追いこそ、戦死、怪我、過労、補給線の伸び切りによる集団感染を招く「不安全行動の温床」だ。そんな命綱なしの突撃作業など、弱小下請け企業の俺が受けるわけがない。せっかく無傷(ゼロ災)で稼いだ手柄を台無しにされて、労災遺族補償を払う羽目になったら目も当てられん)


 ルディの脳内スプレッドシートは、すでに「追撃戦ハザード」の回避工程を算出していた。


 出した答えは一つ。


 ――「デリゲーション(他者委任)」である。


「ハンス、辺境伯本陣への使者を呼べ。これより我が隊が獲得した『追撃の権利』および『戦果のすべて』を、上位領主であらせられるゼーフェルト辺境伯に『無償譲渡デリゲーション』する」


「……は、はい?」


 老騎士ハンスが、驚愕のあまり口をアングリと開けた。


「ただし! 俺たちが作った『泥の液状化トラップ』や『土砂崩れの危険箇所』を記したハザードマップも必ず添付しろ。引き継ぎ時の情報共有不足で辺境伯の兵が二次災害(労災)に巻き込まれたら、我が社の瑕疵責任にされるからな!」


 テレーゼやヒルデも、一瞬、ルディの意図が掴めずに顔を見合わせる。


「それと、もし攻略中に何か想定外のトラブルが起きても、緊急連絡エスカレーションの窓口はすべて『総務のテレーゼ』を通すよう辺境伯に厳命しておけ! 俺のサボり時間ダイレクトアクセスを絶対に削らせるな!」


「ル、ルディ様……、それは一体!? 1,500名の大軍を完封し、敵の別働隊長ヒルデまで捕らえた大金星なのです。そのまま我が隊が進軍すれば、オルテンシアの前線都市を我が物とし、あなた様は若くして『救国の英雄』として爵位を上げ、絶大な名声を得られるのですよ!?」


 テレーゼが、あまりの無欲さに信じられないといった声を上げる。


 しかし、ルディの保身ロジックは寸分のブレもなかった。


「テレーゼ、視野が狭いぞ。目先の名声ゴミに目が眩んで、過重労働(過労死)を志願するなど愚か者のすることだ。我がバウムガルト隊は、わずか50人の弱小クソ零細企業。そんな極小組織が、大要塞の陥落なんていう大規模プラントの建設(要塞攻略)を単独で請け負えるわけがない。


 そんな手柄はな、組織力アセットと兵力だけは余っている辺境伯に押し付けるのが一番安全なんだ。責任も、攻略コストも、すべて元請け企業(辺境伯)に丸投げして、俺たちはこの快適なホワイト陣地で、美味いハーブティーでも飲みながら有給サボりを消化する。これが『リスク転嫁』の極意だ」


 ルディが当然のように言い放つと、居並ぶ面々の瞳に、一瞬で「別の熱狂バグ」が灯った。


「――っ! お、おお……! なんという……なんという深謀遠慮……!」


 老騎士ハンスが、老いた瞳をギラギラとした狂信の光に燃え立たせて平伏した。


「若君は、名声や領地といった目先の肉の塊に惑わされず、すでに『地政学的なパワーバランス』を制御コントロールしておられるのだ! あえて全戦果を辺境伯に譲ることで、宮廷の嫉妬をシャットアウトし、辺境伯を『防壁アース』として最前面に押し出す。そして、我らバウムガルト隊の健全なる実力だけを、安全な暗闇に温存される……! これぞ、古今東西のいかなる戦術家をも凌駕する、絶対無敵の『王覇の思想』だ!!」


「ルディ様……。私、あなた様のその冷徹なまでの知略に、今一度、身が震えるほどの悦びを感じておりますわ……」


 テレーゼは、丸眼鏡を曇らせて豊満な胸を激しく上下させ、心地よい放電の余韻が疼くように太ももをそっと擦り合わせた。


「敵ながら、恐るべき器。辺境伯は、ルディ様の掌の上で踊る傀儡(人形)に過ぎないというわけですね……」


 ヒルデもまた、畏怖と甘美な服従の入り混じった瞳でルディを見つめていた。


(……いや、だから、俺はただ有給休暇が欲しいだけなんだが? なんでお前ら、そんなに目が怖いの?)


「追撃戦は任せたが、戦後交渉(停戦協定)の場に辺境伯が出てくれば、旨味をすべて持っていかれる。ハンス! 直ちにこの雑木林を引き払い、空き家になっている『旧ロベルト子爵邸』を全軍で接収(5S)するぞ! 俺が戦後交渉のホストとしてあそこを実効支配し、有給ライフのベースキャンプ(既成事実)にしてやる!」


「それと、雨上がりで一気に気温が上がっている。WBGT(暑さ指数)が危険水域だ! 外で作業している全兵員に対し、三十分ごとの日陰休憩と、ORS(経口補水液)の摂取を義務化しろ! 熱中症は個人の自己責任ではなく、現場管理者の責任だからな!」


 ルディの内心の絶望を余所に、ハンスは風のように使者を送り届けていった。


 数日後。


 ルディの「他者委任デリゲーション」は、ゼーフェルト辺境伯本陣に、凄まじい大激震を巻き起こしていた。


「な、何だと……ッ!? バウムガルトの四男ルディが、敵の宮廷魔導師団を壊滅させただけでなく、その追撃の栄誉と手柄を、すべて我がゼーフェルト家に譲ると申し出てきただとぉっ!?」


 辺境伯ゼーフェルトは、報告を携えた伝令の襟元を掴み、驚愕のあまり髭をガタガタと震わせていた。


「は、はい! ルディ殿は、『我がバウムガルト五十人隊は、辺境伯様の絶対的な大恩に報いるための爪牙に過ぎません。要塞都市の陥落という栄光の歴史は、ただ、偉大なるゼーフェルト家のみにふさわしいものです』と……!」


「お、おおお……ルディ、なんという、なんという謙虚で慈悲深き少年なのだ……っ!」


 辺境伯は、思わず天を仰ぎ、感動のあまりボロボロと涙を流した。


 隣国オルテンシアの精鋭1,500名を撃破したという報告を受けた時、辺境伯は、この十五歳の四男坊が自分の地位(伯爵位)すらも脅かすのではないかと、冷や汗を流して畏怖していたのだ。

 だからこそ、ルディを御するための「手綱(監視役・婚約者候補)」として、自らの冷徹な庶子エリーゼを送り込もうと画策していた。


 だが、ルディの対応は、辺境伯の邪推を遥かに超越していた。


「手柄をすべて私に譲り、主君たる我が家に花を持たせるだけでなく、オルテンシアをこれ以上刺激して泥沼の消耗戦に陥らぬよう、一歩引いて我が家に『停戦の主導権』を渡してくれたのだ……! これほど深く、我が領国の行く末を案じ、私を立ててくれる若者が、中世のこの乱世に存在するだろうか!? いや、存在しない!」


 辺境伯は、自身の浅ましさを深く恥じるとともに、拳を力強く握りしめた。


「よし! バウムガルト隊の恩義と無欲に応え、我がゼーフェルト本隊三千、ただちにオルテンシアの前線要塞都市を陥落させ、この戦の決定的な勝者となる! そして、ルディをロベルト子爵領の正式な『聖領主』として永久に保障してやるのだ!!」


 辺境伯軍は喜び勇んで出撃。

 ルディの計算(サボり計画)通り、元請けとしての攻略コストをすべて支払う形で、オルテンシアの前線都市を見事に陥落させ、大金星を挙げることに成功した。

 これによって、オルテンシア王国は完全に戦意を喪失し、ゼーフェルト家主導による「五カ年の停戦条約」への道が、完璧に敷かれることとなったのである。


 だが。


 手柄という名の「ゴミ(デス・プロジェクト)」を辺境伯に押し付け、高みの見物を決め込んでいたルディの元に、もう一つの、そして極めて政治的に厄介なハザード(不安全要因)が、行動を開始しようとしていた。


 エリーゼは、辺境伯の庶子(私生児)として生まれ、過酷な宮廷闘争と、父親の「役に立つ道具であらねば捨てられる」という底なしの恐怖の中で育ってきた。

 それゆえに精神防壁は鉄のように硬く、他者を一切信用せず、あらゆる事象を「陰謀と野心」の二次元でしか捉えられない、冷徹な内部監査員スパイとして完成されていた。


 彼女が父(辺境伯)から命じられた任務は、突如として頭角を現したバウムガルト家の四男ルディを「監視」し、その異常な力の源を暴き、隙あらばその「手綱」を握ること。

 エリーゼは、スパイ特有の猜疑心(インポスター症候群)を極限まで尖らせ、


「あえて功績を父上に譲ることで、本宮や他領の嫉妬から自身の身を隠し、実質的な私兵ヒルデたちと、この不気味な洗脳陣地を温存する気ね。私を欺き、ゼーフェルト家を裏から支配しようとするその邪悪な野心、私が必ずすべて暴き、あなたを奈落の底へ引きずり下ろしてあげるわ」


(あの恐ろしく甘美なマッサージ……あれは間違いなく、私の精神を堕落させるための「恐ろしい洗脳儀式」よ! このままでは私がスパイとしての自我を失ってしまう。完全に手遅れになる前に、あの悪魔の尻尾を掴まなければ……!)


 ルディは、脳内スプレッドシートが一瞬でフリーズするのを感じた。


(……は? 野心? 洗脳? 裏から支配?いやいや、俺はただ、追撃戦っていう超絶ブラック残業を辺境伯に丸投げして、ここで女の子たちと冷たい麦茶でも飲みながらゴロゴロサボりたいだけなんだが!?

 なんでこの労基署の鬼査察官エリーゼは、俺が「裏の覇王」であるかのように勝手に監査報告を捏造しようとしてるんだ!? 勘弁してくれよ、俺のホワイト傀儡生活が初手から崩壊しかけてるんだが!!)


「エリーゼ様。……その認識は、極めて深刻な『安全管理上のエラー(誤解)』なのですが」


「言い訳は見苦しいわ。私はあなたの『裏の顔』を暴くまで、片時もあなたから目を離さない。覚悟することね」


 冷たく言い放ち、完璧に5S化された豪華な監査用天幕へと歩き去るエリーゼの背中を、ルディは、ただ絶望に満ちた目で、指を差しながら見送るしかなかった。


(不安全行動(スパイ活動)の監視マーク、開始。……ハザードレベル、極大。

 ……俺の有給傀儡生活を守るためにも、近いうちに、あのガチガチに強張った鬼査察官エリーゼの自律神経と魔導回路を、夜の寝室で「魔導アース(コンプライアンス調律)」して、とろとろのホワイト共犯者に強制カイゼンしてやる必要があるな。手順、ヨシ……いや、全然ヨシじゃねえよぉぉぉぉ!)


 深夜。

 バウムガルト陣営の奥深く。


 辺境伯の庶子エリーゼは、音を立てずにルディの指揮官天幕の裏手へと忍び寄っていた。


(……あの少年は危険よ。ヒルデやエルザのような強者たちが、なぜあそこまで彼に狂信しているのか。その洗脳のカラクリ(証拠)を、この目で暴き出して父上に報告しなければ……)


 エリーゼは、冷徹な監査官としての使命感プライドを胸に、天幕のわずかな隙間から、冷たい瞳で内部を覗き込んだ。


 だが――次の瞬間、彼女の知的な瞳は驚愕に見開かれ、呼吸がピタリと止まった。


「あ、あはぁっ……っ! ルディ様、ルディ様の電気、もっと、奥までぇっ!」

「いいぞ、ヒルデ。お前の魔導回路の異常過圧ストレスを、俺の電気でしっかりとアースしてやる」


 隙間の向こうで繰り広げられていたのは、目を疑うような光景だった。

 オルテンシア王国で「黒鉄の百合」と恐れられたあの気高き女将ヒルデが、極薄のシュミーズ一枚でうつ伏せになり、心地よい汗を流しながらルディの指圧に身悶えしている。

 ルディの指先から放たれる青白い静電気の火花――【微弱放電】がヒルデの太ももの内側の経絡を這うたびに、彼女はビクンと激しく痙攣し、獣のように甘い悲鳴を上げて極上の脱力状態システムシャットダウンに陥っていた。


(な、何なの、これ……っ!? 拷問? いいえ、違う……。あんな、あんなに蕩けた顔で、自分からあんな汚らわしい……いいえ、気持ちよさそうな施術を乞うなんて……っ!)


 バチバチッ!という乾いた放電の音。

 そして、天幕の隙間から夜風に乗って漏れ出してくる、心地よいデトックスの汗とハーブオイルが混ざった甘く熟れた匂い。


 それらを視覚と嗅覚で直接浴びた瞬間、エリーゼの脳裏に、数日前に自分がルディから受けた「血栓予防マッサージ」の記憶が、強烈なスパークとなってフラッシュバックした。

 あの時、自分の内腿を這い上がってきた、脳髄が痺れるような青白い電流。


(……っ! あ、あぁ……っ)


 エリーゼは、口元を両手で強く押さえた。

 恐怖だった。あのルディという少年は、女の尊厳も、騎士としての誇りも、すべてをあのおぞましくも甘美な「電気」で融かしてしまう悪魔だ。

 だが、恐怖で震えているはずの彼女の下腹部の奥深くが、ドクン、ドクンと、異常なほどの熱を持って激しく脈打ち始めていた。


(もし、あの電気が……私の奥の、一番コリが固まったところにまで、注ぎ込まれたら……? 私も、あの「黒鉄の百合」のように、みっともなく涎を垂らして、もっとビリビリさせてって、泣き叫ぶことに、なるの……っ?)


 その想像ミラーリングが脳内を駆け巡った瞬間、エリーゼの冷徹な理性の防壁は、音を立てて崩れ去った。


「はぁ、はぁっ……、いや……っ、だめ、私は、スパイ、なのに……っ」


 エリーゼは天幕の隙間から目を離すことができなかった。

 彼女の視線はルディの指先に釘付けになり、ルディがヒルデのツボを突くたびに、まるで自分がマッサージされているかのような錯覚に陥り、ビク、ビクゥッ!と身体を震わせる。


 気づけば、彼女は薄いネグリジェの裾を無意識に握りしめ、自らの太ももをキュッと強く擦り合わせながら、激しい羨望の吐息を漏らしていた。


「あ、あっ……ふぅ……っ! ルディ、様……っ、ダメ、あんなの、見せられたら、私……っ」


 スパイとしての冷徹な監査行動は、もはやただの「自律神経の過反応(漏電)」へと完全にすり替わっていた。


(ディテクターが天幕の外でエリーゼの熱源を検知しているな。夜泥での冷えは健康ハザードだが……これは彼女の精神防壁を崩すための「自主的な視覚研修(OJT)」としてあえて泳がせておくか。明日、ミリーに特濃の風邪予防の生姜ハーブティーを持っていかせよう。健康管理、ヨシ!)


 エリーゼは、冷たい夜の土の上に這いつくばり、天幕から漏れる青白い放電の光と女たちのデトックスの悲鳴を浴びながら、一人きりで声を殺したプレ・アース(漏電)へと幾度も叩き落とされていくのだった。




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