第020話:隠し暗器のハザード検知と、強制アース(自律神経の調律)の開始
――ヒョオオオオウ、と。
雑木林の外では、冷たい初夏の雨が依然として大地の泥濘を叩き、不気味な風の音が梢を揺らし続けていた。
しかし、バウムガルト隊が誇る特設の「隔離保護天幕」の内側は、魔導温風機が送り出す湿度四十%のふんわりとした暖気と、ミリーたちが焚いた清らかなラベンダーのハーブ香に満たされ、極めて健康的でクリーンなホワイト空間が保たれていた。
その天幕の中央、木製の頑強な簡易寝台の上に、彼女はいた。
「お、おのれ……! 謀ったな、卑劣なバウムガルトの四男め……っ! 私をどうするつもりだ! 殺すなら、さっさと殺せっ!」
寝台の四隅に、頑強な革製スリングベルト(安全帯)で両手両足を大の字に固定され、身動き一つ取れなくなっているのは、オルテンシア王国軍別働隊の指揮官――「黒鉄の百合」ことヒルデ・フォン・クランツだった。
彼女はすでに、泥まみれで重い漆黒の全身板金鎧を「5S活動」の一環として強制的に排除され、ミリーたちの手で全身の泥を徹底的な衛生基準のもとで綺麗に洗い流されていた。
今の彼女が身にまとっているのは、ミリーが予備として温めておいた、おろしたての真っ白なシュミーズ(薄いリネンの肌着)一枚のみ。
その極薄の白い生地は、冷たい雨の地獄の行軍と敗北の屈辱で、激しく小刻みに震える彼女の「健康的な肉体美(労働資産)」を生々しいほどに浮き彫りにしていた。
二十四歳という、瑞々しく鍛え抜かれた大人の肢体。
重い板金鎧の圧迫から解放された豊満な胸の双丘は、過緊張による激しい呼吸に合わせて、シュミーズ生地を限界まで押し上げている。
「殺せと言っているだろう! 我がオルテンシアの騎士の魂は、これしきの拘束では屈しない! 隙を見せれば、お前のその薄汚い喉笛を噛み切って、お前の血で喉を潤してやるわッ!」
ヒルデは寝台の上で身体を激しく悶えさせ、スリングベルトをギチギチと軋ませながら、ルディをその獰猛な獣のような瞳で睨みつけた。
だが、その鋭い敵意とは裏腹に、極限の戦闘ストレス(過緊張状態)にある彼女の白く滑らかな首すじからは、焦燥による熱い汗がじっとりと滴り落ち、薄いシュミーズの胸元を透けるように濡らし始めていた。
「はぁ。お嬢さん、威勢がいいのは結構だが……無駄に体力を消耗する不安全行動はやめろ」
ランタンの温かい橙色の光の下、ぬくぬくとした防寒ダウンベストを着たルディは、ベッドの脇に立ち、手帳(安全衛生記録簿)にペンを走らせながら、冷徹な管理者の瞳を向けた。
「俺は、無意味な暴力や拷問には一ミリも興味がない。俺が興味があるのは、この現場における『完全無災害(ゼロ災)』の維持、そしてお前という重要参考人の『品質管理(健康状態の維持)』だけだ」
「な……、ひ、品質管理だと……っ!? 私を愚弄するかッ!」
「愚弄などしていない。俺はただ、お前の体内に仕込まれた『極めて重大な物理・化学ハザード』を指摘しているだけだ」
ルディはそう言うと、手帳を閉じ、自身の感覚魔術を彼女のうなじへと直接向けた。
――【ガス・温度検知】、起動。
ルディの網膜に投影されるサーモグラフィの等温線。
白く美しいヒルデの肢体は、怒りと代謝の向上によって全体的に鮮やかな朱色に火照っている。しかし、その白く滑らかな首の裏側――延髄付近にある魔力中枢のすぐ脇に、不自然なほど冷たく、そして鋭い金属的な魔力の集積(熱信号の欠落)が、ルディの目にはっきりと映し出されていた。
「お嬢さん。お前のそのうなじの皮膚の下……魔力中枢のすぐ脇に、魔力起動型の『自爆毒針(オルテンシア魔導暗器)』を埋め込んでいるな?」
「ッッ!?!?!?!?」
ヒルデの貌から、一瞬にして血の気が引いた。
大の字に縛られた彼女の肉体が、恐怖のあまりにピクンと硬直する。
「な、なぜそれを……ッ!? 自白魔術など使っていないはずなのに、なぜ、その最高機密の『誓約の針』の存在を知っているの……っ!」
「俺の検知器をごまかせると思うな。……さて、リスクアセスメント(危険性評価)を実施するぞ」
ルディは、冷酷な管理者としての顔で、ベッドの端に腰掛けた。
「その毒針は、お前の感情(心拍数)が一定値を超えるか、あるいはお前自身の魔力回路が強制的にシャットダウン(敗北・気絶)した際、自動的に神経毒を放出して心臓を止める『使い捨ての防諜自爆システム』だな。前世の化学プラントで言えば、安全弁が取り外されたまま放置された高圧ガスボンベと同じだ。……まったく、オルテンシアの経営陣(上層部)は、どこまでお前たち作業員を使い潰せば気が済むんだ。従業員の安全を完全に無視した、極悪ブラック企業そのものじゃないか」
ルディは、その暗器を部下に埋め込んだ軍の上層部に向け、心の底から軽蔑と嫌悪の息を吐き出した。
「無理に取り外そうとすれば、お前の心臓が止まる(重大労災死)。あるいは、取り外す過程で毒針が暴発し、俺の指先に被弾して俺自身が被災(巻き込まれ事故)する可能性がある。これは、我が隊の安全衛生基準において、絶対に看過できない『重大な不安全状態』だ」
「フ、フン……! ならば、手出しはできまい! 私はこのまま、お前の前で心臓を止めて、聖女様への忠誠を尽くして死ぬだけだ……っ!」
ヒルデは、自らの勝利を確信したように、泥まみれの誇り(精神論)を滾らせて笑おうとした。
だが、ルディはそんな彼女を見つめ、邪悪に、しかし圧倒的にロジカルな笑みを浮かべて囁いた。
「言ったはずだ、お嬢さん。俺は『安全管理者』だ。……ハザード(毒針)がそこにあるなら、手順に沿って『無害化』するだけの話だ」
「無害、化……?」
「その毒針は、お前の魔力回路と自律神経が『極限の過緊張状態』にあることで起爆条件を維持している。
――ならば、お前の全身の魔導回路を完全にアース(放電)させ、肉体を極限まで弛緩させてやればいい。自律神経が完全にリラックスし、魔力の圧力がゼロになれば、その毒針は起爆シグナルを失い、ただの『異物』として、お前の皮膚から黒い結晶となって自動排出される。……これが、安全管理マニュアルに基づく『自爆暗器の安全排出工程』だ」
「な、何を言って……ひゃうっ!?」
ヒルデが言葉を遮られたのは、ルディが、傍らの小机に置かれていた、ミリー特製の「ハーブ配合マッサージオイル(導電バーム)」のボトルを手に取ったからだった。
ルディは、ドロリとした温かいオイルを自らの手のひらにたっぷりと注ぐと、両手を擦り合わせて人肌の温度に馴染ませた。
そして、彼の指先から、バチバチバチ……と、青白い美しくも不気味な静電気の火花――【微弱放電】が宿り、オイルの中で細かく明滅し始める。
「な、その、光る手で……私に触る気!? や、やめろ! 近寄るな! 殺せ! 誇りある死をよこしなさいよッ!!」
ヒルデは、ルディの指先から放たれる不気味な電気のパルスに、本能的な「恐怖」と、それを遥かに上回る「未知の安らぎへの予感」を感じ、寝室中に響き渡る悲鳴を上げた。
大の字に開かれた彼女の太ももが、拘束ベルトを千切れんばかりに引っ張り、必死に内側へと閉じようとする。
「無駄な不安全行動(抵抗)はやめろ、お嬢さん。強行軍で疲弊しきった筋肉がさらに極限の緊張状態(不安全ストレス)に置かれると、血流が阻害されてお前の望む『名誉の死』の前に、ただの『急性筋壊死(クラッシュ症候群)』で腎不全を起こして死ぬぞ。……これより、お前の肉体の『安全開発(強制調律)』を開始する。――工程第一段階、自律神経アースプロセス、稼働ヨシ!」
ルディは冷徹に微笑むと、電気とオイルを纏った温かい手のひらを、ヒルデの強張ったうなじから肩甲骨のラインへと、容赦なく、ゆっくりと密着させた。
「――ひゃ、ひゃぅぅぅうううううううううっっっ!?!?!?!?」
触れた瞬間、ヒルデの肉体が、まるで極上の温泉に放り込まれたかのように、寝台の上で弓なりに激しく跳ね上がった。
バチバチバチバチッッ!!!
ルディの指先から、彼女のうなじを通じて流れ込む、低周波のビリビリとした快感の電撃パルス。
それは、彼女がこれまでの過酷な戦場で、気合と根性(精神論)だけでガチガチに強張らせていた全身の筋肉と、過圧状態の魔力回路のすべてを、一瞬にして内側から「強制的に溶融」させるに十分な、圧倒的な癒やしの波動だった。
「あ、が……っ、あ、あたたか……っ! 何、これ……っ、電気が、身体の血を巡って……頭の、中が、真っ白に……っ!!」
「フフ、お前の全身のインピーダンス(電気抵抗)は極めて高いな。それだけ、これまでのブラックな環境でお前の神経が悲鳴を上げていた証拠だ。……まずは、その強張った神経回路を、俺の電気でしっかりと解きほぐして(コンプライアンス教育して)やるからな」
ルディは手のひらを滑らせ、オイルを馴染ませながら、ヒルデの肩甲骨から背骨に沿って、そして最も疲労が溜まっている腰や、太ももの内側のリンパの集中する箇所へと、じっくりと、強く揉みほぐしていった。
かつてエルザの「ボイラー冷却」や、テレーゼの「メンタルケア」で極限まで研ぎ澄まされた、ルディの魔導マッサージ技術。
疲労の溜まった筋肉が、オイルの滑らかな摩擦と、指先から容赦なくピンポイントで神経節を狙って撃ち込まれる【微弱放電】によって、執拗にかき回される。
「う、あ……あぁっっ! だ、め……っ! 誇りが……っ、そんな気持ちいいの、私、知らない……っ、あぐぅっ! 聖女、様……、私、私は……ひゃうんっ!!」
ヒルデは、自らの内にあった「オルテンシアの騎士としての忠誠心(愛国ハザード)」が、ルディの指先が動くたびに、心地よいデトックスの汗となって融け出していくのを、畏怖とともに体感していた。
「あはぁ、はぁっ! 聖女、様、のために……死……死な、なきゃ……」
「お前の命も、その極上の肉体も、今日から俺の『有形固定資産』だ。使い捨てにする国より、俺のホワイトな待遇(電気マッサージ)のほうが、お前をずっと大切に、何倍も心地よく癒やしてやる……。お前をただの時限爆弾として使い捨てる国(ブラック企業)のために死ぬな。これからは、俺が与える極上の安全だけを考えて、俺の命令に従っていればいいんだ」
ルディは、心地よい電撃にビクビクと腰を跳ね上げるヒルデの耳元に唇を寄せ、ロジカルで冷酷な、しかし圧倒的な包容力を持った「安全衛生講話(圧倒的なホワイト待遇の刷り込み)」を囁き続けた。
お国のために死ぬという自己犠牲のブラック精神論が、ルディの与える圧倒的な「ホワイト待遇」によって、直接、容赦なく上書きされていく。
「あ、あはぁっ……っ、し、心臓が……ルディ様の電気で……トクトクって、穏やかに……なっちゃうぅぅっ……!! 聖女、様……の命令より、ルディ様の……電気の方が、き、気持ちいい……ですぅ……っ!!」
ヒルデの、板金鎧の下に隠されていた、過重労働で疲れ切っていた「生身の女としての本能」が、ルディの完璧な安全管理の前に、なす術なく陥落されていく。
大の字に縛られた彼女の全身から、極限の服従と安心感によって、老廃物を含んだ心地よい汗が止めどなく溢れ出て、白いシュミーズを透けさせていく。
ヒルデの自律神経が、ルディの電気によって、完璧に「オフ(極限の快感弛緩)」へとハッキングされていく。
その体内の魔力の圧力が安全値まで完全に中和され、毒針の起爆条件が完全に失われた。
その結果、彼女のうなじの皮膚に埋め込まれていた暗殺用魔導具「誓約の針」が、起爆魔力を失って無害化され、黒い小さな不純物の結晶となって、枕元にポロリと安全に排出されたのだった。
ルディは素早くピンセットを取り出し、その結晶化した針を「分厚いガラス小瓶」へと放り込み、蓋を厳重にロックした。
「特別管理危険物の回収および隔離、ヨシ!」
(よし、緊急のハザード対応(ヒルデの暗器解除)は完璧に成功した。実にあっけない。……だが、ここで俺の脳内ガントチャートに、深刻な「タスク渋滞」のシグナルが灯っているな)
ルディは、心地よい疲労感と安心感に包まれて「はぁ、はぁ、ルディ様……、もっと……」と白目を剥きかけながらとろとろになったヒルデを見つめながら、自身の工程予定表を再点検した。
今日の昼過ぎ、俺は文官令嬢テレーゼに対し、
「あのDQNどもを片付けた後の残業(夜間操業)でたっぷり耳掃除の続きをしてやる。それまで大人しく待っていろ」
と、強烈な約束(労働契約)を交わしている。
先程の戦闘終了時においては、超高熱線魔術師エルザに対しても、
「今の『ご褒美』として、朝までお前の炉心を俺の電気でたっぷりかき回してアースしてやる」
と、夜通しの冷却トリートメントを濃厚に確約しているのだ。
(労働環境の整備を掲げるホワイト陣地の指揮官でありながら、彼女たちの「定期メンテナンス(有給ご褒美)」を反故にし、寸止めで放置する行為は、雇用主として重大な契約違反であり、労使関係の崩壊を招く最悪の不安全行動だ。タスクの先送りは、管理者の恥。ならば――)
ルディは、ニヤリと邪悪な、しかし完璧に理にかなった「深夜シフト(スケジュール)」を構築し、ガッツポーズをキメた。
(ヒルデのハザード対応も完了した。ならば、待たせているテレーゼとエルザをこの天幕に緊急召集し、朝まで三人まとめて「同時並行稼働」で、一気に、徹底的に調律してやる。それが最も操業能率が高く、無災害で全員を満足させる、完璧な安全工程表だ!)
「ミリー! サシャ! 今すぐテレーゼとエルザを、この隔離天幕へ召集しろ。これより、三人同時の『緊急夜間メンテナンス(トリプル・アース)』を開始する!!」
「はい! ルディ様! 緊急召集、ヨシ!!」
ミリーたちの、嬉しそうな、そして自身も後に極上マッサージで調律されることを期待した弾むような声が、天幕の外へと響いていく。
大の字に縛られたまま、完全に低周波パルスで脳を焼かれてとろとろになった「黒鉄の百合」ヒルデ。
そして、これからルディの圧倒的な電気(愛)によって、朝まで隅々までほぐされることを約束されたテレーゼとエルザ。
すべてのタスクを同時並行で処理する、極上のハーレム深夜シフトが、今まさに、この健康的で清潔な天幕の中で執行されようとしていた。
――バウムガルト隊の労務管理:深夜のマルチタスク操業(三人同時特別安全衛生指導)、シフト配置、完全ヨシ!




