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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第二章:安全な陣地構築が「不落の要塞」と呼ばれるまで

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第019話:スタックした「黒鉄の百合」救出プロセスと、現場の5S活動

 


 ――ゴゴゴゴゴ……、ズザァァァッ!


 大気を引き裂いた大爆発の衝撃波と、激しく降り続く初夏の雨。その水分を極限まで吸収して飽和状態に達していた雑木林の斜面は、ついに自重を支えきれなくなり、大規模な地すべり(土砂災害)を引き起こしていた。


 オルテンシア王国が誇る重装歩兵部隊と宮廷魔導師団の連合一千五百。


 彼らは、自らの大魔術の逆流バックファイアによる大爆発で本陣を木っ端微塵にされただけでなく、その直後に襲いかかった土砂崩れの物理エネルギーによって、完全に瓦解(自滅)していた。


 生き残ったわずかな敗残兵たちは、武器も、重い甲冑も放り出し、泥にまみれ、蜘蛛の子を散らすようにオルテンシア国境の暗闇へと逃げ惑っていく。


 対する、不落のホワイト要塞――バウムガルト隊の陣地。


「――ハンス分隊、怪我人の有無を報告しろ。手順通り、一人ずつだ」


「はっ! ハンス第一分隊、十名! 擦り傷、打撲、風邪の兆候、すべてナシ! 完全無災害(ゼロ災)を継続中であります!」


「第二分隊、同じく異常なし!」「ミリー炊事班、地下シェルターより復帰! 全員健康、ヨシ!」


 雨の雑木林に、健康そのもののツヤツヤとした兵士たちの声が響き渡る。


 一千五百の大軍による急襲という「超大型ハザード」を正面から浴びながら、バウムガルト隊の被害は「擦り傷一つなし」。


 完璧な防爆土塁キャッスル・バリアの遮断効果と、ヘルメット顎紐の緊密(PPE着用)、そして手順通りの事前退避。そのすべてが噛み合った、完璧な「労働安全衛生管理」の完全勝利だった。


 ルディ・フォン・バウムガルトは、ぬかるみを防ぐために砕石が美しく敷き詰められた滑り止めアスファルト舗装の上に立ち、麓の凄惨な光景を見つめて深いため息をついた。


「よし、戦闘終了(操業停止)だ。ハンス、これより直ちに現場の『5S活動』を開始する」


「ご、ごえす活動……、でございますか? 若君」


 老騎士ハンスは、雨に濡れるダウンベスト(夏仕様)をピシッと正し、神聖な儀式を執り行うかのようにルディを仰ぎ見た。


「そうだ。現場をそのまま放置することは、安全管理上、極めて重大なリスクをもたらす。まず、放置された敵の死体や生ゴミは、瞬時に腐敗して疫病(赤痢やコレラ)を媒介する害虫を繁殖させる『生物学的ハザード』となる。さらに、散乱した鉄屑や武器は、我が歩兵が歩行中につまずいて怪我をする『足元ハザード』だ。これより整理、整頓、清掃、清潔、習慣を徹底しろ」


 ルディの脳内スプレッドシートは、すでに戦後処理プロセスのガントチャート(工程予定表)を最速で描いていた。


 彼にとって、戦場に散らばる武器や遺棄物は、ただの「労働災害の引き金(不安全状態)」でしかない。


「『整理』として、敵の壊滅した武器や防具の回収、すなわち完全なる武装解除(鉄屑の処分)を行う。『整頓』として、捕虜の隔離スペースを定め、一箇所に整列させろ。『清掃』として、土砂で埋まった排水溝をすべて掘り起こし、水の流れを確保しろ。水はけの悪い現場は、次の感染症を呼ぶからな」


「おおお……っ! なんと……、なんという深遠なる『戦後処理の極み』……!」


 ハンスは、またしても老いた瞳から滝のような涙を流し、大地のカチカチに硬化された土を踏みしめて震えた。


「敵をただ殺戮して終わるにあらず、戦場そのものの『気(衛生)』を清め、悪疫の病魔(目に見えないハザード)から我らを守り抜く……! 若君は、この戦場そのものを『調和カイゼン』される、真の支配者であらせられる……っ! バウムガルト隊、整理整頓、ヨシ! 直ちに執行しろ!!」


「「「安全第一! 整理整頓、ヨシ!!!」」」


 ピカピカの健康な農民兵たちが、まるで建設現場のクリーンアップ作戦のような手際の良さで、整然と麓へと降りていく。彼らの心には、ルディの徹底した安全衛生への信頼(狂信)が、鋼のように根付いていた。


 ルディは、その狂信の光景からそっと視線を外し、地すべりを起こした雑木林の北西斜面へと足を向けた。


 彼の【ガス・温度検知ディテクター】のサーモグラフィ視界には、崩れた土砂の奥深く、依然として「強力で、冷たくも美しい鉄の等温線」が、その場に留まり続けているのが見えていたからだ。


 グシャ、ズブブ……。


「……う、あ……っ、おのれ……っ」


 崩れた粘土質の土砂。その最深部の泥濘の中に、彼女はいた。


 オルテンシア王国別働隊の指揮官――「黒鉄の百合」ことヒルデ・フォン・クランツ。


 彼女は、土砂崩れに巻き込まれ、斜面の底で首まで泥の中に埋没スタックしていた。


 自慢の全身板金鎧フルプレートアーマーは、防御力こそ最強だが、泥の戦場においては「三十キログラムを超えるデッドウェイト(自重ハザード)」という、最悪の足枷へと変貌していた。


 鎧の重量と、隙間に入り込んだねっとりとした粘土が真空状態を作り出し、彼女の身体を底なしの泥の深層へと強固に吸い付けて、指先一つ動かすことを許さない。


「はぁ、はぁ……っ、う、あ……!」


 泥まみれになり、濡れた金髪を泥水に汚しながらも、ヒルデは兜のスリットから、こちらへと近づいてくるルディの小さな靴音を、ただ死を覚悟した暗い瞳で睨みつけていた。


「……そこまでだ、オルテンシアの現場監督(指揮官)」


 ルディが防爆壁の影から歩み寄り、泥濘の淵に立って彼女を見下ろした。


 ヒルデは、カチカチに凍える歯の根を無理やり噛み締め、獣のような獰猛さで叫んだ。


「お、おのれ……、謀ったな……っ、バウムガルトの四男……! 殺せ……! 我が身を穢すつもりなら……、今すぐここで、舌を噛み切って死んでやる……っ!」


 泥まみれのかおは、プライドをズタズタに引き裂かれながらも、なおも冷酷な騎士道の精神論(ブラック思想)を滾らせていた。


 彼女は、中世の戦場の勝者が、捕虜となった女騎士にどのような「野蛮な仕打ち」を施すかを、痛いほど知っていた。だからこそ、その尊厳を守るために、自らの命を不安全に廃棄(自害)しようとしていたのだ。


 だが、ルディはそんな彼女の悲壮な決意に対し、ただ心底めんどくさそうに頭を掻き、深いため息をついた。


「おいおい、お嬢さん。何が『殺せ』だ。そんな不安全行動(自殺行為)は、我が現場において絶対に許可できない。第一、現場にそんな重いデッドウェイト(自重ハザード)を放置しておくのは、重大な安全管理違反だ」


「な……、で、でっどうぇいと……? あんぜん、かんり……?」


 ヒルデは、予想もしなかったルディの「酷く冷静で、実務的な言葉」に、一瞬だけ叫びを忘れ、泥の中で目を白黒させた。


「お前がその鎧の重さでスタックしていると、土壌の『空隙圧(孔隙水圧)』が上がって、さらなる局所的土砂崩れを招くリスクがある。それに、そんな全装甲の人間が泥の中で窒息死でもしたら、後片付け(遺体処理プロセス)の5Sの手間が倍増するんだ。――ハンス! 三脚起重機クレーンと、安全帯スリングベルトを持ってこい!」


「泥濘の淵にクレーンを立てるのは転倒ハザードだ。まずは【土壌安定ソイルコンパクション】で足場(作業床)をコンクリート並みに急速硬化させろ! 足場ヨシ、三脚起重機ヨシ!」


「はっ! 三脚起重機、ヨシ! スリング、ヨシ!」


 バウムガルトの兵たちが、手際よく木製の強固な三脚フレームと滑車を組み合わせた「起重機チェーンブロック」を泥濘の淵に設置し始めた。


 ルディは、冷え切ってカタカタと震えるヒルデの首元に歩み寄ると、彼女の胸当ての隙間に、強引に手を滑り込ませた。


「ひゃぅっ!? な、何を……、やはり、私を穢す気ね……っ!」


「大人しくしてろ。お前の鎧の『吊り環(揚重用アイボルト)』の位置を確認しているだけだ。ハンス! 泥の吸着抵抗(陰圧)を考慮し、一箇所に荷重を集中させるな! 両肩と背中の『三点支持』でスリングを掛けろ!……よし、重心点センター・オブ・グラビティ、ヨシ。ハンス、フックをかけろ。――安全荷重、揚重リフト、開始!」


「揚重、開始、ヨシ!!」


 ギィィィ、と強固なロープと滑車が軋む音を立て、泥に吸い込まれていたヒルデの漆黒の鎧が、物理法則に従ってズズズ……と安全に泥の中から「揚重・回収」されていく。


「あ……、あぁ……っ!?」


 ヒルデは、自分の身体が何の苦痛もなく、ただ純粋な「重機クレーン」の力学によって、泥の檻から引き抜かれていく奇妙な浮遊感に、呆然とするしかなかった。


 いつも自分たちを縛り、生贄を強いてきた「気合」や「根性」とは無縁の、どこまでも優しく、冷徹にロジカルな力学(物理)の救出プロセス。


「――身柄確保(安全隔離)、完了だな。ハンス、この女指揮官は鎧ごと、特設の隔離天幕(保護ルーム)へ搬送しろ。風邪をひいて肺炎でも起こされたら、労災(捕虜死亡)になって俺の有給サボり計画の減点になる。ミリー、ハーブを効かせた温かいココア水を調達しろ」


「はい! ミルキーココア、調達ヨシ!!」


 ルディは、泥まみれで放心しているヒルデの兜のバイザーをそっと指先で下ろしながら、その耳元で、獲物を定める安全管理者の目を光らせて、冷酷に、しかし圧倒的な包容力をもって囁いた。


「お嬢さん。お前のその部下を使い潰す『ブラック精神論』は、これより完全倒産(全滅)だ。……この後、天幕で、お前の着ている頑丈なプロテクターを、潤滑油を使って安全にパージ(脱装)させてもらう。そして……極限の過重労働でカチコチに強張ったお前の筋肉と脳髄の隅々まで、俺の『極上の低周波マッサージ(微弱放電)』で、たっぷりとホワイトなコンプライアンス(服従)を叩き込んでやるからな。……覚悟しておけ」


「う、あ……ぁ……っ、あ、あつ……っ」


 ルディの指先から、ほんのりと流し込まれた【微弱放電マイクロディスチャージ】のパルス刺激が、冷え切っていたヒルデの首筋から全身の自律神経へと駆け巡り、極限の戦闘ストレス(愛国ハザード)で鉄板のように強張っていた彼女の筋肉を一瞬でリラクゼーション状態へと導いていく。


 ヒルデは、自らの信念(騎士道)が粉砕された絶望の中で、ルディという「絶対的な安全の悪魔」に囚われたことを脳髄に深く刻み込まれ、「ふにゃぁっ」と骨抜きにされて崩れ落ちたのだった。


「ハンス! 泥でジョイントが噛み込んでいる。力任せに剥ぐな、対象者および作業員の切創ハザードになるぞ! ジョイント部に『潤滑用ハーブオイル』を差し込み、専用のバールでリベットを安全に外して解体パージしろ!」


 ◇


 ――そして。


 バウムガルト隊が、完膚なきまでに現場の「整理整頓(戦後処理)」を進めている、まさにその同時刻。


 雑木林の高台から遥か南、平野部に敷かれた「ゼーフェルト辺境伯本陣」の指揮官天幕の中は、まさに言葉通りの「恐慌(パニック災害)」に包まれていた。


「報告します……っ! 報告します……っ!!」


 ずぶ濡れの伝令兵が、天幕の中に転がり込み、泥だらけの顔を上げて叫んだ。


 天幕の奥、冷たい雨期の湿気に顔をしかめ、集団下痢(赤痢)の予防策(ルディの5S)を笑い飛ばしていた辺境伯本隊の将軍や領主たちが、一斉に伝令を睨みつける。


「何を騒ぎ立てる! 敵の別働隊が、あの後方の雑木林に現れたとでも言うのか!?」


「そ、その別働隊……、オルテンシア軍別働隊『一千五百』、および宮廷魔導師団の連合軍が……ッ! 昨夜、雑木林の高台へと、本陣急襲のために隠密進軍を完了しておりました……!」


「な、何だとォッ!? 一千五百の大軍が、本陣の真裏に!?」


 将軍たちは一瞬で顔を真っ青にし、ガタガタと椅子を蹴り上げて立ち上がった。


 一千五百の大軍、そして宮廷魔導師団に背後から撃ち下ろされれば、このぬかるみにスタックしている本隊三千は、文字通り一網打尽(大被災)にされる。


「お、おしまいだ……! 雑木林には、あのバウムガルトの臆病な四男坊と、わずか五十人の徴募兵カカシしか置いていないのだぞ! 瞬時に踏み潰され、我らは背後から焼き尽くされたのだ……っ!」


 辺境伯ゼーフェルトもまた、死を覚悟したように天幕の天井を仰ぎ、絶望の涙を浮かべた。


 だが。


 伝令の口から放たれた「次の言葉」は、彼らの脳内スプレッドシートを、一瞬にして爆破・粉砕した。


「い、いえ……! 違うのです……っ!


 バウムガルト隊の四男、ルディ・フォン・バウムガルト様は……! わずか五十人の農民兵と、お抱えの魔術師エルザ殿の一撃を以て、敵の宮廷魔導師団の攻撃魔術を完璧に逆流(強制シャットダウン)させ……ッ!


 一千五百のオルテンシア本隊を、一瞬にして爆発・壊滅に追い込み、完全退散(完全勝利)させました……ッ!!!」


「――は?」


 辺境伯ゼーフェルトの口から、魂の抜けたような声が漏れた。


 将軍たちも、あまりの言葉の意味のわからなさに、時が止まったように静止する。


「お、おい……。聞き間違いではないな? 敵の一千五百と宮廷魔導師団を、わずか五十人で、壊滅させた……?」


「はっ! 偵察兵が確認したところ、高台の麓ではオルテンシアの精鋭たちが死屍累々、大爆発の跡が広がり、敵将『黒鉄の百合』ヒルデも、すでにルディ様の手によって安全に鹵獲ろかくされております……!


 何より信じがたいのは……! バウムガルト隊の被害は、擦り傷一つ、兵の一人も欠けていない……『完全無傷(完全無災害)』とのことですッ!!」


 ――ガシャァァァンッ!!


 ある領主が、持っていたワイングラスを床に落として砕いた。


「ば、バケモノか……っ! あの、ただサボりたいがために、誰もが無視した僻地の雑木林を選んだはずの、あの若い貴族の四男坊が……っ!」


「一兵も、擦り傷一つ負わずに、敵の戦略誘導兵器(魔導師団)と大軍を完封・自滅させただと……!?


 あれは、臆病などではない……っ! 戦場におけるあらゆる不測の事態(不安全ハザード)を完璧に予知し、魔導戦術を支配する……真の『盾の英雄セーフティマスター』だ……ッッ!」


「辺境伯様、我らはとんでもない怪物を、臆病者と見下していたのですね……っ! おお、神よ……!」


 ゼーフェルト辺境伯本陣の将軍たちは、驚愕と、底知れない畏怖のあまり、泥濘の天幕の中で一斉に腰を抜かし、ガクガクと震えながら平伏していた。


 ルディが「ただただ自分の安全(サボり有給生活)を守る」ために敷いた完璧な安全プロセスは、中世の不条理な常識のバグを通じて、大陸中を震撼させる「不敗の盾の英雄伝説」として、今まさにその偉大なる一歩を刻み始めたのである。


 ――バウムガルト隊の戦後整理(5S):現場の片付け、および「黒鉄の百合」の鹵獲、完全ヨシ!


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