第018話:チャージを狙う「ピンポイント熱線」と、魔導師団のバックファイア壊滅
「ば、馬鹿な……ッ! なぜ我が王国が誇る精鋭、重装歩兵の突撃が、あの木っ端防柵一枚に防がれる!? なぜぶつかっただけで、兵たちが勝手に腕を砕いてのたうち回っているの!?」
冷たい初夏の雨が叩きつける雑木林の斜面で、オルテンシア王国軍別働隊の指揮官ヒルデ・フォン・クランツは、兜のバイザーを乱暴に跳ね上げ、その凛々しくも美しい貌を驚愕と怒りで激しく引き攣らせていた。
目の前には、ただ「ぶつかっただけ」で肩関節を亜脱臼し、鎖骨を折り、あるいは抱えていた破城槌の反動で両腕の骨を粉砕された重装歩兵たちが、泥の中で折り重なって絶叫している。
ルディ・フォン・バウムガルトが【土壌安定】で石並みに硬化させ、トラス構造で大地のプレートそのものと一体化させた「石化防柵」は、一千五百の軍勢の猛烈な質量突撃を受けても、ペンキの剥がれ一つなく、ただの一ミリ単位すらも揺らいでいなかった。
「う、迂回して防柵の側面を回れっ!」
「ダメです、ヒルデ隊長! 左右の地形は、底なしの泥の檻になっています! 迂回しようとした軽装歩兵どもが、すでに首まで泥に沈んで窒息死しかけていますっ!」
副官の悲鳴のような報告に、ヒルデの脳内は「あり得ない」という言葉で埋め尽くされた。
地盤が強固な雑木林を選んだはずだった。なのに、なぜこの防柵の周囲だけが石のようにカチカチで、ほんの一歩外れたエリアが、家畜すら一瞬で呑み込む「底なしのコンクリート泥濘」になっているのだ。
(……くっ、この雑木林の守備隊長は、大地の魔導に異常に精通した怪物か!? だが、ここで退くことは「聖女様」への反逆、あるいは無能の烙印を押されての死を意味する!)
中世のブラック軍隊の宿命――「退却」という安全行動を許さない、上層部からの理不尽な精神論と絶対ノルマ。ヒルデは、甲冑の中で嫌な汗を全身から噴き出させながら、大剣を後方の「宮廷魔導師団」へと向けた。
「後方の魔導師ども、何を遊んでいる! 全員、前へ出ろ! 詠唱限界を超えてでも、火属性の大魔術――【重爆火炎球】をチャージせよ! あの忌々しい防柵ごと、雑木林の伏兵を焼き尽くし、更地にするのだ!!」
「な……ッ!? ひ、ヒルデ隊長、この雨期の大気で火属性の大魔術をチャージするのは、魔力回路の異常過圧を招きます! 暴走のリスクが――」
「黙れ! 聖女様のために命を捨てるのは騎士の誉れだ! できない者は、不忠の徒として今ここで私が首を刎ねる! 撃て! 撃ち尽くせェェッ!!」
ヒルデの狂った怒号(ブラックパワハラ命令)に、魔導師たちは真っ青になりながらも、杖を掲げて詠唱を開始せざるを得なかった。
十名以上の宮廷魔導師が円陣を組み、大気中の魔力を限界まで絞り出し、己の肉体を「高圧ボイラー」として点火する。周囲の雨粒が一瞬でジュウジュウと気化し、乳白色の蒸気の渦が不気味に広がり始めた。
――だが、その「最悪の不安全操業(大規模詠唱)」のプロセスは、防爆土塁の裏側にいるルディには、一から十まで全て筒抜けだった。
「……ハァ。やっぱり、追い詰められたブラック中間管理職は、決まって『手順無視の危険作業(限界突破詠唱)』に手を染めるんだよな。だからドラム缶が爆発するんだ」
強固な防爆土塁の陰に設けられた、完璧に安全な「観測スリット」の奥。
ルディは、等温線と熱対流を極彩色に可視化する【ガス・温度検知】を起動し、冷徹に敵陣の熱源変化を見つめていた。
彼の網膜のサーモグラフィ視界には、敵魔導師たちの体内で、制御を失いかけた膨大な熱エネルギー(魔力)が、ドロドロとした白熱の赤色となって、限界まで充填されていく様子がリアルタイムで投影されていた。
「敵のチャージ率……進行度六十%。まだ内部圧力が上がりきっていないな。……七十%。周囲の等温線が螺旋を描き始めたぞ。……八十%。よし、エルザ、砲座に付け」
「はい……っ、ルディ様……。私のボイラー(炉心)が……、あなた様の安全基準に従って、完璧なアイドリング状態を保ち、心地よい熱を帯びておりますわ……っ」
防爆壁のスリットからすっぽりと身を守られた「安全シェルター」の中で、超高熱線魔術師エルザは、蕩けた瞳でルディを見つめ、熱い吐息を漏らした。
彼女は、胸元に大切に抱きしめていた「火気使用安全手順書」をしっかりと握りしめている。ルディの【ディテクター】を通じて、彼女の脳内には「敵魔導師たちの魔力循環図(高圧配管図)」が、完璧な三次元グラフィックとして直接共有されていた。
「いいか、エルザ。敵の魔術は、高圧の可燃性ガスがギッチリと充填された『未点検のボンベ』と同じだ。ガス(魔力)が完全に溜まりきり、安全弁(発射術式)を開ける直前の、最も内部圧力が限界(最大)に達した『一瞬の溜めの瞬間』を狙う」
「はい……っ。もっと……もっと私を、ルディ様の正確な工程管理(支配)で、めちゃくちゃに導いてくださいまし……っ!」
エルザの指先に、最大出力のわずか「十%」に極限まで絞り込まれた、青白い極細の光線――【極細熱線】がバチバチと宿る。
従来の軍隊のように「最大出力で撃て」と命じられていれば、エルザはまたもや魔力暴走を起こして血を吐いていただろう。だが、ルディの厳格な「安全マニュアル(定格出力三十%以下、一射ごとの冷却)」を厳守している今の彼女は、かつてないほど肉体的にも精神的にも「健康」であり、それゆえに、針の穴を通すような精密な魔力制御を可能にしていた。
ルディは観測スリットから素早く身を翻し、エルザの待つ砲座シェルターの安全ポケットへと滑り込んだ。彼女の細い腰を背後から抱き寄せ、ディテクターの視界を同期させる。ルディはエルザの背後から手を回し、彼女の胸元に抱えられていた「汗で少し湿った安全手順書」をスッと引き抜いて、二人の目の前(視認位置)へと掲げた。
「指差し呼称だ、エルザ。俺に続け」
「チャージ率……八十七%、八十八%……九十%に到達。……ここだ。100%(臨界)まで待てば術式が固定化されてしまう。術式が最も不安定に膨張し、暴発リスクが最大化する『九十%の魔力合流核』を穿て! エルザ、敵の円陣の『中央の魔力合流核』を、最小の出力で、正確にシャットダウン(破壊)しろ!」
「力で押し通すな。熱線を放つ直前、まずは『微弱な風の魔力(あるいは斥力)』を射線上に先行して放ち、雨粒を弾き飛ばして真空のトンネル(光路)を確保しろ。その直後に熱線を通すんだ! 敵の魔力対流の波長をディテクターで読み取り、お前の熱線の『位相を完全に反転』させて撃ち込め。保護障壁をノイズキャンセリングのようにすり抜け、コアのピンホールを穿つ『干渉破壊』だ!」
「――安全基準、ヨシ! 射撃、ヨシ……っ! 逝きなさい、違法操業の不安全者ども!!」
エルザの指先から、どんよりと垂れ込めた雨雲を切り裂き、周囲の雨粒を瞬時に蒸発させた白い軌跡を残しながら、一筋の青白い極細レーザーが放たれた。
ルディは腰に下げた「緊急退避用・拡声魔導ホイッスル」を限界まで吹き鳴らし、魔力増幅された声で陣地全体へ叫んだ!
「敵のボイラーが吹き飛ぶぞ! 全員、防爆壁の陰で完全に伏せろ! 耳を塞いで口を開けろ(鼓膜破裂防止措置)!!」
ルディは即座に手順書を脇の下に挟み込み、背後からエルザの両耳を自らの両手で分厚く塞ぎ込み、自身も口を大きく開けた。
それは、大爆発を伴うような派手な攻撃魔術ではない。
ただ、ルディが算出した「最も応力が集中し、破裂限界に達している魔力の配管」の、たった一箇所を、ミリ単位の狂いもなくピンポイントで射抜くための「完璧な調律(強制冷却のメス)」だった。
大魔術【重爆火炎球】が完成し、魔導師たちが「放てェッ!」と術式を解放しようとした、まさに「一ミリ秒の隙」。
――チッ、という。
冷たい雨の中で、小さな火花が散るような音が響いた。
エルザの放った極細の熱線は、敵の十名の魔導師が共有していた巨大な魔力の「結合核」を、ピンポイントで正確に貫通した。
「――えっ?」
中央に立っていた宮廷魔導師長が、虚ろな声を漏らした。
彼らが大気中から強引に引きずり出し、己の肉体を配管として限界までチャージしていた破壊的な火属性エネルギー。その「逃げ道(安全弁)」となるべき放出術式が、エルザの熱線によって瞬時に「物理的に溶融・閉塞」されたのだ。
大気中へと放たれるはずだった、一千五百の軍勢を焼き尽くすほどの超巨大な熱エネルギー。
それが、一瞬にして行き場を失い、高圧ボイラーの配管を逆流するようにして、魔導師たち自身の体内の魔力回路へと、一千倍の圧力となって一気に逆流した。
安全管理の不徹底。異常過圧に対する安全弁の未設置。
そして、許容量を遥かに超えた、限界突破のブラック労働(過負荷チャージ)――。
そのすべての「コンプライアンス違反(不安全行動)」の代償が、物理法則という名の冷酷な審判となって、彼らに襲いかかった。
「徹夜の『重量軽減』と『静音』の連続稼働で、奴らの魔力回路はすでに金属疲労(疲労骨折)を起こしている。そこに大魔術の過圧チャージを強要すれば、配管はボロボロだ。針で一突きするだけで全体が破裂するぞ」と、ルディはそう分析していた。
「あ、魔力流が……ぎゃ、逆流して――」
「内部圧力が、限界を超え――」
魔導師たちの絶叫すら、次の瞬間に発生した「大災害」の轟音にかき消された。
――ズ、ズガガガガガガガガガガアアアアアアンッッッッッ!!!!!
凄まじい大爆発が、雑木林の斜面、オルテンシア軍の本陣中央で発生した。
それは、彼ら自身が放とうとした【重爆火炎球】の魔力が、彼らの体内で一斉に「粉塵爆発」を起こしたに等しい、最悪の自滅事故だった。
十名以上の魔導師を爆心地として、周囲の泥水が一瞬で一千度の超過熱蒸気となって爆発的に膨張。激しい熱風と、赤黒い大火炎の柱が、薄暗い雨空に向かって数百メートルにわたって噴き上がった。
一方、ルディとエルザがいる砲座シェルター「観測スリット」や「排熱スリット」に設けた「魔導逆止弁」が、外からの爆圧に反応して瞬時に閉鎖し、爆風の侵入を完璧にシャットアウトした。
「ダンパー閉鎖、爆圧遮断ヨシ! 続いて床下吸気口開、酸素濃度ヨシ!」
地中の水脈と石灰層を通した水冷式・防毒フィルター(スクラバー)を通過した新鮮な空気が吹き込み、密閉空間の酸欠リスクを一瞬でクリアした。
「ぎゃあああああああああああああっっっ !!!!」
爆心地の魔導師たちは、自らの魔術の排熱と爆風によって、骨すら残さず一瞬で蒸発・消滅した。
さらに、発生した超音速の衝撃波と、超過熱の爆風が、斜面にひしめき合っていたオルテンシア王国軍の一千五百の本隊を、容赦なく正面から薙ぎ払った。
「うわああああっ! 火が、鎧に、火がァァァッ!」
「目が……! 爆風で、鼓膜が裂けたっ!」
泥の中で、凄惨極まる地獄絵図が展開された。
重い甲冑を着た兵士たちは、爆風の衝撃でカブト虫のようにひっくり返り、斜面をドロゴロと転げ落ちていく。爆風に混じった超過熱の排熱が、彼らの着ていた濡れたウール外套を瞬間的に蒸発させ、鋼鉄の鎧を「アツアツの鉄板」へと変え、中の肉をジュウジュウと焼き焦がしていく。
一瞬にして、一千五百の大軍勢は、戦闘不能の死傷者と、恐怖で武器を投げ出して逃げ惑う敗残兵の群れ(完全なパニック災害)へと崩壊した。
その凄まじい爆発音と、大地を揺らす激しい震動は、完璧な防音・耐震結界が張られていたにもかかわらず、それを物理的に貫通して、バウムガルト隊の最深部に張られた「特設防音・耐震天幕」をも小さく揺らした。
「な、何事……!? い、一体何が起きたの……っ!」
天幕の中で、ルディの「エコノミークラス症候群予防マッサージ」によって骨抜きにされ、ぐっすりと眠っていたはずの辺境伯の庶子――エリーゼ・ヒルデが、その轟音に跳ね起きた。
彼女は、ルディから支給されたスノー・ロプの綿毛を仕込んだ特製ガウンを乱れた胸元でかき合わせ、恐怖に肩を震わせながら、天幕のスリットからそっと外を覗き見た。
そして、彼女の目に飛び込んできたのは、言葉を失うほどの「地獄と天国」の強烈なコントラストだった。
天幕のすぐ外――ルディの作り上げたバウムガルト隊の陣地は、計算された暗渠排水と防爆土塁に完璧に守られ、雨の中でも泥一つついていないピカピカの快適空間を維持している。
一方で、高台の最深部から見下ろす遥か下方、防柵の彼方では、オルテンシア王国の一千五百の大軍勢が、自らの大爆発によって炎に包まれ、泥にまみれ、千切れ飛んだ残骸を撒き散らしながら壊滅していく。
「お、お父様は……辺境伯家は、こんな化け物を相手に、縛り付けようと(手綱を握ろうと)していたの……?」
エリーゼは、その圧倒的な「無傷の勝利」と、それを引き起こした若い貴族の少年ルディの異常な力に、底知れない恐怖と絶望を感じた。辺境伯のスパイとして送り込まれたはずの彼女の政治的野心は、その恐るべき合理の前に塵となって吹き飛ぶ。
だが同時に、その「絶対に安全な存在」の完璧な庇護下に、自分自身が囲い込まれているという事実が、彼女の内に不気味なほどの「甘美な安心感」と、強烈な依存心を呼び起こしていた。
「あ……あぁ……っ、あんな大軍を、指先一つで……っ」
エリーゼは恐怖に震えながらも、昨夜ルディの指先(放電)に揉みほぐされた太ももの内側が、その極上のマッサージの余韻を思い出して再び熱く疼き出すのを感じていた。彼女の脳髄は、ルディの絶対的なシステムへの完全な帰順に書き換えられ、甘い吐息を漏らしながら崩れ落ちる。
「な……、なぁっ……、あ, あああ……っ!!」
一方、爆風で数メートル吹き飛ばされ、泥まみれになりながらも、その頑丈な全身鎧によってかろうじて生き残ったヒルデは、這いつくばったまま、目の前の光景に魂を抜かれたように絶叫した。爆風で吹き飛ばされながらも、彼女が生き残れたのは奇跡的だった。全身に纏わりついていた泥の水分が「気化熱」を奪って鎧のオーブン化(熱傷労災)を防ぎ、偶然にも斜面の窪地(爆風の死角)に転がり落ちたからだ。
一瞬だった。
ただ、一発の、信じられないほど細く小さな「光線」が走っただけで、我が軍の誇る魔導師団が、自分たちの魔術のバックファイアによって、本隊ごと木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
これが、戦いなのか? これが、あの臆病者の「バウムガルトの四男」の仕業だというのか?
ヒルデは、恐怖と寒さ、そして敗北の絶望で、板金鎧の内部で歯の根をガタガタと激しく鳴らした。
這いつくばる彼女の視界に、ゆっくりと晴れていく煙の向こうから、信じられない「光景」が映し出された。
そこには、あれほどの凄まじい大爆発を目の当たりにしながらも、泥一つ、火の粉一粒すら浴びていないピカピカの防寒ベスト(ダウンベスト)を着た、農民あがりのバウムガルト兵たちが立っていた。
彼らはヘルメットの顎紐をきっちりと締め、怪我一つない姿で、平然とハイタッチを交わし合っているのだ。
「おーい、服装ヨシ! 足元ヨシ! 完全無災害、ヨシ!!」
「若君の言う通り、ノーヘルで高圧魔術に触る奴らは勝手に爆発するんだな。手順書通りに退避してて大正解だ!」
泥まみれの地獄の強行軍を耐え抜き、「生贄」を捧げて戦うことこそが至高の騎士道であると信じてきたヒルデにとって、その「安全で、ピカピカで、怪我一つしない農民兵たちの笑顔」は、彼女のアイデンティティ(精神論)を、その骨組みごと無残に叩き割るに十分な、破壊的な「ざまぁ」の現実だった。
(な、何よそれ……。私たちは、血を吐き、泥を這い、尊い生贄を捧げてここまで進んできたのに……! あんな、あんなふざけた格好の農民兵たちが、鼻歌を歌いながら、無傷で我が精鋭に勝ったというの!? 私が信じてきた騎士道は、ただ……部下たちを無駄死に(労災死)させただけだったというの……ッ!?)
ヒルデの精神は完全に崩壊し、大剣を握る力すら失い、ただ冷たい雨と泥水の中にその場に崩れ落ちた。
「う、美しい……。ルディ様……、あなた様の、あなた様の完璧な安全設計(愛)が、私を……私をこんなにも優しく、完璧に守ってくださるなんて……あぁっ……っ!」
エルザは、防爆壁の陰でルディの逞しい胸に顔を埋め、自律神経の極限の昂ぶり(魔力排熱)によって心地よい汗を流し、ルディの腕の中でトロンと完全に骨抜きにされていた。
彼女は一歩もシェルターから出ず、出力わずか十%の精密作業(射撃)をこなしただけで、一兵も損なうことなく、敵の一千五百の大軍を一網打尽にしてしまったのだ。
これほどの、過保護で、合理的で、圧倒的なホワイト待遇の支配。
エルザの炉心は、すでにルディの「セーフティネット」なしでは一秒も稼働できないほどに、狂おしく調律(陥落)し尽くされていた。
「よし。――火気使用後の、二次災害の恐れなし。手順、完璧にヨシだ」
ルディは、煤煙と爆風が雨に消えていく麓の惨状をディテクターで見据えた。
そして、腕の中で蕩けきって、ビクビクと心地よい放電の震えを残しているエルザを、その細い腰を引き寄せて強く抱きかかえた。エルザの耳元に口を寄せ、ゾクゾクとするような低音で囁きかける。
「よくやった、エルザ。お前のボイラー(炉心)の出力、完璧に制御されていたぞ。――だが、まだ体内に『熱(残魔力)』が籠もっているな。安全管理者の義務として、この後の現場の整理整頓(戦後処理)が終わったら、今夜の『残業(ご褒美)』として、朝までお前の炉心を、俺の電気(低周波マッサージ)でたっぷりとかき回して、完璧にアース(放電)してやるからな」
「ひゃうぅぅっ……! は、はい、ルディ様……っ! 朝まで……、あなた様の電気で、めちゃくちゃに癒やしてくださいぃっ……!」
エルザの魔力排熱の余韻は、夜のさらなる濃厚な「夜間操業(特別安全衛生指導)」への確約へとシームレスに接続され、彼女の身体は、逃れられぬ甘い期待の熱でさらにトロトロに溶けていった。
ルディは、満面の邪悪な笑みを浮かべ、ガッツポーズをキメた。
(ヨシッッ!! 敵の違法操業プラント(魔導師団)を完璧に強制シャットダウンして、俺たちの現場への延焼(被災)をゼロに抑え込んだぞ! これで俺の傀儡有給生活は、完全に保障された!)
冷たい雨の中、一千五百のオルテンシア王国軍は、完全に崩壊し、大敗走を開始していた。
そしてその泥濘の中、自らの精神論の完全な敗北を突きつけられ、ただ一人、呆然と膝を突く漆黒の全身鎧の女性――ヒルデの姿を、ルディの【ディテクター】は、逃さぬ獲物として、リアルタイムの熱源ロックオンで捉え続けていた。
「さて……。現場の『整理整頓(戦後処理)』の時間だな。ディテクター走査。爆心地周辺の土砂崩れはすでに終息(安定)し、二次災害のリスクはクリアされた。……よし。ハンス、セシル、これより不安全操業の主謀者の、身柄確保(鹵獲)プロセスを開始する。――安全第一で包囲しろ!」
「「「ハッ! 若君! 安全第一、ヨシ!!!」」」
雨の雑木林に、バウムガルト隊の、ピカピカで健康な勝者の足音が、高らかに響き渡った。
――バウムガルト隊の、突発ハザード・シャットダウンプロセス:完全倒産(敵軍壊滅)、完全無災害、ヨシ!




