第7話:女を語る男たちの傷が、雨夜にこぼれたのだ
ねえ、みんな。
「理想の相手」を追い求めすぎて、目の前の人の「心」が見えなくなっちゃうことってあるよね。
左馬頭先輩の話を聞いていると、雨の音がだんだん、泣き声みたいに聞こえてくる気がするのだ。
宿直所の灯火がパチッと音を立てるたびに、男たちの本音が、ドロっとした影みたいに壁に映し出される。
左馬頭先輩が語り始めたのは、彼がまだ若かった頃の、二人の女性との……愛し方が分からなかった思い出。
批評していたはずの男たちの言葉が、いつの間にか自分を傷つけた記憶の告白へと変わっていくのだ。
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「嫉妬しない女なんて、この世にはいないんだよ。……ただ、出し方の問題なのだ」
左馬頭先輩が、悟りきったような、それでいてどこか苦い顔をして語り出す。
彼が昔付き合っていた一人目の彼女は、愛が深くて、最後には左馬頭先輩の指をガブッ!と噛みついてしまったのだ。
「ひえぇぇ、指!? 想像しただけで痛そうなのだ……。
でもね、先輩。つむぎはその女の人のことを、ただ『怖い人』って言いたくないのだ。
きっと彼女だって、最初から噛みつきたかったわけじゃない。
待って、待って、疑って、傷ついて。それでも好きだから離れられなくて。
言葉で届かないから、最後に『痛み』でしか自分の気持ちを伝えられなくなったんじゃないかな。
もちろん、噛むのはダメ。絶対ダメだけど……そこまで彼女を追い詰めたあんたの愛のなさを、棚に上げちゃいけないのだ」
結局、先輩はその「痛みの記憶」から逃げるように、彼女のもとを去ってしまった。
屋根を叩く激しい雨音が、彼女の叫び声をかき消した、あの日の冷たさを思い出させる。
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次に左馬頭先輩が選んだのは、その正反対。
和歌も家事も完璧で、嫉妬ひとつ口にしない「才女」だった。
でも先輩は、今度はその静けさに耐えきれなくなってしまう。
「彼女の部屋は、いつ行っても完璧だった。でも、そこには僕を待っている『人間』がいなかったんだ。
僕が何をしても、彼女はただ優雅に微笑むだけ。
まるで、完成された美しい置物と一緒にいるみたいで、息が詰まってしまったんだよ」
……ねえ、先輩。その人は本当に、何も感じていなかったのかな。
嫉妬しなかったんじゃなくて、何を言っても届かないと諦めて、微笑むしかなかったんじゃない?
泣けば重いと言われ、怒れば怖いと言われる。
なら、完璧に微笑んで自分を守るしかない。
左馬頭先輩が「置物みたいだ」と感じたその静けさは、もしかしたら彼女が自分を傷つけないために作った、最後の壁だったのかもしれないのだ。
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男たちは、勝手なことばかり言っている。
激しすぎると「怖い」と逃げ出し、静かすぎると「可愛げがない」と文句を言う。
でも、そのわがままな会話を、源氏くんはどんな顔で聞いているのか。
源氏くんは、噛まれた指の話を聞きながら、無意識に自分の指先をそっとなでていた。
藤壺さまは、月みたいに遠すぎる。
でも、この雨夜に語られる「中くらいの身分」の女たちは、もっと近い。
怒る。噛みつく。黙る。傷つく。
手を伸ばせば、もしかしたら触れられるかもしれない。
その生々しい「命の温度」が、源氏くんには危険なほど眩しく見えたのだ。
「……次は、私の話を聞いてもらおうか」
次に口を開いたのは、藤式部丞。
今度は「賢すぎる女」の、ちょっと笑えない……平安時代の食文化と教養が激突するエピソードが始まるのだ。
雨はますます強くなり、男たちの傷跡を濡らしていく。
源氏くん、君はその雨の中で、一体誰の声を聴こうとしているの?
つむぎ、物語が「理想」から「現実の泥沼」へと引きずり込まれていく音が聞こえるのだ。
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つむぎのあとがき
えー……第7話、左馬頭先輩の話、なかなかしんどかったのだ。
愛してほしい。でも重すぎるのは嫌。
完璧でいてほしい。でも完璧すぎると息が詰まる。
それ、相手の問題だけじゃなくて、あなた自身がどう愛されたいのか分かってないだけじゃないかな?
でも、源氏くんがこの話を聞いて「中くらいの身分の人って面白そう」と思い始めたのが、一番怖いのだ。
届かない月を見上げていた手が、今度は触れられそうな誰かへ伸びていく。
次回は、藤式部丞が語る「賢すぎる女」の話。
この雨夜、まだまだ終わらないのだ。
それでも、この光る君の物語がどこへ向かってしまうのか気になったら、また次の夜に会いに来てくれると嬉しいな。
それじゃあ、また。バイバイなのだ!




