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実況源氏物語 空蝉編 ――春日部つむぎ訳風で読む、逃げた女と負けた光る君  作者: 五平


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7/10

第7話:女を語る男たちの傷が、雨夜にこぼれたのだ

ねえ、みんな。

「理想の相手」を追い求めすぎて、目の前の人の「心」が見えなくなっちゃうことってあるよね。

左馬頭さまのかみ先輩の話を聞いていると、雨の音がだんだん、泣き声みたいに聞こえてくる気がするのだ。


宿直所の灯火がパチッと音を立てるたびに、男たちの本音が、ドロっとした影みたいに壁に映し出される。

左馬頭先輩が語り始めたのは、彼がまだ若かった頃の、二人の女性との……愛し方が分からなかった思い出。

批評していたはずの男たちの言葉が、いつの間にか自分を傷つけた記憶の告白へと変わっていくのだ。


---


「嫉妬しない女なんて、この世にはいないんだよ。……ただ、出し方の問題なのだ」

左馬頭先輩が、悟りきったような、それでいてどこか苦い顔をして語り出す。

彼が昔付き合っていた一人目の彼女は、愛が深くて、最後には左馬頭先輩の指をガブッ!と噛みついてしまったのだ。


「ひえぇぇ、指!? 想像しただけで痛そうなのだ……。

でもね、先輩。つむぎはその女の人のことを、ただ『怖い人』って言いたくないのだ。

きっと彼女だって、最初から噛みつきたかったわけじゃない。

待って、待って、疑って、傷ついて。それでも好きだから離れられなくて。

言葉で届かないから、最後に『痛み』でしか自分の気持ちを伝えられなくなったんじゃないかな。

もちろん、噛むのはダメ。絶対ダメだけど……そこまで彼女を追い詰めたあんたの愛のなさを、棚に上げちゃいけないのだ」


結局、先輩はその「痛みの記憶」から逃げるように、彼女のもとを去ってしまった。

屋根を叩く激しい雨音が、彼女の叫び声をかき消した、あの日の冷たさを思い出させる。


---


次に左馬頭先輩が選んだのは、その正反対。

和歌も家事も完璧で、嫉妬ひとつ口にしない「才女」だった。

でも先輩は、今度はその静けさに耐えきれなくなってしまう。


「彼女の部屋は、いつ行っても完璧だった。でも、そこには僕を待っている『人間』がいなかったんだ。

僕が何をしても、彼女はただ優雅に微笑むだけ。

まるで、完成された美しい置物と一緒にいるみたいで、息が詰まってしまったんだよ」


……ねえ、先輩。その人は本当に、何も感じていなかったのかな。

嫉妬しなかったんじゃなくて、何を言っても届かないと諦めて、微笑むしかなかったんじゃない?

泣けば重いと言われ、怒れば怖いと言われる。

なら、完璧に微笑んで自分を守るしかない。

左馬頭先輩が「置物みたいだ」と感じたその静けさは、もしかしたら彼女が自分を傷つけないために作った、最後の壁だったのかもしれないのだ。


---


男たちは、勝手なことばかり言っている。

激しすぎると「怖い」と逃げ出し、静かすぎると「可愛げがない」と文句を言う。

でも、そのわがままな会話を、源氏くんはどんな顔で聞いているのか。


源氏くんは、噛まれた指の話を聞きながら、無意識に自分の指先をそっとなでていた。

藤壺さまは、月みたいに遠すぎる。

でも、この雨夜に語られる「中くらいの身分」の女たちは、もっと近い。

怒る。噛みつく。黙る。傷つく。

手を伸ばせば、もしかしたら触れられるかもしれない。

その生々しい「命の温度」が、源氏くんには危険なほど眩しく見えたのだ。


「……次は、私の話を聞いてもらおうか」


次に口を開いたのは、藤式部丞とうしきぶのじょう

今度は「賢すぎる女」の、ちょっと笑えない……平安時代の食文化と教養が激突するエピソードが始まるのだ。


雨はますます強くなり、男たちの傷跡を濡らしていく。

源氏くん、君はその雨の中で、一体誰の声を聴こうとしているの?

つむぎ、物語が「理想」から「現実の泥沼」へと引きずり込まれていく音が聞こえるのだ。


---


つむぎのあとがき


えー……第7話、左馬頭先輩の話、なかなかしんどかったのだ。

愛してほしい。でも重すぎるのは嫌。

完璧でいてほしい。でも完璧すぎると息が詰まる。

それ、相手の問題だけじゃなくて、あなた自身がどう愛されたいのか分かってないだけじゃないかな?


でも、源氏くんがこの話を聞いて「中くらいの身分の人って面白そう」と思い始めたのが、一番怖いのだ。

届かない月を見上げていた手が、今度は触れられそうな誰かへ伸びていく。

次回は、藤式部丞が語る「賢すぎる女」の話。

この雨夜、まだまだ終わらないのだ。


それでも、この光る君の物語がどこへ向かってしまうのか気になったら、また次の夜に会いに来てくれると嬉しいな。

それじゃあ、また。バイバイなのだ!

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