第4話:その人は、あまりにもママに似ていたのだ
ねえ、みんな。
「代わりの人」が現れたとき、人はそれを運命って呼びたがるけど。
つむぎには、それがすごく危なっかしい綱渡りに見えるんだよね。
第3話の、あの薄墨色だったパパ上(帝)の世界に、突然、鮮やかな「色」が差し込んできたのだ。
それが、先帝の皇女――藤壺の宮。
噂通り、っていうか、噂以上に更衣さんにそっくりで。
パパ上はもう、一目で「この人だ!」ってなっちゃったわけ。
でも、その華やかさはどこか不自然だった。
パパ上は、藤壺さまを更衣さんと同じ、いや、それ以上の破格の待遇で迎えたのだ。
身分が高い彼女なら、もう誰も文句は言えない。
「更衣のときは守りきれなかったけど、今度こそは」っていう、パパ上の執念みたいなものが、儀式のあちこちから透けて見えて……。
でもね、つむぎは見てしまったのだ。
藤壺さまがふと見せる、戸惑ったような沈黙を。
彼女は、気づいていたと思う。
パパ上が自分を見つめるとき、その目の奥に、別の誰かがいることに。
自分の声を聞いているようで、亡くなった人の声を探していることに。
自分の手を取っているようで、取り戻せなかった手を握りしめ直そうとしていることに。
それでも、藤壺さまは微笑むしかなかった。
だって、この宮中で「あなたは私を見ていません」なんて、言えるはずがないのだから。
彼女は、死んだ女の影を背負わされて、この「美しき地獄」に連れてこられた、ひとりの女性なんだよ。
その色はたしかに美しかったけれど、下にある黒いシミを消してくれる色じゃなかった。
むしろ、重なったぶんだけ、宮中の空気は濁って見えたのだ。
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そして、運命の出会いが起きてしまう。
パパ上が、まだ幼い源氏くんを藤壺さまの前に連れて行ったんだ。
「この人は、亡くなったお母さんに驚くほど似ているんだよ。だから、本当の母だと思って、仲良く甘えるんだよ」
パパ上! なんてこと言うのさ!
お母さんを知らない源氏くんにとって、「お母さん」っていう概念は、目の前にいるこの美しすぎる女性と完全に重なっちゃうじゃないか。
第3話で、空っぽの空を掴んでいた源氏くんの小さな手。
その手が、初めて藤壺さまの柔らかい袖に触れた。
「……あ」
源氏くんは、藤壺さまの袖を握ったまま、しばらく動かなかった。
懐かしいはずがないのに、懐かしい。
知っているはずがないのに、知っている気がする。
胸の奥が、あたたかくて、苦しくて、どうしていいか分からない。
それは、母を探す気持ちだったのか。
美しい人に見とれる気持ちだったのか。
たぶん、その時の源氏くんには、まだ分からなかった。
でも、分からないまま混ざってしまったものほど、あとから人を深く縛るのだ。
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それからの源氏くんは、ますます藤壺さまに懐くようになった。
パパ上はそれを見て、「あはは、本当の親子みたいだね」なんて、久しぶりに幸せそうに笑っていた。
でも、その笑顔の足元で。誰にも見えない場所で。
新しい地獄の種が、静かに芽吹いていたのだ。
藤壺さまは、最初は可愛らしい子供として接していた。
でも、ふとした瞬間に気づいてしまう。
源氏くんが、自分を見ている時間が少しだけ長いことに。
子供ならすぐに目を逸らすはずなのに、その瞳は、まるで失くしたものを見つけたみたいに離れない。
その視線は、まだ恋と呼ぶには幼すぎた。
でも、母を呼ぶには、あまりにも切実すぎた。
みんなは、藤壺さまという「月」を得て、ますます輝きを増す彼を「光る君」と称賛したけれど。
つむぎには、その輝きが、かつてないほど「濁って」見えた。
パパ上の「代わりを求める執着」が、源氏くんに「禁断の愛」を教えてしまった。
お母さんの影を追いかけることが、そのまま、許されない恋の始まりになってしまったのだ。
「ねえ、源氏くん。君が見ているのは、お母さんなの? それとも、藤壺さまなの?」
つむぎの問いかけは、秋の夜風に消されていく。
パパ上は幸せそうに笑っているけれど、その足元では、誰にも止められない物語が、また一歩、深みに向かって動き出したのだ。
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つむぎのあとがき
えー……第4話、どうだったかな。
パパ上は、たぶん優しさのつもりだったんだと思う。
母を知らない源氏くんに、母の面影を与えてあげたかった。
でも、その優しさが、また別の人を縛ってしまう。
ほんと、源氏物語って怖いのだ。
誰かを救おうとした手が、別の誰かの運命を絡め取ってしまうんだから。
「似ていること」が、救いじゃなくて、呪いになる。
次回、少年・源氏くんの「思考の暴走」が本格化するのだ。
藤壺さまへの想いを胸に秘めたまま、彼はどんな大人になっていくのか。
ああ、もう! 嫌な予感しかしないよ!
それでも、この歪んだ光の物語がどこへ向かってしまうのか気になったら、また次の夜に会いに来てくれると嬉しいな。
それじゃあ、また。バイバイなのだ。




