最終話 どうしようもない──
先代聖女の非業の最期を知っていたら、誰だって聖女として産まれたことに絶望するはずだ。
決して抗えない権力から逃れる方法が命を投げ出すこと。
しかしそれは聖女としての責務が許さない。
自死などできない。それは聖女としての祝福。
私に追加された祝福は、先代聖女の慈悲でもあった。
そのおかげで人間ではなくなったが、先代のような目に遭うことはなくなった。
しかしそこに感謝はしても、先代聖女の私怨まで托されたことは今だに納得していない。
どこまでが先代の支援なのかは把握できないが、アッフェル侯爵家との繋がりがなければ、とっくにのたれ死んでいたかもしれないのだから。
『それでも、やってくれたじゃない』
久しぶりに夢の中で先代聖女が出てきたかと思えば、可憐な少女が嬉しそうに私の頭を撫でて笑うだけ。
『わたしの祝福を上手に使えたのね。えらい、えらい」
享年が若いせいか、私の苦労苦悩を聖女だから仕方ないと一言で切り捨てる。
そんな先代聖女に私はため息しか出ない。
『ちゃんと聖女として国を立て直したし、わたしに酷いことをした人たちに罰を与えたんだもの。やっぱりあなたは優秀ね』
ふわりと笑った直後、先代聖女はスッと声を低くした。
『なのになんであの王族を根絶やしにしてくれなかったの?』
融通の効かない子供を相手にしているようだ。
先代聖女の私怨には、王族の根絶も含まれていたが、あの国を立て直すことと同時進行はできない。
それをどう説明したものか……デイジーよりも手がかかるな、先代聖女は。
少なくとも二十五年の付き合いだから、今更言葉を間違えるなんてことはない。
とりあえずはすぐにではなく、緩やかに王族を減らしていくつもりだと誤魔化した。
『じわじわと追い詰めるのね!? いいじゃない!』
上機嫌の先代聖女の無邪気な笑顔にホッとしたのも束の間、夢から覚めた私は、アッフェル侯爵に今後の方針をすぐに相談した。
「聖女を騙った事を理由に反旗を翻すこともできるが……」
「それは絶対にやらないでください、またアイリスに矢面に立ってもらわねばならなくなります」
数代後にでも没落すればいい。
せめてサリア様がご存命の間だけは、どうにか先代聖女をなだめてやり過ごしましょう。
本物の聖女として表舞台に立たなかった弱虫には、こんなことしかできません。
ああ、サリア様が本当の聖女であったなら、どれだけ良かったか。
貴女の記憶から消えるとわかっていたけれど、もっとちゃんとお別れをして感謝をすべきだったかもしれません。
今となってはあのお茶会は泡沫のできごとになってしまいました。
しかし、確かに偽物の聖女が本物の聖女の代わりに国を救ってくれたことを、私は心に強く刻み、決して忘れずに次代に引き継がなければならない。
これからの事も含めた私の罪として。
嗚呼──本物の聖女はなんて弱虫で卑怯なのだろう。
本当に、どうしようもない聖女ですね。




