幕間 神殿にて
人さらいの頭目は、訝し気な顔をしていた。自分たちの境遇が理解できないからである。とはいえ、ひどい扱いを受けているわけではない。むしろ逆である。
太陽神教の神殿。その一室へと連れて来られた後、彼らは拘束を解かれた。そして茶を出され、しばし待つよう言われたのである。
ここの奴らは危機感がないのか?と困惑しながらも、しかし頭目は逃げようとは思わなかった。
部屋の入口に控えている二人。フードをかぶり顔や種族は分からない。しかし、
(あれは、化け物だ。昼間会った奴ら以上の)
それを肌で感じ、彼は部下たちに逆らわぬよう指示を出していた。ややあって、一人のエルフが部屋へとやって来る。
「やあやあ、待たせたかな?」
気さくな調子で話しかけてくる彼女を、頭目は無言で、じっと睨んだ。
「そんな怖い顔をしないでくれ。ヘラルド=エリオット隊長」
その言葉に、頭目は驚いた顔をする。彼の反応に笑みを深くし、エルフは続ける。
「今回君たちを連れて来させたのは、頼みたいことがあるからなんだ。副長のエイル=ホース、隊員の…」
と、彼女は人さらいの一団全員の名前を呼んでいった。頭目は警戒もあらわに口を開く。
「俺たちの事をどうやって調べた?…いや、それはいい。頼みたいこととは何だ?」
「話が早くて助かるよ。実は、とある女性に危機が迫っていてね。彼女を助けるのに、君たちの力を借りたいんだ」
話を聞いて、頭目は鼻で笑う。
「人さらいに頼むこととは思えんな」
「そうでもない。君は、抵抗出来ない女性を犯そうとする輩を、決して許さない。そうだろう?」
「…」
黙る頭目に、エルフは続けて話す。
「手を打たないと、彼女はむごい目に遭うことになるだろう。それこそ、君の奥さんのようにね」
エルフがそう言うやいなや、頭目は手刀を彼女の喉元に突きつける。
「貴様…何を知っている?」
「おそらく、君の知りたいことを」
凄まじい殺気を向けられて尚、エルフはその態度を崩さない。息を一つはくと、彼は姿勢を戻した。そして皮肉気に笑って言う。
「選択肢などないのだろう?」
「心外だな。もちろん断ってもいいさ」
あっけらかんと言ったエルフに、頭目は虚を突かれた顔をした。
「ボクはね、説得して仲間に出来るキャラは仲間にしたい派なんだ」
胸を張って彼女は言うが、頭目たちはぽかーんとしている。ややあって、眉間にしわを寄せながら頭目は尋ねた。
「…つまり、俺たちに帝国を裏切れ、と?」
「別に、今の君たちは帝国に仕えている訳じゃないだろう?」
どうやら腹芸で敵う相手ではなさそうだ、と彼は首をすくめると、うなずいた。
「分かった、協力しよう。代わりに部下たちの今後を保証してほしい」
「もちろんだとも。君のことも含めてね。太陽神に誓って、約束しよう」
最後は誠実な声で、エルフはそう答えたのだった。




