幕間 帝都にて
肥沃な草原と、豊富な鉱物を産出する鉱山を領土に有する帝国ガラルザンド。その帝都アルガミスの宮殿の一室で、陶器の割れる音がひびいた。
「また毒かしら」
うんざりしたように言うと、美しい狐の獣人は倒れた下男に近づき手をかざした。温かみのある緑色の光が男を包み、苦しんでいた男の表情が落ち着いていく。
「…ありがとうございます、エラリア様」
「どういたしまして。あなたも毎回大変ね」
「仕事ですから」
そう言って、男は割れた陶器の破片などを掃除して退室した。様子を見ていた部屋の主が、憤慨して口を開く。
「全く、いつもいつも…!食べ物を何だと思っているのかしら!」
「最初に怒るところがそこなの?」
狐の獣人エラリアは、苦笑しながら部屋の主の方を向く。整った顔立ち、その眉間にしわを寄せて、猫の獣人が唸っている。エラリアは肩をすくめて息をはいた。
「セルテ。言っては何だけど、身を隠すことも考えた方がいいわ。皇帝に相談しましょう」
「相手のしっぽも見えてないのに、あの人に言うなんて恥ずかしくて出来ないわ!全くアイツ、外面と隠すのだけは上手いんだから…!」
セルテと呼ばれた猫の獣人は歯ぎしりをして悔しがる。そして、「問答無用で首をはねてやろうかしら…」と物騒なことをつぶやきだした。
「皇帝の妃たる者、軽々しくそんな風に言わないの」
「分かってる。だから、皆の前では我慢してるじゃない」
むくれるセルテを見て、仕方ないといった風の笑みでなだめるエラリア。
しばしの後、やや落ち着いた様子で、
「確かに、あの子は避難させた方がいいかもね…。実家にかくまってもらおうか」
とセルテは口にする。エラリアはそれにうなずきつつ、自らの意見を言う。
「神殿長様に協力してもらうのが確実だと思うわよ。私としては、貴方にも一緒に行ってほしいのだけど?」
「…やっぱり実家でいいんじゃないかな。ゼーウ様のお手をわずらわせるのは、気が引けるし。それに私は大丈夫よ。元Aランク冒険者、簡単にやられたりなんてしないわ!」
自信に満ちた様子の幼馴染をジト目で見つめるエラリア。政治での立ち回りに、冒険者の等級はほとんど役に立たない。しかし、この子は一度言い出したら聞かないから、と彼女はため息をついた。
「それじゃあ、ゼノを北の村にかくまってもらうよう手配するわ。問題は、道中を誰に頼むかだけど…」
「あら、そこはエラリアに任せるわよ」
セルテは信頼のこもった笑みを向ける。貴方を一人にする方が心配なのだけれど…、とエラリアは再び嘆息。
「…分かったわ。でも、私が戻ってくるまで無理をせず、大人しくしていること。いいわね?」
「もう。私、子供じゃないのよ?大丈夫だって!」
胸を張る幼馴染に、一抹どころではない不安を感じながら、狐の獣人エラリアは目的を果たすため、自治区エルトナへと向かうのだった。




