番外編 ある夜の話
冒険者の宿、酔竜亭。その一室で、ダークエルフの少女ヴォルフィーネが尋ねる。
「太陽神様以外に、神様っているの?」
尋ねられた男、冒険者ギルドの職員ユルグは、彼の太ももに頭をのせている少女に答えた。
「もちろん、いる。けれど今は、眠りについておられるそうだ」
「眠ってるの?ねぼすけさん?」
少女の言葉に彼は微笑む。
「そうではないんだが…アヤカさんが詳しいから、気になるなら今度聞いてみるといい」
「ユルグから聞きたい」
「俺は詳しくはないんだが…」
じっと見つめてくる少女に、一つ息をはくと彼は話を続ける。
「かつて、世界は死の霧に覆われていた。神々は死の霧を、光の柱で浄化された。けれど、死の霧を生み出し続けるものがいた。それは、巨大な黒竜。神々は黒竜を打ち倒さんとした」
少女の頭をそっとなでながら、彼は語る。
「長きにわたる戦いの末、ついに黒竜は滅びた。しかし、神々もまた傷つき、それを癒すため、眠りについた。残った神の一柱、太陽神は人々に知恵を授け、導き、世に平和をもたらした。…大体、こんな話だった、と思う」
そこまで言うと、彼は申し訳なさそうに、
「残った他の神々や眠りについた神のことは、あまり知らないんだ。もし知りたかったら、アヤカさんに聞いてみてくれ」
と、自分の頭の後ろをなでた。少女はこくり、とうなずく。そして体を起こすと、彼のひざの上に乗って身を寄せる。
「ユルグは太陽神教徒なの?」
「教徒、と言うほど熱心ではないが…まあ、そうだな」
少女の頭をなでながら答える彼に、彼女はまた尋ねる。
「どうして?」
「どうして、か…」
しばし考えた後、彼は口を開く。
「…上手くは言えんが、性に合っているから、かな。よく生きること、それが教義の元で、出来ることを出来るだけがんばりなさい、という。生が終われば、善も悪もなく、体から魂がはなれて神の御元へ逝く。そして安息の時を得た後、再び新たな命に宿る…」
そこまで話すと、彼はほおをかいた。
「色々言ってしまったが…フィーはどうなんだ?」
「私?うーん…」
ちょっとの間。
「あんまり考えた事、なかったかも。それよりも、冒険者になるんだって鍛えてる方が楽しかったから」
「そうか」
少女の答えに、彼は再び微笑むのだった。




