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冒険者ギルドのお手伝いさん  作者: にわそーじ
第二章 養成所
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番外編 ユルグと絵

 真っ白の、何も描かれていない紙。

 そこに線を走らせる。

 何もなかったそこに、人が、景色が、何かが宿る、ような。

 出来上がったものを見て、少し、何かが満たされるような気がする。

 だから、ユルグは絵を描くのが好きだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 彼が小さかったころ、誰に言われるともなく、絵を描くことを覚えた。目の前にあるもの、それのみに集中する。その時だけ、極彩色の砂嵐は気にならぬほど薄れる。彼はそれを心地よいと感じた。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 ある日、彼が絵を描いている時、母から「遊んでないで手伝って」と言われる。その時の母は忙しかったのか、あるいは疲れていたのかもしれない。

 ともかく、彼はその時から、絵を描くのは悪いことだと考え、それから出来るだけ絵を描かないよう気をつけるようになった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 月日は流れ、彼がギルド職員となり。

 深緑の迷宮を巡回中、ふと目に留まった景色を描く。

 長く忘れていた、あの心地よい感覚を思い出す。


 それから彼は、仕事の合間に色々なものを描くようになった。

 人、風景、植物、魔物…。

 ある日報告書を手渡すときにゴルドーから声をかけられる。


「なあユルグ、そっちのは何だ?」

「これは…私物だ」

「ふーん、見せてもらっても良いか?」

「構わんが…別に見せるようなものじゃないぞ?」


 普段落ち着いているこの男にしては、珍しく歯切れが悪い。


「見せたくないなら、無理にとは言わんが」

「そういうわけでは、ないんだが…」


 ユルグは絵が描いてある羊皮紙をゴルドーに渡した。手にしたそれをじっと見つめることしばし。彼は唸るように言う。


「おい、何だよこりゃあ…」

「それは…」


 仕事中に絵を描いていたことは、やはり不味かっただろうか。手抜かりはないよう気をつけていたのだが…。ユルグがそう思っていた所、思わぬことを言われる。


「すっげぇじゃねえか先輩!」

「む?」

「こんなすげえもん描けたのかよ!今まで黙ってたなんて水くさいぜ!」


 興奮した様子のゴルドーにユルグは困惑する。


「いや、絵など普通にあるだろう。本や看板…街のいたるところに使われているのだから」


 その言葉に、衝撃を受けたように驚いた顔をするゴルドー。


「それだよ、何で今まで気づかなかったんだ…さすが先輩だぜ…」

「何の話だ…?」

「冒険者ギルドでも絵を取り入れるってことだろ。依頼書、注意書き、他にも…養成所でひよっこ共に教える時は尚更使えそうだぜ…」


 思案顔でぶつぶつとつぶやく彼を見て、どうやら不味いことではなかったようだとユルグは一安心する。


「そう、か?役に立つなら、良かったが…」

「ああ、世界が変わるぜ!ありがとな、先輩!」

「先輩はやめてくれ」


 その後、絵の入った依頼書や注意書きは分かりやすいと評判になり、依頼でのミスなども大幅に減ったという。その話を聞きユルグは、


(ゴルドーは、やはり良いギルドマスターだな)


 と嬉しく思うのだった。

 以来彼は、ゴルドーの役に少しでも立つのならと、仕事では毎日のように魔物や植物、迷宮の地形などを絵に描くようになった。そのことが酔竜亭のアヤカに知れて、彼女の書く小説の挿絵を頼まれることになるのだが、それはまた、別の話。






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