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冒険者ギルドのお手伝いさん  作者: にわそーじ
第二章 養成所
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第14話 心の声

 酔竜亭の調理場で、ユルグが朝食の支度をしている。そこへヴォルフィーネが顔を出した。


「フィー、アカツキは一緒じゃないのか?」

「先に行っててって言われたんだけど…」


 困った様子の少女とともに、彼は店の裏手へと向かう。そこには地に倒れ、息も絶え絶えのアカツキの姿があった。


「大丈夫か」

「何、でも、ねえ…。ほっとけ…」

「何でもなくはないだろう。何があった?」


 荒い呼吸のまま顔を背ける彼女。ユルグは少女の方を見た。


「私と同じことをやるって、聞かなくて…」

「なるほど…」


 少女の毎日の鍛錬、あれについていこうとしてこうなったかと彼は合点がいく。


「少し、待て」


 そう言って彼は調理場へ行くと、コップと水差し、そしてタオルを2枚持って戻ってきた。1枚は少女に渡し、もう1枚を差し出され、アカツキはちょっと迷った後、それを受け取る。


「…悪いな」

「気にするな」


 ユルグがアカツキを介抱するのを、ヴォルフィーネは少し羨ましそうに見ているのだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 深緑の迷宮ダンジョンで黒い鳥の魔物が襲ってきた後は特に問題もなく、アカツキたちは無事卒業試験を終え、冒険者となった。エナシェラたち3人はパーティを組み、輸送隊に入るべくがんばっているそうだ。

 アカツキも誘われたが、先約がある、と断った。そして彼女は酔竜亭で世話になることを決める。


(ヴォルフィーネからも、それにアイツからも、学べることはまだあるはずだ。なら、同じ場所に寝泊まりした方がいいだろ)


 と考えてのことだった。養成所での日々のたまものか、酔竜亭のリュウイチとアヤカにはすぐ受け入れられた。むしろ、「アカツキちゃんは気が利くわね~」と、アヤカに気に入られる程であった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


「さて。パーティを組むならば、ギルドに申請する必要がある」


 朝食後、一息ついてからユルグは言った。


「あ?誰と組んだって勝手だろ」

「誰と組んでも良い。その上で、その事をギルドに伝えてほしい、ということだ」

「はあ。そういうもんか」


 そんなやり取りを経て、アカツキたちは冒険者ギルドへやって来た。受付で、エルフのフレイラがにこやかに声をかけてくる。


「いらっしゃい。今日はどんなご用かしら?」

「ああ、えっと。パーティの申請をしてえんだけど」

「分かりました。では必要なものを用意しますので、少し座って待っていてください」


 そう言って受付手前の椅子を勧めると、フレイラは席を立った。アカツキとヴォルフィーネは椅子に座り、その後ろにユルグは控える。それほど経たぬ内にフレイラは戻ってきた。


「お待たせしました。ではこちらにご記入をお願いします。代筆も出来ますけれど、どうしますか?」

「ああ、字は書けっから大丈夫だ」


 と、アカツキはスラスラと用紙に書き込んでいく。きれいな字だった。と、その手が止まる。


「…アンタは、オレらとパーティは組む、のか?」


 どうやら自分に聞いているらしい、そう気づいたユルグは首を振った。


「俺は今だけの手伝いだ。パーティには入らない」

「そうか」


 特に気にした風もなく、アカツキはそのまま書くのを再開する。ヴォルフィーネは彼の方を心配しながら見たが、以前のような苦しそうな様子はない。そのことに、少女はひとまず安どの息をつくのだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 二人のパーティは着実に依頼クエストをこなしていった。特にアカツキの成長が早く、早朝の鍛錬にも気づけばついていけるようになっていた。


(話し方はやや乱暴だが裏表がなく、快活な性格の彼女は、依頼人とも上手くやり取りをする。ヴォルフィーネも慣れてきただろう。そろそろ指導役メンターも終わりか)


 ユルグは彼女たちを見ながら、そんな風に思っていた。彼は冒険者ギルドで、そのことをゴルドーに相談する。相談を受けたゴルドーはあっさりとこう言った。


「ああ、そいつぁユルグとフィーネで決めたらいいさ」

「そうか。ではフィーに確認しよう。…しかし、今更だが大丈夫か?俺は平時の仕事をほとんど手伝えていないが…」

「おいおい先輩。指導役も、それに教官役もこっちが頼んだんだ。それに専念するのは当然だろ」


 彼は肩をすくめて続ける。


「それに、俺達を見くびり過ぎだぜ。ちゃんと仕事が回るようにやってるさ」

「要らん心配だったな。あと、先輩はやめてくれ」


 と、二人は笑い合うのだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


「やだ」


 夜、酔竜亭のユルグの部屋。指導役を終えるかどうか。その話を聞いたヴォルフィーネは開口一番にそう言った。余程不満なのか、頬が膨れている。こんな顔もするのか、と意外に思いながら、彼は落ち着いて語りかける。


「しかし、フィー。いつまでも一緒、という訳にはいかないだろう。俺がいなくとも、もう十分やっていけるはずだ」

「…すぐ、やめなきゃいけないの?」


 不安そうに自分を見つめる少女に、彼は目をそらす。


「そういうわけでは、ないが…」

「じゃあ、まだ一緒にいてほしい」


 彼女は何か願うようにそう言うと、彼の腕に抱きついた。驚いたように目を瞬かせた後、ユルグは少女の頭を優しくなでた。


「あの時も、こうやっていたな」

「…。…卒業試験の時?」

「ああ。変な話かもしれんが、フィーが怒ってくれたこと、怒ってもいいと言ってくれたこと。嬉しかった、とても」


 彼は、あの時確かに、何か救われたような気がしたのだ。たとえそれが、ただの幻想だったとしても。

 彼の言葉にヴォルフィーネは顔をあげる。そしてユルグの膝の上に乗ると両手を広げた。


「じゃあ、ぎゅーってして」

「…。…えっと?」


 何が、じゃあ、なのか。彼には何も分からなかった。彼が動かないでいると、少女は不満げに、彼の両腕をぺしぺしと叩き始めた。


「あの時、がんばった、ごほうび!」

「…ああ、そういう事なら…」


 迷宮で、彼が離れた後。ヴォルフィーネは試験に挑む訓練生たちをきちんと見守り、そして無事に帰って来た。それを労ってほしいと思うのは自然のことだろう、と彼は納得する。そして、彼女をぎゅっと抱きしめた。


「よくがんばってくれた。ありがとう、フィー」


 少女はこくりとうなずくと、彼の胸に顔をうずめ、しばらくの間彼に抱きついていたのだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 深夜、彼は一人、心の内からにじみ出てくる暗い声を聞く。


――――嬉しかったか?


 フィーが自分のために怒ってくれたと


 そう感じて嬉しかったか?


 自惚れるな


 勘違いをするな


 お前に生きる意味はない


 お前に生きる価値はない


 生きる意志すら、最早ない


 ただの人の成りそこない


 そんなもののために怒る者など、存在しない


 自惚れるな


 お前に救いなど、ありはしない――――




 彼は目を開けると、深く深く息をはき、諦めのこもった声でつぶやいた。


「そうだな、その通りだ…」


 その言葉も、思いも。誰に届くことなく、闇に消えた。






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