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冒険者ギルドのお手伝いさん  作者: にわそーじ
第二章 養成所
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第11話 休み

 朝日が昇る。日の光が古都フォレスティアナの街並みを照らしている。

 小鳥のさえずりが響いている養成所の外広間。そこに集まった訓練生たちの表情は一様に硬い。全身の筋肉が悲鳴をあげているのだ。そしてそれは、鬼人キジンの女性アカツキも同様だった。


「体調はどうだ?今日の訓練は出来そうか?」


 冷静な声で教官のユルグが問う。アカツキは彼をにらむと、


「出来るに決まってるだろ。早くやろうぜ」


 とやせ我慢を口にした。教官はそれにうなずくと、他の3人を見た。


「お前たちはどうだ?」

「あっ…その、大丈夫、です」

「オイラも、何とか…」

「…同じく」


 彼らの答えに、教官は一つ息をはいて告げる。


「今日の午前は休みとする。各自昼まで体を休めるように。では、解散」

「お、おい。やれるって言ってるだろ?!」


 慌てるようにアカツキが食い下がる。他の者も困惑した様子だ。彼らを見回し、教官はゆっくりと口を開いた。


「君たちに覚えておいてほしいことが二つある。一つは、自らを鍛えることと同じくらい、自らを休ませることも大事だ、ということ。もう一つは、自分の不調をきちんと伝えることも大事だ、ということ」


 一旦言葉を区切り、彼は訓練生たちの様子を見る。彼らはよく分からない、という表情をしている。教官は出来るだけ穏やかに、諭すように話す。


「君たちは今、体がつらい。歩くのも苦しいだろう。そのことを口にして良いということだ」

「何だよそれ…弱音をはけってことか?」


 不信もあらわにアカツキが噛みつく。教官は落ち着いた様子でそれに応じる。


「自身の体調を把握し、パーティ内で共有する訓練、ということだ。味方の不調を知らないと、思わぬ事故にもつながるからな」

「…そういうの、パーティのリーダーが気をつけるのかと、思ってました…」


 おずおずと言うエナシェラに、


「リーダーが気を配る、その通りだ。そして、パーティ全員でも気をつけてほしい」


 彼はそう言った。「そういうもの、なんですね…」とエナシェラは下がり、他の者もそれぞれに納得した様子を見せる。そこで教官は、改めて一時解散を告げた。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 外広間にユルグとヴォルフィーネだけが残っている。少女はじっと彼を見つめた。その視線に気づいたように、彼は少女の方を向く。


「フィー、どうした?」

「今日は丸くならないの?」


 少女の何気ない一言で初日の醜態を思い出し、ユルグは苦い顔をした。


「あれは、どうかしていたんだ…忘れてくれ…」


 額に手を当て、いつもより低い声で答える彼に、少女は小首をかしげる。


「どうして?かわいかったのに」

「かわいい…」

「今日も頭なでたい。ダメ?」

「…駄目だ」


 ユルグは、自分の無様と少女のかわいかった発言に目まいを感じてうつむいた。ふと、視線を感じて彼は顔を上げる。すると、悲し気な上目づかいでこちらを見つめている少女と目が合った。ヴォルフィーネはぽつりと、つぶやくように言う。


「…本当に、ダメ?」


 その瞬間、理由は分からないがユルグは猛烈な罪悪感に襲われる。しばしの葛藤の末、彼は絞り出すような声で、


「…誰も見ていなくて、少しだけなら、良い…」


 そう言ってしゃがんだ。その頭を、少女は嬉しそうに、優しくなでた。何とも言い難い感情の中でユルグは、


(かわいい、頭をなでる…これは、ダークエルフ流のペット扱いということだろうか…流石にそれはないか?…しかし、一度の失態で多くのものをなくした気がする…)


 と、心の中でため息をつくのだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 昼時になり、アカツキたち訓練生は調理場に集まる。そこには、教官とそわそわした様子のヴォルフィーネが待っていた。何やら良い匂いが漂っている。


「今だけの特別だ。各自、自分の分を取りに来い」


 スープを器によそう教官と、パンとサラダを用意しているヴォルフィーネから、訓練生たちは各々昼食を受け取った。

 いただきますの言葉もそこそこに、スープを幸せそうに食べるヴォルフィーネ。他の者たちもどうやら気に入った様子だ。


「これ、結構うまいな!…もしかしてアンタが作ったのか?」

「そうだ」

「へぇ~…」


 その答えにアカツキはスープを見ることしばし。教官の方に目だけを向けて問う。


「なあ、これどうやって作るんだ?」

「難しくはない。知りたいなら、今度教えよう」


 そう言われて、今度はしっかりと教官の方を向くと「お願いします」と言って、彼女は頭を下げるのだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 かつて世界は、死の霧におおわれていた。

 神々は光の柱を建て、世界を浄化された。


 死の霧は、マナに。

 光の柱とその周囲は、迷宮ダンジョンとなった。


 マナは人々の可能性を引き出し、

 迷宮は人々に試練と恵みを与えた。


                    (『太陽神教経典』始原の章より)


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 午後、アカツキたちは座学用の教室へと移動し、そこで一冊の手帳を渡された。


「これは、冒険者の手帳。知っておいた方が良い知識が最低限書かれている。空いてる所に、各々必要だと感じたことを書き込んでいってくれ」


 渡された手帳をしげしげと見ている訓練生たち。彼らを微笑ましく思いながら見守ることしばし。「さて」と教官は言葉を続ける。


「一日養成所で過ごして、不満などがあれば教えてほしい」

「え~、オイラ不満とかなかったな~」


 ゆるゆるした調子のブーレ。彼に合わせるように、バンもこくりとうなずいた。エナシェラは口元に手を当てると、


「養成所の中も、寮の部屋もとてもきれいでおどろきました」

「あー、オレもそれは思った」


 と同意するアカツキ。彼らの様子を見て、今のところ特に不満はなさそうか。と教官は内心安堵しつつ口を開く。


「先達の積み重ね、だな。君たちもきれいに使ってくれると助かる。では、質問や聞きたいことはあるか?」


 訓練生たちは顔を見合わせたり、考えたり。ややあってバンが手を挙げた。


「アカツキが、戦技アーツを使っていた」

「ああ!それオイラも気になってた!」


 二人の言葉に、アカツキがじろりとにらむ。


「何だよ、使えちゃ悪いのかよ?」

「ちがうちがう!戦技って冒険者になってから覚えるものって聞いてたからさ。冒険者になる前から使える人もいるんだって、それでオイラたちびっくりしただけだよ!」


 ブーレが慌ててそう言い、バンもこくこくとうなずいた。そこへ教官が落ち着いた声で、


戦技アーツ。体を鍛え、武器の扱いに習熟していくと、あるとき不意に頭が、そして体がそのやり方を閃くもの、と言われている」


 彼の言葉にアカツキは怪訝そうな顔をした。


「何か、他人事だな?」

「俺は戦技を使えんからな」

「ハァ?!オレやヴォルフィーネをあしらったあれは何だったんだよ!」


 おどろく彼女に、彼は平然と答える。


「あれはただの我流体術だ。ともあれ、普通は冒険者になる前に戦技を覚える者はまずいない。相当の修練を積む必要があるからだ。アカツキがそれだけ、たゆまぬ努力をしてきた証だろう」


 大したものだ、教官はそう締めくくった。他の訓練生たちにキラキラした目を向けられ、アカツキは何やら照れ臭そうにする。


「そんな大したもんじゃねえよ、じい様の教えが良かっただけだ!…あ、じゃあオレも質問!」


 気恥ずかしさに話を変えようとしたのか、顔を赤くしながら彼女は手を挙げた。


迷宮ダンジョンは試練と恵みを与えるっていうじゃねえか。試練はまあ分かるけどよ、恵みってのは何なんだ?」

「ふむ、良い質問だ」


 言いつつ教官は顎に手をあて、少し間を置く。


「そうだな…例えば、迷宮で採れる植物や鉱物は、普通の物よりも特徴が強くなる。迷宮の薬草で作られた薬は薬効が高く、木材や石材、金属も迷宮産の方が優れている」


 訓練生たちは話に耳を傾けている。それを見て教官は一呼吸置き、話を続ける。


「また、迷宮に生息している生き物を魔物と呼ぶが、それらから得られる素材は武具に使われるだけでなく、日用品にも用いられる。ある魔物の爪を加工して作られた包丁は、切れ味が良く手入れも楽、その上独特の光沢があると、一部の料理人から人気だったりする」


 エナシェラはメモを取りながらうなずいた。


「人々の暮らしと迷宮で得られたものには、繋がりが出来ているんですね」

「そうだな。今のはほんの一例、他にもいろいろある。迷宮の与える恵み、冒険者が人々に何をもたらしているか。それを考え、そして知ることは君たちのこれからを支えてくれるはずだ」


 そこまで言うと、教官は頬をかいた。


「説教のようになってしまったか…アカツキ、どうだ?」

「うーん、そうだったんだなって、面白かったっつーか、考えたこともなかったっつーか…いや、ご教授ありがとうございました」


 と、彼女は頭を下げた。その後もいくつか質問を受け、次を最後にしようと教官が告げた。すると、少し迷いを見せた後、エナシェラが手を挙げる。


「あの…実は私、輸送隊のお仕事をしたいんです。街を、人の生活を支える大事なことだって思うから。でも、輸送隊の受ける依頼は低ランクのものが多いそうで。だから、他の子から志が低いって…」


 自信がなくなったのか、彼女の声はだんだんと小さくなっていった。教官は穏やかに応える。


「輸送隊は、冒険者の仕事の中でも、街の人々に特に必要なものだ。君の志は立派なものだ、間違いなく」


 彼の言葉に、エナシェラはほっとした表情を見せた。教官は訓練生たち全員に語りかけるように、


「高ランクの依頼も、低ランクの依頼も、どちらも大切な仕事であることに変わりはない。では、ランクの高低で何が違うのか、分かるか?」


 そう問われ、彼らはきょとんとする。


「何となく、高ランクのがすげえと思ってたけど、そういうわけじゃないんだな?」とアカツキ。


「大きく見れば、まあそういうことなんだがな。では、何がすごい?」

「え~…?報酬、とかですか?」


 そう答えたブーレに教官はうなずく。


「良い見方だ。ではあと一歩。なぜ報酬がすごくなる?」

「…その分危険だから、ですか?」


 バンの答えに、彼は手をたたいた。


「正解だ。そして、依頼のランクは危険度を示したものだ。高ランク程危険なものであり、受ける者の技量や慎重さが求められる。その分報酬も高い」


 そこまで言うと彼は一旦言葉を区切り、全員の顔を見回す。


「高ランクの依頼をこなせる、それは人から賞賛を受ける価値あることだ。一方、低ランクの依頼であっても、人々の暮らしを支える重要なことだと覚えておいてほしい」


 教官の静かな、そして真剣な声に訓練生たちも姿勢を正して「はい」と答える。それを聞いて教官は肩の力を抜いた。


「では、午後の訓練はここまでとする」

「訓練ってか、話だけで終わって物足りない感じもすっけどな」


 とアカツキがぼやく。教官は軽い調子で、


「やる気は明日にぶつけて、今日はしっかり休めよ」


 そう釘を刺す。彼女も「分かってるよ」と肩をすくめるのだった。


● ● ● ● ● ● ● ● ●


 その日の夜、酔竜亭、ユルグの部屋。


「冒険者に輸送隊の仕事なんてあったんだね」

「ああ。前にホクボルと北の村へ行ったことがあっただろう。あれもそうだ」

「そうなんだ。他にもあるの?」

「そうだな。養成所で教えると思うが、先に聞きたいか?」


 彼の言葉に、少女はこくこくとうなずく。


「聞きたい」

「そうか。じゃあ、少しずつ教えよう。ところで…」


 そこで一旦ユルグは口を閉じた。ヴォルフィーネは小首をかしげる。


「どうしたの?」

「…フィー、そろそろ頭をなでるのをやめないか?」

「んー、あとちょっと♪」


 そう言って彼の頭をなで続ける少女だった。

 この日以降、彼女は夜に彼の部屋へやって来ては、冒険者のことや様々な話を聞きたがるようになる。そしてその度にユルグの頭をなでてくるようにもなるのだが、それはまた、別の話。






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