番外編 英雄のその後
罠。迷宮で冒険者の命をおびやかす恐ろしい仕掛けの数々。
しかし「英雄」たちにとって、これらはユルグによって位置を明かされ、無力化され、驚異ではなかった。それが常だったため、罠など大したことはない、そう考えるようになっていた。だから、
「あっ」
気を抜いていた魔法使いが落とし穴に落ち、底の棘で串刺しになる。そんな最悪のシナリオを回避することは出来なかった。
「おいおい、何やって…おい!」
様子を見て、慌てて助けようとした他のメンバーを毒矢の罠が襲う。苛立ったように「英雄」は自身の腕に刺さった毒矢を引き抜いて叫んだ。
「っんだよコレはぁ…!おい斥候、何やってんだ!」
「アンタらがむやみに進むからだろ!そっちが何やって…ぁぁあ、来るぞ!」
混乱したパーティに、Bランクの魔物であるリザードマン達が迫る。毒で動きの鈍った獲物を、リザードマン達は容赦なく屠っていく。斥候だけは命からがら逃げ出し、事の次第を冒険者ギルドに報告した。
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帝都の冒険者ギルド、そのギルドマスターの部屋。壮年の女性が不愉快そうに机を指で叩きながら口を開く。
「英雄たちSランクパーティが、Bランクの依頼に失敗し全滅…笑えない冗談だ」
「冗談であれば良かったのですが。それと」
「まだ何かあるのか?」
ギルドマスターは苦い顔で、副長である老紳士に問うた。
「ええ。彼らは途中の村で、依頼者たちから薬等の物資を徴収した、とのこと」
それを聞き、彼女は一瞬絶句する。
「…まさか村人から、金払わず物をとった、ってのか…?」
「その様で。それと」
「おい、勘弁してくれ…で、何だ?」
「パーティに新規加入した斥候への扱いが、相当に酷いものだったようです。あれが本当に英雄なのか、信じられない、と」
ギルドマスターは空を仰ぎ、大きなため息をついた。
「俺も信じたくねえな…だが」
確認は出来たんだろ?と彼女は副長を見る。
「ええ。彼らの亡骸を回収させましたが、所持ライセンス等から、確かに英雄の一行であったことが分かりました。また、事後処理に当たったパーティに、村人へ徴収した品分の金を届けさせました」
「ははっ、任された方は、なんだそりゃと思っただろうな…さて、けじめはつけにゃなるまい」
そう言って立ち上がったギルドマスターへ、老紳士は声をかける。
「村へ行かれますか。準備はこちらに」
「理解のある副長がいて、俺ぁ幸せもんだよ。俺が出かけている間の事は任せた。それと」
「報告書をまとめ、今回のような事態への対応策の検討ですね。進めておきます」
「つくづくありがてえ…じゃ、行ってくる」
そう言って、彼女は部屋を出て行った。
以後冒険者ギルドでは、依頼者と冒険者の間に上下はなく、またパーティ内でも職種による上下関係はない、ということを定期的に知らせていくようになる。そして、相手に不当な要求をした場合、その者に厳しい処罰を課す、という条文がギルドの規則に追加されたのだった。




