番外編 救助活動
これは、ユルグとヴォルフィーネが出会う前の物語。
日が暮れてゆく森の中、言い争っている一党があった。
「アンタが進もうって言ったから迷ったのよ!」
「でも誰も反対しなかったじゃないか!俺だけのせいじゃない!」
「あ、あんまり騒ぐと魔物が来ちゃうよ…」
「…お腹空いた…」
人族女の闘士、人族男の衛士、獣人男の救護士、獣人女の弓使い。バランスの取れた編成である一党だが、引き際を見誤り森の中で迷っていた。
「もう日が暮れちゃう…ボリ—、道は分からないの?」
「魔物に追われて逃げ回ったから、もうさっぱり」
女闘士に問われるが、ボリ—と呼ばれた弓使いは首を振った。
「まさか迷宮の外縁部と周辺部で、魔物の強さがこんな違うなんて…」
「ボク達、どうなるんだろう…まさか、ここで死…」
「マルト、縁起でもないこと言わないで!」
涙目で弱音を吐く救護士を女闘士が叱る。と、弓使いは耳を立て口元に指を添える。
「…しっ。何か音が聞こえる」
弓使いがそう言って程なく、
「そこにいるのは冒険者かー?大丈夫かー?」
その声と共に、大きなリュックを背負った黒ずくめの男が現れた。
「俺は冒険者ギルドの職員でユルグという。迷っているなら力になるが、どうだ?」
「ユルグ教官?!こんなところで会えるなんて…」
「君は…ドーン、だったか?」
「そうです、教官!」
名前を呼ばれた衛士の男は、喜色を浮かべて答えた。教官と呼ばれた男は苦笑する。
「ここでは教官じゃない。気を遣わなくて大丈夫だ」
「…分かりました。でも本当、助かった。俺たち、道に迷ってたので…」
「そうか、大変だったな。ここから少し歩いたところに安全な場所がある。もう少し頑張れるか?」
ユルグは4人を見回す。彼らはこくりとうなずいた。
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そこから5分ほど移動し、4本の柱に囲まれた祠の前で一行は休んでいた。女闘士は安堵のため息をもらす。
「こんな近くに安全な場所があったなんて…」
「何とかなって良かったよな」
「お気楽すぎ…ドーン、アンタは気をつけてよね!」
「悪かったよ、リサ…」
女闘士と男衛士のやり取りを横目に、ユルグは弓使いと地図を見ていた。
「今いるのがこの地点。街に帰るならこのルートを通っていけば、何とかなるはずだ」
「うん…分かった」
「今日のところはここで野営し、明日準備を整えたら街へ向かうといい」
ユルグの言葉に、3人はうなずいた。と、少し離れた所で調理をしていたマルトが声をかけてくる。
「もうすぐご飯出来るよ~」
「…ユルグさん、材料と道具を貸してくださって、ありがとうございます」
女闘士が頭を下げ、他の者もそれに従って頭を下げた。ユルグは手を振ると、
「困った時はお互い様だ。こちらも、料理の手間が省けたからな」
そう言って肩をすくめてみせた。
食事を終え、後片付けをしている一行にユルグは声をかける。
「野営のための毛布などは持っているのか?」
「えっ、あー…今まで街の周りばかりだったから、準備してなかった…」
女闘士は気まずそうな顔をした。ドーンは気楽そうな口調で、
「まあ皆で抱き合って寝れば、何とかなるんじゃないか?」
「スケベ…アンタはマルトと抱き合ってなさいよ。私はボリ—と一緒に寝るから」
「僕らを抱き枕代わりにしないでね…まあ、仕方ないけど」
「ん、リサと一緒に寝る」
一行の仲は良好なようだ。それはとても良いことだと思いながら、ユルグはリュックから毛布を2枚取り出すと、
「森の夜は冷える。それぞれこいつを使ってくれ」
そう言って毛布を手渡した。
「ありがとうございます。あれ、でもユルグさんの分は?」
女闘士は首をかしげる。流石に助けに来てくれた人の分の毛布まで使ってしまうのは気が引けた。
「この服は防寒対策がしてあってな。毛布はなくても大丈夫なんだ。だから気にしなくて良い」
そういうことなら、と女闘士は毛布を受け取った。
「それじゃあ、見張りを立てながら交代で仮眠を取ろう。俺とマルトが先に見張りをするから、リサとボリ—は後で交代してくれ」
ドーンの言葉に3人はうなずいた。それを、一瞬まぶしいものでも見るようにするユルグ。安全地帯だからと油断していない。そして役割を決め負担を分散している。良いパーティのようだ。そう思いながら、彼は特に何も言わず見守ることにしたのだった。
翌日、一行は無事に森を抜けて街へと帰還した。後にドーンたちは、古都でも腕利きのパーティと目されるようになるのだが、それはまた別の話である。
獣族 と 獣人 、この作品内では同じ読み・同じ意味として書いてきたのですけれど、獣人の方に統一することにしました。そのため、本文中の 獣族 を 獣人 へと修正しております。




