22.誰も死なせない
今日は、兄様とレイモンドの卒業パーティーの日。私達は、王城の大広間で着飾り、彼らの卒業を祝った。
もう悪役令嬢の断罪は、どこにも存在しない。
兄様は、ナンシーを、レイモンドは、私をエスコートして、パーティーに参加している。
兄様とナンシーは、新年に婚約し、ナンシーの卒業を待って結婚式をあげる予定だ。
そして、私も。
卒業と共に、レイモンドは、王として即位する。王はまだまだお元気なのだが、子供の頃、海を渡って冒険をしたかったそうだ。だから、元気な内にその夢を叶えてあげたいとレイモンドが話をしたらしい。
大臣達もレイモンドが王になるならと、承認し、私は、船を改造して、王と王妃が過ごせるような、立派な船室を作った。
全てが順調に見えた。
パーティー会場の扉が乱暴に開かれ、血まみれの兵士が倒れるように飛び込んで来た。
「ダレニアが宣戦布告しました!」
「ま、まことか?」
パーティーには、王も王妃も参加していた。
「現在、二手に分かれて、我国に攻め入っています。」
「どこと、どこだ!」
「国境沿いの金鉱を挟むように兵が配置され、国境の護りも、いつ崩れてもおかしくありません。」
「父上、金鉱のあるガーランドの隣町に私の作った兵士の教練所があります。そこにいる兵士6000人を率いて、私はガーランドに向かいます。」
「おお、そうか、レイモンド頼むぞ。何としても止めてくれ。」
「はい。アンドレア、君に半分の兵を任せる。もう一軍の方を叩いて欲しい。」
「分かった。」
ナンシーの知るエンドに向けて、用意した兵士達。ダレニアに知られないようにレイモンドが隠蔽魔法をかけて育てていた彼ら。実際に出動する事は無いように願っていたのに。
「兄様、私も一緒に行きます。」
「……分かった。支度しなさい。」
国が滅びなければ、レイモンドは死なない。それならば、私が戦争を終わらせよう。誰も死なせはしない。
久しぶりに気持ちが高揚してくる。
「ナンシー姉様、兄様を必ず無事に連れ帰ってくるから、信じて待ってて。」
「ミレーニア。うん。うん。お願い。あなたも必ず怪我をせずに帰ってきてね。」
「そうね。そして、2人で、レイモンドの作ったドレスを着て、結婚式をあげましょう。」
「うん。」
私達は、支度をすると、空間移動で、戦地に跳んだ。
後を追って、王都から騎士団長率いる正規軍が援軍として向かうが、現場までは、最短でも5日はかかる。
何としてもそれまで持ち堪えなければならない。
私達は、まるで魔法具のように魔法がかかった武具を身につけ、教練所に向かった。
ナンシーからバッドエンドについて教えて貰ってから、兄様とレイモンドに頼んで密かに準備を進めた、私達の軍団。資金は私の商団の利益を回した。
ギュルハも、仲間を率いて駆けつけてくれた。
あのギュルハも、今は一族の長、50匹のゲシュパルを率いて現れた。
「ギュルハ、ありがとう。」
(友達が困ったら助けるものだろう?)
「上空と、偵察を任せるわ。頼んだわよ。」
(任せろ。)
「ミレーニア様、何だか昔みたいですね。」
「ああ、そうだな。あの頃よりもよっぽど楽な戦争だ。あの頃だって全戦全勝だったんだ。負けないよ。ターニャ。」
「はい。ルイジェリア様。」
目を閉じ、ゆっくりと開く。昂った気持ちがスっと凪いでいく。うん。負けるイメージはない。
兄様と並び先頭を馬を並べて駆けていく。
兄様の手から味方軍の前に保護結界が展開する。
「行く。焼き尽くせ炎獄!!」
馬に股がって、剣を天に向かって突き上げる。昔得意だった魔法。大き過ぎて今世では、使った事が無かったが、体が覚えていた。
敵に向かって、無数の火の玉が飛んで行く。
その怯んだ場所へ、火を噴く剣を高らかに構えて、突っ込んで行った。剣を振る度に右に左に炎が舞い上がり、敵が倒れていく。
ダレニア兵は、突然現れた軍に右往左往し、陣を崩して行く。その様子をギュルハ達が逐一報告してくれるので、倒すべき敵の状況もよくわかる。
「ターニャ、敵の親玉の首をとるぞ。」
「はい!」
チラリと兄様を見ると、落ち着いて味方を援護しつつ、敵を捌いている。
「全軍前進!私に続け!!!」
オオオオオオ
味方の声が怒号のように響く。敵側が怯えているのが手に取るようにわかった。
「轟け、神の雷鳴!!」
眩しいほどの稲光が戦場を走る。私達の進軍は止まらない。ダレニア軍が敗走を始めた。
私は、その中を駆け抜け、敗走軍の先頭に立って敗走する男の姿を捉えた。
「見つけた。巻き上げろ、風神!」
巨大な竜巻が、先頭の男を中心に空高く風が舞い上がる。その中に敵から奪った槍を投げ飛ばす。風に遮られることなく、槍は先頭の男を捉え、その腹に深々と刺さり、そのままその体を地面に磔けた。
「ルイジェリア様。」
ユーステアは、涙を流して、ぐしゃぐしゃな顔をしている。私は、その頭をコツンと殴り、笑った。
「何を泣いてるんだ。終わったぞ。」
(ミレーニア、想像以上だったな。やり過ぎじゃないか?)
(ここまでやれば、二度と軍を向けようと思わないだろ?)
(まぁそうかもな。)
レイモンドの方に向かった私達が目にしたのは、無数の氷柱。
「は、相変わらず、常識外だな。」
「ミレーニア、おまえにレイモンドの事は言えないと思うよ。」
後ろから兄様のどこか疲れた声が聞こえる。
「兄様、お疲れ様でした。後は団長達に任せて屋敷に戻りましょう。」
「後片付けをしたらな。」
「はい。」
そして、最悪の戦争は片付いたのだった。




