20.近接接近
城に行っていた兄様が、私の部屋に来たのは、夕方。
ギュルハを引き取って、レイモンドを呼んだのが昼過ぎだったから、彼が私の部屋にいる時間としては、過去最長かもしれない。
「殿下、いつからこちらへ?城でリンクが殿下を探していましたが、伝言を残さなかったのですか?」
「あ、忘れた。ゲシュパルに夢中になってしまって。すぐ戻る。」
レイモンドがいなくなった間に、私は兄様にギュルハを紹介した。
「ゲシュパルのギュルハです。えーっと、私の友達?です。」
「この可愛い存在が、友達?」
あら、もしか来て、兄様はもふもふ好き?
「そうです。」
兄様にギュルハが我が家に来た経緯を伝え、怪我の件、大きさを変えれる件を伝えた。
怪我は治ったが、せっかく人の国に来たので、ギュルハは、この国を見てみたいと言い出した。
私としては、可愛いギュルハがいてくれる事に賛成なのだが、兄様はどうだろう?
「そういう事なら、ゆっくり見てもらいなさい。」
「ありがとう、兄様。」
私は、随分久しぶりに、子供の頃のように、兄様に抱きついて頬にキスをした。
子供の頃、可愛らしかった兄様に、これをするとお願いを何でも聞いて貰えたのだ。
最近は、してなかったが、懐かしいな。
兄様は、私がキスした頬をそっと手でおおい、嬉しそうに微笑んだ。
「ミレーニアがキスしてくれるなんて、いつぶりだろうね。嬉しいな。最近は、話をする機会も少なくなってしまって、私は、必要ないのかと思っていたよ。」
「どうしてですか?私はずっと兄様が大好きですよ。」
「この間の誕生日に、贈ったブレスレットも、使ってくれていないだろう?殿下も殿下だ。何も同じようにブレスレットを贈らなくても良いのに。
ミレーニアは、殿下のブレスレットばかり使って、私のブレスレットは、使ってくれない。」
いや、それは仕方がないんです。だって、レイモンドのブレスレットは、私が触れていない状態で他の人が触ると発火するんですよ、兄様。
そんな危険物、そこらに放置できますか?
「兄様、誤解です。私も兄様のブレスレットを使いたいのですが、レイモンド様のブレスレットを使うしかないんです。ご理解ください。」
「ごめん。無理を言ったね。もちろん殿下の贈り物を優先するのは当然だ。」
「いえ、このブレスレットは、私以外が触れると発火するので、もしうっかり侍女が手入れで触ったらと思うと、怖くて外せないんです。」
「え?これは、そんなに凶悪な物なのか?」
「凶悪……そう、ですね。」
兄様は、何かを決意した表情で、私の両肩をガシッと掴み、じっと目を見つめてきた。
「ミレーニア、婚約を破棄しよう。」
「え?」
「このような凶悪な物を贈る方に大切な妹を託すことはできない。父上が反対しても、必ず私が婚約破棄してあげるから、安心しなさい。」
どうしたの?兄様。
ちょうどそこにレイモンドが戻って来た。
「殿下、いや、レイモンド。話がある。」
「なんだ?」
珍しく声を荒らげる兄様に、レイモンドも少し驚いたらしい。いつもより瞬きの回数が多い。
それでもギュルハを見た時程ではないけれど。
私は、避難するように、ギュルハを抱えてソファに移動した。
「ミレーニアに渡したブレスレットの事だ。発火するそうじゃないか。どうしてそんな危険なものをミレーニアに贈るんだ!」
「危険ではない。ミレーニアがつけている時は、彼女を守るようになっている。発火機能は、武器として使う為だ。」
「武器!隣で守ればいい事だ。レイモンドはミレーニアは自分で身を守ればいいと思っているのか!」
「そうではない。何を怒っているんだ?」
(なぁ、ミレーニアって守る必要あるの?)
(無いな。)
(見れば分かるけど、強いよね。魔法はあの魔法使いが一番だけど、総合では、ミレーニアが上じゃないか?)
(そう思う?)
(思うよ。ミレーニアには、何か他のふたりと違うものを感じるから。)
(ふふふ。)
「だいたい、レイモンドは本当にミレーニアが好きなのか?いつも離れて立っているだけじゃないか!好きじゃないなら、もう婚約は解消して、ミレーニアを自由にしてやってくれ!」
「距離……。」
「私は、明日にも王に婚約解消をお願いするつもりだ。」
「距離……。」
(あの魔法使い、何言われてるか分かってるのか?)
(どうかな?)
怒りに震える兄様から離れ、レイモンドが私に近づいてくる。どうしたんだろう?
「距離……。」
距離?あ、1メートルで止まった。いや、止まらない?
いきなりソファに座る私をギュルハごと抱き上げると、自分の膝の上に横抱きにした!
驚いて、声も出ず、見たことも無い近接距離で、レイモンドの綺麗な顔を凝視してしまった。
「レイモンド?」
「距離を縮めてみた。」
「いや、突然?」
「ああ。駄目か?」
「どうしたの?」
「アンドレアに言われて。婚約解消したくないから。」
「それで、私を膝に抱いてるの?」
「そう。」
(ぶはっ。こいつ頭可笑しい。)
笑うな。私は、笑うわけにいかないんだから。
兄様は、怒った顔のまま固まってるし、私はどうしたら良いんだろう?




