17.もう一人のヒロイン
アイシア・シュルツは、ベッドに腰掛けて爪を噛んでいた。噛んだら爪の形が悪くなるので、駄目だとは思うのだが、イライラが募ってしまい、どうしようもない。
この世界に転生し、自分の好きだったゲームの、それもヒロインだと分かった時、アイシアは、快哉を叫びそうになった。
学園に入学すれば、攻略対象は、スチルよりも魅力的で、彼女の心を鷲掴みにした。
大人の魅力のアンドレア、知性の輝きラッセル、担当教諭の大人可愛いマクシミリアン、整いすぎのアイスドールレイモンド。
それぞれ違う魅力で選びきれないと思った。
だから、狙ったのは、ハーレムエンド。3人に愛されつつ、レイモンドの王妃になるコース。
それが、どうしてこんなにも上手くいかないんだろう。
初日、アンドレアの名前を聞くも、本人は教えてくれなかった。
レイモンドのそばで足を滑らせたが、視界にも入っていなかった。読みたくもない図書館に本を読みに行ったのに、ラッセルは悪役令嬢と話し込んでいたのだ。
なぜ?私は、ヒロインでしょ?どうして誰も私に目を向けてくれないの?
担当のマクシミリアンも、ゲームでは家が没落して姿を消した妹のように可愛がっていたマーガレットと、イチャイチャしているし。
何なのよ!!
私以外にもピンクの髪の女が出て来て、悪役令嬢と騒ぎを起こしたと思えば、今では友達?は?ふざけてる?
騒ぎを起こすなら、悪役令嬢の正体が皆に知れるようにやりなさいよ。
それに、この聖魔法だって、しょぼしょぼ。かすり傷しか治せないじゃない。これでレイモンドが怪我した時にどうやって助けるのよ。大怪我なら死んじゃうわよ。
ああ、苛立つ。
おまけに悪役令嬢のミレーニアは、美人すぎるし……。
もしかして、私、ヒロインじゃないのかな?
いや、そんなはずないわ。私は王妃になるの。ハーレムエンドになって幸せになるのよ。
必ず、絶対に。
ああ、でも、こんなに原作と違ってしまうと、もしかして私の恋は叶わないのかしら。
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侍従のリンクは、学園でもレイモンド様の近くに侍っている。それが彼の仕事だから。
その彼が、時々目にする面白い生き物がいる。
ピンクの髪の少女。アイシア・シュルツ嬢。
初日から、何故かレイモンド様の前で転んでみせたり、ハンカチを落としてみせたりするのだが、その仕草があまりにも態とらしく、お粗末なのだ。
だいたい、レイモンド様は、ミレーニア様以外では、母である王妃殿下しか目に入らない人だ。
態度に表すのが下手なので、他の人には分かりにくいが、ミレーニア様に対する執着は凄い。
アクセサリー、お守り、インテリアなど。裁縫を覚えたら、ドレスも作るに違いない。
彼女の兄のアンドレア様には、マーキングと呼ばれている程だ。
その彼の目の前で何をしようが、目に入るはずも無い。
その証拠に件のハンカチは、目に留まることなく、踏まれてしまった。
もし、ハンカチではなく、ミレーニアと書いた小さな紙切れだったとしたら、レイモンド様は、すかさず拾って、自分のポケットにしまっただろう。
さすがに気の毒になったが、新しいハンカチを贈れば、誤解させる事になるだろう。
せめてと思って、呆然とする彼女の手に拾ったハンカチを渡したが……。
それでもめげること無く、アンドレア様やラッセル様、マクシミリアン先生にも突撃を繰り返している。
先日、偶然図書館で見かけた時は、山と積み上げた本に埋もれるラッセル様に、話しかけるタイミングを測っているうちに、眠りこけていた。
あまりに努力が報われなくて、少し可哀想に思っているうちに、なぜだが、可愛く思えてくるのが不思議だ。
リンクは、伯爵家の次男だが、母方の子爵位を継ぐことになっている。家柄としては、男爵令嬢の彼女と悪くは無いだろう。
ただ、今は、彼女の頑張りが見ていて楽しいと思ってしまう。どうにも気になってしまうのだ。
本人が納得するまで、頑張って、そして、頑張りが辛くなったら、手を差し伸べよう。
それとも、早めに手を差し伸べた方が、親切だろうか?
とりあえず、彼女の誕生日が来月だと分かったので、プレゼントを贈ってみよう。




