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16.商売敵は潰します



週末、私はリサイクルで作った春色のドレスを身にまとい、ワルドー家を訪れた。


客間に案内され、渋い顔のラッセルが現れる。


「今日は、ナターシャ様に会いに来たんですわ。あなたではありません。」

「私も同席させて貰います。」

「もし、ワルドー令嬢が嫌だと言われたら?」

「それでも、です。」


間もなく、息を切らし、頬を赤らめた可愛い女性が駆け込んできた。ナターシャ・ワルドー様。13歳のお嬢様。


「こんにちは。ワルドー令嬢。」

「ナターシャと呼んで下さい。!私もミレーニアお姉様とお呼びしても良いですか?」

「もちろんです。ナターシャ様。」


走ってきた時に余程強く握っていたのか、シワになったドレスを伸ばしながら、ナターシャは、兄の隣の席ではなく、ミレーニアが座る長椅子の方に回り、ミレーニアの隣にポフンと腰を下ろした。


慌てたのは、ラッセルだ。


「こら、ナターシャ。」

「構いませんわ。」

「ああ、お姉様、本当にお綺麗。こんなに近くでお顔を拝見できるなんて。私、友達に自慢してしまいますわ。」

「嬉しいわ。あのね、今日は、ナターシャ様にお願いがあって来ましたの。」

「何でも仰って。私、何でも致しますわ!」

「こら、ナターシャ、軽々しく約束をしては……。」


ラッセルが何を言おうと、ナターシャは願いを聞いてくれるだろう。私は、思わず勝ち誇った笑みを悔しげなラッセルに向けた。


「カフェの隣にあるリサイクルをナターシャ様はご存知ですか?」


そう、リサイクルの店の名前は、リサイクル。


「はい。私は使った事がないのですが、お友達の中には、使った方がいるそうです。私も買い物には行ったことがあって、今日の髪飾りもそちらで購入しました。」

「そうですか。私の今日のドレスも、そこで購入したのですよ。」

「ミレーニア様のこのドレスがあの店の?」

「はい。」

「素敵。素敵です!」

「それで、あの店のものとも知り合いになったのですが、最近困った事が起きたそうなので、手助けがしたくて。ナターシャ様、ご協力頂けませんか?」

「します。協力します。」


そこで私は、計画を2人に伝えた。

ティーパーティーに出たナターシャがさり気なく、ドレスが増えすぎたと零す。相手はきっと、そうは言っても高級な物だし、捨てるのも気を使うと言うだろう。

その後、デザートを取りにテーブルに行けば、上手く行けば使用人が近づいてきて、ドレスの買取業者を知っていると囁いて来るはず。


悩む振りをすれば、屋敷にこっそり買取に伺うと伝えるだろう。ナターシャは、一緒にパーティーに参加した兄のラッセルに相談し、了解を貰い、日程を決める。


後は、その日をラッセルが学園でミレーニアに伝え、ミレーニアが家人に怪我のないように万全の準備をして、泥棒を狩る。


「面白そうです。」

「元々私にも働かせるつもりでしたね?」

「お願いします。ワルドー様。」

「はあ、仕方がありません。泥棒を見逃す訳には行きませんから。」



それから10日後、ラッセルから餌にかかったとの連絡があった。面会の日は5日後、昼間は目立つからと、相手が夜を指定したそうだ。

それもどこで調べたのか、その前日から宰相ご夫妻は領地に出掛けることになっていて、警備もそちらにかなりの人数が同行するため、手薄になっている。


もちろん、ミレーニアがワルドー家を利用しようと思ったのは、そのスケジュールを知っていたからだった。


少し予定が狂ったのは、こちらの仲間が増えた事ぐらい。



「本当に大丈夫ですのに。兄様もレイモンド様も過保護だと思います。」


ワルドー家に空間移動で現れたのは、ユーステアやいつもの仲間だけでなく、アンドレアとレイモンドも一緒だった。


「怪我をしたらどうする。」

「怪我などしません。」

「殿下も何か言ってやって下さい。」

「私が全員捕らえる。心配するな。」


だから、私の楽しみを取らないでって言ってるのに。

今日は、気分を盛り上げるために顔も隠して、全身黒装束に決めてきたのに。


人の話を聞かないレイモンドは、さっさと周りに保護結界を張っている。

周りを壊したらいけないと言う配慮ではない。壊れた床で私が躓いたり、壊れた破片で私が怪我をするのを防いでいるのだ。全くこの男は……。



階下では、男達が樽を持ってやってきた。あの樽にドレスを入れるのだろう。

既に応接室には溢れるほどのドレスが置かれている。全てリサイクルの店から運んだものばかり。


魔法で音を拾っているが、喋り方に癖がある。これは隣国のダレニアの訛り?


私達は、全員気配を殺して配置に散った。私とレイモンドは屋敷の中央。主の執務室。兄様はユーステアと共に夫人の寝室へ。



廊下に置かれた樽から、静かに一人の人影が忍びだし、闇に潜む。


買取業者は、買取を終え、樽にドレスを入れて、立ち去った。家族が寝静まる頃、潜んでいた人影が裏口に回り、音もなく扉を開ける。多分油でも塗っているのだろう。


裏口から屈強な人影が5人。思ったより少ない。

彼らは当たりをつけていた夫人の寝室と、思った通り、主の執務室へ姿を現した。


執務室で、金庫や机の引き出しを漁るが、思ったものが見つからなかったのだろう。苛立たしげに本棚を調べている。隠し金庫があるかもしれないと考えたのか。


結局、得るものもなく、執務室に来た男達は、数枚の書類を持って部屋を出ていった。夫人の寝室に行った男達は、腕にかなりの量の宝石を抱えている。


裏口で警戒している男と合流した所で、レイモンドの魔法が発動した。彼いわく、【箱】だそうだ。

箱状の空間に男達を閉じ込めている。



「これは声は聞こえるのですか?」

「問題ない。」

「空気は?」

「補給していないので、徐々に減る。」


つまり、このままでは、窒息死すると言うわけだ。



死の危険にあると教えられた賊達は、必死に箱から出ようとするが、出られるわけが無い。

段々と息苦しくなっていく。


「残りの仲間と塒の場所、黒幕の正体、盗みの目的、どれでも正直に言った人から、この箱の外に出してあげるわ。」


優しく言ったのに、男達は、震え始めた。


「言わなければ、このまま、ここで、息絶えなさい。さあ、どうする?」


兄様がボソリと悪役っぽいと呟いた。いいでしょ!悪役令嬢なんだから。


男達は、最初は我慢していたが、苦しくなると我先に答え始めた。大元は、ダレニアの情報ギルド。そして、目的は、最近我国で発見された国境沿いの金鉱の件。

宰相夫妻が向かっている場所だ。夫人は鑑定能力が高く、金の純度を鑑定するために同行している。


とりあえず相手が分かったので、叩き潰す事にした。

移動は、レイモンドさえいれば、どこでも一瞬だから。

少人数だけど、精鋭揃い。証拠も残さず、ギルドごと潰してきた。


少しだけ暴れさせて貰って、ちょっとだけスッキリした一晩の出来事だった。


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