15.ネ友にご挨拶
ショートケーキの発売日、私はナンシーを誘ってカフェにお茶をしに来た。ちなみに店の名前がカフェ。
この世界にはカフェが無かったので、その栄えある一号店と言うつもりで、その名にした。
「ナンシー、こちらは私の専属騎士のユーステア。ユーステア、彼女は私のクラスメイトで隣の席なの。」
「初めまして、ナンシー・コーツです。」
「私は、ユーステア・コルへです。
あの、お嬢様に伺ったのですが、悪役令嬢って。」
「あ、ああ、ごめんなさい。私とても失礼な事を。」
「いえ、責めてるのではなく、その単語をご存知と言うことは、もしかして、この世界が桜の園のラブ事情だと知っているのでは?」
「は、はい!まさか、あなたも?」
今までゲームとやらの題名を教えてくれなかったが、そんな意味不明な題名だったとは……。
「そうです。さくらぶに嵌ってて、かなりやり込みました。」
「私もです。」
「良かった。ゲームをよく知る人がもう1人いて。私とお嬢様は、悪役令嬢の破滅を防ごうと思っているんです。」
「そうなんですか?ああ、そうですよね。破滅を迎えるなんてあってはなりませんよね。」
「そうです。そうです。」
「分かりました。何でも協力します。」
そして、私は蚊帳の外で、2人で話し込み始めた。
私は、美味しくケーキとお茶を楽しもう。
うん。このケーキ、美味しい。ケーキがしっとりしているのに、フワフワで、クリームがサラッとしてるのにコクがある。そこに苺の甘酸っぱさがいいアクセントになって、本当に美味しい。
話し続ける2人の話は終わらない。
「私のアカウント名は、ルイジェリアです。」
「え?そうなんですか?私は、コインです。」
「え?もしかして、あのコインさん?」
「そうです。わぁ懐かしい。まさかルイジェリアさんにあえるなんて。」
「凄い!まさか、ネ友に会えるなんて思ってもみませんでした。」
「私もです!」
ネ友って何?また新しい単語だ。横で聞いてても分からないので、そっと席を立つと、リサイクルの買取場所にむかった。
「おや、お嬢様。新作ケーキはいかがでしたか?」
「美味しかったわ。爺や、何かあった?」
「お嬢様に隠し事はできませんね。ちょっと同業を始める人間が出てきたのですが、その商売が少々目に余るようなのです。」
「詳しく聞かせて。」
爺やが言うには、訪問買取中心で動いているグループらしいが、訪問先で窃盗をしているらしい。
高位貴族であれば、あるほど、ドレスの買取をしている事を隠したい所だ。
その為に私の店では、秘密厳守で対応している。
そのグループは、伯爵クラスを狙い撃ちしているようで、夜会の従業員を装い、巧みに話を持ちかけるようだ。そして、後日買取に行き、家人が後日盗難に気付くが、買取を知られたくなくて、訴える事もできず、泣き寝入りしていると言う事らしい。
「悪質ね。」
「その通りです。調べてみたところ、買ったドレスは、どこに処分されたのか、足跡が辿れません。」
「もしかしたら、そのまま破棄されているのかもしれないのね。なんて事!資源の無駄遣いだわ。最低ね。」
「今、あちこち当たらせていますが、店を持っていないので、なかなか尻尾が掴めません。」
「囮を用意しましょう。」
「囮ですか?」
「そうよ。最適な人を知っているの。」
私は笑みを浮かべて頷いた。久しぶりに体を動かすのも楽しそうだ。
2人と別れて学園の図書館に向かった。彼は毎日夕方のこの時間には図書館に居ると聞いている。
「ここ、よろしいですか?」
「ドルイド令嬢、どうぞ。そろそろ来られる頃かと思っていました。」
彼はラッセル・ワルドー。宰相閣下の息子で、ユーステア曰く、攻略対象の1人。レイモンドの未来の側近候補だ。
「先日はありがとうございます。おかげでナンシー様とは、仲良くなれました。」
「それは良かった。今日はそのお話ですか?」
「いえ、もうひとつ。頼りがいのあるワルドー様にお願いがあって参りました。」
「ほお。しかし、私はタダ働きが嫌いなたちです。先日の件も含めて、お礼を期待しても良いのですよね?」
「もちろんですわ。こちら、お納め下さい。」
笑顔で持っていた紙袋を差し出すと、眼鏡の中で彼の目がキラリと光る。
「東の大陸から取り寄せました、ゲヘルナ語の原書と辞書です。」
「まさか、ゲヘルナの辞書ですか?どうやって手に入れたのですか!ああ、そんな事はどうでもいい。素晴らしい。」
現在、東の大陸とは殆ど交流がない。その理由は言葉の違いと、海に船を出すリスク。
お互いの文明の違いから、偶然手に入ったものの価値は非常に高い。しかし、船が難破する可能性は大きく、船主達も遠く東の大陸を目指そうと言うものはいない。
そこで、私は、海岸線を回り、噂になっていた海賊を捉えた。海にリスクを負ってでも彼らなら行くのではないかと思ったからだ。
そして、大きな船を作り、レイモンドに頼んで、船に強化魔法がかかるお守りを作って貰った。
さすがの天才にも1ヶ月かかったそのお守りは、嵐の中でも船を守ってくれた。
そして、我が商団は、東の大陸との商売を可能とした。
「気に入って頂けましたか?」
「ああ。もちろん。」
必死にページを捲るラッセルは、こちらの話は上の空。
今のうちに言質を取ってしまおう。
「妹君に少々手を貸して頂きたいのです。今度、屋敷にお伺いして、お願いをしてもよろしいですか?」
「ああ、構いません」
「では、次の週末にお伺いします。」
「分かりました。」
まだ、本から顔をあげない。ミレーニアは、フッと笑みを零して立ち去った。
正気なら彼は妹に会わせようとは思わないはずだ。
ラッセルは、ミレーニアを嫌ってはいないが、淑女らしくないとは思っていて、愛する妹が影響を受けると困ると考えている。
親しい人以外には、知られていないが、ミレーニアの剣の腕前は、今や騎士団長をも倒せる程になっていた。
ラッセルの妹は、以前茶会で顔を合わせてから、何故か私の信奉者、いや、信者?のようになり、何でも真似をしようとするらしい。
その妹が、私の影響を受けて、剣術に目覚めれば、それでなくてもやんちゃな姫君。結婚にも差し障ると思っているようだ。
しっかり囲って、私に会わせないようにしている。




