11.リサイクル事業
昔、私の妻も言っていた事がある。
皇后になったせいで、同じドレスが着れなくなった。
そう、高位になればなるほど、同じドレスを着る事ができない。そして、タンスの中には着れないドレスが溜まっていく。
私が考えたのは、その再利用だ。ユーステアが言うにはこれをリサイクルと言うらしい。
カフェの裏にカフェの一部のように建物を建てた。
そして、カフェからも外からも出入りできる入り口を設ける。しかし、入口は常に閉じられているので、従業員出入口にしか見えないが、そこに立つ少女にチケットを見せると中に入れるシステムになっている。
今日もメイドが鞄を下げて入ってきた。
「いらっしゃいませ。」
「あ、あの……お嬢様から言われて来たんですが。」
「はい。どうぞ。」
目の前の大きなテーブルの上に、メイドが鞄を置くと、眼鏡をかけた白髪の老人が恭しい手つきでそれを開く。
実はこの老人、足を痛めて引退した我が家の元執事だ。
偶然街で再会したところ、足の怪我で働く事もできず、執事の頃の貯金と退職金で暮らしていると言う。
「もしかして、爺やは、暇?」
「そうでございますね。退職金を多く頂きましたので、慎ましやかに暮らしては行けますが、何もせずに暮らしていくのは、些か生きづらく感じております。」
「それなら、私の為に働かない?」
「お嬢様の為でございますか?」
「体に無理のない仕事よ。でも爺やのような上品な雰囲気が必要なの。」
「上品な雰囲気で、ございますか。」
彼はくすくすと可笑しそうに笑って、すぐに頷いてくれた。
「私がお役に立つのでしたら。」
それから、彼にリサイクルの話をして、彼の知り合いの針子を集めてもらった。貴族の元で働く針子達は、まだマシだが、そうでない針子の給金は驚く程安い。
彼はそんな針子を何人も知っていると言って、その中から、真面目で腕の良い子を集めてきた。
客は、カフェの奥の席から、メイドをそっと奥に送り出す。メイドは、鞄の中のドレスを金貨に替えて席に戻り、何事も無かったかのように店を後にする。
また、場合によっては、店の従業員に大量買取を頼み、後日屋敷に来させて取引をする。
買い取るので、元値から考えれば、随分と安くなってはしまうが、それでも死蔵するよりは有益だ。
それに爺やは、相手の状況を鑑みて値段をつけるので、窮地に陥っている人にとっては凄く助かることだろう。
そこら辺の匙加減は爺やにお任せしている。
針子達はドレスを解体し、新しいドレスへと作り替え、カフェの並びに建てたブティックにそのドレスを並べる。既製服と言うものらしい。
オーダーとは、一線を画すが、全て一点物だし、値段はオーダーよりずっと安い。
それを大きなガラス窓の内側に、目立つように飾れば、カフェに並ぶ客達の目にとまらないはずがない。
服はパーティードレスから普段着まで。端切れで子供服も作っている。更に外したレースやリボン、宝石を使ったアクセサリーも。
当然、リサイクル事業は大当りとなった。
その後、販路を持たない為、せっかくの良い商品が売れていない化粧品を扱う小さな店を取り込んで、販売を拡大したり、魔物の皮を扱う商店を取り込んで、実用品ではない鞄の製作をしたりした。
その結果が三大商団の一角と言う事だ。
「ユーステア、あと2年になったけど、もういつでも家を出れるようになったわね。」
「やり過ぎだと思いますよ。お嬢様。」
24歳になった彼女は、3年前に商団の表向きを任せている男と結婚した。今では2人の子持ちだ。
結婚した時に護衛を引退させようとしたが、嫌だとどうしても聞き入れなかったので、出産時期以外は、私の護衛として働いてもらっている。
父様に頼んで隣の部屋をユーステア用にして貰い、子どもの側で働けるようにした。
乳母は、我が家で選任し、給料はユーステアが払う事で双方納得した感じだ。
口には出さなかったが、私は彼女が結婚し、母親になった事でとても安心した。前世のターニャには、そんな余裕がなかったから。この世界が平和で、本当に良かった。
「良いの。お金はあって困る事は無いから。」
「そうですね。」
「春には兄様と、レイモンドが学園に入学するのよね。」
「そうです。もっと先かと思っていましたが、気がつけばあっという間でしたね。」
「うん。一年なんてすぐだわ。ついに始まるのね。」
「そうなんですけど、ここまでお嬢様が変わってしまうと、もうどうなるか分かりませんね。」
「ぶっ壊すと言ったでしょ?その通りになっただけよ。」
「そうでしたね。」
さぁ、来るなら来い!そんな気持ちで一年が過ぎ、ついに学園に入学する歳になった。




