10.今日の柄
レイモンドは、約束通り、庭園でお茶をする度に、結界を張ってくれた。
ちなみに今日の柄は、あれだ。シルバードラゴンと少年。最後の挿絵。
あの小説は、絵本用と小説用の2つを出版元に渡した。
前の英雄譚程の爆発的な人気では無いが、なかなかの売上で、息の長い作品になるだろうと言われている。
どうやらレイモンドもあの本を読んだようだ。
兄様に結界に柄を入れる方法を聞いたところ、兄様でも柄をいれるのは難しいらしい。
指先から極細の糸のように魔法を流し、柄を描くのだろうが、集中力と魔力を馬鹿ほど必要とするので、実用的ではないそうだ。
そんなレイモンドの結界柄は年々進化している。
今年12歳になった私の目に見える柄は、なんと動くようになったのだ。
「レイモンド、柄が動いてますね。」
「うん。」
「柄は動いても問題ないのですか?」
「問題ない。」
相変わらず私達の距離は2メートル。あれから5年経つのに変わっていない。
ただ、私の指や耳にアクセサリーが増えた。どんな力があるのかも隠蔽されていて分からないものばかり。
最近では、ちょっと執着を感じて、貰うのが怖い。
「ミレーニアの為に作ったので、必ず身につけるように。」
「ミレーニアの為に作ったので、必ず枕元に置くように。」
そう言われて渡される物の数々。
「レイモンド、まさか、これで見ていたりはしませんよね。」
「そのような不埒な真似はしない。」
相変わらずの無表情で返事をされるので、信じるしか無い。まあ、私も知られたくない時には、それらを結界に封じ込めてはいるので問題ないはず。多分。
当初予定の金、剣、魔法の準備を終わった私は、13歳になった。
父様達には内緒で、商団を率いている。
もちろん、表向きは別の人間にさせて、正体は隠しているが、王都でも三本の指に入る程の大手になった。
売り物は、ユーステアの前世の記憶を利用した。
詳しく話を聞けば、見た事の無いもの、食べた事の無いものが山盛りじゃないか。これで、商売をしないという選択肢はない。
本で稼いだ金で、洒落たカフェをオープンした。
レイモンドの教書のおかげで、高度な魔法を身につけた私は、そのカフェと自室を空間移動で移動しながら、準備を進めた。
まずはパティシエの育成。既存のお菓子ではないものを作るので、一から育てて変な癖をつけないようにしたい。レシピは、ユーステアが前世でその菓子をクラブとか言う場所で作っていたそうで、問題ないし、作り方も覚えていた。
ただ、本人はもう作りたくないと言うので、別のパティシエが必要なんだそうだ。
そこで、偶然見かけた15歳ぐらいのスリがとてもいい腕だったので、スカウトする事にした。
後をつけて、スリをする直前で拘束魔法を使う。
体が動かないので、後ろにいる私を見ることはできない。
「動けないよ。」
「くそったれ。」
「君、指先が器用だよね。そこそこ体も鍛えているし。甘いものは好き?」
「は?」
「家族はいるの?」
「お前には関係ない!」
「質問にはちゃんと答えなきゃ。もう一度聞くよ。甘いものは好き?家族はいるの?」
少し拘束を強くする。あまり強くすると話せなくなっちゃうからね。そこは調節しないと。
「食べた事がないから、分からない。妹が2人いる。」
「だったらこんなスリなんかじゃなくて、きちんと働いた方がいいよ。」
「俺のような親の無い人間を雇ってくれる所がどこにあるって言うんだ。」
「私が雇ってあげよう。ただし、私には絶対服従する。それが条件だよ。言うことを聞くなら、君の妹達も雇ってあげよう。どうする?」
「……ヤバい仕事なのか?」
「いや、美味しい仕事だ。」
彼はどうも誤解したようで、何故か生唾を何度も飲み込んでいる。
「い、命がけの仕事か?」
「いや、そんな予定は無いけど?」
「それなら奴隷か?」
「うーん。君の見た目は、なかなか良さそうだけど、奴隷にするつもりは無いけど。」
それでも逡巡する彼に少しイラッとしてきた。駄目なら次を探しに行きたい。次で返事をしなかったら他を当たろう。
「さぁ、返事は?どうするの?」
「お前に従う。何でもする。」
「よし。じゃあ、着いてきて。」
拘束を解かれて振り返った彼は、相手が自分より年下の少女である事に驚いているようだ。
「君の名前は?」
「イアン。」
「私の名前は、ルイって事で。」
ユーステアとカフェの調理場へイアンを連れていった。
調理場は、貴族の調理場並に立派なオーブンやこの世界ではお目にかかれない冷蔵庫、井戸水を引いて作った水道に、広々とした調理台など、ユーステアの提案通りのものを用意した。
ここからはユーステアとイアンの頑張り次第だ。
そして、数ヶ月。この国で初めて口にする菓子の数々は貴族を中心に話題となり、店は連日客が何時間も並ぶ程の超人気店となった。
その店の成功で、私は一つの教訓を得た。
金を稼ぎたかったら、女性に支持されるものを作る。
そう、この世の購買層は、女性が中心。貴族の女性は、高価なドレスや宝石に金を注ぎ込んでいる。そして、夫達はそれを許しているんだ。
それでも、お金には限界がある。
だから、次の事業は、リサイクルに決めた。




