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水の聖者  作者: 森川 悠梨
第三章 護送依頼
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043. リリーズ王国へ

 大鎌を持つ青年と蔓を操る女性による襲撃は、その後一度もなかった。まるで何事もなかったかのように船に乗り、リリーズ王国へ上陸した。

 ハマナは船に乗り慣れていなかったらしく、四日間の船の旅で何度も船酔いで体調を壊しては吐き気を覚えていた。その度にユウキによる治癒を受けて楽にはなったものの、すぐにまた体調を壊すことを繰り返していた。

 船酔いに関しては幼少期から乗り慣れていなければ体調を壊しやすく、大人になってから慣れることはない。ハマナは十一歳であり、船の揺れに慣れるには少し遅い年齢であった。しかし、無事に中央大陸へ上陸した皓月千里は、リリーズ王国の港町・ポータスにある冒険者ギルドを訪ねる。そして空の使いの一人であるハマナを、リリーズ王国の冒険者ギルドへ引き渡すことに成功するのだった。


「ハマナ、元気で」

「楽しかったです。機会があれば、また会いましょう」

「あはは、その時には、あんたの臆病も治ってるといいわね」

「身体に気を付けて、元の世界に…帰れるといいね」


 皆それぞれが、ハマナに別れを告げた。

 ハマナは護衛対象だったとはいえ、二ヶ月間、共に国を渡り旅をしてきた仲間だ。皆別れを惜しんでいたものの、寂しくなる気持ちを呑み込み、笑顔で言葉を口にしていた。


「はい…! あの、えっと、ありがとう、ございました」


 ハマナは出会った頃と同じように、礼儀正しくぺこりと頭を下げながらそう言う。今もきっと、不安で不安で仕方がないことだろう。

 慣れ親しんだ故郷を離れ、自分を守ってくれようやく馴染んできた冒険者たちと別れ、これからまた全く知らない人たちと過ごすことになる。しかし、これは空の使いとして選ばれてしまったハマナの運命であり、使命だ。


「…え、ハマナ…? ハマナなの!?」

「えっ?」


 新たにポータスの冒険者ギルドへやってきた冒険者がいるようだ。そこから聞こえてきた少女の声に、ハマナが反応する。

 皓月千里の背後を覗き込むとギルドの入り口に立っていたのは、何人かの冒険者と共に立つ、幼馴染みの姿があった。


「え、ナルセちゃん…? ナルセちゃん…!!」

「あんたなんでここに!?」


 ハマナは目に涙を浮かべ、新たにやってきた空の使いであるナルセに抱きつく。突然いなくなった幼馴染みとの再会を果たしたハマナは、ようやく今までの不安から解放されたかのように、声を上げて泣き出してしまった。


「おやおや、どうやら知り合いの方のようですね」

「あはは…情けないんですけど、幼馴染みなんです…」

「いいじゃんいいじゃん。良かったね、知ってる人がいて!」


 ナルセと共にこの地へやってきた冒険者と思われる魔法使いの男と剣士の女が、笑みを浮かべながら口々にそう言う。

 冒険者ギルドの受付嬢がやってきて、ハマナとナルセはギルドの二階へ向かっていった。ハマナは涙でぐちゃぐちゃになってしまった顔ではあったものの、笑みを浮かべながら皓月千里に向かって再度頭を下げ、去って行った。


「…行っちゃったね」

「ええ。でも、良かったわね。あの子、ずっと不安そうだったもの」

「顔見知りがいるかいないかで、本当に心の持ちようは変わるからな」


 ハマナがこれまでどれだけ我慢していたのか、ナルセと再会してからすべてが爆発してしまったらしい。ずっと怯えきった表情だったハマナも、ナルセの隣では随分と安心しきった表情になっていた。それを見た皓月千里も安心し、ギルドで成功報酬と追加の危険手当を貰うのだった。


「ねえねえねえ! ちょっといーい?」


 ポータスの冒険者ギルドを去ろうとする皓月千里に、空の使いの護送依頼の成功報酬を受け取った先ほどの冒険者が話しかけてきた。

 ハマナの幼馴染み、ナルセをこの場所まで護衛し、別方面の船からやってきた高ランク冒険者と見られる女剣士は、金色の髪と青緑色の目を持つ美少女だった。


「えっと、何か用が?」


 代表して、アルファが対応する。女剣士の背後には、先ほど話していた魔法使いの男と、もう一人、戦士らしき大柄な男がいた。


「あなた達も、あの空の使いの子をここまで連れてきたのよね? 名前を教えてくれる? あ、こちらから名乗るわね! 私は閃光の翼リーダーのアンジェニーナ! レイスル小国から依頼を受けて、ジガム王国から来たの。アンでもニーナでも、アンジェでも! 好きなように呼んでね!」

「え、えっと、俺は、レラン王国から来たアルファ。皓月千里のリーダーだ」

「えぇ!? レラン王国って、冒険者の楽園じゃない! それじゃあ、とっても優秀なパーティなのね!」


 あまりに明るくよく通る声で話すアンジェニーナの声に、アルファは一瞬戸惑いながらもしっかりと対応する。レラン王国は世界中でも有名な冒険者の国であり、冒険者であれば誰もが知っている楽園だ。そんな国から来た冒険者であれば、きっと誰もが優秀な冒険者を想像するだろう。


「あ、えっと、いや、俺たちはまだBランクで…」

「聞いたことあるわ。レラン王国の冒険者は優秀で、他国の冒険者よりもランクが一段階上のレベルなのだとか? いずれにしても、あの黒猫姉弟があの子たちの命を狙っている状態で、ここまで空の使いを無事に送り届けたのだもの! 十分優秀だわ!」

「黒猫姉弟…?」


 黒猫姉弟。その単語に聞き覚えのなかったアルファは、思わずアンジェニーナの言葉を質問で返す。アンジェニーナはきょとんとした表情になり、首を傾げながら言葉を返した。


「え? 知らない? 黒猫の獣人姉弟が、空の使いの命を狙ってるって話」

「もしかして、大鎌と蔓の…?」

「ええ、そうよ。やっぱり出会っていたのね?」


 冒険者ギルドから伝わった情報だろうと察したアルファは、アンジェニーナの「やっぱり」という言葉に反応する。


「やっぱりって?」

「私たちのところにも、ナルセちゃんを狙ってあの姉弟が来たの。どうやらこの依頼を受けた冒険者みんなが彼らに遭遇していたらしくてね~。もしあの姉弟に出会ってないのなら、黒猫姉弟っていう単語でピンと来るかな~と思ったけれど、アルファ君は大鎌と蔓で覚えていたから、なんとなくそうかなって」


 アンジェニーナは明るい笑顔を崩さないままそう言った。どうやら彼女が話しかけてきた目的は、その姉弟に関する情報交換だったらしい。


「初めまして。僕はAランクパーティ閃光の翼所属の魔法使い、シトラスと申します。これも何かのご縁ですし、情報交換のため、少々お時間を頂けませんか?」

「俺はロバート。閃光の翼所属の、戦士だ」


 アンジェニーナの背後にいた残りの仲間も、それぞれ丁寧に自己紹介をする。

 シトラスは深緑の髪を持つ細身の男性で、モノクルをかけた真面目そうな男性だった。彼の瞳は平均以上の魔力を持つ証である黄色の瞳であり、誰が見ても高品質であることがわかる立派な杖を持っていた。

 ロバートは身長二メートル近くはあるであろう大柄な男で、背にはハルバード、スキンヘッドで黒に近い瞳を持っている。肩からはクマの魔物の物と思われる毛皮を纏っており、絞られてはいるがよく鍛えあげられた肉体は晒されていた。


「…わかった。俺の仲間も紹介する。パーティエースのシノン、前衛のルミナ、魔法使いのユウキ、そして全体補助のアリュスフィアだ。情報交換をするのなら、場所を変えないか?」

「ええ、もちろん。ギルドの裏手に個室が使えるカフェがあるの、そこに行きましょ」


 アンジェニーナはギルドの裏手を指さし、皆を案内するようにして歩き出した。アルファ達もそれに続き、カフェへと入った。

「全王王国リリーズ」 知名度 ★★★★★

通称:学問の国。世界の王、全ての国のトップに立つ全王の国。

王立学園リュケイオンがある。世界で唯一、スラムが存在していない。


「レイスル小国」 知名度 ★★☆☆☆

全ての国民が、右目に赤い宝石のような美しい瞳を持つ民族。

その目は千里を覗いたり、物の価値を一瞬で見抜いたり、透視を行ったりといった特殊な能力を持っているという。

入国には、厳正な検査のもと入国許可証が必要。


「ジガム王国」 知名度 ★★★★☆

別名:魔法の国。長年世襲制による独裁が続いている。

魔法こそ至高であり、魔法使いこそが正義であるという主張を繰り返す聖魔法教会がある。

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