041. 皇都・ナビールへ
「まとめよう。まず第一に優先すべきは、ハマナを無事リリーズ王国に送り届けること。そして、できるだけ早くギルドに情報を共有することだ」
早朝、夜が明ける頃に起床し会議を行うシノンとアルファ。ルミナ、ユウキの二人で朝食を用意し、アリュスフィアはテントの片付けと荷物の整理をしている。
ハマナは温かい飲物を飲みながらじっと座っており、時々落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「ハマナが狙われたことは、きっと偶然じゃない。ギルドマスターの言い方だと、空の使いはハマナ以外にも何人かいることになるよな? もしかすると、他の空の使いも命を狙われてるかもしれない。だから、ギルド間でやり取りされる情報の速さを利用して、一刻も早く他の冒険者にも警告しなければいけない」
「うん。空の使いの命が奪われるようなことが、あってはならない」
「ああ。でも、あくまで、俺たちの最優先事項はハマナの安全だ。皇都に着いたら、すぐにでもギルドに報告しに行こう。ギルドマスターとも連絡が取れると良いな…」
アルファは顎に手を当てながら、話し合いの結果を振り返った。
冒険者ギルドには、通信用魔水晶という遠距離でも会話を可能とする貴重な魔道具が存在する。これはリリーズ王国で発明されたもので、各国の王族や外交官が使用している場合もあるのだという。しかし材料には稀少で高価な水晶が使用されており、高度な技術によって一つ一つ丁寧に製作されているといった面もあり、一介の冒険者や平民には手の届かない品である。
冒険者ギルドにはどの支部にも通信用魔水晶は存在しているため、ある程度の金額を払えば、冒険者同士がギルドを通して遠距離で連絡を取り合うといった使い方もできる。それを利用し、レラン王国のギルドにいるリアナに情報を伝えることも、今後のシノン達にとって重要事項となる。
「ねえ、船で襲われたりしたらどうするの? シノンでさえ大怪我をするような人たちじゃ、船ごと粉々にされちゃうわよ」
荷物の整理を終えたアリュスフィアが、シノンとアルファの会話に混ざってくる。
「大丈夫だと思う。船に乗り込んでくるようなら気配で気づくし、それ以前に船を破壊するのはあちらにとってもデメリットでしかないからだ」
「…それもそうね」
アリュスフィアはシノンの言葉に納得の表情を浮かべる。そして、朝食の準備も一段落したルミナとユウキも三人の会話に混ざる。
「リリーズ王国から戦力をお借りする…みたいなことはできないんでしょうか?」
「できない。そもそもこの依頼が世界各国の冒険者に指名依頼という形で、高額の報酬が支払われてまで護送依頼をしている時点で、リリーズ王国の人手は足りてない。リリーズ王国に着いてからならともかく、ヘルガ皇国の港から騎士団に護衛をしてもらうというのは、有り得ない」
緊急事態であるということもあり、ユウキは今後の安全のためを思い、ひとつの選択肢を口にする。しかし、それはシノンが即答で否定した。
さらに補足として、ルミナはユウキに向けて言葉を続ける。
「騎士団を動かすには、多額のお金が必要になるの。今回指名依頼で各国の冒険者に依頼して護送してもらう形になったのは、その方が人手も時間も、予算も削減できる。私たちは高額の報酬が支払われているから、それにもかかわらず騎士団を要請するのは、今後冒険者として依頼を受ける時の信用が落ちかねない。シノンが言いたいのは、こういうことだと思う」
「…うん、その通りだよ…」
冒険者としての経験も、知識も、ユウキとあまり大差のないルミナがここまで事情に詳しいとは思わず、シノンは返事をするまでに少し間が空いてしまった。しかしすぐに気を取り直して、そのまま言葉を続ける。
「それもあるけど、新たな問題が発生したからと言って、リリーズ王国がすべて対応しきれるとは限らない。頼り切らないことが一番確実だ」
「とにかく、俺たちは俺たちのやるべきことを全力でやるしかないということだな」
「そうだね。前衛は私に任せて。シノンには、いざという時のためにできる限り力を温存していてほしいから」
「あたしもそれがいいと思う。あの女も大鎌の男も、あたしの目が追い付かないくらい速かった。悔しいけど、あいつらに対抗できるのはシノンくらいしかいないし、基本的には戦闘に参加するより、後ろで指揮を執ってもらった方がいいかも」
「それなら、ボクはしばらくシノンさんとペア行動ですね。シノンさんには力を温存していただくなら、防御魔法を同時展開しながらのサポートになるので、前衛の皆さんには少しご負担をおかけしますが…」
「それが正解よ。あたしはできる限り背後の護衛をするから、あんたは前にだけ集中してなさい」
「ありがとうございます、フィア」
今後の行動について、そして陣形についての話し合いが行われた。順調に話はまとまっていき、最終的にアルファとルミナが前衛、ユウキは後衛、アリュスフィアが後方護衛であることはほとんど変わらないが、シノンは遊撃ではなくハマナの護衛と後方支援をメインに立ち回ることとなった。
「これで、異論はないか?」
アルファが話し合いの結果をまとめ、要約したのち、パーティメンバーを見回して確認を取る。メンバーから反論の意見が出ることはなく、全員が頷く。
「よし! じゃあ朝食を摂ってから、出発するぞ」
アルファは立ち上がり、そう声をかけた。皆でルミナとユウキが用意してくれた朝食を摂り、先ほど話し合った通りの陣形でヘルガ皇国の皇都・ナビールを目指す。
皇都に近い街道であることもあって、魔物の襲撃はほとんどなかった。盗賊などの人間の脅威もなく、一行は問題なく皇都ナビールに到着した。そして、冒険者ギルドにてリアナに連絡を取り、今回襲撃に遭ったことを報告するのだった。
『…謎の大鎌を持つ青年と、蔓を操る女性かぁ…』
皇都・ナビールに到着後、ヘルガ皇国の皇都・ナビールの冒険者ギルドを通して、レラン王国の冒険者ギルドに報告をするため、通信用魔水晶を介してリアナと会話することに成功した。アルファがパーティメンバーを代表してリアナと会話をしており、隣では大鎌の青年と剣を交えたシノンも待機している。
シノンはリアナに、大鎌の青年と蔓を操る女性の情報を持っている限り伝えた。それは今後彼らに遭遇する可能性のある冒険者たちへ情報共有をする際に使える貴重な情報であり、情報を冒険者ギルドに集結させることで今後の対策にも繋がるからだ。
「ギルドマスターは、このことについては把握していたんですか?」
『全く。全王様からそのような警告を受けたこともないし、これに関してはボクの方から報告を上げるとしよう。迅速に全国の冒険者ギルドへ通達がされるはずだ。それと、危険手当が支給されるよう図らってあげるから、キミたちは依頼が終わったら、十分な休暇を取るといい』
「ありがとうございます、ギルドマスター」
『こちらこそ。危険な状態であるにもかかわらず迅速な対応に、ハマナ君も命に支障がない状態で守ってくれたこと、ありがとう。ではボクは失礼するよ、また連絡をくれたまえ』
「はい」
その言葉と共に通信用魔水晶からは光が消え、リアナの声は聞こえなくなった。
アルファは小さく息を吐くと、シノンを振り向いた。
「お疲れ様、シノン。宿を探しに行こうか?」
「うん」
アルファに声をかけられたシノンは、ただ一言、短く返した。シノンは複数の傷を負っているし、ほとんど休む間もなく歩き続けていたこともあってかなり疲労が溜まっているはずなのに、アルファにもほとんど疲労を感じさせない声音と表情を崩さなかった。
「シノン、休息のため、ここに滞在していくか?」
「何故?」
「怪我のこともあるし、無理はしない方がいい」
「大丈夫。慣れてる」
アルファはシノンの体調を心配したが、シノンは即座に首を横に振った。
「今はのんびりしていられない。リリーズ王国にハマナを引き渡しさえできれば俺たちの仕事はそこまでだから、できるだけ早く行こう」
「…わかった。でも、いずれにせよここに三日ほど滞在はする。フィアたちは何も言わないが、あいつらも疲れているように見えるからな。その間に、俺は貸し馬車でも探してくるよ」
「ああ、いいかもな」
そんなふうに会話をしながらルミナたちが待つ一階へ戻り、合流した。
今は少しでもトラブルを回避するため、ルミナは少しでも目立つことを避ける目的でフードを被っている。なにせ、黒髪の少年とレイヴァが共に行動している噂が立ってしまえば、大鎌の青年と蔓を操る女性の姉弟が、その噂を聞きつけて再び襲ってくる可能性があるのだから。
「皆、まずは宿を探して荷物を置いた後、各自休憩を取るぞ。宿を取ったら、俺は夕食までに貸し馬車を探してくる。ナビール出発は三日後、それまで十分に休息を取るように」
「わかったわ」
「はい」
「わかった。貸し馬車、いいね。体力の温存にちょうどいいかも」
貸し馬車を使うメリットは多くある。徒歩よりも圧倒的に早く、体力を温存しながら長距離を移動でき、目的地まで到着した後は貸主が馬車を引いて皇都に戻っていくため、馬車の管理関係全ての心配もいらない。
「はーあ、仕事じゃなきゃ、服飾の国と言われるナビールのお店、見て回ったのになあ」
宿を探すため冒険者ギルドから出た一行。
今回は休息のために滞在するだけであって、チグアム皇国の皇都・ガーザの時とは違い観光を楽しむことはできない。だからこそ、アリュスフィアは残念そうにため息を吐きながら、そう呟いた。
「あはは、仕方ないよ。いつかまた遊びに来れるといいね」
「そうね。お金を貯めて、旅行でもしたいわ」
ルミナとアリュスフィアのそんなやり取りを聞きながら、アルファが地図を開く。皇都・ナビールの観光ガイドには冒険者向け宿の情報も載っており、警備がしっかりした宿を選び向かうことにする。
全員が十分に体の休息を取り、三日後、ナビールを発つ日がやってきた。
「通信用魔水晶」 知名度 ★★★☆☆
全王王国リリーズで発明された、遠距離通信用の魔水晶。
主に各国の王族や外交官、冒険者ギルド間で使用されている稀少な魔道具。
同じダンジョンから採掘された特殊な水晶には、魔力の繋がりが常に出来ているらしく、それを利用して声を遠くへ届けるといった原理らしい。




