↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の聖者  作者: 森川 悠梨
第二章 冒険者の国
23/86

022. 喧嘩勃発?

!! 注意 !!

今回の話では、人間が命を落とす描写が含まれます。苦手な方は読み進める前に、ブラウザバックすることをお勧めします。

 水面の百合の採集依頼を無事終えた五人は、帰りの道中で昼食を摂り、日が暮れる少し前の時間帯になった。

 街道を歩きながら王都は近くに見えてきており、あと数十分でたどり着く距離だろう。しかし、王都よりも随分手前に、不穏な雰囲気を漂わせる複数の人影が見える。


「あれ? なんだろう…」

「人が、倒れてる?」


 更に近づいて行くと、盗賊と思われる複数人の男たちが、旅人と思われる二人の人間の命を奪い、堂々と荷物を物色している場面だったことが判明する。

 アリュスフィアの歩は少し遅くなり、ルミナとユウキも多少の不安に駆られながらも歩みを進めていく。それを察したアルファは三人の視界をできる限り遮るような場所を歩き、シノンは何事もないかのように歩いている。


「これをやったのはお前らか?」


 アルファが口を開こうとした時、誰よりも早く口を開いたのは、いつの間にか先頭を歩いていたシノンだった。アルファは後をシノンに任せようと口を閉じ、静かに様子を窺っている。


「あん? んだよ、ガキか」

「ん? おい、後ろにいるあの女、レイヴァじゃないか?」

「はは! 今日は運が良いぜぇ。おい小僧、命が惜しければそこのレイヴァの女、置いて行きな」

「なっ…!!」


 自分たちが命を奪ったであろう旅人の荷物を物色していた盗賊の男たちは、シノンの問いかけなど無視して口々に好き勝手言葉を発していた。そして、一際目を惹く美少女であるルミナの姿を見つけた盗賊は、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、無遠慮に彼女の全身を舐め回すように眺めていた。


「…もう一度だけ訊く。これをやったのはお前らか?」


 盗賊たちが発した有り得ない発言に驚愕してアルファや他の面々が言葉を失う中、声のトーンを一切変えないシノンの声が再び発せられる。

 盗賊たちは不機嫌そうにシノンの方を向き直すと、舌打ちをしながら武器をシノンに向け、脅すように声を荒げた。


「チッ、見りゃわかるだろ! 俺らは盗賊だぜ? 俺らの言うことをちゃーんと聞かねえと、次はお前ら…」

「え」

「っ!? ちょ、まって…!!」

「いやあぁぁ!!」


 その場にいたほとんどの者が、動揺を隠せない声を上げる。シノンは話している盗賊の言葉を遮るように、一切の躊躇いなく男の首を刎ねたからだ。

 あまりに速く鋭い一撃だったため、男の身体が地面に沈んでからようやく血が噴き出してきた。

 男たちは状況を理解するのに時間がかかったものの、仲間が目の前の少年に殺されてしまった怒りで我を忘れ、シノンを口汚く罵りながら武器を振りかざしていた。しかし、そんな怒りに任せて振りかざされる攻撃にシノンが動揺するはずもなく、余裕をもって攻撃を避け、弾き返し、気が付けばシノンに襲い掛かっていた全員が地面に沈むことになっていた。


「たっ…助けっ…!!」


 最後に残った一人も、目の前にいる少年がどれだけ異常かを理解し、命乞いを始めた。しかしシノンがそれを聞き入れることはなく、最後の一人の命も刈り取ってしまった。

 辺りは血の海と化してしまっており、とても人通りの多い街道で起こった惨劇とは思えない光景だった。とはいえ、王都の西側は夕暮れ時になると人通りが極端に減るため、幸いというべきか、この場の目撃者はほとんどいない。いたとしても、仕事帰りの冒険者くらいだ。

 シノンは剣に付着した血を払って鞘に納めると、死体を一か所に集めて焼却の準備をし始める。


「ルミナ、地面を洗えるか?」

「あ、うん。わかった」


 水属性の魔法を扱うことができるルミナに声をかけ、自身は殺されてしまった旅人を弔い盗賊の死体も焼却処分をしようとした時、大股でシノンに歩み寄ってきたのは、思考停止してしまい硬直していたアルファだった。

 アルファはシノンの肩を乱暴に掴んで振り向かせると、軽蔑するかのような視線を向けながら静かに問う。


「…なぜ、殺した?」

「盗賊だからだ。何か悪いか?」


 シノンは平然とした声でアルファの問いに答えた。アルファの声には熱が籠っているとすれば、シノンの声はその辺に転がっている石のように冷たく平坦なものだった。


「それでも人だ。最後は反省もして、二度としないと口にしてる奴もいたはずだ」

「口約束は信用できない。それに、恐怖から来る命乞いは、見逃せばいずれ自分に返ってくる」

「っ…! 人を! 人の命を何だと思ってる!?」

「お、お兄ちゃ…」


 非常に珍しく声を荒らげている兄の姿を見て、アリュスフィアは震える声で小さく兄を呼ぶ。しかし、当のアルファは興奮しているからなのか、シノンへの怒りで我を忘れているのか、彼女の声は届かない。


「やらなければやられるし、生かして恨みを買うのも面倒だ。人の命が軽いこの世界では、それが摂理だ」

「おまえ…!!」

「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて」


 あまりにも二人の会話が平行線だったため、ルミナが慌てて止めに入る。アルファはシノンの胸倉に掴みかかりそうな勢いで話しているのに対し、シノンはそんなアルファに対し冷やかな反応しか返さない。


「俺は至って落ち着いてる。あのまま放っておいたら、次の犠牲者が出るはずだった、だから殺した。何が間違ってる?」

「俺が彼らを説得して、自首するよう勧めるつもりだった。シノン、お前も同じ考えだと思って任せたが、どうやら違ったようだな」

「説得して、その後どうなるのか予想はできていたか? 説得が通じる相手なら、最初から盗賊になんてなっていない。こちらが攻撃されて死ぬか、よくて怪我をするのは明白だろう」

「それでも命まで奪うべきではなかった! 更生の機会も与えることなく命を奪うなんて、外道のすることだろう!!」


 シノンは言葉通り、至って冷静に言葉を発していた。普段は真面目で、怒るところなど全く想像もつかなかったアルファが、人の命を軽く扱っているように思える言動を取っているシノンに対する怒りで声を荒らげてさえいる。

 実際、両者共に間違ったことは言っていない。

 人の命は軽く扱われるべきではなく、同族として敬い、尊重するべきものだ。しかし冒険者稼業をする上では、盗賊など、善良な人間に害の及ぶ存在は消してしまわなければならないのも事実。

 警備隊に捕まって牢屋に入れられたとしても、出所してまた盗賊になることの方が多い。何故なら、真面目に働いて自立する力などほとんどの者が持っていないからだ。

 シノンは、幼い頃からの長い旅での生活で、痛いほどそれをよく知っていた。


「とんだ驕りだな。命を奪うことなく無力化できるだけの余裕が、お前にあるのか?」

「っ…!!」


 相手を殺すのは簡単だ。手加減などしなくても良いのだから。しかし、相手を殺さずに無力化するというのは、自分と相手の力量の差を正確に把握し相手を気絶までに留めるだけのみねうちをするということ。

 それは熟練の技術と経験が必要な芸当であり、Dランクの冒険者ができるものではない。


「…早く死体を燃やさないと、近隣の人たちに迷惑がかかる。俺は作業を続ける。ユウキ、アリュスフィアの体調を診てやってくれ」

「は、はい…」


 血の臭いで不愉快に感じる旅人や、街道付近に魔物を引き寄せてしまう可能性が高いことから、外で命を落とした者はその場ですぐに焼かれてしまう。死体を腐らせずに街まで運ぶのは、かなりの労力と金と技術が必要になるからだ。

 冒険者や旅をする以上、自分が外で死んだ時にそのような処置を施される覚悟は皆しているだろう。

 そういった時のために、自らの名前や出身地、遺書などを刻むペンダントをしている旅人は多い。シノンは殺された二人の旅人の懐からペンダントを取り出し、予めそのペンダントに入っていた礼金も一緒に自らの荷物へ入れた。

 他の遺品は、全て燃やすことにした。基本的には旅人の遺品は発見者本人が好きに持ち出しても良いものだが、死んだ後とはいえ自分のものを持ち出されて良い気になる者はいないだろう。それをわかっているシノンは、基本的に旅人や冒険者の遺品は取らず、一緒に燃やしてしまう。

 時々、遺書に自分の遺品の扱いについて書かれていることがある。そういった場合は、遺書に書かれている通りにするが、この旅人には遺書がなかった。

 だから、旅人が持っていたものであろう物も全て一緒に火を放って、丁寧に弔った。その姿には、誰が見ても、故郷から離れた土地で果ててしまった命に対する敬意が払われていた。

 続いて盗賊達の死体も焼き払って火の処理もきちんと施した後、五人は無言のまま街へ戻り、衛兵に先ほどの旅人のペンダントを渡してからギルドへ向かい、依頼の完了報告まで済ませるのだった。

 ここまで皆無言で、その日はそのまま解散となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。