019. 初めての依頼!!
『リベンジ?』
先ほどのトラブルの詳細をルミナから聞いたアルファとアリュスフィアの二人は、結論から口にしたルミナの意外な言葉に思わず声を上げる。
「うん。少し前に、大きな薔薇の花束と一緒に私たちを勧誘してきた人がいてね。丁重にお断りした時、恥をかかされた! って逆ギレされたことがあったの。その人は、この王都でも権力のある貴族の令息で、冒険者の間でも有名な人だったみたい」
依頼地へ向かう道中で、ルミナはできる限り簡潔に、しかし内容がしっかり伝わるように話す。
「その時もシノンが追い払ってくれたの。でもまた私に声をかけてきて…断ったんだけど、護衛に雇ったあの大柄の冒険者たちが、シノンに襲い掛かって、言うことを聞かせようとしたの」
「そんなことが…」
ショックを受けたかのような反応を見せたアリュスフィア。大変だったねと、慰めるようにルミナの背に優しく触れた。
アルファが最初に見た光景は、シノンが男たちを吹き飛ばす光景だったため、もしかしてシノンがトラブルを起こしてしまった側だったのでは…と少し心配していたのだが、ルミナが話す通りであれば、シノンはトラブル解決のため、そしてルミナを護るための最短ルートを選んだことになる。
アルファはシノンのことを一瞬誤解してしまったことを少し申し訳なく思いながら、シノンに向けて口を開く。
「びっくりしたよ。シノンは相手との対格差に関係なく、あんな動きができるんだな」
「…まあ」
相変わらず口数の少ないシノンだったが、彼は自分の二倍以上の体格を持つ冒険者相手に息ひとつ切らさずに、武器も手に取らず圧倒した。アルファの中でシノンの冒険者としての実力がどれほどのものなのか、少し楽しみになるのだった。
「それにしても、この国で貴族だなんだっていうのはあまり感心しないな」
アルファは、ルミナの話に出てきた貴族の令息に冷たい反応を返す。
レラン王国においては、冒険者の需要は年々増すばかりだ。
王国である以上、王族や貴族は存在しているものの、貴族は相手が平民であっても、冒険者にはあまり強く出ることができない環境にあるのだ。その理由は、レラン王国が制定する法律にある。
いかなる場合でも、貴族は冒険者に何かを強制してはならず、また自らの地位をひけらかし、横暴に振舞うことは禁止するというもの。
貴族の令息や令嬢は、冒険者のことを学ぶため、成人してからの数年は冒険者として働かせる親もいるほどだ。それは、彼らが将来冒険者に依頼をする際、冒険者に訴えられるようなことがあっては、貴族は弱い立場にあるためでもある。
「どんな国でも、自分が偉い存在だと思う人はいるものだよ。でも、目撃者はたくさんいたし、何かあっても私たちが悪くなることはないと思う」
「そうね。とにかく、次からはあたしたちも一緒に行動するわ。そんな奴らが来ても、口喧嘩なら勝てる自信があるわよ」
「うん、ありがとう」
アリュスフィアは自信に満ちた笑みを浮かべ、ルミナを安心させるかのようにそう告げた。そんな彼女に対して感謝の念を抱き、嬉しそうな笑みを浮かべながら、ルミナは言葉を返した。
「災難だったが、今日はこのメンバーでの初めての依頼だ。気を取り直して、せっかくだし楽しんで行こう」
重たくなりかけた空気を元に戻すように、アルファが声をかけた。
初日にトラブルに巻き込み、空気が重たくなるような話をしてしまったにも関わらず、迷わず力になると言ってくれて、何でもないことのように振舞ってくれる兄妹ことをルミナは非常に有難く思っていた。
アルファの言う通り、今日はこのメンバーでの初依頼である。ルミナは改めて気を取り直して、依頼のことに集中することに決めたのだった。
*
「よし! 順調だね!」
「思いがけず大きいのもいましたね。無事に討伐出来て良かったです」
「お兄ちゃんと二人で冒険者をしていた時は、臨時でパーティを組むことのあったのだけど、ルミナとユウキたちと一緒に戦ってる時が一番楽だったわ! まるでベテランの冒険者ね!」
前日の話し合いの通りの配置でファングボアの討伐を順調にこなし、目標の六体討伐を達成した五人。
思いがけず平均よりも巨体を持つ個体を発見した一行だったが、一切の滞りもなく依頼条件を達成できたのだった。
「意外だったなぁ。シノンの本職は前衛だったのか」
「意外?」
ファングボアの剥ぎ取り作業を行う過程で、アルファはシノンにそう声をかける。シノンは視線を手元から離さないまま言葉を返し、アルファもそれを気にすることなく頷いて、そのまま言葉を続けた。
「うん。シノンはローブを身にまとっているし、どちらかというと小柄な方だから、魔法使いか何かだと思ったんだ」
「ふーん」
シノンは短く、興味のなさそうな反応だけを返した。アルファは少し失礼な言葉だったかもと思ったのか、少しだけ慌てたように言葉を続けた。
「えっと、とても素早くて鋭い動きで、俺には真似できない技だったよ。誰かに剣術を習ったのか?」
「いや…そういうわけでは」
「もしかして、自己流なのか?」
「……」
シノンは手を止めた。何かを考え込んでいるようにも見えたが、彼がアルファの言葉を無視したことはなかったため、何かまずいことでも聞いたのかと少し焦ってしまう。
「無理に答えなくてもいいよ。冒険者にとって、自分の戦闘能力はブランドのようなものだし…」
「うん」
短く返した後、シノンは再び作業を再開した。しかしすぐに再び手を止め振り向いたかと思うと、ルミナたち三人が談笑しながら剥ぎ取り作業をしている方へと飛び出して行く。
「えっシノン!?」
突然の出来事で一切状況を把握できなかったアルファだったが、三人のすぐそばにまで迫っていたであろう二匹の犬系の魔物を仕留めているシノンの姿を見て、一瞬で理解した。
「怪我は?」
「ないよ! 私たちは大丈夫」
「び、びっくりした…全然気が付かなかったわ。ありがとう、シノン」
「すみません、シノンさん…」
シノンは特に気にした様子もなく、無言で首を横に振る。
本来なら、血の臭いにおびき寄せられてきた魔物や野生動物に襲われないよう、剥ぎ取り作業中は見張り役を二人立てるべきだ。冒険者の間では常識であり、鉄則でもある。
しかしシノンが敢えてそれを行わなかったのには理由がある。剝ぎ取り作業を行いながらでも魔物や野生動物の気配を察知し、皆の安全を守ることができると判断したこと以外にも、ルミナとユウキが、アリュスフィアと非常に楽しそうにしているのを見ていたからだ。
レラン王国の王都に来てからというもの、冒険者の中にも様々な人間がいることを知った二人は、相当にストレスを溜めていたことをシノンは知っていた。それこそ、先ほどのトラブルもそのストレスの要因となっているだろう。
社交的なルミナでさえも、知らない人間と話すことが苦になってしまうのではないかというほど人間の汚い欲望を見た。
ユウキとて元々人付き合いが得意な方ではなく、むしろ荒々しい冒険者にばかり出会ってきたからこそ、トラウマになりかけていると言っても過言ではないだろう。
そんな中出会った、気の合う友人のような存在。二人のあんなにも楽しそうな様子は久々に見るもので、そっと見守りつつ、身の回りの安全は自分が確保すると決めていたのだ。
「ありがとう、シノン。シノンが気が付いてくれていなかったら、どうなっていたか…」
状況を把握したアルファも作業を中断して駆け寄って来て、感謝の言葉を口にしていた。
「やっぱり見張りは必要だよね。私、今からでも見張り番するよ」
「俺がやるから、お前たちはそのまま作業してろ」
ルミナが申し訳なさそうにしながら見張り番を申し出るが、即座にシノンがそれを止める。
「それなら、俺も一緒に見張りをしようか?」
「大丈夫。剥ぎ取り作業も大事だし、早く済ませて」
「わかった。手が必要だったら、いつでも呼んでくれ」
シノンの様子から本当に手伝いは必要なさそうだったため、アルファは素直に引き下がる。
剥ぎ取り作業をできるだけ早く済ませることは、この場に留まる時間を短縮することにも繋がる。しかし見張り番の戦力を削ぐことは、見張り番の負担を増やすことにもなる。
そのため、作業をする者と見張り番を担当する者では適度にバランスを取らなければならないのだが、誰も気づかなかった犬系の魔物…シルヴァハウンドの気配を察知し、仕留めた実力を持つシノンならば問題ないだろうと全員が判断したのだった。
「ありがとう。シノン、お願いね」
「うん」
ルミナにお願いされずとも、シノンは積極的に見張りをするつもりでいた。
自分が対処すれば良いという考えが甘かったことに気づいたシノンは、皆を安心させるという意味でも、初めから見張りをしておけば良かったと、少し後悔の念を抱くのだった。
「シルヴァハウンド」 知名度 ★★★★☆
魔素を体内に取り込み、魔獣から魔物に進化した狼型の魔物。
闇狼と正反対の性質を持つとされる、グレーの体毛を持つ狼系の魔物。
森に暮らし、昼に活動する。普段は小動物や草食動物を狩るが、縄張りに入って来た者がいれば自身よりも大きな体格を持つ者でも襲い掛かることがある。




