018. 初めてのパーティ依頼?
カフェで美味しい珈琲やお茶菓子を共有しながら親睦を深めた五人。食事を終えた後に話し合いが行われ、前衛をルミナとアルファ、治癒を中心に行う後衛をユウキ、援護射撃や状況によって前線に出るシノン、シーフであり戦闘中は後衛を護衛する役はアリュスフィアという配置になった。
昼過ぎの時間帯から依頼に出るには外で一泊以上する可能性が高くなるため、パーティの相性等がわからない状況での野営を挟む初依頼は避けた方が良いという決断に致り、明日の早朝に集合して簡単な依頼をこなす予定となった。
カフェの前でアルファたちと別れた後、宿に戻ってゆっくり休んだ。
「…ルミナ、ユウキ、起きてるか?」
翌朝早朝、朝一番の鐘が鳴る前、扉を叩いてそっと声をかける者がいた。フードを深く被っていて、他の客の迷惑にならぬようなるべく小声で話していた。
「シノン、おはよう」
扉を開けて迎えたのは、準備万端のルミナ。いつも通り動きやすく実用的な装いで、普段通りの明るい笑みを浮かべていた。
「私は準備できてるよ。あとはユウキが髪を纏められれば出発できる」
「わかった。下で先に待ってる」
シノンも普段と変わらぬ様子で応答し、フードを深く被り直して歩き出した。一階にある食堂で椅子に座りながらルミナとユウキを待っていると、数分としないうちに二人が下りてきた。シノンは椅子から立ち上がり、三人で宿を出た。
朝の鐘が鳴り出すと、串焼きやサンドイッチなどといった朝食にぴったりの小料理が売られる屋台が出店し始める。この時間帯は冒険者や傭兵、旅人に役人などといった人々が活動し始めるため、移動しながら済ませられる料理を出す店にとって、この時間帯の商売は逃せない。
シノン達もそのような屋台から朝食を購入し、食べながら冒険者ギルドを目指す。購入した料理は全て作り立てであり、温かくて非常に美味であった。舌が肥えているシノンもその味に満足し、顔にこそ出さないがいつもより少し表情筋が緩んでいる様子さえあった。
「あ、来た来た。おはよう、ルミナ、ユウキ、シノンー!」
「フィア! おはよう。早いね」
「あたし達は元々早起きなの。お兄ちゃんは中にいるわよ。行きましょ!」
「うん!」
フィアに手を引かれて、ルミナとユウキの二人はギルドへと入って行く。シノンもそれに続き、早朝の混雑したギルド・ソルマーニの依頼板の前まで来た。
パーティの平均冒険者ランクはDであるが、最初は足並みを揃えるために簡単な依頼をこなすことにしようと、昨日の話し合いで決まっていた。アルファはDランク依頼とEランク依頼の間に立っており、シノンは人混みを掻き分けて彼の隣に立つ。
「良い依頼はあった?」
「うわっ、なんだ、シノンか。驚かすなよ」
「ごめん」
「いいよ。おはよう、これなんかちょうどいいんじゃないかと目星はつけたんだけど、どうかな?」
そう言いながらアルファが指をさしたのは、Dランクの魔物である角兎の群れの討伐。
角兎は角を持つ野兎型の魔物であり、また名前の由来である毒ウサギの異名も持つ。鋭い角は動物の肉を貫き体内に神経毒を注入する。そうして弱った獲物を喰らうのが、角兎の狩りの方法である。
一個体の存在は人間にとってさほど脅威にはならないが、縄張り意識が非常に強く人間の暮らす土地で群れを成すことも多い。場合によっては群れに襲われることで大人でも命に関わる脅威になり得るため、時々こうしてギルドの依頼板に張り出されるのだ。
一匹であればEランクの冒険者でも討伐できるほど弱い魔物だが、群れの規模によってはDランクの依頼板に張り出されることもしばしばある。
「へえ、角兎か。この辺りにもいるんだね」
シノンの背後から現れたのはルミナ。レラン王国に来る途中でも出会った角兎は、旅の途中で食糧として何度か捌いた経験を持っている。毒を持つのは頭に生えた角のみであり、角兎の攻撃方法も角を使った突進攻撃のみの場合が多いことから、討伐も比較的単純でやりやすい。
「でもいきなり群れの討伐なんて、大丈夫?」
アリュスフィアもルミナに続いて兄へと声をかけた。単体で活動する魔物を相手にする場合と、群れの魔物を相手にする場合では戦い方がかなり異なる。
アリュスフィアが懸念しているのは、複数体の群れを相手にする戦闘が、この面々で行う初めての依頼としては少し難易度が高いのではないか、ということだった。
「初めての依頼で難易度が低いものとして選ぶなら、そっちよりもこっちの方が相応しいと思うわ」
アリュスフィアが指さしたのは、巨大な牙と通常の五倍もの体格を持つのが特徴である豚の魔物、ファングボア。人間が育てていたはずの家畜が野生化し、魔力の影響を受けることによって魔物化したとされている低級の魔物で、単独で行動するDランクの魔物だ。
繁殖能力が高く数が多い上、ほとんどの刃を拒む分厚い肉、まともに食らえば即死級の突進攻撃に、駆け出しの冒険者は皆苦戦する。ただし、そんなファングボアには致命的な弱点が存在する。それは、一度突進攻撃を始めると、まっすぐにしか進めず、且つ急ブレーキをかけることができないということだ。
ファングボアの特性さえ知っていれば、容易く対処することが可能だ。それゆえのDランク指定であり、その肉は美味で市場でも安定して流通しているため、Dランク冒険者の主な収入源としても有名である。
「確かに、パーティの連携を確認するなら、ファングボア辺りがちょうどいいかもしれませんね」
「でしょ? お兄ちゃんってば、自分にとっての「簡単」を基準にしちゃダメよ?」
「あはは…すまん」
アリュスフィアに軽く注意されたアルファは誤魔化すように小さく笑いながら、恥ずかしそうに頬を掻く。
「まあまあ。皆異論がなかったら、この依頼で行こう。どうかな?」
可笑しそうに笑っていたルミナもアリュスフィアの選んだファングボア討伐依頼に出向くことに賛成らしく、全員の顔を見回しながら問う。しかし五人の中で反論が出ることもなく、パーティでの初依頼はファングボア討伐依頼に決定した。
「よし! それじゃあ、私が受付に行ってくるよ。みんなは入り口で待ってて!」
「俺も行く」
「わかった。アルファとフィア、ユウキのこと少しお願い」
「ああ、ありがとうな。それじゃあ行こうか」
ルミナが依頼板から依頼書を剥がして受付へと持っていこうとした時、間髪入れずにシノンが同行を申し出た。ルミナも特に気にした様子もなく頷くと、二人で受付へと歩いて行く。
アルファたち三人もルミナに言われた通り、混雑するギルド内で邪魔にならないよう、ギルドの入り口付近でシノンとルミナの二人を待つことにした。
「…二人とも、ちょっと遅くない?」
三十分ほど待機する三人だったが、シノンとルミナの二人が帰ってくる気配がない。
いくらギルドが混雑し、複数あるギルド受付窓口が全て行列になっているとはいえ、これだけ大きなギルドの受付嬢は全員が非常に優秀な人材であるため処理能力も非常に高い。そのため、行列の最後尾にいても十分前後で依頼に繰り出すことができるようになっているはずだ。
「…ボク、少し様子を見てきます」
「いや、俺が行ってくるよ。二人とも、ここで待ってて」
「わかった。大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
ユウキが少し落ち着きのない様子で言葉を発していたが、彼女は容易くこの人混みに流されてしまいそうなほど小柄な体格だ。半分荒くれ者のような者が多い冒険者が多くいる中で容姿の整ったユウキを一人放り出すことは避けた方が良いと判断したアルファが、自ら名乗り出てシノンとルミナの様子を見に行くことにした。
ギルド・ソルマーニは非常に大きな冒険者ギルドだ。ソルマーニに所属登録されている冒険者のための宿舎まであるこのギルドは、出入り口から見て手前側に酒場やカフェ、図書館などの施設が存在し、廊下を抜けて奥の広間に依頼板と受付などが設置されている。
広間のある方角を目指して歩みを進めるアルファの耳に、徐々にどよめきのような冒険者たちの声が聞こえてきた。やはりなにかトラブルでもあったのかと思いながら、人混みを掻き分けてその中心へとたどり着く。
「ぐわあ!!」
人混みの中心にたどり着いたアルファが真っ先に目にしたのは、大柄な男が自身の足下に吹き飛ばされてきた光景だった。それは正確に、集まっている人達を巻き込まないギリギリの場所で止まるよう計算されたものだ。
視線を目の前に戻すと、アルファの足下にいる男とほとんど同じ体格を持つ男が、見覚えのある小柄な冒険者に片手で投げ飛ばされていた。
「し、シノン? シノンなのか!?」
「あ、アルファ…!」
アルファはそれがシノンであることが一瞬でわかった。目立たない色の外套に、小柄でありながら隙のない立ち振る舞いをしている冒険者。そして、その傍らに立つルミナ。
ルミナは申し訳なさそうな顔をしながら駆け寄ってきて、アルファに頭を下げた。
「ごめんね…! たくさん待たせてしまっているよね」
「いや、構わないよ。それよりも、なにかトラブルか…?」
「うん…少しね。またあとで詳しく話すよ…シノン、大丈夫?」
ルミナはアルファに謝罪をした後、複数の男を投げ飛ばし終わったシノンへと駆け寄って行った。彼女に話しかけられたシノンも平然とした様子で、特に怪我をしている様子もなく安堵するアルファ。二人を迎えに行き、早く外に出ようと促す。
小柄な体格ながらも大柄な冒険者複数名を圧倒したシノンに畏怖の念を抱いたのか、人混みが割れて道のようになり、三人は無言でその場を去った。
「あ、お兄ちゃん! ルミナとシノンも!」
「お待たせ! 遅くなっちゃってごめんね」
「大丈夫です! 二人とも、お怪我とかは…?」
「ユウキ、心配かけてごめんね。私もシノンも大丈夫だから」
ルミナは、心配そうに声をかけてくれたユウキを安心させるように笑みを浮かべる。しかしその顔は少しだけ疲労の色が浮かんでいた。
「今日はやめておくか? 無理はしないでくれよ」
「ありがとう、無理はしない。私は大丈夫だよ。ほら、とにかく行こう」
アルファもアリュスフィアも、心配はしたものの強く止めることはせず、ルミナに続いてギルドを後にするのだった。
「角兎」 知名度 ★★★★☆
魔素を体内に取り込み、魔獣から魔物に進化した野兎型の魔物。肉食。
別名:毒ウサギ。鋭い角で動物の肉を貫き、神経毒を注入し捕食する。
成人した人間にとってはさほど脅威にはならないが、縄張り意識が強く群れを成して活動する。一体のランクはE±、群れのランクはD+にもなる。
「ファングボア」 知名度 ★★★★★
魔素を体内に取り込み、魔獣から魔物に進化した猪型の魔物。雑食。
人が育てていた家畜が野生化したと言われている。繁殖能力が高く、巨大な牙とほとんどの刃を阻む分厚い肉、まともに食らえば即死級の突進攻撃が特徴。D±指定。
しかし、突進攻撃はまっすぐにしか進めず、ブレーキはかけられない。




