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水の聖者  作者: 森川 悠梨
第二章 冒険者の国
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仮パーティ結成

 レラン王国には、多種多様な能力を持つ冒険者が集まる。

 技術と経験が必須のシーフ系、師を持つ魔法使いの他、元剣闘士や武術家、元暗殺者や騎士などといった珍しい役職を持つ冒険者も多く存在している。

 冒険者ランクにはFからSまでの七段階があるが、天災級の魔物の討伐や災害解決のための功労などにより、冒険者ギルド総本部と総本部のある全王王国リリーズから認められたSランク冒険者は、世界で六人しか存在していない。そのうちの三人はレラン王国に所属しており、他は他国に一人ずつ存在している。

 Sランクという規格外の存在の半数が一つの国に属しているというだけでも異常であり、一国家が所有する戦力としては過剰といえる。しかし、冒険者ギルドとは国から独立した組織である。

 国が戦争を始めようと冒険者ギルドは一切関与しないし、高ランクの冒険者が国や貴族などから依頼を受けて戦争に参加することも禁止されている。これは、国同士のパワーバランスを保つために全王が取り決めた憲法であり、数々の大国が加盟する同盟に定められる法律だ。そのため、現代において高ランクの冒険者が参加する戦争により、国同士のパワーバランスが崩れたことはない。

 現在シノンの冒険者ランクはⅭランクであり、冒険者ギルドに登録したばかりのルミナとユウキはもうDランクにまで達している。

 Cランクはベテラン冒険者のランクであり、成人を迎えたばかりの少年にしてはかなり高い基準にいると言える。Dランクは一人前と言われるランクで、独立して自らパーティを結成することもできるとされるランクだ。ルミナもユウキも経験が豊富なシノンに様々なことを教わりながら修業をした身であり、自らの持つ才能を最大限引き出し、冒険者として日々活躍している。きっとそれらも相まって、登録から一年前後という短期間でここまで来れたのだろう。

 そんなシノン、ルミナ、ユウキの三人が今日も依頼をこなしてギルドへ報告に戻った時、ギルドから連絡が入る。


「あ、ルミナさん。三日前に登録してくださった仮パーティメンバーの紹介の件ですが、パーティメンバーの紹介の準備が出来ましたよ」

「え、本当ですか? 私たちはどうすればいいですか?」


 楽しみに待っていた、新たなパーティの仲間。ついに対面できるという話なので、ルミナは声高く受付嬢に返事を返していた。


「相手の冒険者の方にもすでに通知をしているので、ルミナさん達のご都合が良い日付を教えていただければ、早くても明日には対面の手続きができますよ」

「私たちはいつでも大丈夫です。明日から空いていますよ!」

「かしこまりました。ではまた明日、お昼にギルドへお越しください」


 満面の笑みを浮かべながら返事を返すルミナ。

 足取りも軽くシノンとユウキの下へ戻ったルミナは、早速新たなパーティメンバーが加わることを報告した。シノンは一言、そうか、としか答えていなかったが、ルミナは一切気にしていなかった。シノンの声色には、無関心だったり緊張だったりといった堅い印象を一切受けなかったからだ。


「そういえば、シノン、もう一本剣を買ったの?」

「うん。なんか馴染みのある重さと切れ味だったから、少し試してた」


 ルミナは、シノンが帯剣している見覚えのない剣についてシノンに尋ねていた。

 その剣はラトス帝国から輸入されたらしい剣で、片刃の長剣だった。シノンは机の上に、鞘に納められたままの剣を出しながらそう告げた。

 以前使っていたのは西洋の長剣で、両刃の平均的な太さの剣だった。しかし、シノンが新調したものは片刃で、細身の剣。細剣などといった突きに特化しているような細さまではなく、かといって一般的な長剣よりも細い、軽量化された武器だった。


「へえ、綺麗だね」


 鞘に施された美しい彫刻は、花や木を模したものだった。彫刻の施された鞘は、ラトス帝国では稀少な素材を用いて精製された武器であることが多いらしく、値段も相当張る。しかもその武器をしっかりと使いこなせるかは使い手次第…だが、戦闘に関してはシノンならば、あまり心配はいらないだろう。


「ラトス帝国からの輸入品で、花や木の装飾があるのは、とても貴重な剣だと聞いたことがあります。何の素材が使われているんですか?」

「ベースは星月銀(ミスリル)、そこに水の魔石(アクアマリン)風の魔石(ターコイズ)の粉末を溶かし入れて、軽量化の付与がされているらしい」

「三重付与の剣? すごいね!」


 ルミナは目を見開いていた。この世界の多くの魔道具や街の城壁などには、付与魔法が施されていることが多い。そして稀に、武器や防具にも付与魔法が施されている。金属と魔力の親和性は高く、付与の難易度が低いからだ。ただ、付与魔法を習得している人間はそう多くないし、一つの物体に複数の付与を施せる人間も少ない。

 水と風の魔石の粉末を星月銀(ミスリル)と呼ばれる、魔力との親和性が最も高いとされる金属に溶かし入れることで属性の二重付与を施し、星月銀(ミスリル)が元より持つ特性である軽量化付与を成功させた一品となっている。


「…でも、高かったんじゃないですか?」


 ただでさえ砂糖や甘味といった嗜好品を普段から自分たちに買ってくれているシノンの懐だ、ユウキはもしシノンの懐が寒くなるようなら、一部の食費を自分も負担しようと考えていた。


「…確かに珍しいけど、最近はこの手の技術が確立しつつあるみたいで、そこまで高くはなかった」

「最近はよく出回っている…ということですか?」

「うん。たまに見る」


 ユウキに対して大丈夫、というように首を横に振りながら、シノンは言葉を続けた。普段からシノンが多めに負担している食費について気にしているのは知っていたし、その上で自分の武器や備品等の出費が必要な時のための分は用意していたから。


「とりあえず、今日はもう休もうか」

「そうだね。明日のお昼にまたギルドに来てって、だから明日はお休みだね」


 ルミナは手帳に明日の予定を刻み、三人は共に宿へ戻っていくのだった。


 *


「初めまして。俺はアルファ、こっちは妹のアリュスフィアだ」

「初めまして! お兄ちゃんと一緒にタッグで冒険者してます!」


 翌日の昼、ギルドから紹介されたパーティメンバー候補との顔合わせが行われた。シノン達三人は約束の時間よりも一時間ほど早くギルドに赴いたが、どうやら相手方はそれよりも早くギルドへ来ていたらしい。

 予定よりも早く人が揃ったということで、一時間も早くギルドから二人が紹介されることとなった。


「初めまして! 私はルミナ。役職は剣士で、時々後方支援魔法を使うよ。こっちは後衛魔法使いのユウキ、それと前衛剣士のシノン。よろしくね」

「ご紹介に預かりました、ユウキです。よろしくお願いします」

「…どうも」


 初対面の人間を相手に緊張しているシノンが、フードを掴みながら軽く会釈するだけだったのに対し、ルミナは一切人見知りせず意気揚々と自己紹介をする。そして、あまり人付き合いが得意ではない二人のことも紹介するのだった。


「紹介ありがとう。俺は、見ての通り剣と盾を扱うんだ。基本は前衛で戦う」


 二人組の兄、アルファ。身長は約一七五センチメートルほどのやせ型の青年で、紺色の髪を携えている。社交的で明るい笑みを浮かべており、女性好きのする顔立ちをしていた。

 動きやすさのためか髪は短髪に切られていて、左耳には月のような形を模したピアスがつけられている。


「あたしのメイン役職は斥候よ。戦略を考えたり、罠の仕掛けと解除ができるわ。短剣とクロスボウも扱えるから、後方護衛は任せて」


 二人組の妹、アリュスフィア。アルファと同じ紺色の髪を持つ少女はキツめの印象を受ける顔立ちをしているものの、自信に満ち溢れた態度で胸に手のひらを当てながら、明るく元気な印象を受ける笑みを浮かべていた。

 ユウキと同い年であるらしいアリュスフィアは平均よりも身長が高く、長い紺色の髪を少し左寄りに、明るい青色のリボンで纏め上げている。そして、兄アルファと同じく、月をあしらったピアスを右耳につけていた。


「後方護衛はとっても助かるね! 私は一人で積極的に前衛ができるわけじゃないし、護衛も中途半端な経験しかなかったから、次の依頼からはアリュスフィアちゃんに任せたいかも」

「ふふ、任せてよ。それと、あたしのことはフィアでいいわ。あたしもルミナとユウキって呼んでもいいかしら?」

「もちろん! よろしくね、フィア!」


 フィアの手を握り、ルミナは相変わらず満面の笑みのままそう返した。最初は緊張していたユウキもほっと息を吐き、一歩前へ出てフィアに声をかける。


「ぼ、ボクももちろん、いいですよ。よろしくお願いしますね、えっと…フィア」

「ええ、よろしくね」


 女性同士で仲の良い友人ができたと三人が喜ぶ隣で、アルファは少し安心したように笑みを浮かべていた。シノンもそんな三人を見ていたが、一歩前へ出たアルファが握手の手を差し出しながら声をかけてきた。


「もしかしたら男は俺だけなんじゃないかと一瞬思ったが、俺たちも仲良くやろう」

「…ああ」


 シノンは一言発するだけで特に多くを語らなかったが、アルファの握手には応じた。

 シノンは口数が少ないだけで、悪い人ではないと判断したアルファ。三人の中で最も社交的であり、戦闘民族の末裔・レイヴァの特徴を持つルミナがリーダーだと判断したアルファは、このメンバーでの活動を具体的にどうするかを聞くため、ルミナへ話しかけた。


「ルミナ、少しいいか?」

「ん? どうしたの?」

「このメンバーでの活動について話し合いがしたい」

「え? 私? うーん、今から行くのは少し遅いよね?」


 まさか自分にその話題が振られるとは思っていなかったルミナは、困惑しながらも応答する。

 最終的な判断はシノンに任せた方がいいだろうと、シノンへ確認を取るように振り向きながら答えたルミナ。シノンはそれに対して無言で頷いていた。


「まあ、近場のものなら大丈夫かもしれないが、今日は具体的なポジション決めと、明日からの依頼に備えて話し合いをした方が賢明だと考える」

「そうだね。じゃ、カフェで話そうか」


 にこり、と笑いかけながらそう答えるルミナ。ルミナは美しく整った顔立ちのため、その容姿に慣れないアルファは一瞬息を呑むも、すぐに切り替える。


「そ、そうだな。俺とフィアはまだこの街に来たばかりなんだ、良かったらおすすめの場所とかはあるか?」

「あるよ。パンケーキと珈琲が美味しいお店! あ、私は珈琲飲めないから、シノンの感想なんだけど」

「へえ。それなら、良かったらそこで話さないか?」

「いいよ。じゃあ行こっか」


 ルミナの案内で、五人は話し合いのため、ギルドを後にした。楽しげなルミナによって盛り上げられる会話を楽しみながら。

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