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【プロット公開】【完結】等価交換したくないので錬金窯を自作してみました  作者: 若菜みかん


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16/26

四年目 建築 3

土台に使う石は、全部で十二個あった。


「これを運ぶのか」


マードックが言った。


「そうだ」


親方が答える。


「十二個も?」


「四隅だけで建てるつもりだったのか?」


「駄目か?」


「小屋なら立つかもしれん」


「ならいいだろ」


「立つのと、使えるのは違う」


親方は地面へ杭を打った。


杭と杭の間に縄を張る。


建てる小屋の位置を決め、その中の土を少し掘る。


「なんで掘る?」


「柔らかい土を除く」


「全部?」


「必要なところだけだ」


掘った場所へ砕いた石を入れる。


棒で何度も突き固める。


その上に大きな石を置く。


柱は、さらにその上へ立てる。


「ずいぶん手間がかかるな」


「家を地面に置くだけだと思っていたのか?」


「少し埋めればいいと思ってた」


「腐るぞ」


「じゃあ石に載せる」


「その石が沈まないようにしてるんだ」


マードックは穴を見る。


家を作る。


そう言ったとき、考えていたのは柱と梁だった。


壁。


床。


屋根。


どれも目に見える。


だが、家が立つ場所にも仕事がある。


完成すれば、ほとんど見えなくなる。


それでも、そこを省くことはできない。


「面倒なものほど見えないな」


「見えないから手を抜く者もいる」


親方は地面を棒で突いた。


「そして、手を抜いたことが分かるのは家が傾いてからだ」


十二個の石のうち、最初の一個を運ぶ。


太い棒を差し込む。


二人で押す。


少し浮いたところへ丸太を入れる。


さらに押す。


石が丸太の上へ載った。


「動いた」


ギルバードが言った。


「よし」


さらに丸太を置く。


押す。


前へ進んだ石の後ろから丸太を抜き、また前へ置く。


少しずつ進む。


「遅いな」


「動いてるだけましですよ」


「もっと早くできる」


「また何か作るんですか?」


「このままだと十二回やることになる」


「そうですね」


「嫌だ」


「それが理由ですか」


翌日。


石置き場と建築場所の間に、二本の木材が並べられた。


その上に、低い台車が置かれている。


太い車輪。


短い車軸。


石を載せても壊れないように、家具用より頑丈に作った。


「道を作ったの?」


ローレライが聞いた。


「石のためにな」


「小屋を作るためでしょう?」


「小屋を作るために石を運ぶための道だ」


「また遠くなってるわね」


石を台車へ載せる。


縄を掛ける。


建築場所の近くに立てた太い柱へ滑車を取り付ける。


縄の反対側を、横向きに置いた大きな輪へ巻きつける。


「これは?」


ギルバードが聞いた。


「巻き上げ機」


「誰が回すんです?」


「俺とお前」


二人で棒を押す。


輪が回る。


縄が巻き取られる。


台車がゆっくり動いた。


「おお」


ギルバードが声を上げる。


今まで二人で押してもほとんど動かなかった石が、木材の上を進んでくる。


速くはない。


だが、確実に動いている。


「楽だな」


マードックが笑った。


「二人で回してますけど」


「押すより楽だ」


「これを作る方が大変でしたよ」


「十二個運べば得になる」


一つ目の石が到着した。


次は、台車から下ろさなければならない。


三本の柱を組み、上で繋ぐ。


そこへ滑車を吊るす。


石へ縄を掛ける。


巻き上げ機を回すと、石がわずかに持ち上がった。


「止めろ」


親方が言った。


「まだ穴の上じゃない」


「縄を見ろ」


縄の一本が、柱の角に擦れている。


細い繊維が毛羽立っていた。


「これくらいなら大丈夫だろ」


マードックが言う。


「なら、その下に立て」


親方が答えた。


マードックは石を見る。


大人二人でも持ち上がらない石が、目の前に吊られている。


その下へ入る気にはならなかった。


「嫌だ」


「なぜだ?」


「落ちたら死ぬ」


「大丈夫なんだろ?」


「直す」


石を下ろす。


縄が柱へ触れないように、滑車の位置を変える。


角には丸みをつける。


縄も太いものへ交換した。


もう一度持ち上げる。


「ギルバード、石の向きを変えてくれ」


マードックが言った。


ギルバードが近づく。


「待て」


親方が止めた。


「今度は何だ?」


「手で押させるな」


「少し動かすだけだ」


「揺れたら挟まれる」


石へ別の縄を掛ける。


離れたところから引き、向きを変える。


「面倒だな」


「死ぬよりは楽だ」


「それもそうだ」


石を穴へ下ろす。


高さを測る。


隣に置く石との高さが合わない。


一度持ち上げる。


下へ砕いた石を足す。


もう一度下ろす。


「まだ高い」


「少し取れ」


また持ち上げる。


少し取る。


下ろす。


「今度は?」


親方が板を渡す。


石と石の上に置く。


板の上へ、水を入れた細長い器を載せた。


水面を見る。


「少し傾いてるな」


「どっちだ?」


「そっちが低い」


また石を持ち上げる。


「これ、十二個やるんですか?」


ギルバードが聞いた。


「そうだ」


「今日は何個できます?」


「二個」


「小屋ですよね?」


「小屋だ」


「家だったら?」


誰も答えなかった。


十二個の石を据えるのに、六日かかった。


途中から作業する人間が増えた。


加工場の職人。


大工組合の若い職人。


錬金術協会から来たカール。


カールは巻き上げ機を見るなり、目を輝かせた。


「これ、魔力を使えば自動で回せませんか?」


「できると思う」


マードックが答える。


「なら、もっと早く運べますね」


「駄目だ」


親方が言った。


カールが振り返る。


「なぜです?」


「早く動かす必要がない」


「早い方が便利でしょう」


「石が揺れる」


「調整すれば」


「縄が切れたとき、すぐ止められるのか?」


カールは巻き上げ機を見る。


「止める仕組みを作れば」


「誰かが巻き込まれたときは?」


「それも……」


「動かす仕組みより、止める仕組みを先に作れ」


親方の言葉に、マードックは頷いた。


巻き上げ機へ歯をつける。


逆向きに回らないよう、木の爪を噛ませる。


棒から手を離しても、石が落ちない。


止めたいときには、爪を掛ければ止まる。


「これなら魔力で動かせる」


カールが言った。


「まだだ」


親方が答える。


「まだ何が?」


「誰が動かす?」


「誰でも」


「誰でも、で人が死ぬ」


操作する者を一人に決める。


石の近くにいる者。


縄を見る者。


巻き上げ機を動かす者。


それぞれが勝手に声を出すと、何を聞けばいいのか分からなくなる。


合図も決めた。


動かせ。


止めろ。


上げろ。


下ろせ。


危ない。


短い言葉だけを使う。


「こんなことまで決めるのか?」


マードックが聞いた。


「人数が増えれば必要になる」


親方が答えた。


「二人なら顔を見れば分かる。十人いれば分からん」


「間違えたら?」


「石が落ちる」


「分かりやすいな」


最後の石を据え終わった。


十二個の石が、同じ高さに並んでいる。


その上へ柱を立てる。


一本目。


二本目。


柱が倒れないように、仮の支えをつける。


梁を地面で組む。


縄を掛ける。


三本の柱で作った吊り上げ設備を動かす。


ゆっくりと梁が上がっていく。


「上げろ!」


親方が声を出す。


巻き上げ機が回る。


「止めろ!」


木の爪が噛み合う。


梁が空中で止まった。


柱の位置を直す。


「下げろ!」


少しずつ下ろす。


梁の継ぎ手が、二本の柱へ入った。


木槌で打つ。


栓を差し込む。


また次の柱を立てる。


その次の梁を上げる。


一日かけて、小屋の骨組みが出来上がった。


夕方。


マードックたちは少し離れた場所から、それを見ていた。


まだ壁はない。


床もない。


屋根もない。


柱と梁だけだった。


それでも。


「家みたいだな」


ギルバードが言った。


「小屋だ」


親方が訂正する。


「でも、立った」


マードックは骨組みを見上げた。


錬金窯で作った部材。


決められた寸法。


決められた継ぎ手。


地面で組み、設備で持ち上げ、現場で繋いだ。


巨大な窯は作っていない。


家を一度に錬成したわけでもない。


一人の魔力で持ち上げたわけでもない。


何人もの人間が、決められた役割を守って作った。


「おとうさんのおうち?」


セドリックが聞いた。


「みんなで作った家だ」


「ぼくも?」


「お前もだ」


「やった」


セドリックは骨組みの中へ走っていく。


「走るな!」


マードックと親方の声が重なった。


二人は顔を見合わせた。


「まだ仮の支えがある」


親方が言う。


「縄も張ってある」


マードックが続ける。


セドリックを追いかけ、ギルバードが中へ入った。


その姿を見ながら、マードックは考える。


作れるようになった。


だが、作れる人間が増えれば、それだけ危険も増える。


設備を使えば、今まで動かせなかったものが動く。


その代わり、失敗したときに落ちてくるものも大きくなる。


「親方」


「何だ」


「さっき決めた合図、紙にしておこう」


「読めない者もいるぞ」


「なら絵も描く」


「作業の順番もだ」


「設備を使う前の確認もいるな」


「縄と滑車も毎日見ろ」


マードックは新しい紙を取り出した。


そこへ書く。


作業する者。


合図する者。


確認する場所。


してはいけないこと。


「家を作るだけだったんだけどな」


「まだ小屋だ」


「そうだった」


マードックは笑った。


小屋を一つ作るために、道ができた。


台車ができた。


巻き上げ機ができた。


吊り上げ設備ができた。


役割が決まり、合図が決まり、確認する項目が増えた。


いつの間にか。


マードックたちは、物を作る設備だけでなく。


人が一緒に働くための仕組みまで作り始めていた。


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