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【プロット公開】【完結】等価交換したくないので錬金窯を自作してみました  作者: 若菜みかん


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15/26

四年目 建築 2

翌朝。


年配の大工は、工房へ来るなり新しい加工場の図面を破った。


「何するんだ!」


「家の作り方を教えてほしいと言ったな」


「言った」


「なら、まず忘れろ」


破られた図面が、机の上に落ちる。


隣にいたギルバードが一歩下がった。


ローレライは少し離れた場所で見ている。


マードックは破れた紙を拾った。


「せっかく描いたのに」


「だから破った」


「どういう意味だ?」


「こんなものを見ながら話したら、お前は自分の考えに都合のいいことしか聞かん」


「そんなことはない」


「ある」


大工は即答した。


「大工組合で図面を見たとき、お前は一度も家のことを聞かなかった」


「聞いたぞ」


「どこを同じ寸法にできるか。どの部材を窯で作れるか。何人で組み立てられるか」


「大事だろ」


「家が、どうやって立っているかは聞いたか?」


マードックは黙った。


「立っているだろ」


「それが分かっていないと言ってるんだ」


大工は工房の柱を叩いた。


低い音がした。


「屋根は重い」


「知ってる」


「雨が降れば、もっと重くなる」


「そうだな」


「風は横から押す」


「ああ」


「地面は動く」


マードックは柱の根元を見る。


「動く?」


「乾けば縮む。雨が続けば緩む。寒くなれば凍る場所もある。どこに建てても同じだと思うな」


「地面まで考えるのか」


「家は地面に立つんだ。当たり前だろ」


大工は次に梁を見上げた。


「木も動く」


「木が?」


「乾けば縮む。湿れば膨らむ。曲がる。ねじれる。割れる」


「加工した後でも?」


「木を何だと思ってる」


「材料」


「木だ」


大工は作業台に置かれていた板を手に取った。


表面を見る。


端を見る。


指で撫でる。


「こいつはまだ乾ききってない」


「使えないのか?」


「使い方による」


「窯で乾かせばいい」


「急に乾かせば割れる」


「魔力で均等に乾かす」


「中までか?」


「ああ」


「一本ずつ違う木を、全部同じ力で?」


マードックは板を見た。


太さ。


水分。


木目。


切り出した場所。


確かに一本ずつ違う。


「調整すればいい」


「どうやって調整する?」


「それを今から考える」


大工は鼻を鳴らした。


「ようやく始められるな」


マードックは顔を上げた。


「何を?」


「家作りをだ」


年配の大工は、ガイウスと名乗った。


大工歴は三十五年。


家を建てる。


橋を直す。


荷車の荷台も作る。


冬になれば扉や窓の修理もする。


大工組合では若い職人へ仕事を教えていた。


「親方でいい」


そう言ったので、マードックたちも親方と呼ぶことにした。


親方が最初に始めたのは、小屋を建てることではなかった。


木を積むことだった。


「これでいいか?」


マードックが地面に板を並べる。


「駄目だ」


「どこが?」


「地面に置くな」


「少しくらいならいいだろ」


「下から湿る」


「じゃあ台に載せる」


「重ねるな」


「場所を取るだろ」


「間に細い木を挟め。風が通るようにしろ」


板を置く。


細い木を挟む。


その上に次の板を置く。


同じ作業を繰り返す。


「面倒だな」


「腐った柱で家を建てるよりは楽だ」


「窯に入れれば早い」


「入れる前に、何が起きるか試せ」


そこでマードックは、同じ木から切り出した板を十枚用意した。


一枚はそのまま乾かす。


残りは錬金窯へ入れる。


魔力の量を変える。


乾かす速さを変える。


板の向きも変える。


最初の板は、表面が割れた。


二枚目は反った。


三枚目は端が曲がった。


四枚目は一見きれいに仕上がった。


親方が木槌で叩く。


鈍い音がした。


「中が割れてる」


切ってみる。


中心近くに細い亀裂があった。


「見えないな」


「だから怖い」


親方は切断面を指さした。


「柱に使ってから割れたらどうする?」


「確認する方法を考える」


「全部切る気か?」


「切ったら使えないな」


マードックは腕を組んだ。


出来上がったものを見ただけでは分からない。


表面が同じでも、中まで同じとは限らない。


魔力を流してみる。


返ってくる感覚が、板ごとに少し違った。


だが、割れの違いなのか。


木目の違いなのか。


水分の違いなのか。


それだけでは判断できない。


「面倒だな」


「さっきからそればかりだな」


「楽をするために始めたからな」


「家を作るのに楽をするな」


「楽に作れて、壊れない方がいいだろ」


「先に壊れないものを作れ」


親方の言うことは正しかった。


正しいので腹が立つ。


試験は三日続いた。


板を乾かす。


記録する。


切る。


中を見る。


曲げる。


叩く。


折れるまで力をかける。


同じように処理したはずの板でも、壊れ方が違った。


節の近くから割れるもの。


木目に沿って裂けるもの。


大きく曲がってから折れるもの。


ほとんど曲がらずに折れるもの。


「同じにならないな」


「木だからな」


「同じ寸法にはできる」


「形だけ揃えても、強さは揃わん」


「じゃあ、弱い方に合わせる」


親方の手が止まった。


「何?」


「強さが違うなら、一番弱いものでも壊れない太さにする」


「太くすれば材料が増える」


「家が潰れるよりはいい」


「運ぶのも重くなるぞ」


「そこは別に考える」


親方はしばらくマードックを見た。


「お前、本当に元魔導師か?」


「そうだ」


「魔導師はもっと力任せだと思っていた」


「力任せにやって死にかけたから、冒険者を辞めた」


「なるほどな」


親方は初めて笑った。


木材の処理方法が決まるまで、さらに五日かかった。


乾燥は一度に行わない。


最初に弱い魔力で全体を温める。


少し休ませる。


板の状態を確認する。


向きを変える。


もう一度、弱い魔力を流す。


早くはなった。


だが、マードックが最初に考えていたほど早くはない。


「一度で終わらせたいな」


「割れてもいいなら終わるぞ」


「よくない」


「なら待て」


待つ。


確認する。


また待つ。


錬金窯を使っているのに、すぐには完成しない。


マードックは不満だった。


ローレライは安心していた。


「あなたが待つことを覚えるなんてね」


「待つだけなら誰でもできる」


「あなたはできなかったでしょう」


「必要なら待つ」


「少しは成長したのね」


「最近よく言われるな」


処理した木材を使い、ようやく小屋の柱を作ることになった。


親方は二本の柱を並べる。


片方は、これまで使われてきた形。


もう片方は、マードックが図面に描いた形。


同じ太さ。


同じ長さ。


違うのは、梁を受ける部分だった。


マードックの柱には、四方向すべてに同じ穴が開いている。


どの向きでも梁を差し込めるようにした。


「便利だろ」


「弱くなる」


親方が言った。


「なんで?」


「穴を増やしたからだ」


「使わない穴は塞ぐ」


「塞いでも、一度切った木は元に戻らん」


「錬金術で繋げる」


「最初から切るな」


「向きを考えずに使える方が楽だ」


「家の柱に裏表も向きもないと思うな」


親方は柱を倒した。


木目を指でなぞる。


「力を受ける向きがある」


次に梁を置く。


柱へ差し込む部分を見せる。


「継ぎ目は同じ形ならいいわけじゃない」


「組み合えばいいだろ」


「抜ける」


「留め具を使う」


「緩む」


「錬金術で固定する」


「直せなくなる」


マードックは黙った。


去年、自分で言ったことだった。


傷んだところを交換できるようにする。


すべてを繋げてしまえば、外せなくなる。


「じゃあ、どうする?」


親方は別の継ぎ手を見せた。


梁の端は単純な四角ではない。


柱の穴へ差し込み、上から木の栓を打つ。


引いても抜けない。


だが、栓を外せば分解できる。


「面倒な形だな」


「必要だからこうなった」


「窯なら作れる」


「手でも作れる」


「窯なら同じ形で何本も作れる」


「それは好きにしろ」


親方は二つの継ぎ手を並べた。


「ただし、これを勝手に変えるな」


「もっと簡単にできるかもしれない」


「簡単にしてもいい。弱くならないことを確かめてからだ」


また試験が始まった。


柱と梁を組む。


横から力をかける。


重りを吊るす。


揺らす。


外す。


もう一度組む。


何度も繰り返す。


最初の継ぎ手は抜けた。


次は割れた。


三つ目は外せなくなった。


四つ目は組み立てる途中で木の栓が折れた。


「手で作った方が早くないですか?」


ギルバードが聞いた。


「今はな」


「これ、楽になるんです?」


「同じ失敗をしなくなれば」


「いつです?」


「まだ分からない」


「またですか」


失敗した部材が、加工場の隅へ積まれていく。


その横でセドリックが木片を並べていた。


「なに作ってる?」


マードックが聞く。


「おうち」


「それは壁か?」


「ちがう」


「屋根?」


「おうち」


子供にしか分からない形だった。


それでもセドリックは満足そうだった。


木片を一つ載せる。


崩れる。


もう一度載せる。


また崩れる。


三度目は、下の木片を少し離した。


その上に長い木片を置く。


今度は崩れなかった。


「できた」


「なるほど」


セドリックの家は、柱が二本。


その上に梁が一本。


それだけだった。


だが、立っている。


マードックは試験中の柱を見た。


複雑にしすぎていた。


どの向きでも使える。


誰でも間違えない。


一つの部材を何か所にも使える。


便利にしようとして、穴と継ぎ目を増やしていた。


「親方」


「何だ」


「柱を二種類に分ける」


「なぜだ?」


「角に使う柱と、途中に使う柱で受ける力が違う」


親方がうなずく。


「続けろ」


「全部同じにすると、使わない穴が増える。弱くなる」


「ああ」


「だから役割ごとに分ける」


柱を二種類。


梁を二種類。


継ぎ手も、それぞれに合わせる。


部材の数は増える。


だが、形は単純になる。


必要なところだけ加工できる。


強さも残せる。


親方は新しい図面を見た。


「最初よりはましだ」


「褒めてるのか?」


「最初がひどすぎた」


「厳しいな」


「家だからな」


新しい部材を作った。


組み立てる。


重りを吊るす。


横から引く。


揺らす。


一度外す。


もう一度組む。


壊れない。


抜けない。


外そうと思えば外せる。


親方が木槌を置いた。


「これなら、小屋には使える」


ギルバードが笑った。


「やっとですね」


「ああ」


マードックは並べられた柱と梁を見る。


すべて錬金窯で同じ形に加工されている。


だが、同じものではない。


使う場所に合わせて種類が分かれている。


木の状態も一本ずつ確認した。


形を揃えるだけでは足りない。


強さを揃えようとしても、完全には揃わない。


だから、違いがあっても壊れないようにする。


「じゃあ建てるか」


マードックが言った。


親方は首を横に振った。


「まだだ」


「部材はできたぞ」


「地面ができていない」


「地面?」


「最初に言っただろう」


親方は、小屋を建てる予定の場所を指さした。


昨夜、雨が降った。


そこには小さな水たまりができていた。


「家は地面に立つ」


マードックは水たまりを見る。


泥の中へ足を入れる。


靴が沈んだ。


「……ここに柱を置いたら?」


「沈む」


「石を置けば?」


「傾く」


「大きな石なら?」


「運んでみろ」


少し離れた場所に、土台へ使う予定の石が並べられていた。


一つで、大人二人でも持ち上がらない重さがある。


マードックは石を見る。


次に、完成した柱と梁を見る。


木材は台車で運べた。


だが、石は簡単には動かない。


空へ浮かせる魔法はない。


錬金窯も、向こうから歩いてきてはくれない。


「ギルバード」


「はい」


「滑車を増やすぞ」


「何個です?」


「分からない」


「またですか」


「今から試す」


マードックは笑った。


家を作る前に、まず家を作る場所を作らなければならない。


そして、そのためには。


重い石を運ぶための設備が必要だった。

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