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【プロット公開】【完結】等価交換したくないので錬金窯を自作してみました  作者: 若菜みかん


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14/26

四年目 建築 1

四年目。


マードックは、自分の工房を壊していた。


「おとうさん」


セドリックが、崩された壁を見上げる。


「おう」


「こわれたの?」


「壊した」


「なんで?」


「狭いから」


セドリックは少し考えた。


「なおす?」


「広くする」


「なんで?」


「狭いから」


「さっききいた」


「そうだったな」


三歳になったセドリックは、よく喋るようになった。


そして、よく聞く。


何をしているのか。


どうしてそうするのか。


それは何に使うのか。


答えても、また聞く。


「いつできる?」


「まだ分からない」


「なんで?」


「作ったことがないから」


「なんで?」


「普通は作らないから」


「なんで?」


マードックは手を止めた。


「ローレライ」


「なに?」


「助けてくれ」


「自分で答えなさい」


少し離れた場所で、ローレライが笑っている。


その隣ではギルバードが柱を運んでいた。


「これ、どこへ置きます?」


「そっち」


「そっちって?」


「新しい壁の横」


「新しい壁はまだありませんよ」


「じゃあ、その辺」


「その辺に置くと邪魔になります」


「なら邪魔にならないところ」


「どこですか?」


マードックは周囲を見回した。


取り外した板。


切り出した柱。


運び込まれた石材。


錬金窯の交換部品。


滑車。


縄。


台車。


加工場の周囲は、どこを見ても物で埋まっている。


「置くところがないな」


「だから聞いてるんです」


「広くしないと駄目だ」


「広くするために壊してるんですよね?」


「そうだ」


「その材料を置くために、先に広い場所が必要です」


「なるほど」


「今気づいたんですか?」


ギルバードが呆れた顔をする。


マードックは壊しかけの工房を見た。


大きな材料を扱うには、今の加工場では狭い。


だから壁を外し、屋根を延ばそうとした。


だが、そのためには大量の材料が必要になる。


材料を保管するには場所がいる。


加工するにも場所がいる。


完成した柱や梁を並べておく場所もいる。


「工房を広くするための工房が必要だな」


「嫌な言い方ね」


ローレライが言った。


「でも必要だろ」


「必要だとしても、先に相談してほしかったわ」


「相談したぞ」


「昨日の夕食のときに、『明日、壁を外す』って言っただけでしょう」


「反対しなかった」


「冗談だと思ってたのよ」


「俺は本気だった」


「それが問題なの」


ローレライは、壁のなくなった工房を見る。


朝までは、そこに棚があった。


作業台があった。


窓もあった。


今は何もない。


「今夜、雨が降ったらどうするの?」


「降るのか?」


「知らないわよ」


マードックは空を見上げた。


少し曇っている。


「急いだ方がいいな」


「そういう話じゃないわ」


結局、その日は工房を広げるのではなく、外した壁を元へ戻す作業で終わった。


翌朝。


マードックは工房の前に大きな紙を広げた。


「今回は先に考える」


ローレライが紙を見る。


「何を?」


「必要なもの」


紙には、いくつかの四角が描かれていた。


現在の工房。


加工場。


材料置き場。


完成品置き場。


その横に、さらに大きな四角がある。


「これは?」


「新しい加工場」


「大きすぎない?」


「柱や梁を扱うなら、これくらい必要だ」


「こっちは?」


ギルバードが、紙の端に描かれた細長い線を指さした。


「道」


「道?」


「材料を運ぶ」


「今も道はありますよ」


「狭い」


今まで扱ってきた材料は、人が持てる大きさが多かった。


重いものは荷車で運んだ。


それでも家具や道具なら、どうにかなった。


だが、家に使う柱や梁は長い。


一本なら運べる。


何本も運ぶなら話が変わる。


曲がり角が狭ければ通れない。


地面が柔らかければ車輪が沈む。


加工場へ入れるにも、出口が狭ければ詰まる。


「建物だけじゃないのね」


「ああ」


マードックは紙へ線を足した。


「材料が入ってくる」


入口に矢印を描く。


「ここで長さを確認する」


四角を描く。


「切る」


次の四角。


「削る」


その隣。


「錬金窯で処理する」


さらに隣。


「確認する」


最後に大きな四角を描いた。


「保管する」


ローレライが紙を見る。


「ずいぶん長い建物ね」


「材料を戻さなくて済むようにした」


「戻す?」


「今は同じ場所で切って、削って、窯へ運んで、また作業台へ戻してるだろ」


「そうね」


「重い材料で何度もやりたくない」


ギルバードがうなずいた。


「一方向に進めるんですね」


「ああ」


「それなら台車も同じ向きに動かせます」


「床も平らにした方がいいな」


「途中に段差があると危ないですからね」


マードックは紙へ書き加える。


平らな床。


広い入口。


台車が通れる幅。


材料を持ち上げる滑車。


長いものを回せる空間。


雨に濡れない保管場所。


書けば書くほど、建物は大きくなった。


「家を作るための設備ですよね?」


ギルバードが聞いた。


「そうだ」


「家より大きくないですか?」


「何軒も作るからな」


「何軒作るんです?」


マードックは黙った。


まだ一軒も頼まれていない。


そもそも家を作れるのかも分からない。


「まず一軒」


「誰の家です?」


「決めてない」


「注文は?」


「ない」


「勝手に設備を作ってるんですか?」


「試してから注文を取る」


「試す家は誰のです?」


マードックは周囲を見た。


自宅。


工房。


加工場。


どれも今すぐ建て替える必要はない。


少し離れたところに、小さな小屋がある。


道具と薪を置いているだけの古い小屋だった。


「あれにしよう」


「家じゃないですよ」


「小屋が作れれば、家も作れる」


「だいぶ違うと思います」


「大きさが違うだけだ」


「それが一番大きな違いでは?」


ギルバードの言葉を聞き流し、マードックは小屋の寸法を測り始めた。


幅。


奥行き。


高さ。


柱の本数。


梁の長さ。


屋根の傾き。


使われている板の厚さ。


調べてみると、家具とは違うことが多かった。


椅子なら、壊れても座っている人が転ぶ程度で済む。


棚なら、載せたものが落ちる。


だが建物は違う。


柱が折れれば、屋根が落ちる。


壁が外れれば、雨や風が入る。


床が抜ければ、人が怪我をする。


火が出れば、中にいる人が逃げられなくなる。


「思ってたより面倒だな」


「今さらやめてもいいのよ」


ローレライが言った。


「いや」


マードックは古い小屋の柱を叩いた。


「面倒なところが分かったなら、先に考えられる」


腐っている場所。


水が染みた跡。


虫に食われた穴。


継ぎ目の緩み。


建てたときには問題がなくても、使っているうちに傷んでいく。


家具も同じだった。


だが、家は長く使う。


一度作れば、何年も。


場合によっては、作った人間より長く残る。


「窯で形を作れば終わりじゃないな」


「当たり前でしょう」


「材料も選ばないと駄目だ」


「そうね」


「どこに使うかで、処理も変える必要がある」


「そうね」


「交換できるようにした方がいいな」


ローレライが眉をひそめた。


「家を?」


「家じゃない。傷んだところを」


マードックは柱を見る。


すべてを一つにしてしまえば、丈夫にはなるかもしれない。


だが、一か所が傷んだときに困る。


直すために家全体を壊すわけにはいかない。


柱。


梁。


壁。


床。


屋根。


役割ごとに分ける。


必要なところだけ外せるようにする。


同じ寸法で作れば、別の場所で作った部材とも交換できる。


「三年目にやったことと同じですね」


ギルバードが言った。


「そうだな」


「規格」


「ああ」


「家具より数が増えますね」


マードックは紙を見る。


柱だけではない。


梁。


板。


扉。


窓。


留め具。


屋根材。


一軒の小屋でも、多くの部材が必要になる。


家なら、もっと増える。


「全部決めるのは無理だな」


「諦めます?」


「揃えた方が便利なものだけ揃える」


ギルバードが笑った。


「普通ですね」


「普通になるまでが大変なんだよ」


まずは柱と梁。


次に壁板と床板。


屋根は後で考える。


マードックは図を描き直した。


同じ太さの柱。


決められた長さの梁。


組み合わせるための継ぎ目。


錬金窯で一体化させるのではなく、現場で組み立てられる形。


「窯で家を作るんじゃないのね」


ローレライが言った。


「入らないからな」


「大きな窯を作ると思ってたわ」


「考えた」


「考えたの?」


「でも、家が入る窯を作るには、窯を作る建物が必要になる」


「家より大きな?」


「ああ」


「その建物はどうやって作るの?」


「それを考えて、やめた」


ローレライが安心したように息を吐いた。


「少しは成長したのね」


「だから、部品を作る」


「結局作るのね」


マードックは図を持ち上げた。


工房で作る。


台車で運ぶ。


現場で組み立てる。


窯に入らないなら、入る大きさに分ければいい。


問題は、その先だった。


「これ、誰が組み立てるの?」


ローレライが聞いた。


「俺たち」


「家を建てたことがあるの?」


「ない」


「ギルバードは?」


「ないです」


二人の視線がマードックへ集まる。


「なら、知ってる人に聞こう」


その日の午後。


マードックは町の大工組合を訪ねた。


図面を抱えたマードックを見て、受付の男が言った。


「今度は何を作る気だ?」


「小屋」


「帰れ」


「まだ説明してないだろ」


「錬金術師が図面を持って大工組合へ来た時点で、嫌な予感しかしない」


「よく言われる」


「だろうな」


男は図面を受け取った。


しばらく見る。


一枚めくる。


また見る。


やがて、深いため息をついた。


「これは小屋の図面じゃない」


「小屋を作る設備の図面だ」


「もっと悪い」


男は図面を机へ置いた。


「大工を呼べ。腕がよくて、気が長くて、錬金術師が嫌いなやつ」


「最後の条件は必要か?」


「絶対に必要だ」


奥から、低い声が返ってきた。


「そんな大工なら、ここにいる全員だ」


マードックが振り返る。


太い腕をした年配の男が、こちらを睨んでいた。


その視線が、机の上の図面へ落ちる。


「家を、部品にするつもりか」


「駄目か?」


「駄目かどうかを決めるのは、作ってからじゃ遅い」


男は図面を一枚持ち上げた。


「まず、お前に家の作り方を教える」


「助かる」


「勘違いするな」


紙が音を立てた。


「お前が何を壊そうとしているのか、先に理解させるためだ」


マードックは笑った。


「それでいい」


四年目。


マードックは初めて、自分よりも家に詳しい人間と仕事をすることになった。


そして、自分が知らないことの多さを知ることになる。

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