↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【プロット公開】【完結】等価交換したくないので錬金窯を自作してみました  作者: 若菜みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/26

三年目 規格 4

 それから半年。


 ロックフィールドの町を歩くと、マードックは妙なものを見るようになった。


「三号箱、十個頼むよ」


「あいよ」


 市場で声が聞こえる。


 振り返る。


 店の前に見慣れた箱が積まれていた。


「……三号だ」


 マードックが呟く。


「三号ですね」


 隣を歩いていたギルバードが答えた。


「俺が作ったやつじゃない」


「もう誰もマードックさんが作ったと思ってないですよ」


「そうなの?」


「そうですよ」


 少し寂しい。


 だが、それ以上に楽だった。


 マードックはもう箱をほとんど作っていない。


 必要になれば買えばいい。


 棚も同じだった。


 決まった寸法のものなら、町の木工所へ頼める。


 壊れたら同じ番号のものを買う。


 加工場で使う台車も、箱に合わせた寸法のものが増えた。


「楽になったな」


「嬉しそうですね」


「楽するために始めたからな」


「三年かかってますけど」


「必要な努力だ」


「楽するために?」


「そうだ」


 ギルバードは笑った。


 二人は材木屋へ向かった。


 加工場で使う新しい作業台を作るためだった。


「四号板を二十枚」


 マードックが言う。


「厚い方か?」


「そう」


「なら奥だ」


 材木屋の主人が迷わず歩いていく。


 以前なら、


 このくらいの長さ。


 このくらいの幅。


 このくらいの厚さ。


 と説明していた。


 今は番号だけで通じる。


 材木屋も、よく売れる寸法の板をあらかじめ用意している。


「これでいいか?」


 板を一本確認する。


「いい」


「二十枚な」


 話はすぐに終わった。


「早いですね」


 ギルバードが言った。


「楽だろ?」


「はいはい」


 材木屋を出る。


 その途中で、マードックは一軒の木工所の前で立ち止まった。


 職人が椅子を作っている。


 同じ形の椅子が五脚並んでいた。


「同じだ」


「椅子ですね」


「そうじゃなくて」


 マードックは近寄った。


「これ、全部同じ寸法?」


 職人が顔を上げる。


「ああ」


「なんで?」


「なんでって、注文がそうだからだよ」


「誰から?」


「宿屋」


 職人は作業を続ける。


「二十脚欲しいって言われた」


「二十?」


「一脚ずつ形が違ったら困るだろ」


「そうだな」


「だから最初に一脚作って、寸法を決めた」


 壁に紙が貼ってある。


 簡単な図。


 高さ。


 幅。


 座面。


 脚の長さ。


「図まである」


「当たり前だろ」


「誰に教わった?」


「別に誰にも」


 職人が怪訝な顔をする。


「最近みんなやってるぞ」


「みんな?」


「同じものを何個も作るなら、その方が楽だからな」


 マードックはギルバードを見る。


「俺と同じこと言ってる」


「感染したんじゃないですか?」


「病気みたいに言うな」


 さらに歩く。


 別の工房では棚。


 その隣では樽。


 少し先では荷車の車輪。


 すべてが同じ規格になったわけではない。


 職人ごとの作り方も残っている。


 注文に合わせた一品物も普通にある。


 だが、何度も作るもの。


 交換するもの。


 組み合わせて使うもの。


 そうした品には少しずつ決まった寸法が使われ始めていた。


「全部同じにしなくてもいいんだな」


「今さらですか?」


「最初は揃えた方が便利だと思ってた」


「違ったんです?」


「揃えた方が便利なものだけ揃えればいい」


「普通ですね」


「普通になるまでが大変なんだよ」


 その日の午後。


 錬金術協会へ寄った。


 中ではカールとルドウィックが言い争っていた。


「だから五号でいいじゃないですか」


「薄い!」


「十分ですよ」


「お前は何を載せるつもりだ!」


「普通の道具です」


「普通とは何だ!」


「普通は普通です!」


「数字で言え!」


 マードックは立ち止まった。


「ルドウィック」


「何だ!」


「数字嫌いじゃなかった?」


 ルドウィックが黙った。


 カールも黙った。


「……必要だから使っているだけだ」


「便利だろ?」


「調子に乗るな」


「便利なんだ」


「うるさい!」


 奥でブラウンが書類を整理している。


「最近ずっとあんな感じですか?」


「ああ」


「大変ですね」


「君のせいだ」


「俺?」


「君だ」


 ブラウンは書類を一枚渡した。


 確認済みの製品。


 試験方法。


 使える材料。


 製作者。


 問題があった場合の記録。


「増えましたね」


「増やしたのは君たちだ」


「便利になったでしょう?」


「仕事も増えた」


「それは……」


「便利になった部分は認める」


「お」


「だが、基準を作れば終わりではない」


 ブラウンは書類を指さした。


「守られているか確認する人間が必要になる」


「なるほど」


「基準を変えるなら理由も必要だ」


「なるほど」


「問題が起きたら記録する」


「なるほど」


「理解しているか?」


「だいたい」


「していないな」


 ブラウンはため息をついた。


「いずれ専門に管理する者が必要になるかもしれん」


「錬金術師なのに?」


「錬金術師だからだ」


 マードックは少し考えた。


 錬金術師。


 昔は自分の魔力と技量で物を作る人間だった。


 今は違う。


 窯を作る者。


 窯を調整する者。


 材料を調べる者。


 出来たものを確認する者。


 規格を考える者。


 同じ錬金術でも仕事が分かれ始めている。


「面倒になったな」


「技術が広がるとはそういうことだ」


「俺は楽したかっただけなのに」


「知るか」


 ブラウンは次の書類を手に取った。


 加工場へ戻ると、ローレライが待っていた。


「遅かったわね」


「協会に寄ってた」


「また何かやった?」


「何もやってない」


「本当に?」


「今日は」


「今日は?」


「何でもない」


 マードックは買ってきた板を見る。


「作業台を作るか」


 新しい作業台は、今までより大きかった。


 加工場で複数人が同時に使う。


 長い材料も置けるようにする。


 幅を決める。


 高さを決める。


 脚の位置を決める。


「これでいいな」


 図を描いた。


 材料を錬金窯へ運ぶ。


 長い板を持ち上げる。


 投入口へ入れる。


 途中で止まった。


「……入らない」


 ギルバードが反対側を見る。


「斜めにします?」


「やってみる」


 二人で板を傾ける。


「そっち上げて」


「はい」


「もう少し」


「これ以上無理です」


「回せる?」


「壁に当たってます」


「じゃあ戻す」


 二人で板を下ろした。


 マードックは錬金窯を見る。


「狭い」


「またですか」


「去年より大きくしたんだけどな」


「豚を入れるために」


「そうだった」


 今度は木材だった。


 箱なら入る。


 椅子も作れる。


 小さな棚も作れる。


 だが大きな家具になると、材料そのものが入らない。


「入口を広げる?」


 ギルバードが聞いた。


「それだけじゃ駄目だ」


「出口も?」


「ああ」


 完成した作業台を出せなければ意味がない。


「分解して作れば?」


 ローレライが言った。


「それでもいい」


「じゃあ解決ね」


「でも、大きいまま作れた方が楽だ」


「また大きくする気?」


「必要なら」


「どこまで?」


 マードックは長い板を見る。


 家具。


 棚。


 机。


 ベッド。


 扉。


 今はその程度だった。


「なあ」


「何?」


「これだけ長い木材を扱えるなら、もっと大きいものも作れるよな」


 ローレライが嫌な顔をした。


「何を作るつもり?」


「まだ何も」


「その顔で言われても信用できない」


 マードックは板を持ち上げる。


「例えば柱とか」


「柱?」


「梁とか」


 ギルバードが首をかしげた。


「それ、家具じゃないですよね」


「そうだな」


「家ですよ」


 マードックの手が止まった。


「家か」


 ローレライがすぐに言った。


「やめて」


「まだ何も言ってない」


「顔に書いてある」


「作れるかな」


「言った!」


 マードックは加工場の天井を見上げた。


 柱。


 梁。


 壁。


 床。


 屋根。


 今まで作ってきたものより、ずっと大きい。


 必要な材料も増える。


 運ぶ方法も考えなければならない。


 今の錬金窯では足りない。


 今の加工場でも足りない。


 マードックは笑った。


「面白そうだな」


「私は嫌な予感しかしないわ」


 ローレライの予感は、だいたい当たる。


 翌年。


 マードック錬金工房の周囲から、また建物が増え始めることになる。


 今度は加工場を作るためではない。


 家を作るための設備を作るためだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。