↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【プロット公開】【完結】等価交換したくないので錬金窯を自作してみました  作者: 若菜みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/26

三年目 規格 1

 三年目。


 共同加工場は狭くなっていた。


「去年建てたばかりよね?」


「ああ」


「もう狭いの?」


「狭い」


 ローレライは加工場の中を見る。


 肉を置く台。


 料理を入れる容器。


 皮。


 脂。


 骨。


 魔石。


 道具。


 それらを運ぶ台車。


 人も増えた。


 去年、数人で始めた加工場には、いつの間にか出入りする人間が増えている。


「広げるの?」


「その前に片付ける」


「あなたが?」


「なんで驚くんだよ」


「片付ける前に広げる人だと思ってたから」


「俺を何だと思ってる」


 マードックは加工場を歩いた。


 物が多い。


 それ以上に、置き方が悪い。


 床に箱が並んでいる。


 その横にも箱。


 さらに上にも箱。


「棚が欲しいな」


「買う?」


「作る」


「そう言うと思った」


 木材を買ってきた。


 最初に作ったのは単純な棚だった。


 板。


 柱。


 補強材。


 錬金窯へ入れる。


 完成形を設定する。


「これくらいなら簡単だな」


 錬成が終わった。


 棚が出てきた。


「大きいですね」


 ギルバードが見上げる。


「加工場で使うからな」


「どうやって出したんです?」


「ぎりぎり」


 棚は錬金窯の排出口を通る最大に近い大きさだった。


「次は出ないかもしれないですね」


「入口と出口を広げるか」


「先に棚を置きましょうよ」


 ギルバードと二人で棚を運ぶ。


 壁際へ置いた。


 箱を並べる。


「おお」


 床が空いた。


「いいじゃない」


 ローレライも満足そうだった。


「もう一個作る」


「必要ね」


 同じ材料を用意する。


 同じ設定。


 同じ棚を作る。


 二つ目が完成した。


 横へ並べる。


「……あれ?」


 ギルバードが二つの棚を見る。


「どうした?」


「高さ、違いません?」


「同じ設定だぞ」


 二人で確認する。


 確かに少し違う。


 一つ目の棚の方がわずかに高い。


「材料かな」


 木材を確認する。


 最初に使った板と二回目に使った板。


 厚みが少し違う。


 幅も完全には同じではない。


「同じ量を入れたんだけどな」


「木ですからね」


 ギルバードが言った。


「一本ずつ違いますよ」


「でも同じ棚を作りたい」


「このくらいなら使えるでしょう?」


「使える」


「じゃあいいんじゃないです?」


 マードックは二つの棚を見る。


「気になる」


「出た」


 後ろにいたローレライが言った。


「何が?」


「あなたの面倒なところ」


「同じものを作ったのに違うんだぞ」


「使えるんでしょう?」


「使えるけど」


「ならいいじゃない」


「よくない」


 マードックは測り始めた。


 高さ。


 幅。


 奥行き。


 棚板の間隔。


 一本目。


 二本目。


 数字を書いて比べる。


「ここが違う」


「少しだけでしょう?」


「少し違う」


「だから?」


「三個、四個と並べたらもっと気になる」


「そこ?」


「箱を積むときにも困る」


 今度は棚に置いてある箱を持ってきた。


 加工場ではいくつもの箱を使っている。


 肉を運ぶ箱。


 材料を入れる箱。


 道具を入れる箱。


「これも大きさが違うな」


「作った人が違うもの」


「同じくらいの箱なのに?」


「同じくらいだからでしょう」


 一つを棚へ入れる。


 入った。


 別の箱を入れる。


 少し引っかかった。


 三つ目。


 今度は隙間が大きい。


「無駄だな」


「何が?」


「場所」


 マードックは棚を見る。


「箱の大きさが全部同じなら、棚もそれに合わせられる」


「まあ、そうね」


「棚の幅も同じなら並べやすい」


「そうね」


「台車も箱に合わせられる」


「……また何か始まりそう」


 マードックは紙を持ってきた。


 箱を測る。


 どれくらいの大きさが使いやすいか。


 ローレライにも聞いた。


「大きすぎると持てないわよ」


「台車で運ぶ」


「全部台車で運ぶわけじゃないでしょう?」


「そうか」


「中身を入れた重さも考えて」


 箱だけなら持てる。


 肉を入れれば重くなる。


 脂を入れても重い。


「じゃあ、このくらいか」


 幅。


 奥行き。


 高さ。


 マードックは数字を決めた。


「この大きさで箱を作る」


「何個?」


「とりあえず十個」


「十個?」


「全部入れ替える」


「今ある箱は?」


「使えるところで使う」


「捨てないならいいわ」


 木材を用意した。


 今度は材料の大きさが違っても、完成品の寸法を指定する。


 余った部分は別に分ける。


 不足する場合は錬成を止める。


「そこまでやるんですか?」


 ギルバードが聞いた。


「同じものを作るんだから同じ大きさにする」


 一個目。


 二個目。


 三個目。


 完成した箱を並べる。


「揃ってる」


 ギルバードが一つを持ち上げた。


 次の箱を重ねる。


 きれいに重なった。


 三個。


 四個。


「これ、いいですね」


「だろ?」


「今までの箱より片付けやすい」


「だろ?」


 マードックは嬉しそうだった。


 十個の箱を加工場へ持ち込んだ。


 棚へ入れる。


 同じ隙間。


 同じ高さ。


 同じ位置。


「気持ち悪いくらい揃ってるわね」


 ローレライが言った。


「褒めてる?」


「一応」


 使ってみると予想以上に便利だった。


 どの箱でも同じ棚へ入る。


 どの箱でも同じ台車へ載せられる。


 空箱は重ねられる。


 置く場所にも迷わない。


 壊れても同じものを作ればいい。


「これだな」


「何が?」


「同じって便利だ」


 マードックは紙に箱の寸法を書き残した。


 その横に棚の寸法も書く。


 材料。


 厚さ。


 形。


 組み方。


 必要な魔力量。


「また記録?」


「次に同じものを作るからな」


「料理のときと一緒ね」


「そうだ」


 一度うまくいったものを、同じ条件で繰り返す。


 食品で覚えた方法だった。


 だが今回は、味ではない。


 形そのものを揃える。


 数日後。


 肉屋の主人が加工場へ来た。


「この箱、いいな」


「だろ?」


「うちにも欲しい」


「何個?」


「二十」


「二十?」


「肉を運ぶのに使いたい」


 革職人も箱を見た。


「うちにも何個か作ってくれ」


「同じのでいい?」


「いや、もう少し長いのがいい」


「どれくらい?」


「このくらい」


「このくらいじゃ分からん。測るぞ」


「面倒な奴だな」


「同じもの作れなくなるだろ」


 注文が増えた。


 箱。


 棚。


 作業台。


 椅子。


 道具を置く台。


 加工場で使っていたものを見た人間が、自分の店にも欲しいと言い始めた。


「家具屋みたいになってきましたね」


 ギルバードが言った。


「家具屋じゃない」


「棚作ってますよ」


「錬金術師だ」


「箱も」


「錬金術だ」


「椅子も頼まれてましたよね」


「錬金術だ」


「家具屋じゃないですか」


「錬金術師だ」


 マードックは注文を書いた紙を見る。


 問題が一つあった。


「木材が足りないな」


「買えば?」


「買う」


「じゃあ問題ないじゃない」


「今までより長い板がいる」


 大きな棚。


 長い作業台。


 丈夫な椅子。


 注文されるものが増えるほど、必要な材料も大きくなる。


 加工場の錬金窯を見る。


 去年、豚を入れるために大きくした。


 それでも長い板を扱うには使いにくい。


「また入口を大きくするんですか?」


 ギルバードが聞いた。


「入口だけじゃ駄目だ」


「というと?」


「出口もだ」


「やっぱり大きくなるんですね」


「仕方ないだろ」


「去年も聞いた気がします」


 マードックは錬金窯の横へ立った。


 最初は手で持てる材料だけだった。


 次に豚が入った。


 今度は長い木材を入れようとしている。


 作るものが大きくなれば、窯も変えなければならない。


 そして、もう一つ。


 マードックは十個並んだ箱を見る。


 同じ幅。


 同じ高さ。


 同じ形。


「寸法を決めておいた方がいいな」


「寸法?」


「ああ」


 誰かに頼まれるたびに、その場で大きさを決めるのは面倒だった。


 箱ならこの大きさ。


 棚ならこの幅。


 板ならこの厚さ。


 よく使うものだけでも先に決めておけばいい。


「毎回考えなくて済む」


 ギルバードが笑った。


「結局そこなんですね」


「大事だぞ」


 マードックは新しい紙を一枚取り出した。


 そこへ最初の数字を書いた。


 このとき彼は、それをただの寸法表だと思っていた。


 後に多くの工房で使われることになる最初の規格は、加工場の箱をきれいに積みたかったという、それだけの理由から始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。