特別公務執行監理官令嬢子様における過剰業務および撮れ高強要疑惑事案
令嬢子様の屋敷に、悪代官からの御用が届いた。
「何ですの、この書類の山は……!」
俺は満足げに頷く。
「お、早速期待されてるな!」
壁には、スローガンが貼られていた。
【奉公心得:功績は藩主に帰し、不備の際は、即刻切腹せよ】
「評価というより沙汰ですわ。しかも御役目の割当、すごいことになってますわ……」
「つまり上納金だな。よし、今回も過達成で悪のランク爆上げだ!」
『新たなシノギの確保が必要ですね』
令嬢子様は肩を落とす。
「言っていることが完全に裏稼業ですわ……」
俺は腕を組んで考える。
「農園は前回やったから……次は海だ。漁の上がりも見逃す手はないぞ」
「それでしたら、ピヨ湾の向こうに漁民が住むピヨ島がありますわ」
「ピヨ。拠点ごと押さえるピヨよ」
「可愛く言っても内容が完全に侵攻ですわ!」
『ピヨ湾へ転送ピヨよ…』
光の粒が集まると、砂浜に立っていた。
俺が踏み出す。
しかし、令嬢子様のパンダカーが砂を噛んで動かない!
「え、パンダカーって砂浜無理なの?」
『遊具にオフロード性能は搭載されていません』
令嬢子様がハンドルを握ったまま固まる。
「ど、どうすればよろしくて?」
パンダカーは音楽を止めて目を点滅させた。
「砂浜は専門外なのだわ。あたいも徒歩で向かうのだわ」
「え!?……そ、それしかありませんわね」
令嬢子様が降りるとパンダカーは二足歩行で歩き出した。
「たまにはこういう日もあるのだわ」
俺が島を指さす。
「よし、そのへんの丸太にでも跨っていくか」
丸太をゴロゴロ転がし、沖に出た。
丸太に跨り、ぷかぷかと浮かぶ。
次の瞬間バランスを崩し、丸太がくるんとひっくり返る。
「ガババババ!」
「ひいい!」
「あたい、こう見えて防水じゃないのだわ! 」
なんとか浜辺に這いずり上がる。
俺は辺りを見回した。
「こういう時、海岸沿い歩けば都合よく船の材料とか落ちてるもんだろ」
スタッフ達がタライを設置する。
――と、その時。数日前の嵐によって沖合から流され、偶然この海岸に打ち上げられたものと考えられるタライが――
謎のナレーションが響き渡った。
――自然の力がもたらした、まさに奇跡の資源と言えよう。果たして――
「お、あったぞ!」
「奇跡なのだわ」
「落ちてるものですわね!」
「よし、運ぶぞ!」
スタッフ達が集まり、せっせと運ぶ。
――その日、気温は五十度を超えていた。容赦ない真夏の日差しが、じりじりと三人の体力を奪う。過酷な環境の中、彼らは今――
パラソルの下でバーベキューを楽しんでいた。
「この肉うまっ!」
「やはり海辺はこうでなくてはなりませんわね!」
令嬢子様が優雅にワインを掲げる。
「スタッフ、肉が足りないのだわ!」
――炎天下での重労働。それでも彼らは止まらない。まさに実行部隊の鏡――
「あちち、火力上げすぎた!」
「鍋が溢れてますわ!」
「スタッフ、なんとかするのだわ!」
――次々と降りかかる予期せぬ事態。それでも彼らは、決してくじけることはない――
スタッフがタライを浮かべる。
汗でびしょ濡れのまま報告する。
「準備、できました……」
「お。遅かったな」
「日が暮れるかと思いましたわ」
「もう帰りたいのだわ!」
――なお、ここまでの作業時間、約二時間。彼らの体力も限界に近づいていた――
三人が額の汗を拭う。
「ふう、意外と重かったな」
「腕が上がりませんわ……」
「バッテリー消費も激しいのだわ」
スタッフが無言でこちらを見ている。
「気のせいか、視線が痛いな」
「たぶん日差しなのだわ」
「今日は暑いですものね」
『凍てつくような日差しですね』
ぷかぷか浮かぶタライの上に三人が乗る。
パンダカーが、ない首をかしげる。
「どうやって進むのだわ?」
令嬢子様がマサカリを海に突っ込む。
「これ、オールになるんじゃないですの?」
俺は高らかに笑う。
「見たか俺の伏線力!」
『こじつけに該当します』
光の文字が空中に浮かぶ。
【こじつけ:筋道の通らないことを、無理にそれっぽくすること】
俺は見上げながら取り敢えず頷いた。
マサカリを漕ぐと、タライはくるくると回転する。
令嬢子様、パニック!
「なんでですの、なんでですの!」
俺は舌打ちして立ち上がる。
「下手くそ!俺に貸してみろ!」
勢いよく立ち上がった瞬間タライがひっくり返った。
俺は服を絞りながら天を仰ぐ。
「どうすりゃいいんだ……」
その時、遠くから帆船が近づいて来た。
『ジャンル的に幽霊船の可能性が高いです』
俺は拳を上げる。
「来たー!これぞファンタジーってやつだ!」
「テンション高いですわね」
「だってこれまで 丸太とタライしか出てないんだぞ!」
コッソリ近づく。
だが、船だと思ったのは錯覚で、ただのゴムボートだった。
魔物が箱メガネで海中を覗いている。
「お、サザエが沢山!」
『密漁船でしたね』
「全然ファンタジーじゃないですわね」
「生々しいのだわ」
俺がマサカリをパンダカーに手渡す。
「よし、プラン変更だ。あいつら襲って横取りするぞ!」
「急に小物感半端ないのだわ」
「え、襲うって……それは公務ではなく、ただの略奪ですわ」
「あいつらも犯罪者だ、相殺だ!」
令嬢子様、パニック!
「うーん?それもそう?ですわね……?」
「もはや建前もクソもないのだわ」
パンダカーが意を決してメロディーMAXでマサカリを振り回して突撃する。
「あたいは正義の公用車なのだわ!サザエとお命頂戴なのだわ!」
その姿に魔物たちがド肝を抜かれる。
「わー、殺人パンダだ!」
魚叉や網が次々飛んでくる。
「ぬわー!? 地味に強いのだわ!」
パンダカーは弱すぎた!
令嬢子様はすかさず本を取り出す。
「オーホッホッホ!その程度で我が公用車を止められると思って?特別公務執行形態承認ですわ!」
禍々しい光がパンダカーを包み込んだ。
森のくまさんのメロディーがデスメタル調へ変わる。
「な、何だか馬力が溢れてくるのだわ……!」
パンダカーが爆走した。
「公務執行なのだわ!!」
マサカリが唸りを上げ、魔物たちをまとめて海へ吹き飛ばす。
「ぎゃあああー!」
「では、悪徳の名においてサザエは没収いたしますわ」
令嬢子様はサザエが大好物だったのだ!
「BBQ続行なのだわ」
パンダカーもマサカリを掲げる。
俺は腕を組む。
「撮れ高としてはどうだ?」
『ここまで約2500文字を計測。十分過ぎる文量です』
俺がガッツポーズをすると、スタッフたちがため息をつきながら、一斉に撤収を始めた。
ピヨ市の役人が番組スタッフたちをこき使っていた、しかもサザエ漁を襲ったという内部暴露が、尾ひれをつけて瞬く間に周辺地域へ広がっていった。




