悪役令嬢、家電になる!?
気がつくと、俺とアイは例の白い空間に戻っていた。
「あいつらも板についてきたし俺はもういいだろ」
『物語上ではコータローとエルフ子ちゃんが行動を継続していますが、このままだとラスボス戦へ直行するのみです』
「あー、そうか……」
『現場で動く敵——実行部隊が必要です』
俺は指を鳴らした。
「悪代官の手下……偉そうな女幹部とかいいな」
『上位階層の人物が適しています』
「上位って貴族とか?」
『“悪役令嬢”という分類が該当します』
「悪役令嬢?」
『対立役として配置される貴族令嬢で——』
「つまり悪徳な令嬢ってことか」
『悪徳ですと、役割ではなく悪性を帯びるので、実害を及ぼしますね』
「採用!」
アイが頷き淡く光る。
【テンプレート貴族屋敷 生成】
光の粒が集まり貴族屋敷が現れた。
豪奢な調度品、手入れの行き届いた庭園。
一人の貴族令嬢がいた。
「よし、お前は今から悪徳令嬢だ」
貴族令嬢に光が降りる。
【貴族令嬢 → 悪徳令嬢】
「え……?」
戸惑いの中、ぎこちなく口を開く。
「わ、わたくしは……どう振る舞えばよろしいのでしょうか……?」
『まずはキャラクター性の確立が必要です』
「名前だな。どんなのがいい?」
悪徳令嬢は、遠慮がちに言う。
「悪徳でしたら……冷徹な感じ、でしょうか?」
「任せろ。冷たそうなやつな」
俺は目を閉じる。
「令嬢子……様」
「えっ!?台所家電みたいな響きが……」
『冷却効果は抜群です』
悪徳令嬢が食い下がる。
「もっとこう、横文字とか」
「じゃあ……フリーザさ――」
「わたくしは令嬢子様!」
「以後お見知りおきを☆」
光の文字が浮かぶ。
【悪徳令嬢 : 令嬢子様】
俺は振り返る。
「で、何すりゃいい?」
『一般的には、収奪行為を通じて対立を生みます』
俺は見上げて考える。
「よし、年貢を二倍にして、農民を苦しめてやる!」
しかし令嬢子様は、戸惑った。
「え……、いきなり二倍ですの?いくらなんでも無茶苦茶ですわ」
俺はテーブルを叩く。
「俺たちはお役人様だ!農民は生かさず殺さず。搾れるだけ搾りとれ!」
令嬢子様は怯える。
「藩主様のような非道ぶりですわ……!」
俺は拳をあげる。
「よーし、じゃあ農園に乗り込むぞ!」
「でしたら、わたくしの愛馬をご用意できますわ」
「馬かぁ。悪代官が乗るイメージだな」
「そ、そうですの?」
俺は両手を広げる。
「なんかこう、実行部隊の幹部として迫力がほしいな」
俺は指を鳴らした。
「そうだ、熊に乗っていこう」
「く、熊?金太郎みたいで違うかと思いますわ」
「じゃあ、好きな動物は?」
令嬢子様は、考え込む。
「ぱ、パンダですわ」
「熊じゃん」
三人で笑った。
『ですが、パンダは騎乗には適していません』
「じゃあ……」
俺はアイに耳打ちする。
『了解しました』
空間に光の粒が集まり、現れたのは――
遊園地に置いてある、パンダカーだった。
令嬢子様はそれを見つめる。
「……これに乗れと?」
「インパクト絶大だろ!」
『ある意味威圧感はあります』
俺は手を振る。
「じゃあ先に行ってるぞ」
俺とアイが光の粒に包まれ、適当な農園の入口に瞬間移動する。
――二時間後。
遠くから、妙に陽気な森のくまさんのメロディーが聞こえてきた。
パンダカーの上には、紅のドレスに、白い手袋でまさかりを担いでいる令嬢子様。
恥ずかしくて両手で顔を覆っていた。
「ひいいい……!」
パンダカーは容赦なく音楽を流し続ける。
子供たちが歓喜の声を上げて飛び跳ねる。
「お、ファンタジーな感じで良いな」
『この場合ファンシーです』
その時だった。
「わああああ!」
街の奥から悲鳴が上がる。
野良魔物の群れがなだれ込み、人々が逃げ惑う。
「ちょうどいい。腕試しだな」
令嬢子様、パニック。
「わ、わたくし……武術の心得はございませんわ!」
『本来の悪役令嬢は、立場と関係性で人を動かす存在です』
俺は一瞬戸惑った。
「今他に誰もいないぞ、戦闘用に流用してくれ!」
【戦闘用に再定義】
光の粒が集まり、令嬢子様の手に一冊の本が現れる。
表紙には、“悪役令嬢の作法”
魔物が迫る。
「ひ、ひい……!」
令嬢子様は震える手で本を開く。
「……オ、オーホッホ……!」
ぎこちなく声を上げる。
「み、身の程をお知りなさいませ!」
「ギィィィッ……!?」
魔物たちが一斉にその場で跪く。
「お、従った!?」
令嬢子様は戸惑いながらも、続ける。
「あなたのような存在、わ、わたくしの社交界にはふさわしくありませんわ。即刻、退場なさい……!」
魔物たちの足元に暗黒の渦が開き一瞬で飲み込んだ。
「おお、どっかのエルフより強いじゃないか!」
『セリフを読むだけなので、消耗もゼロです』
「こりゃあ、あいつらも苦戦するな。面白くなるぞ!」
令嬢子様も少し自信をつけたようで、高笑いをする。
「オーホッホ。わたくしにかかれば、この程度造作もないことですわ」
農民たちを見下ろしながら、セリフを読む。
「では見返りとして年貢は二倍……、え……?いえ。い、一割増しということでよろしいかしら?」
農民たちの目から、感情がすっと抜け落ちた。
「いえ、喜んで二倍差し出します!」
「魔物に襲われるよりかはマシです!」
令嬢子様はたじろいだ。
「い、いいえ!そんなにはいりませんわ!」
「むしろ三倍差し出します!」
「なんだとこの野郎!それならこっちは五倍だすぞ!」
「俺は十倍だ!」
令嬢子様、ドン引き。
「えぇ……」
街中に響く歓声。
「令嬢子様バンザイ!」
俺は満足気に頷いた。
「いい感じに支配体制の完成だな」
光る文字が浮かぶ。
【農村支配率:上昇】
【徴収目標:過達成】
【魔物複数体:確保、配下化成功】
『順調に進行中です』
ピヨ市の更なる重税の噂は、尾ひれをつけながら瞬く間に周辺地域へ広がった。




