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オリカ・イズ・デッド、それから  作者: 遊佐東吾
幕間

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38/40

ハロー、ポップアップモンスター〈前編/出現〉

 ラブツーク王国有数の都、ベイズ。


「足を運ぶたびに、王都にも劣らぬほど栄えた街だと実感するよ」


 視察に訪れているドミカリフが率直な感想を口にする。

 付き従う部下のエジーンも短い臙脂色の髪を揺らし、「はっ」と応じた。


「これもドミカリフ様やロズミィ様の手腕によるものかと存じます」


 エジーンは有能な武人である。女性でありながらその剣の腕は王国随一だ。並みいる歴戦の猛者どもを退ける彼女の技量へ、ドミカリフもロズミィも心底惚れ込んでいた。

 ただエジーンには抜擢に対し、必要以上の恩義を感じている節も散見される。ドミカリフとしては懸念すべき点だ。


「追従は耳に心地よいが、それでは互いにいい仕事などできん。位の上下に囚われることなく、率直な意見を述べることが大事だぞ」


「はっ。仰せのままに」


 理解してくれているのかどうか、はっきりとはわからない返答である。

 ドミカリフらは視察の旅の途上にあった。辺境における監視体制の強化を図り、有事の際の救援部隊派遣への手続きも簡略化した。

 ラブツーク王国はかつてない危機にさらされている。それがドミカリフとロズミィの共通した認識だ。

 ワイト王国からの侵攻へは常に備えておかねばならないし、辺境における怪物出現も頭痛の種であった。しかも出現頻度は明らかに以前より高くなっている。王都には無関係だと公言する不届き者も少なくないが、とても軽視できる状況ではなかった。


 王国内のあちらこちらを行き来しなければならない多忙なドミカリフゆえ、ロズミィはエジーンを彼の直属の部下としたのだ。

 現在の二人の目的地はベイズの庁舎である。これだけの大きな都市だ、各地へ援軍を送る局面も出てくるだろう。その根回しをしておく必要があった。

 だがその庁舎の前までやってきたとき、正面玄関のところでちょっとした騒ぎが起こっていた。どうやら中へ入りたい者と、素性が知れぬと拒否する衛兵との間で言い争いになっているらしい。

 仲裁しようと進み出たドミカリフだったが、当事者の顔を見て驚いた。


「おお、おまえたちはいつぞやの青髪と金髪ではないか」


 新しい英雄としてこの世界へ召喚されてきたオリカ。そんな彼女の護衛として同行していたのが、目の前にいる青髪のルブウと金髪のトルゴーである。

 顔立ちの幼いトルゴーは両手を上げて大喜びだ。


「よかったー。もうドミカリフ殿に会わせてもらえないかと思ってたよー」


「ロズミィ様の許可はちゃんと得ているんですがね。まあ、口頭での約束なので証明はできませんけど」


 ルブウも眼鏡を押し上げながら応じる。


「私にか? もしや至急の案件でもできたか」


 彼らが特使としてラブツーク王国へ遣わされたことは、ドミカリフもすでに聞き及んでいる。構成人数たった四名の新しい国、グレイズ国よりの使者だ。

 ロズミィと面会し、対ワイト王国を見据えて互いに協力体制を築くことで合意する手筈となっていたのだが。


「もしや合意に至らなかったか」


「あ、いえいえ。その点については心配に及びません。単にボクらがドミカリフ殿にもご挨拶したいなーって考えただけで」


「我々も、ドミカリフ殿とはもっと話してみたかったのです」


 確かに二人の言う通り、きちんと対話する機会は持てなかった。会敵して軽く力量を確かめた程度の出会いだ。

 まだ年若く、さらなる修練が彼らには必要だろう。しかし異端の魔術師であるダダイが見込んだ青年たちということもあり、いつか必ず頭角を現してくるに違いなかった。できればそのとき、ラブツーク王国の敵であってほしくはない。

 そんなドミカリフの心情など知る由もなく、怒りの形相とともにエジーンが剣の柄に手を掛けていた。


「貴様ら、先ほどからドミカリフ様の敬称を間違っているぞ……!」


 これにはさすがのドミカリフも慌ててしまう。


「よせよせ。彼らとは一戦交えて和睦した仲だ。大目に見てやってくれ」


「いやー、全然歯が立ちませんでしたけどねー」


 トルゴーが頭を掻き、ルブウも「あれほどの完敗は初めての経験でした」と穏やかな表情で口にする。

 素直で鍛えがいがありそうな若者たちではないか、とドミカリフは内心でダダイを羨ましく思う。


「先約があるので少し待たせてしまうが、どうだ。当時の戦いを互いに振り返ってみようじゃないか。反省が改善を生み、人を成長させるのだからな」


「願ってもないお言葉です。ぜひいろいろとご教示いただければ」


 深々と頭を下げたルブウを見て、エジーンが「ふん」と鼻を鳴らした。好ましい態度ではないので、後ほど注意が必要だ。


「ぷぷ。レドが聞いたら『仲間外れにしやがって』って怒りだすかもねー」


 楽しげな声でトルゴーがはしゃぐ。

 言われてみれば、オリカの仲間にはもう一人赤髪の青年がいた。それこそエジーンのような剣士だ。


「レドとは赤髪の男だな。今回はダダイ殿と留守番か」


 そうドミカリフが訊ねると、トルゴーとルブウはなぜか顔を見合わせている。


「まあ、確かにダダイ様の護衛役が必要だからって意味合いもあるんですけどぉ」


「彼は失恋の痛手からなかなか立ち直ってくれなくてですね、とてもじゃないですけど使者の役目を果たせそうになかったものですから」


「失恋ごときで……?」と怪訝そうに反応したのはエジーンだ。剣一筋に生きてきた彼女には、よくある惚れた腫れたの空騒ぎとしか受け止められないのだろう。

 けれどもドミカリフには事情が理解できた。


「ほう。赤髪のあやつはオリカ殿に懸想していたか」


 長年かけて磨き上げてきた自慢の土牢魔術を、オリカによってあっさり破られた瞬間が彼の脳裏にまざまざと蘇ってくる。


「それはまた……難儀なことだな」


「ですよねー」


 少しだけ眉を寄せた困り顔で、トルゴーが軽く答えた。

 新しい英雄となるはずだったオリカは、ワイト王国上層部の意に反して、元いた世界への帰還を果たしている。もはや一介の剣士であるレドにどうこうできる範疇ではない。

 ドミカリフも苦笑いを浮かべるしかなかった。


「まあ、そのあたりの話も後でゆっくり聞かせてもらおう。それまでの間、おまえたちはエジーンとともに待っていてくれ」


 彼の言葉に、一瞬だけエジーンは不服そうな表情を見せる。それでもすぐに気持ちを立て直し「はっ、仰せのままに」と応じた。

 部下を育てるのは上に立つ者の仕事だ。癖の強い他国の人間との交流も、長い目で見れば成長の糧となる。彼女の能力を見込んでいるからこそ、様々な場面を経験させておきたいというドミカリフの親心であった。


「よし。任せたぞエジ──────」


 最後まで口にすることができなかった。

 一度だけだが、地面の大きな揺れが発生したのだ。歴戦のドミカリフといえども片膝をついてしまうほどの規模であった。

 さらに程なくして「ドミカリフ様、こちらにいらっしゃいましたか!」と報告がもたらされる。


「たった今、街外れに巨大な怪物が出現したとのこと!」


「まさか」


 信じがたかった。そのような兆候はここまでまったく感知されておらず、あまりの衝撃に頭が理解を拒んでいる。


「形状はさながら巨大な蜘蛛! 八本脚のおぞましい生き物が、突如としてここベイズ周縁に現れたのです! 城壁が破られるのも時間の問題かと!」


 とはいえ、顔面蒼白の兵士が嘘を告げているようにはとても見えない。

 ドミカリフは思い出す。辺境における怪物出現についての報告に目を通していた際、すべてに共通する点があった。それは「接近してくるまで発見できなかった」というものだ。

 なので彼は辺境での監視体制を強化したわけだが、まさか都市部においても同様の出来事が起こるとは想像すらしていなかった。

 異様な事態だ。だからといって手をこまねいていられるわけがない。


「相わかった。すぐに私とエジーンで現場へ向かう。おまえは引き続き、庁舎内におられるベイズ長官へと報告せよ」


「かしこまりました!」


 兵士にベイズ中枢部への伝令を託したドミカリフは、ルブウとトルゴーの方へと向き直る。


「さて、そういうわけだ。せっかくの機会だったが、次に持ち越しだな」


 けれども彼らの反応は予想外のものだった。不敵に笑っていたのだ。


「何をおっしゃいますか、ドミカリフ殿。むしろあなたへ恩を売れる好機です」


「そうですよー。ここでのこのこ安全な場所へ避難しようものなら、帰ったときにダダイ様の折檻が待ってますからねー」


「おまえたち……」


 他国の戦力に頼ることは好ましくないが、事態が事態だ。

 怪物討伐にあたり、腕に覚えのある者は何人いても足りるということはない。そのことを討伐経験者であるドミカリフは肌で理解していた。


「では、改めて助力をお願いする」


「もちろん」


 ルブウとトルゴー、二人の声は揃っていた。

 そんな彼らの様子を見て、エジーンが再び「ふん」と鼻を鳴らす。


「ドミカリフ様と私の足を引っ張ってくれるなよ、軽佻浮薄な輩どもめ」


 相変わらずの失礼極まりない態度だが、一方で二人の若者たちの方には腹を立てている素振りが見られない。むしろ喜んでさえいるようだ。


「おっかなーい。あーあ、レドも連れてくるんだったねー」


「いい土産話ができたじゃないですか。君に紹介したいくらい、気の強い人がいましたよって」


 虚勢なのか自然体なのかはわからない。ただ彼らのなかなかの肝の座りようは、ドミカリフの目に非常に頼もしく映った。

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