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第2話 限界へのカウントダウン(2)

サーグ帝国の軍事記録には、その日、最も「屈辱的」で「不可解」な敗走が記されることになった。だが、その詳細は最高機密として封印され、関わった将兵には厳重な箝口令が敷かれている。

[司令官の困惑:空白の180秒]


「……現れたか。ロアンダールの鼠め」


旗艦のブリッジで、サーグ艦隊の司令官は冷酷な笑みを浮かべていた。センサーが捉えたのは、先ほどまで「無」だった空間から弾き出されるように出現したロアンダール艦の姿だ。

だが、その勝利の確信は、直後に鳴り響いた警報音によって粉砕された。


[観測記録:事象の崩壊]


〇 第1波: ロアンダール艦の周辺空間が、紙を丸めるように歪曲。

〇 第2波: 質量計が振り切れ、計算機が「測定不能(Error)」を連発。

〇 視覚的変容: 漆黒の宇宙背景に、突如として「ピンク色の巨大な山脈」のようなものが三つ、四つと突き立てられた。


「……山だと? 宇宙空間に、指先のような肉の塊が……?」


[艦隊壊滅の危機:未確認「接触」]


それは攻撃ですらなかった。

ただ、そこにあるだけで銀河の重力均衡を崩しかねない巨大な「何か」が、まるで邪魔な石ころを払いのけるように、サーグ艦隊の陣形を「撫でた」のだ。


「全艦、緊急回避! 方位、角度、そんなものはどうでもいい! とにかくあの『指』から離れろ!」


司令官の叫びも虚しく、誇り高きサーグの駆逐艦たちが、まるでお手玉のように次々と弾き飛ばされていく。それは戦闘ではなく、一方的な「お片付け」に近い光景だった。


帰投後の被害報告書(要約)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

項目〔物理的損傷〕

├内容: 表面装甲板の全体的圧壊

└備考: キール(竜骨)の歪み

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

項目〔精神的被害〕

├内容: 全乗組員に「巨大な瞳」のフラッシュバック

└備考: 精神療養が必要。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

項目〔怪奇現象〕

├内容: 通信回線に「ゴロゴロ」という重低音の混入

└備考: 物理的な振動を伴う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[記憶の混濁と帰還]


「……我々は、何と戦っていたのだ?」


戦闘領域から命からがらに脱出後、司令官は震える手で記録映像を見返した。

そこには、次元の裂け目から覗く、銀河系を丸ごと飲み込みそうなほど巨大な、「金色の瞳」が映っていた。その瞳は、逃げ惑うサーグ艦隊を、まるで見守るような、あるいは……次に動くのを期待しているような、無邪気な光を湛えていた。


「あれは……生物などではない。あれこそが、宇宙の真の『主』なのだ……」


司令官はそれ以上語るのをやめ、公式記録にはこう書き残した。

「局所的な超重力崩壊と次元断層の複合発生により、作戦継続不能。全艦、奇跡的な生還を果たす」


[結末:宇宙の怪談]


こうして、ロアンダール艦も、サーグの精鋭艦隊も、同じ恐怖を共有したまま別々の宇宙へと帰っていった。

戦場となったデブリ・ベルトには、今も時折、次元の狭間から正体不明の鳴き声のような空間振動が漏れ聞こえるという。

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