最終話 深宇宙の円環(1)
深宇宙探査船『アルゴス-IV』
星暦[黒塗り]年[黒塗り]月[黒塗り]日
担当:[黒塗り]首席探査士
信じられないことが起きている。
我々『アルゴス-IV』は現在、航路図にも載っていない完全な未踏破領域、第9外縁セクターの境界付近に位置している。
本来、ここは無価値な暗黒の空白域のはずだった。しかし、長距離パッシブ・センサーが捉えたデータは、中央政府や航宙安全保障会議が必死にひた隠しにしてきた「あの記録」と完全に一致している。
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[姿を消した「巨大な脅威」]
数か月前、広域航宙ネットを揺るがす噂が駆け巡った。
軍や検査局が「高濃度放射線帯」や「局所的重力異常」という名目で長年にわたって封鎖し、厳重に秘密監視を続けていた数々の「航行禁止区域」――そのすべての領域から、かつてそこに存在していたとされる超巨大質量反応が、突如として一斉に完全に消滅したというのだ。
「奴らがどこへ消えたのか」「ついに人類の居住圏へ向けて進軍を始めたのではないか」
秘密を知る一部の最高幹部たちは、未知の侵略の予兆として極限の緊張状態に陥っていたと聞く。
だが、その真相の欠片が、今、我々の目の前に広がっていた。
[異常観測:整然たる「円」]
「……艦長、光学望遠スクリーン、最大倍率で同期完了しました。ノイズを処理します」
オペレーターの手が震えていた。メインモニターに映し出されたのは、宇宙の常識を遥かに超越した、息を呑むような光景だった。
[観測ログ(第9外縁セクター)]
◯ 対象: 超巨大質量個体群(個別サイズ:推定数十万キロメートル)
◯ 数量: 少なくとも12以上の独立した質量反応を捕捉
◯ 配置: 直径二百万キロメートル以上に及ぶ「円状」
◯ 距離感: 各個体が等間隔を保ち、静かに静止
そこには闘争の気配は、一切存在しなかった。
単色の個体、3色や2色の斑模様や縞模様の個体、そして各地の航行禁止区域で静かに眠っていたはずの他の巨大質量体たちも――かつては広大な宇宙のあちこちに点在していた「主」たちが、あろうことかこの未踏破の宙域に一堂に会していたのだ。
[理由なき集い、そして静寂]
彼らは互いに襲いかかることもなく、威嚇の電磁波を放つこともない。
ただ広大な闇の中で、途方もない円環を描くようにして、静かに、じっと座り込むようにして静止している。
時折、ある個体が巨大な尾状の構造体をゆっくりと一振りすると、その波動が隣の個体へと伝わり、まるで互いの存在を確認し合っているかのような微細な空間振動が伝播する。
「……彼らは、戦うために集まったんじゃない」
誰かが呟いた。その声は静まり返った艦橋に小さく響いた。
「じゃあ、一体何のために? これだけの超質量体が、わざわざ自分の縄張りを離れて、一箇所に集まる理由なんて……」
彼らはただ、そこに「集まっている」のだ。
理由も、目的も、人類のちっぽけな科学では推し量ることもできない。何かの合図とともに各々の領域から立ち上がり、この遠い宙域へとお互いの顔を合わせにやってきた――まるで、ただの気まぐれな「集会」であるかのように。
「艦長、どうしますか? 遮蔽シールドは維持していますが……」
「……このまま、エンジンを最小出力にして静観する。刺激するな。我々は今、宇宙で最も巨大で、最も不可解な『儀式』を目撃しているのかもしれない」
『アルゴス-IV』は息を殺し、ただ暗黒の宙域で輪を描き、じっと沈黙を共有し合う巨大な存在たちの姿を、記録装置に刻み続けのだった。




