表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第八章
98/108

於訳の集会場で休んでいると、奥で交易の魏人が倒れ

 マイヤが苦渋の顔をしたコウスに気付いて、心配そうに尋ねる。


「どうされました、コウス皇子。船酔いですか、お身体の具合が芳しくないのですか。」


 シモンも横に来て、心配そうに見つめる。隣の部屋からニコルも来て、額に手を当てる。

 他の者も談笑をやめて周囲に集まり、屋形の空気が凍り付く。


「ずっと気を張られて、お疲れが湧き出たのでは。すぐに熱いお茶をお持ちしますので、しばらく横になられてお休み下さい。」


「うん、そのようだ。休ませて貰おう。」


 ひとりになれば、続けて考えを広げやすいし、別の策が出るかもしれないとコウスは思った。別の部屋に移動して、もう一度練り直そう。

 横になると本当に疲れが湧き出たのか、妙に眠気が襲い掛かって、いつしか夢の中に引き摺り込まれた。


「あと一時半で、於訳津に到着致します。荷積みは一時で終わります。その間、船内でお待ちになられますか、気分転換に桟橋の奥の集会所まで歩かれ、お茶でも啜られますか。」


 朝日が水平線から顔を出した時分に、船長の声がしてコウスは目覚めた。


---夕刻前から今まで、よく寝たな。夢の中でずぶ濡れになり、誰かに介抱されていたのは漁船から落ちた夢か。出雲潜入の様子もあったようだが、恐ろしい闇の中だった。神の予言でなければ良いのだが。


「お早うございます。昨夜は身動きもせず、ぐっすり眠られておられました。お身体は回復されましたでしょうか。於訳津で荷積みの間、皆は津の集会所へ行きたいと申しております。コウス皇子はどうなされますか。」


 マイヤとニコルが枕元に座り、もうすぐ於訳津に着くと報告する。

 体調を案じながら船を下りるか、屋形で休んでいるか聞くので、気分転換に歩いてみたいので、一緒に行くと答えた。


十五

 船が大きな於訳津の桟橋に着くと、慌ただしく係留が行われた。

 大勢の荷役人が、桟橋にうず高く積まれたこも袋に綱を巻き、船に積み込んでいる。

 兵の警備は見当たらないので、こも袋は米や食糧だろう。


 渡り板が下ろされ、マイヤを先頭に全員が桟橋へ下りた。船長は忙しくて船を離れることができず、代わりに調理人が案内すると近付いてきた。

 羽経を出て以来、ずっと船に揺られていたので桟橋に立つと、背筋が伸びて気持ちが良い。


「某が集会場へご案内致します。半時ほどですので、茶と茶菓子でお寛ぎ下さい。こちらへどうぞ。」


 山手に向かって兵舎が並ぶ二丁先にある集会場へ入ると、多くの倭都民と海外の交易者が、混ざり合って賑わっていた。

 一行は入口に近い長卓を囲んで座る。コウスは賑わいのある交易津に胸を踊らせる。


「朝早くから活気があるな。難波津も、こうあって欲しいものだ。」


 奥へ入った案内の調理人が、給仕係が五人連れて戻ってきた。給仕の女人は茶と茶菓子を一行の前に置き、そそくさと去った。


 調理人の顔が険しい。給仕の女人も態度が素気ない。一体どうしたのかと、マイヤが調理人に問いかける。


「実は奥の席でから来た交易人が、血を吐いて倒れたそうです。集会場で出した料理か、飲み物に毒物が入っていないか調べるよう、魏の仲間が騒いでいます。医官が手当てしていますが、以前から胸を患っていたようだと聞きました。」


 奥の席が賑わっていると思ったが、病人が出て騒いでいたのだ。コウスの心配は、魏の仲間たちが集会場の手落ちにして、毒殺と騒げば事態が怪しくなる。


「それは大変だ。倒れた者の容体は、回復しているのか。」


「血を吐いたのですから、難しいかと。医官は倭都民と魏人がおりますので、吐いた血と料理や飲み物を調べ、集会場に手落ちがなかったと証明できなければ……。」


 しばらく容体を案じていると、倒れた魏人は息を引き取ったらしく、奥では騒ぎが大きくなっている。


 集会場は、空腹の鼠十匹ほどをこも袋に入れて持ち寄り、魏人に出した料理を食べさせて、様子を見ている。

 飲み物は仲間たちと同じ酒や茶だったので、毒入りではないと医官は断言した。


「鼠に料理の毒見をさせたところ、どの鼠にも変化がなく元気でした。亡くなった魏人は胸の病いによる発作と、仲間たちは納得したようです。」


 奥の様子を窺いに行ったり、戻ったりしていた調理人が、集会所に手落ちがなかったことに、料理を担う物として安堵していた。


「そろそろ船に帰られる時分です。お忘れ物なきよう、お仕度を願います。思いもかけない騒ぎで、ご迷惑をお掛け致しました。」


 船に戻ると荷積みを終え、出発の準備が整っていた。屋形に入って土産の土器や砂を点検していると、船長が明朝は己実みみ津に着くと告げる。


「集会所は気分転換になられたでしょうか。少し早いですが、お昼の食事をお持ち致しますので、お召上がりながらの出発となり、明朝は己実みみ津に到着です。」


 さらに船長は目を輝かせて、恵枇の国主討伐に触れる。


「これでようやく、恵枇タケル国主の討伐が完結ですね。津ではタルシ当代と、兎農のマセラ当代が待ち受け、盛大な凱旋の御祝いを準備していることでしょう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ