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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第八章
97/108

手に入れた白砂は出雲へ、だが羽経と馬韓の繋がりは

 立ち寄る交易船に知られると、光る砂の流言話がちまたに広がり、欲しがるものが押し寄せる。内心喜んだコウスは、光る白い砂の存在を、内密にさせようと策を絞る。


 この村で事実を知る者は我々一行と案内の女人と、船長だけだ。他の農民や兵、漁夫にも絶対に知られてはならない。

 コウスが口止めする良策はないか思案していると、ひとつの策が浮かんだ。


「そうだったのか、それは良かった。だが川の氾濫で積もる砂土と、稲田に与えられた風土は倭都にいくつもあり、羽経のように格別に美味しくなってはおらん。手前が思うに、白い砂にこそ米粒を大きく白くし、甘さを蓄える養力ようりょくが備わっておるのだ。これは其方の胸中に仕舞い込め。白砂をこの地の秘宝として、決して多言しないように。」


 黙って聞いていた女人の目から、突如涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちた。


「私のような者に、願ってもない有難い情報と知恵を授けて下さり、何と御礼を申して上げて良いか……。皇子様の御言葉を胸に秘めて、山と川に感謝を忘れず、より良い羽経の米作りに励みます。」


 感激した女人は、涙声になって平伏している。ニコルがそっと近づき、肩を抱き起こす。


「高い山と大きな川のお恵みに感謝し、大事にされる其方こそ、羽経の宝です。」


 何の根拠もない白砂の養力を説いたコウスは、少し後ろめたい気持ちになったが、女人が信じて励みになるなら、それも良いと自分を慰めた。

 この会話は、離れた場所で談話しているマトルと、ノモシには聞こえていない。


十三

 豪華で美味な夕餉の宴席は開いた。マトルとノモシは酒で振ら付く足取りで、半里先の集落へ帰ると挨拶に来た。


「某は、これで失礼致します。何卒羽経をお忘れなきよう、次のお越しをお待ち申し上げます。ご訪問、有難うございました。」


 一行は満腹の腹を擦りながら、宿舎として設えてもらった寝室へ向かう。


 翌朝、まだ暗いうちから様々な鳥のさえずりが響き渡り、酔いを掻き消すかのように心地よく目覚めた。

 晴れ渡った空には、冬到来の白い筋雲が山手方面へ流れ、風は冷たい。


 今日は早目に出立して於訳おわけ津、そして未羽みわ津へ向かうのだ。

 ためになる話も、珍重な白砂も手に入れた昨日の事を、コウスは反芻はんすうしながら旅支度にとりかかる。預けていた倭台市の土器は無事だった。


「お目覚めでしょうか。朝のお食事が整っておりますので、お揃いで集会所へお越しくださいませ。」


 世話人が入口の外から声を掛ける。早く発つことを船長から聞いていたようだ。


「有難う。旅の荷物は、ここに置いたままで良いか。」


「結構でございます。」


 全員が旅支度で廊へ出て、集会所へ歩く。誰も彼も、晴れ晴れとした顔をしている。

 集会所に入ると、すでに船長は来ていて女人と一緒に入口で迎えてくれた。


「お早うございます。よく眠れたようですね。さっそく朝餉を済ませ、出立致しましょう。漁船は出払って二隻しかございませんので、三人ずつお乗り頂き、二往復になります。ご了承下され。」


 朝食を済ませると、世話人が大根の葉に包んだ、大きな握り飯を抱えて来た。数えると二十五個ある。言うまでもなく、羽経の米だ。


「皆様に喜んで頂いた、お米で御座います。船中でお腹が空きましたら、お召し上がりください。」


「それは嬉しい。わざわざ握ってくれて、かたじけなく存ずる。これからも皆々が仲良く達者で暮らし、米作りに励まれよ。色々有難う、楽しかった。」


 コウスが一行を代表して礼を表した。それぞれが荷物を背負い、土器や砂を肩や腰に下げて、宿舎の玄関を出た。


 津は冷たい風が強く吹き込み、高い波が押し寄せている。濡れた桟橋から二双の漁船に乗り込む。

 海面に近い漁船に揺られ、荒々しい波を受けながら、全員が頭まで濡れて交易船に移った。


 大きく幅のある己実の交易船は、さほどの揺れを感じない。石のおもりが上がり、三十本の櫓が勢いよく潮を掻いて於訳津を目指す。


 朝早く出たので西日が水平線に沈む夕刻に、遠く前方に瑪島めしまが臨める海峡まで戻った。

 船長と料理人が屋形を覗いて、夕餉を配りながら今後の予定を告げる。


「ここから向かい潮になりますので、船内で夜を過ごして頂き、翌朝は於訳津に着く予定です。昼前には荷積みを終えて、己実みみ津へ発ちます。」


十四

 火鉢で暖を取りながら夕食を摂り、和やかに談笑している凱旋隊一行。

 それを横目にコウスは、ハリマ王の下命を受けた出雲王討伐について、まず潜入する手段に没頭する。


 そろそろ策を講じねばと思っていたところ、羽経に下り立って農村を案内された。

 そこで羽経が無名の漁村であったこと、まさかの兵士が多数生活していたことに気付き、これは使えるとひらめいたのだ。


 無名の地から出雲へ入った旅人に扮した場合、何処かの間者か嗅助を疑われ、出雲王に会う前に捕まり、殺されるかもしれない。疑われない方法はあるか……。


 貢物として差し出す土器や白砂は、今は倭都のどこにも存在しないので、馬韓まかんから渡って来た物にできる。だが無名の羽経と、海外の馬韓をどう繋ぐか……。

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