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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第八章
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夕餉の席で山賊の話を聞き、白砂の秘密は誰も知らず

「我が連隊長に御紹介頂いた、手前がコウスで十六歳です。己実の交易船に相乗りさせて頂き、船長がぜひ一度、羽経の地を御覧あれと案内して下さり、立ち寄った。空気が澄んで静かで、海も山も綺麗な羽経の地に心が洗われ申した。」


 天皇の皇子なので、さも偉そうに話すと思いきや、優しい言葉で立ち寄って良かったと言うではないか。

 宿舎の雰囲気は見事に柔らかくなって、笑顔が満ちた。コウスは話を続ける。


「そのうえ昼餉では、とても美味しい米と料理に感激した。その米は一ヶ所だけ交易に使われておるそうだが、敢えて交易相手を増やさない、とても良い方法だと思う。」


 珍重とされる米の収穫地は、秘めるべきだ。各地から交易船が押し寄せると、遠からず同等の米が出回る事態になるのは、想像に難くない。


 小さな拍手が聞こえた。羽経の米作りに対する姿勢を、コウスの感想として確かめたところ、どうやら間違っていなかった。


「マトル当代に挨拶に向かう途中、警備兵の方に止められた。やはり珍重な米の収穫地を、密かに探っている嗅助かきすけが入るからだと存ずるが。」


 当代は、稲田を挟んだ高い二山に多数の山賊が棲み、収穫期だけでなく、たびたび米倉を襲うのだと言う。


「海から小さな漁村は見えても、米作りの稲田は山に隠れて見えません。この集会場も木立が遮るように建てており、見付けるのは難しいでしょう。警備兵は奥の山に棲む、いくつかの山賊に対して配備しております。」


 警備兵は山賊から、米を守るためだった。

 たまに停留する交易船が漁具や農機具だけでなく、武器や武具も積んでいた理由を、ここで理解したコウス。


---海からは長閑のどかな漁村にしか見えない羽経。この地に山賊から米を守る警備兵がいるとは。周隣の集落や村は、警備兵の存在を知っているのだろうか。


「大きな山は、山賊の巣になりやすい。その麓に米を収穫し、魚も奪える村があれば恰好の食糧源だ。警備の兵は常に警戒状態で大変だな。山賊相手だと少ない兵数では困ることもあるだろうが、この周辺で暮らしている人々にとっては、心強いだろう。」


「山賊と言えど、大きな部隊もあり二方、三方から攻めて来る部隊もありますので、兵は百人おります。この周辺の集落や村は、山を隔てているので警備兵がいるのは、知られておりません。」


十二

 外を覗くと、景色は真っ暗で見えない。宿舎の女人が、日が沈んで一時は経ったと言うほど和やかに、首長や警備隊長と談話していたのだ。


 広い集会所で寛いでいると、少し離れた隣で宿舎の女将の指示で、世話人が忙しそうに十四人の料理と酒を配膳している。


「お待たせ致しました。お食事の支度が整いましたので、皆様こちらへどうぞ。」


 向かい合わせに並んだ座敷の左奥から、コウス、マイヤ、船長、ニコルと世話役の五人が座り、マトル当代とノモシ隊長が続いた。

 右奥からはシモン、ケイシ、マナキ、マヤム、マサキ、ツキノ、コルノの順に七人が座る。


 酒壷を抱えて待機していた、宿舎の女将と世話人が左奥の七人に酒を注ぎ、右奥へ回って全員に酒が注がれた。

 座していたコウスが再び立ち上がり、謝礼と乾杯の音頭を取る。


「素晴らしい羽経の訪問に恵まれたこと、誠に嬉しく存ずる。何より我々一行のために宿舎を手配され、見聞の手引きも担ってくれたタクラ船長には、いくら感謝を申し上げても足りない程である。そして稲田を案内された管理者の御方、集会所の女将と世話人の方々、遠方から駈け付けて下さったマトル当代とノモシ隊長。この手厚い持てなしに、心から感謝を申し上げる。」


 頭を垂れて聞く者も、コウスを見つめて聞く者もいたが、発声を終えると一斉に深いお辞儀で応える。


「では遠慮なく夕餉を頂戴する。そして益々の羽経の平安と、皆々の幸運を祈って座ったままで乾杯をしよう。乾杯。」


 手にしていた全員の酒杯が上がり、声を揃えて乾杯を唱えた。

 杯を飲み干すと、コウスの横に来た女将が神妙な表情で酒を勧める。次にマイヤ、船長、ニコルにも注いでいく。


 料理は昼餉に増して、焼いた魚や煮た魚の切り身が盛られ、新鮮な野菜と木の実を色よく盛り付けた、豪華な料理だ。

そこに交易で得たのだろう旨い緑茶を飲み、粒が大きく甘い米を頬張ると、身体中に満足感が膨らむ。


 よく歩いたこともあり、食が進む。そこへ稲田を案内した女人も横に来て、酒を勧めてくる。コウスは聞きたいことがあるので、マイヤとの間に入れた。


「今日は色々と見せてもらい、土産として白い砂を五袋も頂戴した。あの砂が光ることは、其方は承知していると思うが、誰かに見せたり、分け与えたりしたのか。」


 飲み干したコウスの杯に追い酒を注ぐと、隣のマイヤにも注ぎながら、笑って否定する。


「いえ、この御方様が日に当てると光り、透明だとおっしゃいました。私は長年見ておりますが、ずっと普通の白い砂と思っていました。ですので誰にも見せたり、差し上げたりしたことは御座いません。」

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