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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第八章
95/108

稲田の土に混ざった白砂が、透けて光っているとは

 柵の中にいた兵二人が、集落の当代と兵の隊長を呼びに走った。

 飛び出した兵三人は、訪問の一行が放つ風格と威厳に気付き、その場で地面に正座する。


「先ほどの御無礼を、何卒お許し下され。当代も隊長も近くにおりませんので、遣いが走りました。今しばらくお待ち願います。」


 兵が手にしていた武器を置き、両手を突いて平伏する。案内の女人が立つよう促して、兵に指示する。


「遠くにいるなら日が暮れるので、御一行をお待たせ出来ない。着いたらふもとの集会所に参るよう伝えなされ。」


 兵に言付けをし、じっと待つよりも稲田の様子や、土を見ようと手招きするので、付いて歩く。


 柔らかな草が生い茂った稲田にシモンがしゃがみ、黒い土を手にすくい、指で均してマイヤに見せる。


「固まっておりますが、手触りが非常に微細です。粘土質ではないので、水はけが良いのでしょう。女人が申しておった、白の砂が程よく混ざっております。粒になった石の灰でしょうか。」


 マイヤもしゃがみ込んで、白い砂が混ざった黒い土を掬い、指先で均しながら眺める。

その土を日に当てるよう目の高さまで上げ、驚嘆した顔でコウス、シモンの方へ振り向いた。


「これは……。この白砂をご覧下さい。よくよく見ると砂は透けていて、日を当てると光ります。石の灰ではない、一体何だろう。」


 鋭い眼力を持つ、マイヤならではの気付きだ。白い砂だけを指先で集めて皆に見せると、確かに日を反射して輝いている。

 ニコルが顔を近付けて、目を見張る。


「本当、沢山集めると光って綺麗です。ずっと上の山に、水の流れに砕かれる前の石があるのでしょうか。」


 コウスは箕輪みわ山で掘り出されたと伝えられる、輝く石の球は見たことがあり、まつりごとの神石にしたり、方々への礼物や貢物に使われたりしている。

 だがそれは青い色をした石を磨いたものだ。

 

 羽経の砂は透明で、磨かなくても光っている。上流に大きな石があるなら、出雲の貢物にぜひ欲しい。

 するとケイシがコウスの横に来て、白砂の収集を提案する。出雲へ同道するケイシの閃きだ。


「今から山へ石を見つけに行くには、時が足りませぬ。この砂を沢山集めて洗い、麻袋に入れるのは如何でしょうか。羽経の土産として持ち帰る方が確かと存じます。」


「そうだな。案内の者に許しをもらって、少しずつで良いから五袋ほど集めてくれ。」


 案内の女人は了解し、腰に下げる麻袋を持って来た。ケイシは、マナキ、マヤムと三人で、まず黒土を麻袋に入れ、揺り動かしてふるいにかける。


 微細な土は袋の目から落ちて、白砂と小石、小枝、雑草などが袋に残る。

 それを一度袋から出して不要物を除けば、ひと袋当たり両手に乗る程度の白砂が採取できた。


「五袋作りました。如何でしょうか。よろしければ宿舎に戻って水洗い致します。」


 思ったより早く採取できた。コウスは喜んで案内の女人に見せ、丁寧に礼を述べた。


「美しい羽経の砂を頂戴し、これは珍しい土産と喜ばれるだろう。厚く感謝申し上げる。」


十一

 日は山頂に姿を隠そうとしている。空を飛び交っていた無数の鳥たちも、合図のような囀りを掛け合って巣へ戻るようだ。


 この時期は暗くなるのが早いので、宿舎へ引き返して集落の当代と兵の隊長を待つことにした。

宿舎に着くなり、ケイシが白砂の水洗いをし、マナキとマヤムが土間で乾かす。


「船長に感謝する。羽経へ停泊して頂いたお蔭で漁船に乗せて貰い、旨くて見事な米を戴き、他にない稲田まで見て、光る砂まで土産に貰った。楽しかったし、良い経験が出来た。」


「いやいや、勉学に精力的なコウス皇子様の、少しでもお役に立てれば何よりです。いささかでも喜んで頂いたこと、この上なく幸甚に存じます。」


 一行が広い客間で足を擦り、思い思いに寛いでいると、集落の当代と兵の隊長が、側近を数人連れて宿舎の大広間に駆け込んだ。


「只今、稲田を仕切るマトルと、警備兵の隊長ノモシが馳せ参じ申した。遅くなって申し訳ございません。」


 寒空の中を走って来たのだろう、額に汗をかいて客間の入口で畏まっている。案内の女人が駈け寄って小声で労い、コウスやマイヤが座っている奥の一角に導いた。


「都から参られた御一行様が、わざわざ辺境の羽経はねけへ御立ち寄り下さり、誠に有難く、恐縮致しております。何もない所ですが、御旅の気晴らしにでもなられましたら、幸いで御座います。」


 二人は誰が大将かも分からないまま、茣蓙ござに頭を付けて挨拶をするので、堪らずマイヤが頭を上げるよう促し、自己紹介に繋げる。


「忙しい中、呼び立てて済まなかった。明日早くに出立するので、勘弁願いたい。拙者の横に御座おわすのが西国訪問の大将、景行けいこう天皇の御子息、コウス皇子である。拙者は訪問の連隊長で、マイヤと申す。」


 景行天皇の皇子と聞いた二人は、慌てて再び平伏する。宿舎の作業役や世話役も驚いて、一斉に平伏した。

 堅苦しい場になってしまったので、最も若いコウスが雰囲気を和らげようと、立ち上がった。

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