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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第八章
99/108

タルシの手配で、すぐ出発したが身に沁み入る寒さに

十六

 倭台市訪問と、その前後の行程で色々あり過ぎて、恵枇討伐は古い出来事のように感じているコウス。

 それよりも次に出雲王の討伐があるので、頭が張り裂けそうだ。もう凱旋の祝いは遠慮したいが、そうはいかないだろう。


「火良村では征西隊が、今か今かと帰りを待っております。己実津に着いたら、すぐ騎馬で火良村に向かうのですね。」


 昼餉を食しながら、ニコルが確認してきた。マイヤも船長が凱旋祝いの話題を持ち出したので、それが気になっている。


「まさか船長が言われたように、タルシ当代は宴席を準備していないでしょう。」


「この一行は倭台市訪問隊であり、征西隊ではない。祝宴は全員が揃ってこそだと、伝えてある。」


 船は向かい潮を物ともせず、快調に進んでいる。漕手も、あと少しで我が津へ到着すると、気持ちが入っているのだろう。


 海に夕闇が包み、丸い月が左手の方角に顔を出している。

 その月明かりに負けない満天の星を眺めながら、コウスは火良村で待つ同志と、シウリ当代や村人を偲びながら、最後の船泊を過ごす。


 己実津に到着したのは、朝日が高く昇った時分だった。保斗たもと島を過ぎた辺りから波が高くなって船が大きく揺れ、前進を阻まれたと船長に聞いた。


 桟橋では己実のタルシと、兎農のマセラを先頭にして、大勢の人々が手を振って迎えてくれた。


「お帰りなさい、倭台市訪問隊の皆様。朝食後に、すぐ出発が出来ますよう、馬を揃えております。お疲れとは存じますが、集合舎へどうぞ。」


 先頭で船を下りたマイヤが、朝食も火良村への馬も、告知どおりに準備していたタルシに頭を下げた。


「痛み入ります。立派な交易船に相乗りさせて頂いたお蔭で、全員が元気に戻って参りました。タクラ船長には、船中でも立ち寄った津でも、とてもお世話になりました。」


 タルシの横に立ったコウスは、交易船のお陰で早く快適に旅が出来たと、感謝の言葉を告げながら、並んで集合舎に向かう。


 また、船内の世話に留まらず、立ち寄り先でも率先して案内役を引き受けてくれた、船長への感謝を強調した。

 荷下ろしの指示で忙しく動いている船長を、眩しそうに見上げながら。


 朝食を済ませて、ひと息入れた一行は用意された馬に乗り、馬首を返す。先導する騎馬は、倭台市訪問に飛び入りで同道した、地元であり倭南州の当代コルノだ。

 コウスの号令で、見送りの人たちに手を振って出発する。


「さあ出発だ、皆が待っている火良村へ急ごう。」


 日はあと一時ほどで、天頂近くになる。昼食用として、ひとり三個ずつ持たせてくれた握り飯を、馬の鞍にぶら下げ、難和なわ川沿いの街道を進む。


十七

 十三日振りに征西隊の同志が顔を合わせる。心踊らせているのは、コウスだけではなく全員だ。


 日が沈んで半時が過ぎ、辺りは真っ暗になった。左の山から吹き下ろす寒風と、西からの強い向かい風に阻まれ、騎馬が進まない。

 先導のコルノが松明を焚いて掲げ、マイヤとシモンも松明で道を照らす。


 身に沁み入る寒さの中、正面に火良村の灯りが見えた。あと一里で到着するが、もう声を出す者はいない。

 村の灯りと、遠く南に位置する倭南州政務舎の灯りが、じわじわと近付く。


「おーい、聞こえるかぁ―。帰って来たぞー。」


 声を振り絞って、何度も何度も叫ぶコルノ。静寂の闇の中で人声に驚いた数羽の鳥が、羽ばたきと共に遠ざかった。

 コウスが隣のニコルを見ると、目を細めて無表情で前を向いている。寒さを堪えているのだろう。


「もう急がなくてもいい、半時もあれば着く。着いたら火鉢に当たって、熱い茶を飲もう。」


 ようやく辿たどり着いた火良村。シウリ当代の家の前で、四本の篝火かがりびが焚かれ、明るく燃え盛っている。

 そこに征西隊の留守番三十九人と十五人ほどの男衆、十人の女人が立っていた。


 シウリと征西隊が駈け寄り、騎馬を迎える。男衆は馬係と荷役だ。


「お帰りなさい、寒かったでしょう。集会場を暖かくしていますので、馬を下りてお入りくだされ。馬は、この者が馬舎へ入れて、餌と湯水を与えて休ませます。」


「冷たい風の中の迎え、ご苦労である。ただいま倭台市訪問隊全員が無事に帰った。帰りが二日ほど延びたが、留守の間に変わりはなかったか。」


 シウリはコウスに頭を下げ、一刻も早く集会場へ入るよう催促する。


「今日は風が強く寒いので、積もる話は後回しにして、まずは集会場で御身体を温めて下され。」


 それに従って、馬から下りた者は持ち物をまとめ、足早に集会場へ向かった。


 一里離れている倭南の役人も、倭台市訪問隊の帰還に気付いた。出迎えと慰労のために三十人が騎馬と徒歩で火良村へ向かう。


 集合舎の茣蓙ござむしろへ座り込み、火鉢を囲んで暖を取る帰還者に、女人が熱い茶や沸かした酒を運んで来て勧めてくれる。


「皆様、これで温まってください。お腹も空かれましたでしょう。ひと息されましたら、お食事をお持ち致します。」


 己実から火良村までは、握り飯だけで確かに空腹だが、寒さの方が身に応えた。出された熱い茶と酒が、体内を駆け巡って生気を戻してくれる。

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