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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第八章
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イ・リサネが伊勢へ、コウスは倭台を出て火良村へ

 顔を赤らめ、モランの髪を撫でる天皇。ふとヒサラに向かって、別に真相を確認する手段があると言った。


「ヒサラ、伊勢のヤマトヒメに騎馬を差し向けろ。あの御方も神祈女で、コウスは出立前に会っておるので、恵枇の国主討伐の事はご存じだ。ひょっとして、真相を得ているかもしれないぞ、イ・リサネも加えた五人を手配し、すぐ走らせよ。」


 日は天頂を過ぎたところだ。これから早駆けを差し向けると、伊勢到着は明後日の夕刻になる。伊勢でモランと同じ吉報を聞いて戻れば、五日後には討伐成功が確信できる。


 ヒサラは馬舎へ走り、早駆馬を五頭用意するよう伝えて、イ・リサネの兵舎へ向かった。


---だがもしも、ヤマトヒメから期待に沿う報が入らなかったら……。


 兵舎に向かう途中ヒサラは、最悪の場合になるが、コウスが道程の途中で死んだり、恵枇の砦で斬られたりした場合を想像し、背筋が凍る。

 イ・リサネには、伊勢への早駆けについて説明するが、心は決して穏やかでない。


「将軍、突然ですが天皇より御下命が入りました。今すぐ従臣四人を選んで、伊勢へ走るようにとの仰せです。ご下命の内容は伊勢のヤマトヒメにお会いし、コウス皇子の征西状況を、神眼を通して見て頂きたいとの事です。」


 イ・リサネ将軍は、いきなり何を言い出すのだと呆気あっけに取られていたが、考えればコウスが出立して今日で三十日目だ。

 今ごろ何処を進んでいるのか、もう到着しているのか、道程途中で異変がなかったかを確かめたいのだろうと、天皇の息子を案じる心中を察した。


 ヒサラは敢えてモランの譫言を伏せて説明する。期待を抱いて走ると、そうでなかった場合にイ・リサネの落胆が大きいと考えたからだ。


「伊勢のヤマトヒメは神祈女で、神眼を持ちます。コウス皇子は出立前にお会いして恵枇の国主討伐の話をし、もう二度と戻れないと告げて、涙のお別れ挨拶もされております。その際、身を案じた叔母おばのヤマトヒメは、神剣を大・小二振りと二着の御衣を差し出し、伊勢から御無事を祈っていると申されたそうです。宜しくご確認をお願い致します。」


 イ・リサネは、胸を叩いて快く引き受けた。


「恵枇の国主討伐は当初から参画して、よく承知しておる。拙者もコウスや、征西隊の安否を心配していたところだ。確認だけなら任せて下され。」


 二つ返事で引き受け、従臣を四人連れて馬舎へ向かうイ・リサネ。ヒサラは五日後の吉報を祈りながら、重い足取りで政務室へ戻る。


 倭台市の津を出航した己実の船は、追い潮に押されて北へ向かっている。

日を反射して輝く、青い海を眺めながらコウスとマイヤ、ニコルが甲板で佇んでいる。


「これでハル帝への返礼は済んだ。火良村では、征西隊が待ち兼ねておるだろうな。」


 コウスが感慨深そうにつぶやくと、マイヤが日程を数える。まだ己実津で上陸して、火良村へ戻り、待っている征西隊と合流し、再び己実津から未羽みわ津へ向かわねばならない。


「船は、かなり速い速度で進んでいます。漕手を休ませるために、前に停泊した津で一泊するでしょうから、於訳おわけ津までは四日か五日、そこで交易の荷を積んで、向かい潮に立ち向かって二日。何もなければ七日で己実みみ津です。」


 早く高尾へ帰りたいニコルは、討伐を成し遂げたこの征西隊を、各地で歓迎し祝うだろうから、帰還は遅くなると半ば諦めているようだ。


「初めて訪問した辰韓の市では、ずっと緊張していましたが、行ってみて良かったと感謝しています。もう嗅助かきすけへの警戒はないですが、立ち寄る地でお祝いされるのでしょうか。」


「確かに祝いの催しはあるだろう。まず火良村、そして兎農と己実、未羽、尾道、針間で五か所だ。出来るだけ長居しないで、早く帰ろう。」


 征西は無事に達成した。では帰りの同道者は征西完了隊なのか、討伐帰還隊なのか。


「それと、もう征西隊ではなくなった。我々の事を何と名乗ろうか。凱旋隊と呼ばれるにはくすぐったいので、よい呼び名はないかな。」


「多分ですが、迎える人たちは凱旋の皆様と呼びますね。景行天皇の代理で討伐を終え、帰還する小隊なので、〝天皇代理討伐帰還小隊〟と名乗っては如何でしょうか。」


 それは呼びにくいうえ、長すぎて覚えられないと、ニコルが大笑いした。マイヤは口を尖らせて、言ってみただけだと一緒に笑う。


「隊名を付けるのは難しいですね。では〝倭都まほろば隊〟はどうでしょうか。コウス様が常々、纏向を拠点とした倭都国を〝まほろば〟にするのが夢と、仰っていましたので。」


 住みやすく、豊かで平和な理想郷を、コウスは〝まほろば〟と言っている。

 幼い頃、リ・シオラから学んだ言葉で人々が住む場所を差すが、コウスは倭都国全体が〝まほろば〟であるべきと願っている。


「倭都まほろば隊か。吾は良いと思うが、皆の意見を聞いて判断しよう。」


 西日が水平線に近付くと、風が急に冷たくなってきた。甲板の三人は屋形に戻り、暖を取った。

そこへ待っていたかのように、タクラ船長が来て船の行程を告げる。

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