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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第七章
89/108

各自が土産を持ち、名残惜しく感慨深く倭台津を発つ

---拙者らとコウス皇子は、未羽みわ津で同道者と別れ、これを貢物として出雲王に近付くのだ。


「これはコルノが持って火良村へ、これはニコルが持って高尾へ、これはシモンが持って纏向へ、これはマイヤが持って伊勢と桑名へ運ぶ土産だ。大切に扱え。」


 それぞれ分類した土器を手渡すと、受け取った物が肩に掛け、揃って議事舎の玄関へ下りる。


 玄関では、大勢の女人と役人が並んでいた。

 大きな扉の前でハル・サイマ帝とエル帥、トウ・リン将軍が立ち、一行が見送りの者に挨拶と二泊の礼をすると扉が開き、帝、帥、将軍を先頭にして玄関を出た。


 扉の外にも百人の兵が四列で整列していた。

 トウ・リン将軍の号令で剣礼態勢になり、その間をコウス一行十一人が、津で待つ己実みみの商船へ進む。


 商船の甲板では船長、漕手、調理人や船員が並んで待っている。一行が到着すると渡り板が上げられ、いよいよ乗船だ。

 先頭のハル・サイマ帝とエル帥が振り向いて、帝がコウスに声を掛ける。議事舎からここまで、一言も話さなかったのだ。


「名残惜しいが、お別れだ。短かったが、充実した二日間だった。エルも皇子や同行の者達と交流して、ずいぶん人が変わったようだ。有難う存ずる。無事に帰還して、マキム大王に宜しく伝えてくれ、頼むぞ。」


「こちらこそ、色々とお気遣い下さって、厚く御礼申し上げます。有意義な二日間でした。では失礼致します。」


 コウスが帝に深々と頭を下げ、渡り板を上がろうとすると、エル帥がすぐ横に走り寄り、胸の前で左のてのひらに右のこぶしを突き当てて叫ぶ。


「コウス皇子、同道の諸氏、無事の帰還を祈ります。またお会いしましょう、お達者で。」


 足を止めたコウス。初めて見たエル帥の儀礼にどう反応して良いか迷ったが、同じように胸の前で手を突き当て、頭を下げた。

 二人の目が合って、なぜか笑えた。


「有難う、エル帥もお達者で。」


 甲板に立って、桟橋に立つ大勢の見送り人に手を振ると、桟橋の人達も手を振って応えてくれる。

 威勢の良い漕手の掛け声で、船がゆっくり海洋に出た。海は水平線まで見渡す限り青く、白い雲が昇る日を受けて輝いている。


 左右に揺れながら、じわじわ離れる桟橋では誰もその場を去ろうとせず、まだ手を振り続けている。

 目に涙を浮かべて手を振っていたニコルの横に、マイヤが来て小声でつぶやいた。


「辰韓人が開いた倭台市は、文化が違う怖い州かと想像していたのに、誰も彼も我々に優しく親切だった。ニコル様は早く高尾に帰りたかっただろうが、拙者は発展した市中と進んだ技術に触れて、驚きと思い出が加わり、コウス皇子に感謝しています。」


 恵枇の国主討伐後、火良村を出立して真っ直ぐ船で帰還すれば、今頃は早くて尾道おとうか、遅くても未羽みわに到着しているはず。

 剣士であってもニコルは女人。マイヤはニコルが流す涙を見て、倭台市への立ち寄りが悔しかったのか、それとも思い過ごしか、男には判らない女心を確かめたかった。


「私も、コウス皇子に感謝しています。良い土産話が出来ました。」


 本心かどうか分からないが、常套じょうとうの返事だった。マイヤは笑いながら、少し意地悪な質問をぶつける。


「散策中、エル帥がニコル様ばかり見ていたのが、印象的でした。ひょっとして奴に、見染められたのでは……。もしもそうならニコル様は、いずれ倭台市を継ぐエル帝の妃だ。」


 甲板の手摺を握って、うつむいていたニコルが顔を上げて、マイヤを睨み付ける。


「それはないです。男衆ばかりの紅一点だったので、そう見えたのでしょう。」


 二人は顔を見合わせて笑った。考えてみれば、威勢は良いが小心者にも見えるエル帥に、ニコルが心惹かれる訳はない。

 先ほどのニコルの涙は、別れにありがちな感傷の涙だったのだ。


 もう船からは倭台の津が、霞むまでに遠くなっている。冷たい海風が身に沁みるので、いそいそと屋形に入り、来た時と同じ部屋に座った。

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